10 / 43
第10話
しおりを挟む
10
そんな秋も深まったある日のこと。
あの「初めての甲子園」で、全くストライクが入らなかったという、僕らのエースが本当に久しぶりに、ひょっこりとブルペンへやって来たんだ。
三年生で受験のこととか担任に相談しての帰り、たまたまブルペンの近くを通ったら、「パーン!」という景気のいいボールの音が聞こえたから、「どんなピッチャーが投げてんのかと思った」とか言って。
実は彼は、甲子園での出来事がひどいトラウマになり、それから野球自体もやめてしまっていたんだ。だけどまだ野球に未練があったんだろうね。
彼は腕組みして、僕のピッチングをしばらくじっと見ていた。
そして僕のピッチングを見て、とても驚いていた。
「いつのまに、ここまでのピッチャーになっていたんだ?」って。
それでピッチングを一休みして、僕らは少し話をした。
甲子園の後、僕が「放牧」されて以来のいろんな悪戦苦闘についてとか。それはもう、少々尾ひれを付けて、根掘り葉掘り。
先輩のキャッチャーにたくさん受けてもらったことや、ピッチングフォームのことや、バランス感覚のことや、持久力のことや、指の力のことや、そしてたくさんたくさん投げて走ったこと等など…
そして僕はピッチングのイメージの話をした。
「…それで、まずモーションを起してから、僕は軸足でしっかりと立って、目標を決めて正しい位置に左足を踏み出して、それからあくまでも足腰が主導して、その流れからそのまま腰をひねって、あとは…、あとは上半身が勝手にどうぞって感じで動いて、そしてそのまま思い切りブンと腕を振るんです…」
とにかく僕がいつもやっているピッチングについて説明をしたんだ。そしたらそれを聞いた元エースは、
「へぇ~、君はそんなイメージで投げていたんだ。それで上達したんだ。でもそのイメージ、俺にも何となくわかるかな。下半身主導って、ピッチングの基本だよね。だけど考えてみると俺、甲子園じゃ全然出来てなかったよな。全くお恥ずかしい話さ。一体俺、何やってたんだろうね。ばかみたい。でもあのとき俺、緊張で脚はガクガクだったし。ストライク投げなきゃ投げなきゃってばりばりあせっちゃって、もうフォームもへったくれもなくて、手だけで投げてた気がする。っていうか俺、緊張しちゃって、きっと投げ方忘れてたんだよな。どうやって投げていたのか全然覚えていないし。だけどそうか! そうだったんだ。君みたいな感じで投げればよかったんだ。これは惜しいことしたな。何たって甲子園だもんな。だけど、よし! 俺もとりあえず、試しにそんなイメージで投げてみようかな。あ! 何だか俺、また投げたくなっちゃったじゃん。そうだ! 俺、大学行っても野球続けるよ。受験する大学には軟式野球部とかあるみたいだし。うん! やっぱり俺、野球続けるよ!」
そんな元エースの新たな決意を聞いて、僕らは顔を見合わせた。先輩はとてもうれしそうで、そしてほっとした表情をしていた。
それで僕が、「野球、絶対続けて下さいね。大学でもエースを張って下さいね!」というと、
「まかせとけって! おまえこそ、野球、ずっと頑張れよ!」って言って、それから先輩のキャッチャーには、
「こいつのことよろしくな。甲子園で大活躍したんだからな。しっかり育ててくれよ!」って。
それで僕らが大きくうなずくと、元エースは「練習の邪魔したな」ってカッコよく言ってから、とても晴れがましい顔でブルペンを後にした。
それから僕と先輩は一緒に、元エースの背中に向かって声をかけた。
「先輩頑張って~! 絶対に野球続けて下さいね~♬」
そんな秋も深まったある日のこと。
あの「初めての甲子園」で、全くストライクが入らなかったという、僕らのエースが本当に久しぶりに、ひょっこりとブルペンへやって来たんだ。
三年生で受験のこととか担任に相談しての帰り、たまたまブルペンの近くを通ったら、「パーン!」という景気のいいボールの音が聞こえたから、「どんなピッチャーが投げてんのかと思った」とか言って。
実は彼は、甲子園での出来事がひどいトラウマになり、それから野球自体もやめてしまっていたんだ。だけどまだ野球に未練があったんだろうね。
彼は腕組みして、僕のピッチングをしばらくじっと見ていた。
そして僕のピッチングを見て、とても驚いていた。
「いつのまに、ここまでのピッチャーになっていたんだ?」って。
それでピッチングを一休みして、僕らは少し話をした。
甲子園の後、僕が「放牧」されて以来のいろんな悪戦苦闘についてとか。それはもう、少々尾ひれを付けて、根掘り葉掘り。
先輩のキャッチャーにたくさん受けてもらったことや、ピッチングフォームのことや、バランス感覚のことや、持久力のことや、指の力のことや、そしてたくさんたくさん投げて走ったこと等など…
そして僕はピッチングのイメージの話をした。
「…それで、まずモーションを起してから、僕は軸足でしっかりと立って、目標を決めて正しい位置に左足を踏み出して、それからあくまでも足腰が主導して、その流れからそのまま腰をひねって、あとは…、あとは上半身が勝手にどうぞって感じで動いて、そしてそのまま思い切りブンと腕を振るんです…」
とにかく僕がいつもやっているピッチングについて説明をしたんだ。そしたらそれを聞いた元エースは、
「へぇ~、君はそんなイメージで投げていたんだ。それで上達したんだ。でもそのイメージ、俺にも何となくわかるかな。下半身主導って、ピッチングの基本だよね。だけど考えてみると俺、甲子園じゃ全然出来てなかったよな。全くお恥ずかしい話さ。一体俺、何やってたんだろうね。ばかみたい。でもあのとき俺、緊張で脚はガクガクだったし。ストライク投げなきゃ投げなきゃってばりばりあせっちゃって、もうフォームもへったくれもなくて、手だけで投げてた気がする。っていうか俺、緊張しちゃって、きっと投げ方忘れてたんだよな。どうやって投げていたのか全然覚えていないし。だけどそうか! そうだったんだ。君みたいな感じで投げればよかったんだ。これは惜しいことしたな。何たって甲子園だもんな。だけど、よし! 俺もとりあえず、試しにそんなイメージで投げてみようかな。あ! 何だか俺、また投げたくなっちゃったじゃん。そうだ! 俺、大学行っても野球続けるよ。受験する大学には軟式野球部とかあるみたいだし。うん! やっぱり俺、野球続けるよ!」
そんな元エースの新たな決意を聞いて、僕らは顔を見合わせた。先輩はとてもうれしそうで、そしてほっとした表情をしていた。
それで僕が、「野球、絶対続けて下さいね。大学でもエースを張って下さいね!」というと、
「まかせとけって! おまえこそ、野球、ずっと頑張れよ!」って言って、それから先輩のキャッチャーには、
「こいつのことよろしくな。甲子園で大活躍したんだからな。しっかり育ててくれよ!」って。
それで僕らが大きくうなずくと、元エースは「練習の邪魔したな」ってカッコよく言ってから、とても晴れがましい顔でブルペンを後にした。
それから僕と先輩は一緒に、元エースの背中に向かって声をかけた。
「先輩頑張って~! 絶対に野球続けて下さいね~♬」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる