投げる/あり得ない理由で甲子園初登板を果たした僕、そしてその後の野球人生

山田みぃ太郎

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第20話

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 そしていよいよ、そのドラフトの日。
 どきどきしながら校長室でテレビを見ていたら、地区予選準決勝で僕らと対戦し、僕のピッチングを見て開眼し、そして甲子園準優勝投手となった彼が、早々に上位指名されていた。
 テレビには晴れがましい彼の姿があった。
 もちろん僕は、それが自分のことのように嬉しくて、「やった!」って、一人でガッツポーズをした。
 彼には順調にプロで活躍して欲しいと思った。
 だけど僕はいつまでもいつまでも指名されず、そう思っていると、二年の秋の大会で、僕から豪快にホームランを打った、あの社会人やプロも狙っているらしいと言っていた右の強打者が、3位くらいで指名された。
 もちろん僕はそれも素直に嬉しかった。彼は僕からホームランを打ち、そのことを通して、「キャッチボールするようなフォームで130キロ投げられたら誰も打てませんよ」という解説者の言葉を思い出させ、そしてつまりそれって、僕の持ち味だったじゃん!って、僕に再認識させてくれたんだ。
 僕があの甲子園準優勝投手に投げ方を「教えた」ように、つまり彼も僕に、投げ方を「教えて」くれたってわけだ。
 だから僕は心の中で、(あのときは本当にありがとう。そしてがんばって!)って、彼にエールを送った。
 だけどやっぱり僕はいつまでもいつまでも指名されず、やっぱり駄目だったのかなぁとか思ってほぼあきらめていたら、とうとう夕方になって、そろそろ帰ろうかなとか思い始めていたら、その日最後の最後の指名になって、そしてテレビには、やっと僕の名前が………

 その直後、チームメートが「わ~!」と言いながらなだれ込んできて、そしてそのときはすでに卒業していた、いつもブルペンや試合で僕の球を受けてくれていた、あのレギュラー捕手だった先輩も電気屋の格好で飛んできて、顔を真っ赤にして、顔中涙と鼻水でどろどろにして、そして僕に抱き着いた。
 僕の顔も、自分の涙と先輩の涙と鼻水がごちゃ混ぜになり、そしてどろどろになった。
 僕を大投手に育てるだなんて夢みたいなこと言って、そしていつもいつも、「OK!」「ナイスボール!」って励ましてくれていたあの先輩。調子が悪い時は「遠投しよか」とか言って気分を変えてくれ、良い時は「お前の球は捕るのが怖い」とかほめてくれ、そして僕が300球も投げた日も、文句ひとつ言わず黙々と捕球してくれた。
 僕はその先輩には、いくら感謝してもしきれない。
 だけど先輩は突然真顔になり、そして僕にこう言ったんだ。
「おい、ドラフト最下位! いいか、今日がゴールじゃないんやぞ! お前のポテンシャルは、こんなもんじゃないんやぞ!」
 それで僕は直立不動で、「はい! わかりました! 頑張って、這い上がります!」って答えた。

 それから僕は、延々とみんなに祝福された。
 監督も涙を流して、顔はぼろぼろだった。僕に「おめでとう」と言おうとして、だけどそれが嗚咽になって、言葉にならなかった。
 ひたすら僕の背中を叩いて、涙を流し続けたんだ。
 本当に僕は、みんなに感謝しなければいけない。
 僕を「放牧」してくれた監督を始め、変わり者の僕を、暖かくチームメートとして接してくれたみんな…
「僕を大投手に」と支えてくれた先輩、その先輩の後を継いで僕を支えてくれた同級生のレギュラー捕手、バックを支えてくれた野手のみんな、たくさんのイニングを投げ抜いてくれた後輩投手たち。
 本当に本当に、いくら感謝してもしきれないんだ。

 そして数日後。
 少し冷静になった僕は、ゆっくりと考えた。
 だけど僕はプロに入っても、今までの自分の考えはしっかり持っておこうと思った。
 持久力を持ったねばり強い下半身
 長いイニングを投げられる体力
 やや狭いけれど正確なステップ
 腰をひねって「水」の上半身を自然に動かし、受動的に腕を振る
 いくら投げても疲れないピッチングフォーム
 ゆったりと投げ、見掛けより速く、そして手元で伸びる球

 所詮僕は、最速130キロ右腕だと思う。
 だけどそれを150キロに見せるのが、僕の持ち味だと思っている。
 そしてそんな僕のポリシーを、きっとスカウトの人も見抜いていたし、とっくに監督から聞いていたはずだし、そして若手を育てるのが上手な球団らしいから、だから僕は期待に胸を膨らませて入団しようと思う。
 きっと僕は、キャンプでプロの投手の球を見て、叩きのめされるのは百も承知だ!
 だけど子供の頃から、あのテニスコートでめちゃくちゃな球を投げていた僕だから、中学でも高校でも、先輩の球を見て何度も叩きのめされた。
 だけどただただ野球が大好きで、ただただ投げることが大好きな僕が、やっとのことで、せっかくここまでたどり着いたのだから。

 だから僕、がんばらなくちゃ。
 叩きのめされても叩きのめされても、とにかく僕は「投げる!」
 だって僕は、やっぱり野球が、そして「投げる」ことが大好きだから。

 球が遅くてコントロールの悪い彼は、プロ野球でどうやって生き抜くのか 
 彼のプロ野球での悪戦苦闘と、そして活躍へと続く
 
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