タイムエイジマシン

山田みぃ太郎

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若き日の茶トラ先生

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 黒々とした髪がいっぱい生えているし、顔はとても若々しいし、だけどその目は、あの茶トラ先生そのものだった。
 でもここにいる茶トラ先生にとって、ぼくは初めて出会合う人間で、しかも子供だし、そして茶トラ先生はこの立派な大学の先生なのだろうから、それでぼくは、先生にはとても丁寧な言葉づかいをすることにした。
「はい。ぼく、鈴木一郎といいます」
 すると茶トラ先生も、ぼくのとなりに座った。
「そうかい。一郎くんかい。それでぼくに何か用事でもあったのかな? それとも約束していたのかな。時計台のくすのきの下で待ち合わせでも…」
「茶トラ先生! 先生は将来、タイムマシンを作るんです…」
(とりあえず「エイジ」の部分はおいといて)
「…そしてぼくは、先生の作ったタイムマシンで未来から先生に会いに来たんです!」
 すると茶トラ先生は目を輝かせ、
「おおそうか。ぼくは、ぼくの未来で、そんな大それたものを作るんだ。もちろんタイムマシンはずっと前から、それはもう子供の頃から、ずっとずっと考えていたし、そんなものを作るのは、長年のぼくの夢だった。そしてそれが出来た暁には、こうやって君のように、未来からぼくに会いに来る人がいるということも、ぼくには容易に予測できていた。それで君は、まさにその未来からやってきた!」
「はい!」
「ところで、君はその未来で、どこに住んでいるんだい?」
「先生の実家のすぐ近くです。団地が出来て…」
「そうだね。あそこは今、造成中だろう。なるほど。それじゃ、そこに出来る予定の団地に、未来の君が住んでいるんだね!」
「そうです!」
「それでぼくはそのタイムマシン、どこで作るんだろう? この大学の研究室?」
「いいえ。先生は実家に住んでいて、そこが実験室になっていて、そこでタイムマシンを作るんです」
「う~ん。ということはぼくは近々、この大学を追われるんだな。やっぱりそうなんだ…」
「どうして追われるのですか?」
「いろいろと大人の事情ってもんがある。ぼくはここで変人扱いされているからね」
「変人扱い? だけど茶トラ先生はとても立派な人なのに…」
「だけどそれが分かるのは、残念ながら君だけかな」
「ところで先生は、ぼくをシカトしないんですね」
「シカトって何? それって未来の言葉かい?」
「あ、そうかも。ええと、シカトって、無視することです」
 そういうとぼくは試しに、くすのきの周りの、他の人々の顔の前で、次々に思い切り「お~い! お~い!」と言って見せた。
 だけどもちろん、だれもぼくに反応しない。
「し…、信じられん! どうしてなんだ? そしてどうしてぼくだけが、君の存在がわかるんだ?」
 それでぼくは、ぼくのいる時代の茶トラ先生が言ったことを、いろいろ説明してあげた。
 過去は「書込み禁止」だってことも。
「なるほどね。それでみんなは君を無視するんだ。君は君にとっての過去に影響を与えられない。つまり君に対して、ここにいる、いや、この時代の誰も、君にコミットできないということなのか。ぼく以外は…」
「コミット?」
「意思伝達をされ、その意思に責任を持って反応する。そして行動を起こし…」
「そうなんだ」
「だけどぼくだけは、君に対してコミットできる。ということは、君がぼくの未来に作ったタイムマシンで未来からやってきて、今ぼくは君の言葉に対してコミットし、そしてたぶんぼくは未来に、また君と出会う。そして今、ぼくは君に促され、コミットし、そしてぼくはぼくの未来でタイムマシンを作るんだ。つまりそれは…、それは確定したぼくの未来なんだ!」
「確定した未来?」
「確定しているからこそ、ぼくは君にコミットできるんだよ!」
「そうか! そうかも知れませんね。先生は未来に、本当にタイムマシンを作ったんだから」
「そうなんだ! やっぱりぼくはタイムマシンを…」
「そうですよ」
「そうか! やったぞ! これで決心がついた。ぼくはここをやめる。そして実家へ帰って、早速タイムマシンの研究を始める!」
 それから茶トラ先生は、とても生き生きとした表情でそう言うと、突然立ち上がり、それから両手を上げ、
「やったぞ~~~~、ついにぼくは、ぼくの未来に、タイムマシンを発明するんだぞ~~~」と、何度も叫びながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、時計台前のくすのきの周囲をしばらく走り回り、それからぼくの所へもどってきて、そしてこう言った。
「君は、一郎君といったね。ありがとうありがとう。本当にありがとう! これでぼくは決心がついたぞ。よし! あの家で研究を始めよう。一郎君。それじゃ、未来でまた会おう!」
 そう言ってから、茶トラ先生はぼくに力強く握手をした。
 すると茶トラ先生のそんな様子を見付けたのか、いかにも長老という感じの、白髪の大先生風の人物が茶トラ先生に歩み寄り、そしてこんなことを言った。
「茶虎君、またしても未来の幻覚が見えたのかね。う~ん、困ったもんだ。これは次の教授会で議論せねばならんな。つまり、君の処遇を…」
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