オーラム星の少年プロ野球

山田みぃ太郎

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セリア君に思いを伝える

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〈一体ぴゃーちゃんは、猫パンチで何を叩き落としたのだろう?〉

 バカな考えとは思ったけれど、それから僕は考えたんだ。
〈ぴゃーちゃんが猫パンチで叩き落としたのは虫ではなくて、何かの小さな物体…、もしかしてその小さな物体って、夏休みの宿題を取りに来て、間違えて八月二十日に迷い込んだ「僕ら」が乗ったアクエリアスではないのか…〉と。
 確かにトンネルが崩壊して、セリア君はもう地球に来る事は出来ないはずだ。
 だけど何もかもが「あの日」と同じように時が流れているのだったら、もしかして「僕ら」ではない、何処か別の宇宙にいる(かも知れない)「僕ら」が乗ったアクエリアスが、今僕の家に来ているのではないか…、と考えたんだ。
 それはバカな考えかも知れなかったけれど… 
 それで僕は藁をもすがる思いで、その可能性に懸けてみようと思った。
〈いや、きっと来ている!〉
 そう信じる事にした。

 もしそうであるならば、そんな「僕ら」はその頃、お父さんの棺桶の上で「運命変更」の作戦会議をしているはずだった。
 それなら「僕ら」にコンタクトを取る方法を考れば? 何とかコンタクトを取って、セリア君に…
〈もしかしてこれは、僕が求めていた「素晴らしいアイディア」ではないのか?〉
 そう思うと、僕にかすかな希望の光が見えてきた。

 だけどお通夜の席で「僕ら」にコンタクトを取るのが容易でないという事は、僕にだってすぐに分かった。
「お~い、セリア君、実はねえ…」なんて、お通夜の席で言える訳ないし、紙に書いて見せると言っても何だか不自然だ。
 それでは一体どうしたらいいのか?
 どうしたら自然に…
 それで僕はもう一度、脳が枯渇するほど考えるはめになった。
 でも考えてみると、問題はそれだけでは済まない事が分かった。
「コンタクトを取る」以前に、もっと重大な問題がある事に僕は気付いたのだ。
 それは棺桶の上の「僕ら」が聞き出すであろう「お父さんが死んだ理由」だ。
 それはきっとこんな会話になるだろうと、僕は予測した。

「よりによって博士論文の審査があんな事に…」
「その夜、トイレを出たところで突然倒れてしまったらしい」
「論文審査の事がよほどショックだったのだろう」
「心臓発作でも起こしたのではないのか?」
「気の毒にねえ…」

 もしそうなら、その時まさに作戦会議中の「僕ら」は、きっと論文発表が上手くいくように裏工作をするのでは? そして論文発表が上手くいけば、ショックで心臓発作を起こして死ぬような事は無いと考えるに違いない。
 そしてそうすると、その為に「僕ら」は、僕らがやったみたいに八月十九日のお父さんの行動チェックをやり、そしたら「僕ら」は、僕らがやった「替え玉作戦」の事を知るかも知れない。
 それから何をするのか想像もつかないけれど、もしかしたら「替え玉の替え玉」なんかを仕立て上げ、僕らの替え玉作戦を妨害するかも知れない。
 そうすると多分論文発表が上手く行く事になる。「僕ら」はそれで成功と考えるだろう。
 だけどそれではお父さんは交通事故に遭ってしまう。つまり元のもくあみだ。
 でも考えてみると、事はそう簡単ではなかった。
 そうすると、「さらに別の僕ら」がやって来て、棺おけの上でキャッチボールをやりながら、お父さんが死んだ理由を聞き出すはずである。
 それはオリジナルに戻って、
「よりによって博士論文の審査がうまくいった日に~馬糞トラックが…」
 そうすると今度は僕ら自身がやったみたいに論文発表がだめになるよう裏工作をするはずだ。(きっとオリジナルの替え玉作戦!)
 そしたら今度は殺人光線で僕に殺されるかも。
 だけどそのお通夜に、「さらにさらに別の僕ら」がやってきて…
〈これってもしかして無限に続くのでは?〉

 僕は頭が割れそうになった。
 それで僕は小難しい事を考えるのはきっぱりとやめる事にした。
 小難しい話など、セリア君に任せておけばいい! 
 それよりも大切な事は…、つまりシンプルに大切な事は、棺おけの上にいるであろう「僕ら」に、コンタクトを取らなければいけないという事だ。
 とにかく「僕ら」に事情を伝えないと大変な事になる。
 とにかくセリア君…別の宇宙のかどうかはさておいて、とにかくそのセリア君に事情を伝え、その後の処置は、頭の良いセリア君に託すしかないんだ。
 とにかく、変な作戦会議なんか、止めさせなければ!

 そういう訳で、僕は何としても「僕ら」にコンタクトを取る方法を考え出さなければいけなくなったのだ。もし「僕ら」がいればの話だけど…
 だけどさっきも考えたように、それは簡単な事ではなかった。
「おーい、セリア君!」はだめ。
「紙に書く」は不自然。
 じゃどうすればいいのか?
 それで僕はもう一度、脳が枯渇するほど考えた。
 そしてしばらく考えて、本当に脳が枯渇しそうになった僕は、一度ため息をつき、それからふと机の上にあった、オーラム星のガスタービンエンジン付き鉛筆削りを眺めた。
 そしたらオーラム星での楽しい日々がまぶたに浮かんできた。
 僕は選手寮で夏休みの宿題をやろうとして(結局はやらなかったけれど)、オーラム星のカーボンファイバー製の鉛筆を、この鉛筆削りでぎんぎんに尖らせたのだった。
 そんな事を思い出したら、ガス欠寸前の僕の頭に、ある考えが浮かんできた。

〈もしかして鉛筆をぎんぎんに尖らせると何が出来る? しかもオーラム星のこの鉛筆削りは地球のよりずっと鋭く鉛筆を削る事が出来る。何たってダイヤモンド製の歯が使われているからだ。ともかくそれだったら小さな小さな字が書けるはずだ。そしてそれで小さな小さな字を書くとどうなる? どうなる? どうなる? あ、そうか!〉

 それで早速僕は、目の前のガスタービンエンジン付き鉛筆削りに燃料のひまし油を入れ、ぶるんとエンジンを掛けた。(面倒くさい。まどろっこしい。超使い勝手悪い!)
 それからオーラム星のカーボンファイバー製の鉛筆を、超ギンギンに尖らせた。
 次に地球の虫眼鏡を使い、目を凝らして、地球の紙に可能な限りの小さな字で、こう書いた。
〈セリア君、助けて! アクエリアスで僕の耳に来て!〉
 それから地球のハサミで、その紙を注意深く、小さく小さく切り、爪楊枝サイズの短冊を作った。
 そしてその小さな小さな短冊を、鼻息で吹き飛ばさないように、握りつぶさないように、恐る恐る握り、それから一階へと階段を下りた。

 和室に入ると僕はさりげなく、お父さんの棺おけに近づいた。
 それから僕は目を凝らして棺おけを見た。
 だけどセリア君たちがどこにいるのか、良く分からなかった。でも僕らが作戦会議をしたのは、棺おけの真ん中くらいだったので、僕は一度手を合わせて拝んでから、さりげなく棺おけの真中付近に右手を伸ばし、そっと指を開いて短冊を放した。
 僕が目を凝らすと、その短冊はくるくる回りながら、ふわりと棺おけの中央付近に落ちたようだった。
 それから僕はもう一度手を合わせた。
 どうか「僕ら」が拾ってくれますようにと、神に祈りながら…
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