投げる/あり得ない理由で甲子園初登板を果たした僕、そしてその後の野球人生

山田みぃ太郎

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第9話

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 僕の尊敬するプロのある大投手が、「練習は走って投げるだけ」って言っているという記事を読んだことがある。
 そういう訳で僕は、上半身の筋トレ、例えばベンチプレスとか懸垂とか、そんな豪快かつ破壊的なのはとりあえずやらなかった。プロでもアマチュアでもそういう筋トレを、ばんばんやってる投手はいっぱいいるけどね。球速を上げるために。もちろんそれを否定する気はないよ。でも他人は他人僕は僕。
 それに、僕は思ったんだ。そもそも僕にとって上半身は受動的に動く「水」なんだし、水を鍛えてどうすんの?って。
 そんなことをやれば、もしかして球は速くなるかもしれないけれど、コントロールが良くなるとはとても思えなかったし、とりあえず僕の課題はコントロールだったから。
 ただしインナーマッスルの強化は別の話で、これはとても大切だと思っていた。インナーマッスルって、上腕骨が肩甲骨、つまり肩から外れないようにするための筋肉と思えばいい。これが弱いと投球時に上腕骨がぐらぐらしてしまう。これは肩の故障の原因だ。
 それで、インナーマッスル強化のための定番のアイテムがゴムチューブだ。だから僕も、ゴムチューブでのトレーニングは必死こいて熱心に徹底的に取り組んだんだ。
 だから僕の場合、「練習は、走って投げてバランス感覚とインナーマッスルだけ」ってとこかな?

 それで、ともかくバランス感覚プラス持久力の練習の成果で、長いイニングを投げても軸足一本でぴたりと立てるようになってきた。なんというか、微動だにしない感じになったんだ。
 それからあまり反動を付けずに、いやいや、極端に反動を付けようとするのではなく、左足を予定通りの位置にすっと正確に踏み出し(つまりピッチングフォームという名の映写機を正しく設置するということ!)、そして腰が回転し、それから「水」の上半身が受動的についてきて、自然に腕が振れ、ボールを放す瞬間に「ピッ」と、鍛えまくったピンチ力を使い、ボールを強く引っかく。
 それはまるでキャッチボールでもしているかのような、リラックスしたフォームから入り、だけどしっかり腕は振れていて、打者が思っているより少し速い球が行き、バックスピンが効いているのでボールは手元で少し伸びて、そして打者からはさらに速く見える。
 しかも僕はそんな球を、長いイニング楽々と投げ続けることが出来る。
 このイメージは何度も言ったことだね。まとめるとこんな感じ。
 ここまでの僕の練習の成果だ。
 だけどあるとき、より多くの球数を投げるためにも、全身の持久力とか、心肺機能とかが重要だということに、僕は改めて気付いた。
 いまさらだけど。(一体僕は何を考えていたんだろう?)
 それで、その持久力と心肺機能を強化するためには、長距離のランニングをやらないといけない。
 僕は前に、長いイニングでコントロールを良くするため、河川敷の堤防を走り始めたとか書いたけれど、長いイニングを投げるという、そのこと自体のためにも持久力は必要。
 つまりこれって一石二鳥じゃん!
 だから僕はことさらせっせと、河川敷の堤防の道を(景色を楽しみながら)走ったというわけだ。苦しいけれど、きっといつか、自分の為になると信じながら…

 そうした練習の成果で、少しずつコントロールが良くなると同時に、長いイニングを投げてもばてなくなってきた。僕自身もばてないし、ボールも「ばてない」んだ。
 先輩のキャッチャーが、「長いイニングでも、お前のボール、だんだんと安定してきたぞ」とか言ってくれたし。
 とにかく僕は何も考えず、ひたすら先輩が真ん中に構えるミットめがけ、表情一つ変えず、事務的に淡々と延々と、もう延々と投げ続けたんだ。
 そしてその頃には秋の大会もあったし、その後も練習試合とかもあったので、僕はちょくちょく試合で投げさせてもらっていた。
 相変わらずフォアボールは多めとはいっても、だんだんと少なくはなり、ちょくちょく完投できることもあり、だからそれなりにいいゲームにはなったし、戦力にもなってきた。
 そしてコントロールについては、フォアボール恐怖症だった自分が嘘みたいだった。ストライクは3つで、ボールは4つという野球のルールが、こんなにありがたいものだとは、それまで思いもしなかったし。
 つまり「ボール」は3つまで投げてもいいんだ、って!
 野球の神様に感謝だね。
 それにしても、ストライク投げなきゃって考えなくなったら、ストライクが入るようになったんだから、世の中って不思議なものだよね。
 そしていまや僕は、高校野球で「並の投手」として、試合なんかでも活躍し始めたんだ。
 ずっと前に、甲子園の話の時に僕は、

 ところで、このチームで僕は一応「投手」だった。っていうか、少なくとも自分は「投手」だと、勝手に思っていた。ずっとそう信じていた。
 見事なほどのノーコンだったけれど…

 なんていじけたこと書いていたけれど、
「今や僕は本当に投手なんだ! やったぜ♪」
 ある日僕が突然こんなことを大声で言うと先輩が、「凄い! そいつはでかしたぞ。よし、今日はお祝いだ!」とか言って、タイ焼きをおごってくれた。
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