オーラム星の少年プロ野球

山田みぃ太郎

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お買い物とかしてから…

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 翌日僕はセリア君の言い付けを守り、パジャマ姿でスニーカーを履いて、街へ出掛ける事にした。パジャマの上からは、買ってもらったジャケットを羽織ったけど。
 セリア君が書いてくれた、とても乱暴な地図を見ながらトランペットの並木道を少し歩くと、商店街のアーケードがあった。
 そこを歩く人もお店の人もみな子供だった。
 それで、これだけ子供ばかりを見ていると(大人だけど!)、だんだんそれが当たり前に思えてくるから恐ろしい。
 そしてそのアーケードは、地球のとは全然違っていた。全体がダイヤモンドで出来ていて、天井はダイヤモンドがシャンデリアみたいに加工してあるし、それがきらきらと輝いていて(地球人の僕から見ると)腰をぬかすほど豪華だ。
 それにしてもよくもまあこんなに大量のダイヤモンドがあったものだと、僕はあきれてしまった。
 セリア君の話では、オーラム星が形成された直後の数十億年前、物凄く高温高圧のオーラム星の地下深くで、大量の炭素がことごとくダイヤモンドに変化したそうだ。それと同時に金やプラチナなどの貴金属も大量に生成されたらしい。
 そしてその後、これらが数回の火山の大噴火で溶岩として大量に噴出され、それが冷えて堆積したのだという。自分は地質学者でも火山学者でもないので、それ以上詳しい事情は分からないとかも言っていたけれど。
 ともかくそういう訳で、この惑星にはダイヤモンドや金やプラチナは、いくらでもあるらしいのだ。
 それはそうと、ダイヤモンドや金やプラチナが大量に噴き出す火山の噴火というものを、一生に一度でいいから僕は見てみたい。

 さて、それから僕はアーケードのいろんなお店に入った。
 ある店ではパジャマ姿の僕に「プロキオンズの新人選手ですか?」なんて聞いてくる人もいた。結構いい気分だった。
 僕は一応「そうです」と答えた。(違うかもしれないけれど…)
 そこは洋服屋さんだったので、パジャマ以外の服をいろいろ買った。
 文房具屋さんへ行くとカーボンファイバー製で物凄くかっこいい鉛筆があり、とても気に入ったので何本か買った。それと「ガスタービンエンジン付き鉛筆削り」という凄い物もあったので買う事にした。お店の人の話では安くするためにダイヤモンドの歯が使ってあるので、鉛筆をぎんぎんに尖らせる事が出来るそうだ。
 燃料のひまし油も小さなビンに入ったのが付属していた。これもカッコ良くてイケてる。
 雑貨屋ではダイヤモンドの柄にプラチナの毛が付いた歯ブラシを買った。実は悔しい事に、これは後に地球へ帰るとき、持って帰るのを忘れてしまった。
 貴金属店もあったのでのぞいてみた。いろんな宝石が飾ってあったけれど、一番高そうなのはブリキの指輪で十カラットの石炭が付いていたので、僕は唖然としてしまった。
 後からセリア君に聞いた話だけど、こちらでは石炭は「黒ダイヤ」といって大変貴重だそうだ。ちなみに、以前セリア君から聞いた話だけど、セリア君が地球の過去を調査中、蒸気機関車を見て、
「ククク! 黒ダイヤを燃料にしてるなんて!!!!」とか言いながら気絶したそうだ。

 買い物の次は転入の手続きをするため、市役所へと向かう事にした。
 セリア君のさらに乱暴な地図を見ると、アーケード内に地下鉄の駅があるようだった。
 早速そこへ行き、駅の入り口からダイヤモンドの階段を下るとホームに出た。
〈地下鉄は地球の山手線のように環状線だから、何も考えずに来た電車に乗れ〉と、物凄く乱暴なメモに、とてもきたない書いてあったので、僕が何も考えずにそのホームで待っていたら、宇宙船を引き延ばしたような、とてもイカした電車が走って来たので、僕は何も考えずそれに乗った。
 中に入ると、座り心地の良さそうなバケットシートが幾つも並んでいて、沢山の子供たちが座っていた。それで空いているシートを探して僕も座った。
 僕が座るやいなや電車は走り出した。電車とは思えないような物凄い加速だった。
 それはそうと車内には中吊りの広告があった。それが加速のたびにぷらんぷらんと揺れていた。
 そこには「いよいよシーズン開幕! みんなでプロキオンズを応援しよう!」なんて広告もあり、セリア君とあと二、三人の選手の写真があった。
〈やっぱりセリア君、スター選手だったんだ!〉
 僕はそう思ったけれど、最初にこれを見たとき、絶対にこれはパジャマの広告だと確信した。

 電車はそれから五分ほどで市役所前駅に着いた。
 ちなみにアーケード駅から市役所前駅間の距離は42.195kmあるそうで、そこを五分だと、その間の平均速度は506.34km/時だと、後でセリア君が教えてくれた。
 それにしても速い地下鉄だ!
 まあそういうことはどうでもいい。
 もう一つちなみに、地下鉄はリニアモーターカーで、その建設を妨害する知事は、この惑星には存在しないらしく、だから地下鉄はつつがなく完成したらしい。
 いいけど。

 ともかくそれで、僕は電車を降りた。
 ダイヤモンドの階段を登り、ブロッコリーの並木道を少し歩くと市役所があった。
 市役所はフラスコみたいな不思議な形の透明な建物で、中が丸見えだった。
 これは「行政の透明化」の象徴で、同時に経費節約の為、「総ダイヤモンド造り」にしてあると、入り口の所に書いてあるのが通訳メガネを通して読めた。
 中に入ると転入届けの受付があったので、
「プロキオンズ新人選手のダイスケです。寮に住んでいます!」と、セリア君に言われたとおりのセリフを元気な声で言ったら、中学生くらいの係の人が出て来て、「わかりました」と冷静な声で言ってから沢山の書類を出し、長々と説明をし、それからこれら全部にサインをしろと言って、僕にこの惑星のプラチナ製のボールペンを手渡した。
 でもサインと聞いて僕はとても不安になった。
〈僕はこの惑星の文字が書けないのでは? もしかして「通訳手袋」なんかが必要かも…〉
 そうは思ったけれど、僕は「え~い!」とばかりに「鈴木大介」と、僕が知っている数少ない漢字をセリア君並のきたない字で豪快に書いた。
 すると不思議な事に、書類はすんなりと受理された。

 市役所を出たらもう夕方だった。
 東の空低く、伴星が昇っていた。
 駅までのブロッコリーの並木道をぶらぶらと歩いていたら「本家エクレア堂のエクレア」というお店があった。
 エクレアはセリア君の大好物だ。それでバニラ味とイチゴ味をそれぞれ三個ずつ買う事にした。
〈セリア君、今頃マンションで大忙しだろうから、差し入れでもしてあげよう。でも僕が行くと邪魔かも。そのときは差し入れだけして帰ろうかな…〉
 僕はそんな事を考え、それからもう一度爆走する地下鉄に乗り、黄金マンション前駅で降りた。
 トランペットの並木道を少し歩くと、セリア君のマンションはすぐだった。
 エレベーターでセリア君の部屋のある二百三十八階まで昇り、耳がつんとしたので、ごくんとつばを飲み込んでから、入り口のドアに向かって「ねこじゃらし!」と言ったら、ドアの機械が「オトモダチぃ(^^♪」と言って、カギを開けてくれた。

 中に入るとセリア君は留守かと思ったけれど、奥の秘密の部屋にいるらしく、誰かと大声で長電話をしているようだった。
 ちなみに例の虎猫は気持ち良さそうに仰向けになって、ぼろぼろのソファーで眠っていた。手足もシッポも伸ばし、だからソファーは虎猫で一杯だった。  
 でも僕もソファーに座りたかったので、強引にシッポの近くに座ろうとしたら、虎猫は薄目を開けて僕を見て、一度背伸びをしてからあくびをして、それからくるりとシッポを曲げてくれた。
 すると三十センチくらいのすきまが出来て、で、僕は「ありがとさん」と言ってそこに座った。
 僕が座ると虎猫はもう一度背伸びをしてからあくびをして、今度はシッポを僕のひざにちょこんと乗せ、また目を閉じてごろごろいいながら眠ってしまった。
 ところで奥にある秘密の部屋はセリア君が国家事業なんかをやる仕事場だった。だから僕は勝手に入る事は出来ない。
 でもそれ以外は勝手にしていいよとセリア君が言っていたのを思い出したので、僕は虎猫のシッポをどけて立ち上がり、勝手に台所へ行き、勝手にこの惑星のコーヒーを入れる事にした。
 そのコーヒーを持ってソファーに戻ると、虎猫はまた薄目を開けて僕を見て、一度背伸びをしてからあくびをして、それからくるりとシッポを曲げてくれたので、僕は再び「ありがとさん」と言って、また座らせてもらった。(またシッポを僕のひざに乗せた)

 その間も長電話をしているセリア君の大声が響いていた。
「だからさぁ、僕らは向こうじゃ子供に見られちまうんだぜ。だったらそんな計画じゃ『平和のリレー作戦』が無理なのは分かるだろう? 未来調査班の報告で、『平和のリレー作戦』で政治的に干渉する時期はすでに分かっている。そうそうサファイア星時間で二十一世紀後半の、世界同時多発核兵器テロと、それに連なる全面核戦争だよ。それから原子力テロなんかもあって放射能汚染が進んでいる国もあるよな。たぶんそこは何万年も住めなくなるだろう。だけど僕らが子供に見えたんじゃ介入のしようも無いし、対策の立てようも無いし、とにかくもうどうしようもないだろう。彼らの寿命は八十年くらいはあるんだぜ。大人の姿も僕らとは全然違うし。身長は一メートル七十センチ以上とかだし。え? タイムエイジマシン? それはだめだ。それは僕らの三十歳の姿じゃん。僕らの三十歳の姿は、もう豪快によぼよぼなんだし、背も低いし…」
 それからもだらだらと長電話が続いた。
 僕がセリア君のダイヤモンド製のコーヒーカップに勝手に入れたコーヒーを飲み終えても、セリア君の長電話は終わらなかったので、冷蔵庫からお好み焼きを出してチンして食べた。
 ふりかけのかつおぶしの匂いに虎猫が目を覚ましたので、仲良く半分ずつ食べた。

 だけど、いつまで待ってもセリア君の長電話は終わらなかった。
 だから僕はエクレアをテーブルの上に置き、その上に「差し入れだ。仕事頑張って。ダイスケ」と、買ったばかりのカーボンファイバー製の鉛筆で書いたメモを置いて、トラ猫をだっこしてよしよししてごろごろ言わせてから寮へ帰る事にした。

〈だけど「平和のリレー作戦」って何だろう? サファイア星時間で二十一世紀後半の同時多発核兵器テロ? 全面核戦争? それに放射能汚染! 何万年も住めなくなる国…、それってどういう事? まさか地球の事じゃないよね。だけど確かサファイア星は、地球の事じゃ?〉
 トランペットの並木道を駅に向かいながら、僕はそんな事を考えた。
 また地下鉄に乗り、シートに座ってからも僕は考えた。
〈サファイア星=地球? 地球の運命?〉
 もしそれが本当だったらどうしよう…

 ふと前を見ると、パジャマ姿のセリア君たちが写った中吊りの広告があった。
 それを見て、写真のセリア君は僕に、〈そんな事心配しなくていいからね〉って言ってくれているような気がした。
 そうだった。
 もうすぐシーズン開幕だ。
 それに、明日僕の入団が決まるんだ。
 でも、だめだったらどうしよう…
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