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第15話
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新チームで堂々たるエースとして迎えた秋の大会。
監督からめでたく試合登板の許可を得た僕は、嬉々として、水を得た魚のようにマウンドに立ち、打たせて取り球数を節約しながら、疲れないゆったりとしたフォームで何試合かを投げ勝ち、そしていよいよ強豪校との対戦となった。それは強打者ぞろいの打線だ。
それでその試合、一番打者でも強打者っぽかったから、初球スローカーブでストライクを稼ぎ、その直後に速く見える遅いまっすぐを振り遅れさせてファウル。
それから二球ほど、まっすぐが偶然に豪快に高めに抜けて(わざとじゃないよ)、平行カウントから、(また抜けた!)と思わせるカーブで見逃し三振。
二番打者も、とにかく緩急でゆさぶって何とか対応した。
だけど問題は三番打者だった。
社会人やプロも狙っているらしい右の強打者だ。
で、定石通り初球カーブを見送って、そして二球目の僕の遅いまっすぐを見て、
「なんや、これでまっすっぐかい。てっきりまた曲がるのかと思ったぜ」とつぶやいたように聞こえた、というかそんな気がした、というか僕の幻聴? というかそいつの顔に書いてあった、というか、僕のテレパシーでそう聴こえたんだってば!(僕、頭どうかしてたのかも)
ともかく!それでちょっとむかっとした僕は、何故か本能的にアドレナリンがばりばり出て、気合も入ってしまい、いつのまにか僕らしからぬとても大きなステップで、ダイナミックに投げてしまった。えいや~~~!って。
魔がさしたのかな。いや、乗せられちゃったんだね。
ピッチャーって心のどこかに、「俺のまっすぐは世界一だ!」みたいな自惚れがあるから。僕みたいに球の遅いピッチャーでさえも。本当のこと言うと、昔々、テニスコートででたらめに投げていた頃から、本当は、僕の本音はそうだったんだ。今更だけど。ゆったりしたフォームから速く見せる、なんて講釈垂れてるけど、野球をやる男の子の本音って、きっとそうなんだ。
だからやめときゃいいのに変に意地になって、ダイナミックにまっすぐを…
だけど、プロから目を付けられているような強打者だもん。僕程度のまっすぐ、しかも、持ち味の「ゆったり投げてぴゅっとくる」まっすぐではなく、ばりばり入れ込んだ上での、そしてコーナーを狙うコントロールもない僕が投げた、甘いコースの僕程度のまっすぐに完全にタイミングを合わされて、そして豪快に打ち返されたんだ。
すぐに新チームの同級生キャッチャーがマウンドに来くれた。
「お前のまっすぐは回転がいいから、ジャストミートされたらそらめちゃくちゃ飛ぶわ。いいか、冷静になれ。意地になって投げちゃダメだ。で、お前の持ち味は何だ? ゆったり投げてぴゅっと来るだろう? さぁ切り替えてこ」って言ってくれたんだ。
僕は頭から冷や水をぶっかけられた気分だった。そしてあの先輩は、同級生の新レギュラーキャッチャーに、僕のことをしっかりと申し送ってくれていたんだろうね。
それではっとした僕は心を入れ替えて、同級生に言われるように冷静になって、そしてどうやったら切り替えられるかを考え始めた。
ともかく変に意地になって、ダイナミックにまっすぐを投げてはいけないんだ。
そしてその打開策の一つは歩幅。
昔から投手は「大きな歩幅で投げろ」と言われてきたけれど、僕は大きければいいってもんじゃないと思っていた。そしてあの特大のホームランを打たれたし。
前にも言ったように、僕はいわば「事務的」に左足をステップして、「正しい位置」に左足を運ぶ。そして僕は左足をどの位置に置くかを、ある程度自由に操ることが出来る。
それで歩幅を広くすると、たしかにダイナミックなフォームになるし、球速も上がる。だけどいい打者なら、僕程度の球速にもきちんと対応してくるみたいなんだ。僕が160キロ投げるなら話は別だよ。
それで僕は冷静になってマウンドを足でならし、歩幅をやや狭くしたところをスパイクで踏み固めてみた。たしかにやや狭いステップだと、やや力感のないフォームにはなるけれど、僕の場合そのフォームで投げる方が、「遅いと思ったらそれほど遅くない」球になる。ゆったりと投げてぴゅっとくる球だ。
そして僕はとある野球中継での、解説者のこんな言葉をまた思い出した。
「キャッチボールするようなフォームで130キロ投げられたら誰も打てませんよ」
つまりそれって、僕の持ち味だったじゃん! 新しい相棒も言っていたし。
それともうひとつ思いだした。
僕がプロのキャンプで見た、「本物の伸びる球」。
あの投手がサードから、かるぅ~くぴゅっと投げた、だけど一塁手がジャンプするほどの、伸びる球。
(そうだ! あんな球を目指そう。あたかもキャッチボールでもするかのような、力の抜けたゆったりしたとフォームから、あんな球を…)
マウンドの上で走馬灯のように、僕の頭の中をいろんな思いが通り抜けていったみたい。
とにかくそうやって気持ちを切り替え、できるだけキャッチボールのような楽なフォームから、伸びのある球を投げるよう心がけ、意地にならずに変化球も交え打たせて取るというスタイルに修正し、それから何とか最小失点で完投し、無事その強豪校に勝つことができたんだ。
そして日程の関係で、僕が連投となってしまう次の試合。
監督は故障上がりの僕に無理をさせないようにと、他の同級生や一年生に投げさせ、僕は完全休養。結局、秋の大会はそこで敗退した。
試合の後監督は、(どうして僕に投げさせてくれなかったんだ!)と、大きく顔に書いてある、とても悔しそうな僕に歩み寄り、
「堪忍してくれな。無理させてお前の将来を壊す訳にはいかんからな」と言ったんだ。
僕の将来? それって一体何?
新チームで堂々たるエースとして迎えた秋の大会。
監督からめでたく試合登板の許可を得た僕は、嬉々として、水を得た魚のようにマウンドに立ち、打たせて取り球数を節約しながら、疲れないゆったりとしたフォームで何試合かを投げ勝ち、そしていよいよ強豪校との対戦となった。それは強打者ぞろいの打線だ。
それでその試合、一番打者でも強打者っぽかったから、初球スローカーブでストライクを稼ぎ、その直後に速く見える遅いまっすぐを振り遅れさせてファウル。
それから二球ほど、まっすぐが偶然に豪快に高めに抜けて(わざとじゃないよ)、平行カウントから、(また抜けた!)と思わせるカーブで見逃し三振。
二番打者も、とにかく緩急でゆさぶって何とか対応した。
だけど問題は三番打者だった。
社会人やプロも狙っているらしい右の強打者だ。
で、定石通り初球カーブを見送って、そして二球目の僕の遅いまっすぐを見て、
「なんや、これでまっすっぐかい。てっきりまた曲がるのかと思ったぜ」とつぶやいたように聞こえた、というかそんな気がした、というか僕の幻聴? というかそいつの顔に書いてあった、というか、僕のテレパシーでそう聴こえたんだってば!(僕、頭どうかしてたのかも)
ともかく!それでちょっとむかっとした僕は、何故か本能的にアドレナリンがばりばり出て、気合も入ってしまい、いつのまにか僕らしからぬとても大きなステップで、ダイナミックに投げてしまった。えいや~~~!って。
魔がさしたのかな。いや、乗せられちゃったんだね。
ピッチャーって心のどこかに、「俺のまっすぐは世界一だ!」みたいな自惚れがあるから。僕みたいに球の遅いピッチャーでさえも。本当のこと言うと、昔々、テニスコートででたらめに投げていた頃から、本当は、僕の本音はそうだったんだ。今更だけど。ゆったりしたフォームから速く見せる、なんて講釈垂れてるけど、野球をやる男の子の本音って、きっとそうなんだ。
だからやめときゃいいのに変に意地になって、ダイナミックにまっすぐを…
だけど、プロから目を付けられているような強打者だもん。僕程度のまっすぐ、しかも、持ち味の「ゆったり投げてぴゅっとくる」まっすぐではなく、ばりばり入れ込んだ上での、そしてコーナーを狙うコントロールもない僕が投げた、甘いコースの僕程度のまっすぐに完全にタイミングを合わされて、そして豪快に打ち返されたんだ。
すぐに新チームの同級生キャッチャーがマウンドに来くれた。
「お前のまっすぐは回転がいいから、ジャストミートされたらそらめちゃくちゃ飛ぶわ。いいか、冷静になれ。意地になって投げちゃダメだ。で、お前の持ち味は何だ? ゆったり投げてぴゅっと来るだろう? さぁ切り替えてこ」って言ってくれたんだ。
僕は頭から冷や水をぶっかけられた気分だった。そしてあの先輩は、同級生の新レギュラーキャッチャーに、僕のことをしっかりと申し送ってくれていたんだろうね。
それではっとした僕は心を入れ替えて、同級生に言われるように冷静になって、そしてどうやったら切り替えられるかを考え始めた。
ともかく変に意地になって、ダイナミックにまっすぐを投げてはいけないんだ。
そしてその打開策の一つは歩幅。
昔から投手は「大きな歩幅で投げろ」と言われてきたけれど、僕は大きければいいってもんじゃないと思っていた。そしてあの特大のホームランを打たれたし。
前にも言ったように、僕はいわば「事務的」に左足をステップして、「正しい位置」に左足を運ぶ。そして僕は左足をどの位置に置くかを、ある程度自由に操ることが出来る。
それで歩幅を広くすると、たしかにダイナミックなフォームになるし、球速も上がる。だけどいい打者なら、僕程度の球速にもきちんと対応してくるみたいなんだ。僕が160キロ投げるなら話は別だよ。
それで僕は冷静になってマウンドを足でならし、歩幅をやや狭くしたところをスパイクで踏み固めてみた。たしかにやや狭いステップだと、やや力感のないフォームにはなるけれど、僕の場合そのフォームで投げる方が、「遅いと思ったらそれほど遅くない」球になる。ゆったりと投げてぴゅっとくる球だ。
そして僕はとある野球中継での、解説者のこんな言葉をまた思い出した。
「キャッチボールするようなフォームで130キロ投げられたら誰も打てませんよ」
つまりそれって、僕の持ち味だったじゃん! 新しい相棒も言っていたし。
それともうひとつ思いだした。
僕がプロのキャンプで見た、「本物の伸びる球」。
あの投手がサードから、かるぅ~くぴゅっと投げた、だけど一塁手がジャンプするほどの、伸びる球。
(そうだ! あんな球を目指そう。あたかもキャッチボールでもするかのような、力の抜けたゆったりしたとフォームから、あんな球を…)
マウンドの上で走馬灯のように、僕の頭の中をいろんな思いが通り抜けていったみたい。
とにかくそうやって気持ちを切り替え、できるだけキャッチボールのような楽なフォームから、伸びのある球を投げるよう心がけ、意地にならずに変化球も交え打たせて取るというスタイルに修正し、それから何とか最小失点で完投し、無事その強豪校に勝つことができたんだ。
そして日程の関係で、僕が連投となってしまう次の試合。
監督は故障上がりの僕に無理をさせないようにと、他の同級生や一年生に投げさせ、僕は完全休養。結局、秋の大会はそこで敗退した。
試合の後監督は、(どうして僕に投げさせてくれなかったんだ!)と、大きく顔に書いてある、とても悔しそうな僕に歩み寄り、
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