投げる/あり得ない理由で甲子園初登板を果たした僕、そしてその後の野球人生

山田みぃ太郎

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第30話

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 僕には天から降ってくるような80キロの緩いカーブと、ゆったりとしたフォームから、見かけより少し速くて、バックスピンが効いて手元で伸びる130キロくらいのまっすぐがある。基本的にこの二つの球による「50キロの緩急」は、僕の生命線だ。
 それはいいとして…
 で、牽制とかバント処理とか、そして例の第3のフォームでの送球とかは、これからも必死こいて練習を重ねるしかない。やっぱり特訓だ!
 ところである野球中継で、内野手が悪送球したときに(送球が豪快に引っかかっていた)、解説者が「腕が振れてないからですよ」とかばっさりと言っていた。それで僕は「なるほど!」と、目から鱗だったんだ。つまり送球において何よりも大切なのは、腕を振ることなんだと。で、僕の場合は縦に。
 それから以前、僕が第三のフォーム実験中に手伝ってくれたベテラン三塁手の人も、「恐がらんと思い切り腕振って投げたらええねん」って言っていたのを思い出した。つまり二人の大先輩の意見が一致したってこと。
 そういうわけで、送球では恐がらず、思い切り腕を振らなきゃって思った。シンプルにきっとそれが答えだな。暴投したときはしたときだし、それで殺される訳でなし。
 ともあれまだまだ繰り返し繰り返し練習!
 とにかく投内連携、苦手意識持たずにがんばらなくちゃ。守備コーチに頼んで特訓してもらおううかな。
 それから再び例のクイックの話。
 前にも言ったように、僕はクイックの速さを自由に変えられるんだ。操ることの出来る下半身をどうするかの問題だから。だとすると、クイックの速さをいろいろ変えたら? これは前から考えていたし。
 それでそんなことを、それから良く話をするようになった、例の先輩のキャッチャーの人に言ってみたら、
「クイックの速い遅いと、球の速い遅いとを組み合わせるといいかもな。これで2×2の四駆だぜ。俺、最近、ジムニー買ったんだ。まあ球種が増えたみたいなもんさ」って、分かるような分からないようなこと言ってたけど、何となく僕にも分かった。つまり2×2でジムニーになるんだね。(やっぱりわからん)
 それから走られそうなときは速いクイックとか、そうでもないときは遅いクイックとか、クイックの速さを変えたら打者のタイミングが外れないかとか、先輩もいろいろと提案してくれたんだ。で、打者や走者の様子をうかがいながら、いろいろサイン出してみようって。それに先輩はすばらしい強肩だからね。頼もしいかぎり。

 そして内外角の投げ分け!
 僕は放牧されて以来伝統的に、キャッチャーにはいつもど真ん中に構えてもらっていた。つまり何処へ行くかはボールに訊いてくれってコンセプト。
 だけどある日のブルペンで、ベテランのブルペン捕手の人が、「そんなアバウトなんじゃダメだ!」とか、怖い鬼瓦のような顔をして言い出したんだ。そして「よし来い!」とか言って内角いっぱいとか、外角いっぱいとかにミットを構え始めてしまった。
 それで最初僕は、「えぇ~!」って思ったけれど、だけど考えてみると、例えば外角いっぱいに構えたら、それより右に行けばストライク。左に行けばボール。これってフィフティーフィフティーじゃん! 内角いっぱいもそう。
 どっちみち散らばるんだし、どこに構えようが結果は一緒かな。つまり二球に一球ストライクならまあいいかって、僕はあっさりと豪快にプラス思考で考えることにしたんだ。
 で、実際やってみると、内外角に見事に投げ分けられる場合もあるし、ばっちり逆球になる場合もあるし、ど真ん中へ行く場合もあるし、抜けてくそボールになる場合もあるし、引っかかってワンバンも…
 そしてある日、「僕、コントロール悪いですからねぇ。球も遅いしぃ」とか、自信なさげ言ったら、僕の球を捕ってくれていた鬼瓦のブルペン捕手の人(鬼瓦さん)は、
「お前のコントロールぅ? いいに越したことはないが、まあそんなに気にせんでもいいんじゃねえかぁ。お前よりコントロール悪い奴は、うちでもそうだなぁ、あと2、3人はいるぞ! まあ少しずつ良くなるだろう。それから言っておくけど、お前の球は手元でよく伸びるから、速い遅いはあまり気にせんでいい」だって。
 それで僕はとても安心したんだ。
 僕よりコントロールの悪い人がこのチームにあと2、3人はいる!
 プロ野球のチーム内に、僕よりコントロールの悪い人が数人…
 そして少しずつ良くなる?
 それと、球の速い遅いは気にしなくていいと、鬼瓦さんが太鼓判を押したみたいにそう言うのなら、僕も豪快に気にしないことに決めた。もっとも入団してキャンプで初めて、プロの化け物投手たちのえぐい球を見て以来、豪快に気にしないことにはしてたけど。
 ともかく鬼瓦さんにそう言われたことでとても嬉しくなり、僕はその日、タイ焼きを3個買って、にやにやしながら寮で一人で食べた。

 とにかくそういう訳で、いろいろ必死こいてやってみて、一応投手としての、何と言うか、「必要最低限の実技」だけは揃えたつもりだった。球の遅さはさておいて…
 だけどこの程度の投手だったら、プロにはごろごろいるだろうから、どうしてもさらなるプラスアルファが欲しい訳だ。
 で、僕は考えた。
 きっとそれは…、投球術?
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