オーラム星の少年プロ野球

山田みぃ太郎

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平和のリレー作戦って?

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 シーズンが始まってしばらくしての事。
 その日は試合が無く、早朝練習と全体練習を終え、昼食をとった僕は、午後は全体練習も休みだったので、寮でのんびりしていたら思い切り眠くなった。
 それで昼寝を楽しもうとゴロンと横になり、気持ちいいなと思ってうつらうつらしていたら、誰かがドアを叩く音がした。
 ドンドンドン!
 僕を呼ぶ声も聞こえた。
「ダイスケ君」「ダイスケ君」「ダイスケ君!」

 最近やたらとこんなパターンが多いような気がする。
 それに多分またセリア君だ。
 入団発表は終わったし、シーズンもとっくに始まっている。
〈一体何の用だろう? まさか僕をまた別の惑星へ連れていく気か?〉
 起き上がった僕はそんな事を考ながら寝ぼけた顔でドアを開けた。
「またどこかの惑星へ連れてってくれるの?」
「ごめんごめん。寝てたんだね。悪かった」
「何で僕が寝てたって分かったの?」
「そりゃ顔を見れば分かるさ。大抵寝てるし」
「そうか、寝るのは僕の得意技だからね。それで、今度は何という惑星?」
「惑星じゃないよ。車を買いに行こう」
「車? でも僕まだ子供だし、免許も…」
「大人じゃん♫」

 それでセリア君のコメット250で出発した。
 まず免許試験場へ行き、唖然とするような簡単な試験を受けたらさっさと合格して、その場で免許証がもらえた。
 次に自動車屋さんへ行った。
 ショールームには沢山の自動車が置いてあった。どれも小さくて子供にぴったりのサイズだった。
 何だかわくわくした。
 それで僕は、あれこれさんざん迷ったけれど、「イカルス350」という車を買う事に決めた。
 色はイカのような白。
 セリア君のとてもダサいコメット250と違い、ちょっと宇宙船みたいでイカしてる。
 イカルス250の方が税金とかも安かったけれど、(セリア君の話では250なら車検もないらしい…)でもセリア君が「やっぱり250よりは350にしといた方がいいかも」とかいうので350にした。
 僕には何が「250」なのやら、何が「350」なのやら、さっぱり分からなかったけれど、数字は大きいに越した事はないと思った。
 ちなみにお金はセリア君がポンと払ったけれど、どのくらいの金額なのかは僕には全く見当もつかなかった。(多分セリア君は大金持ちだ)

「さあ試運転だ。どこへ行こうか?」
「でも僕、腹減った」
「おやつの時間だね。よし、途中のドライブスルーでハンバーガー買ってチワワ浜へ行こうぜ!」
「じゃ、セリア君のコメット250はここに置いておくんだね」
「回送モードで黄金マンションに戻しとく」
 それから早速僕が運転し、セリア君が助手席に納まった。
  運転はめちゃくちゃ簡単だった。この惑星の自動車には「回送モード」なんていうものがあるくらいだから、なるほど免許なんかすぐに取れる訳だ。

 それで僕は、セリア君に言われるままに車を走らせた。
 小犬市街の黄金の街並みを抜け、(途中、ドライブスルーでハンバーガー♫)郊外の道路をしばらく走ると、車は綺麗な海岸通りに出た。
 道路沿いに「きゅうす」がなったサボテンみたいな植物がいっぱい生えていた。
 そこをしばらく走ると、海水浴でも出来そうな浜辺があり、海を見渡せる駐車場に車を止めた。
 ここがチワワ浜だそうだ。
 僕は何がチワワなのかは聞かなかった。地名なのか何なのかは分からない。とにかく小犬市の名所なのだそうだ。
 それから車を降りて少し歩くと、ちょっとイカした岩があったので、二人で腰を降ろした。
 岩に砕ける波は白。海と空は綺麗な紫色。
 白と紫。独特の色彩だ。
 ヨーグルトにブルーベリージャムをかけたような感じ? 
 おいしそうだけど地球にこんな風景、ある訳がない。
 それから僕らは、ドライブスルーで買ったハンバーガーを食べる事にした。
 見上げると空にはとんびのような鳥と、例のニワトリカラスもいた。それと雀を巨大化したようなとてもどう猛そうな鳥も遠くで飛んでいた。

「似ているだろう? オーラム星と地球」
「似てる似てる。色は少し違うけど。あと、植物と鳥類と昆虫と貴金属以外!」
「で、アルファセンタウリの主星も、君たちの太陽とよく似ているんだ。色とか大きさなんかほとんど同じくらいだね」
「でもここは太陽が三つなんて凄いよな」
「主星と伴星とプロキシマだね」
「プロキシマってどんな星だったっけ?」
「前に言っただろう。赤色矮星だって」
「セキショク…豪快に忘れた!」
「そんなに安易に豪快に忘れるな! まあいい。とにかく小さくて赤くて長生きの星だ」
「長生き?」
「核融合を起こせる最低レベルのサイズなんだ。だから穏やかに燃えて、長生きをする」
〈長生き…〉

 僕は「長生き」という言葉を聞いて、セリア君たちの寿命の事を思い出し、少し悲しくなりかけた。
 だけど僕がその事を考える暇もなく、セリア君は話を先へ進めてしまった。
「実は、君たちの太陽系の木星は、もっと大きかったら、プロキシマみたいに自ら光っていたはずなんだ。つまり木星とプロキシマの間に恒星になれるかなれないかの境界がある」
「恒星になれるかなれないかの境界?」
「光るか光らないかのボーダーラインさ」
「ボーラーラインかぁ…、宇宙でも生存競争が厳しいんだね。じゃあプロキシマは合格で木星は落ちこぼれって事? 木星さん、かわいそう…」
「いやいやそういう問題じゃないと思うけどな。木星はかわいそうじゃないし、とても綺麗な惑星だよ。僕はヘリウム型の巨大惑星って大好きなんだ。ぷりぷりした縞模様が素敵だし」
「木星ってぷりぷりしているの?」
「そうだよ。台風もいっぱい出来ていて、それに彗星なんかが時々落下してさ。そのときは凄い迫力だぞ。今度近くで見てごらん」
 それからしばらくの間、セリア君は雄弁になって木星の話を続けた。
 オーラム星人の間では、太陽系では土星の方が人気らしいけれど、セリア君は木星が大のお気に入りだそうで、縞模様がどうだ大きな赤い渦巻きがどうだガリレオ衛星がどうだと、夢中になって話し続けたんだ。
 だけどセリア君の木星の話が長くなり、僕はそれに生返事をしながら、すみれ色の空をぼーっと眺めていた。
〈すみれ色だけど、もう少し青かったら「青空」だな。そしたら地球の青空とそっくりだ〉
 そんな事を考えていた僕は、ふと地球の事を思い出した。
 そういえば地球では大変な問題があったのでは? この前、セリア君に差し入れを持って行ったとき、秘密の部屋で誰かさんと長電話で話していた話題だ。
(二十一世紀後半の同時多発核兵器テロに全面核戦争に放射能…)
 セリア君の電話を盗み聞きしていたみたいで気が引けたけれど、もしかしたら地球の未来の大問題ではないのか?
 僕はそう思ったけれど、セリア君は雄弁になると気が利かなくなる。
 気が利かなくなると、きっと話にブレーキが利かなくなるだろう。だから放っておけばいつまでもだらだらと木星の話を続けるはずだ。
 だけどこのままセリアくんを雄弁にさせておいて、地球の事を放っておく訳にはいかない。
 地球人として…
 それで僕は、「ねえねえ、セリア君ってば!」と言って、セリア君の木星の話を緊急停止させた。だいたい木星がぷりぷりしているだとか、あらびきソーセージじゃあるまいし。
 それから僕は思い切ってこう切り出したんだ。
「木星の話はそのへんでさあ。で、地球の未来の事、教えてよ。核戦争がなんたらかんたらって…」
 いきなり話の腰を折られたセリア君はハッと息を飲んでから、木星の話を止めた。
「あ! 盗み聞きしてごめん」
(僕は少し気まずかったけれど…)
「そうか。この前僕のマンションに差し入れに来てくれたときに、聞こえちゃったんだ。僕は電話では大声だからね。いいよいいよ。大丈夫だよ」
「ありがとう。それで、ええと、平和の…」
「平和のリレー作戦の事も聞いちゃったんだ。いいよいいよ。地球人代表として、知っておく必要があるからな。いいだろう。教えてあげる!」
「うんうんうん!」
 それで僕は身を乗り出した。
 だけど突然セリア君は、僕に意外な質問をした。

「ところで今、オーラム星で戦争が起こっていると思うかい?」
「どうだろう? 起って…」
「この一億年、全く起こっていないんだ」
「何だって?」
〈どうしてそんな事が…〉
 僕は驚いた。
 その理由がとても知りたかった。
「ねえ、どうしてオーラム星では一億年も前から戦争が無くなったんだい?」
 するとセリア君はいきなりキザな顔になり、遠くを見つめた。
 でもセリア君の視線の先では、例のとんびとニワトリカラスがすみれ色の空を背景に、何やらいざこざを起こしているところだった。何か餌の取り合いでもしているみたいだ。
 それを見つめながら、セリア君は少しキザで、少し真剣な顔になって、そしてこうつぶやいた。

「いざこざなんか、止めればいいのにな…」
「いざこざ?」
「人間も鳥も。いざこざを止めればいいんだ!」
「いざこざを止めれば?」
「まあいいや。説明するよ!」
 そう言ってセリア君は僕らが座っていたイカした岩から一人立ち上がり、何だか大先生が講義でもするみたいな感じでしゃべり始めた。
 セリア君はやっぱり「大人」なんだと、そのとき僕は思った。

「まず初めにね。高度な文明が起こると必ず戦争が始まるんだ。しかもまずい事にその高度な文明ってやつは、必ず核兵器を発明してしまう」
「必ず核兵器を?」
「うん。必ず核兵器を開発する」
「そうかぁ…」
「それでもしそうなると、戦争を止めない限り、数千年で全面核戦争を起こして滅んでしまいかねない…」
 それを聞いた僕は、いろんな戦争とか、紛争とか、いろんな国での核兵器開発の事とかを思い浮かべた。確かにそうかも知れないなと思った。

 一方的によその国に攻撃を仕掛ける。
 こんな時代に、百年も前のような考えで、よその国に攻撃を仕掛けて、よその国の財産をかすめ取ろうとする。
 信じられない!
 中世とか、百年も二百年も前ならいざ知らず、宇宙旅行とかが現実となってきている二十一世紀に、そんな百年も二百年も前のような考えを、あろうことか、国のトップが、そんなことを考えている。
 ありえない!

「一つの惑星に文明が生まれる事は、奇跡に近いのにね」
「奇跡?」
「ある計算によると一つの惑星に文明が誕生する確率は、十億分の一とか百億分の一とか言われているんだ」
「そんなに小さいの?」
「そうだ。だから奇跡的なんだ。文明が生まれるのはね。だけどその奇跡的な文明が数千年で滅ぶなんてもったいないと思わないか? 地球の文明だって物凄く貴重なのに」
「そんなに地球は貴重なの?」
「あたりまえじゃないか! 地球くらいの文明を持った惑星は、僕らが調査可能な百万立方光年以内で、地球とオーラム星だけだった」
「百万立方光年?」
「まあとにかく、物凄ぉ~~く広い範囲だよ。球状星団三百個分くらいだね」
「球状星団三百個分…」
「まあいいよ。物凄く物凄く広い範囲さ」
「分かったよ。とにかくとてもとても広いんだね♫」
「そうだ。それでその物凄く広い範囲の中で、オーラム星以外で唯一、文明を持った惑星である地球に僕が行って、アクエリアスで過去も現代も未来も偵察したのだけど、地球って、戦争だらけじゃないか!」
「未来も?」
「そうだ。未来も戦争だらけだった。これはいったいどういう事なんだ?」
「そんな事、僕に言われても…」
「そうだね。一ミリも君のせいじゃなかったね」
「でもいいよ。僕も地球人だから! 僕の責任でもある!」
「いやいや、君のせいじゃないよ。だけど過去には原子爆弾を街に落とした国だってあるんだ。一度に何十万人も亡くなったというじゃないか。とても信じられないよ」
「ごめんなさい!」
「君のせいじゃないってば。だけど、核開発も続いているし、核実験や原子力事故で地球全体はすでに放射能で汚染されているし、一体全体、これはどうなっているんだ?」
「ごめんなさい!」
「そんなに謝らなくてもいいってば」
「いや、謝る!」
「いいってば!」
「いぃ~~や、謝る! だって僕、地球人だもん!」
 僕もイカした岩から立ち上がり、大声で言った。
「そんなの地球人としてとても恥ずかしいよ! ごめんなさい!」
 僕は、この戦争のないオーラム星に来て、地球人の一人として、そのことが恥ずかしくて仕方がなかった。
 何やってんだ、地球人!って。
 だから僕は謝った。

「…わかったわかった。もう許してあげる」
「良かった。ありがとう」
「まあ、とにかく座ろうぜ」
 それで僕らはまた、イカした岩に二人で座って話を続けた。
「とにかくこれが地球の現状なんだよね」
「そうだねよ。やっぱり下手すると地球、そのうちに滅んでしまうのかなぁ」
「だから何とかしないといけないんだけどね。地球を…」
 セリア君が地球の事をこんなに思ってくれていると知って、僕はとても嬉しかった。
 でも僕が嬉しそうな顔をしていると、セリア君はまた僕に意外な質問をした。

「それでね。どんな文明も必ず数千年で大戦争で滅んでしまうと仮定するよ。どうなると思う?」
「必ず数千年で? 大戦争で? どうなるの?」
「どの文明も他の星の文明と出会う事が出来なくなるんだ。つまり僕とダイスケ君の出会いも、なかったと思うよ」
「どうして?」
「僕たちの文明が君たちの文明に出会うまでに、一億年も掛かったんだぞ!」
「一億年も?」
「そうさ。その一億年でオーラム星の科学がどんどん進歩して、恒星間旅行も出来るようになった。それと同時に、君たちの太陽と僕らの太陽が接近した。たったの四・三光年に。そういう偶然があったからこそ、僕らは出会う事が出来たんだ…」

 何千万年も何億年も続かないと、文明同士は出会えない。
 数千年じゃだめなんだ。
 数千年なんて宇宙の中ではほんの一瞬だし。
 だから数千年の人類の文明だって、宇宙の中では、ほんの一瞬に過ぎない。
 偶然に接近したとしても、そんな〈一瞬〉の文明同士では、出会えるはずもない。
 だから文明を長持ちさせる必要がある。
 何億年も、それ以上に…

 セリア君は僕に、そういう事を言いたかったみたいだった。そして、
「だから戦争をやめるべきなんだ!」と。
 それは分かった。
「でもさあ、どうしてオーラム星では一億年も前から戦争が無くなったんだい?」

 改めて僕はセリア君に問うてみた。
 僕はそもそも、それを聞いていたんじゃないか!
 それに、平和のリレー作戦って一体何?
 セリア君の話はまわりくどい! 
 すぐに脇道にそれてしまうし…
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