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完成した特効薬
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「こちら、田中先生というの。二十五年前にあの膵臓がんの資料をあらいざらいもらって、それから彼、一生懸命に研究したのよ…」
それから妹と田中先生は、二十五年間の積る話をした。
彼らの話では、田中先生はそれからその洗いざらいの資料を使って、膵臓がんの研究を始めたらしい。
医学生の頃から、そして卒業後は第二内科の医局に入ってからも。
そしてずっと研究を続け、十年後には膵臓がんの細胞表面にしか存在しないという、ある特別なタンパク質の分子を発見した。
もちろんそれは、デビルのお母さんの膵臓がんの細胞から見付けたものだ。
そして生化学の先生たちにも協力してもらい、そのタンパク質の分子に強力に結合する、ある特殊な分子を作ることに成功した。
結合するというのは、分子同士が化学的に「くっつく」という意味だ。
それが十五年後のこと。
そしてさらにその分子に、がん細胞を完璧に破壊するという薬の分子を結合させることにも成功した。
それが二十年後のこと。
つまりこの薬は、体の中でがん細胞に出会うとこれに強力に結合し、そしてさらに、それに結合している薬が、がん細胞を破壊するということだ。
こうして開発された薬は、動物実験で効果のあることが確認され、さらに末期の、つまり、とても重い膵臓がんの患者さんにも素晴らしい効果のあることが、数年間の臨床試験でも確認され、そしてつい最近、膵臓がんの特効薬として国から認められた。
この薬は、体の中をまるで誘導ミサイルのようにがん細胞を追いかけ、見付け次第これにガッチリ結合し、そしてがん細胞を破壊するというもので、この薬を飲み続けると、がん細胞はどんどん数が減っていき、それはどんなに重い膵臓がんでも治すことの出来る、すばらしい薬だということだった。
「これはぼくが何十年も掛けて開発した薬です。二十五年前、あの重症の膵臓がんの症例を知って、ぼくはなぜか運命的なものを感じたのです。何故だかわからないけれど、何だかぼくは、この薬を開発しなければいけないような使命を感じたのです。何というか、とても他人事のようには思えなかったのです。そしてそれは、何故だかわからないけれど、ぼく自身の存在を問われているような…、だからぼくは二十五年掛けて、昼も夜も必死で研究したのです。だから、誰に飲んでもらうのか分かりませんけれど、どうかこの薬を受け取ってください!」
「ありがとうございます。あの…田中先生、お名前は?」
何となくぼくは、田中先生の名前がききたくなった。
それは田中君…、デビルと同じ姓だったからだ。
「ぼくですか。ぼくは田中浩二といいます」
「田中浩二先生?」
「はい」
「いいお名前ですね」
「そうですか? それは光栄です」
「ぼく、先生の名前、きっと憶えておきます」
「田中先生、忙しいところどうもありがとう。まだ病棟の仕事が残っているのでしょう?」
「はい。そうですね。それから…、ええと、それから、その人、きっと治るといいですね。いつの時代の人なのか、ぼくには分かりませんけれど…」
それからぼくは、田中先生にもう一度お礼を言って、そして妹と一緒に車で茶トラ先生の家へと向かった。
それから妹と田中先生は、二十五年間の積る話をした。
彼らの話では、田中先生はそれからその洗いざらいの資料を使って、膵臓がんの研究を始めたらしい。
医学生の頃から、そして卒業後は第二内科の医局に入ってからも。
そしてずっと研究を続け、十年後には膵臓がんの細胞表面にしか存在しないという、ある特別なタンパク質の分子を発見した。
もちろんそれは、デビルのお母さんの膵臓がんの細胞から見付けたものだ。
そして生化学の先生たちにも協力してもらい、そのタンパク質の分子に強力に結合する、ある特殊な分子を作ることに成功した。
結合するというのは、分子同士が化学的に「くっつく」という意味だ。
それが十五年後のこと。
そしてさらにその分子に、がん細胞を完璧に破壊するという薬の分子を結合させることにも成功した。
それが二十年後のこと。
つまりこの薬は、体の中でがん細胞に出会うとこれに強力に結合し、そしてさらに、それに結合している薬が、がん細胞を破壊するということだ。
こうして開発された薬は、動物実験で効果のあることが確認され、さらに末期の、つまり、とても重い膵臓がんの患者さんにも素晴らしい効果のあることが、数年間の臨床試験でも確認され、そしてつい最近、膵臓がんの特効薬として国から認められた。
この薬は、体の中をまるで誘導ミサイルのようにがん細胞を追いかけ、見付け次第これにガッチリ結合し、そしてがん細胞を破壊するというもので、この薬を飲み続けると、がん細胞はどんどん数が減っていき、それはどんなに重い膵臓がんでも治すことの出来る、すばらしい薬だということだった。
「これはぼくが何十年も掛けて開発した薬です。二十五年前、あの重症の膵臓がんの症例を知って、ぼくはなぜか運命的なものを感じたのです。何故だかわからないけれど、何だかぼくは、この薬を開発しなければいけないような使命を感じたのです。何というか、とても他人事のようには思えなかったのです。そしてそれは、何故だかわからないけれど、ぼく自身の存在を問われているような…、だからぼくは二十五年掛けて、昼も夜も必死で研究したのです。だから、誰に飲んでもらうのか分かりませんけれど、どうかこの薬を受け取ってください!」
「ありがとうございます。あの…田中先生、お名前は?」
何となくぼくは、田中先生の名前がききたくなった。
それは田中君…、デビルと同じ姓だったからだ。
「ぼくですか。ぼくは田中浩二といいます」
「田中浩二先生?」
「はい」
「いいお名前ですね」
「そうですか? それは光栄です」
「ぼく、先生の名前、きっと憶えておきます」
「田中先生、忙しいところどうもありがとう。まだ病棟の仕事が残っているのでしょう?」
「はい。そうですね。それから…、ええと、それから、その人、きっと治るといいですね。いつの時代の人なのか、ぼくには分かりませんけれど…」
それからぼくは、田中先生にもう一度お礼を言って、そして妹と一緒に車で茶トラ先生の家へと向かった。
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