おもしろSFショート

山田みぃ太郎

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永遠の夢枕

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 ええと、この話は私の「作り話」です。
 くれぐれも現実と勘違いし、「え~~?」とか思わないで下さいね。
 で、私のような人間が書いた、このような「作り話」のことを、一般には「小説」と申します。
 念のため、ご承知おきください。
 で、以下にその「小説」を記します。
 えへん。

 夢の中における「時に流れ」は一種独特の、というか、現実の時間感覚とは全く異なる、夢ならではの「時に流れ」があると、私は勝手に考える。一例を挙げよう。
 私はどういう訳か、ニューヨークの摩天楼を優雅に散歩していたのだ。
 もちろん夢の中で。
 で、道路にはなぜか古めかしい自動車が往来し、歩道添いにはいろんな店があり、それで私はウインドショッピングなんかやったり、はたまた、時々いろんなビルを見上げて「スゲー!」とか思ったりしながら、その歩道を歩いていた。
 それからぶらぶらとしばらく歩いて、そしてニューヨーク駅?(グランドセントラル駅?)へ行って汽車でデンバーに帰ろう…なんて考えていた。
 何故にそう思ったかはわからん。で、それはさておいて、(だいたいどうして私はデンバーに帰るの?)ともあれその夢の初めから、その瞬間までには、相当に長い時間が過ぎていたはずだ。
 感覚的には30分くらい?
 で、ふと見上げると、あろうことか、エンパイアステートビルがぐわ~~~っと、私の方へ倒れて来ているではないか!
 エンパイアステートビルの、あのとんがった天辺や、茶色の壁面や、たくさんの窓がぐんぐん私に迫ってくる。
(これはとても逃げられない。もうだめだ…)
 そう思った瞬間、エンパイアステートビルの壁面が「ごん!」と私の顔面を直撃した。
 目から火が出た。
 そして目が覚めた。

 すると、壁に立てかけていたはずの「こたつの天板」が私の顔面にのっかっていた。私は昼寝をこいていたのだ。
 つまり昼寝をこいていた私の顔面に、こたつの天板が倒れてきて、私の顔面を直撃したのだ。たぶん私の頭が頭側にずれ、天板の「麓」を押し、立て掛けてあった天板がバランスを失い倒れたのであろうと、私は推測する。
 まあ、倒れた理由はさておき、で、考えてみてほしい。
 こたつの天板が倒れるのは、一秒かそこらだろう。
 それじゃ、摩天楼を散歩し始めてからエンパイアステートビルが倒れ、私の顔面を直撃するまでの一連の長~い夢と、一秒やそこらで倒れるであろうこたつの天板が、私の顔面を直撃するまでの、その首尾一貫した連動は一体何なのだ?
 あらかじめ私がこたつの天板が倒れることを予知し、それとシンクロして摩天楼の長ったらしい夢をみたってか。
 んなばかな!
 予知能力? ないない!
 で、私が思うに、こたつの天板が私の顔面を直撃したその瞬間に、摩天楼の長たらしい夢をみたのだ。(と思う)
 だってそうとしか考えられないもん。
 そういう訳で、私は夢というものには、現実の時間を超越したような「時の流れ」があるのではないか? 長い長い時が過ぎたかの如き夢を、人間は「一瞬」にして見るのではないのか?
 私はそれ以来、そういう考えに取りつかれたのだ。

 さて、人間が死を覚悟したとき、パノラマ視という現象が起こるという。
 その人のそれまでの人生が、走馬灯のように…
 そして一瞬にして、その長ぁ~いパノラマ視を見るのである。
 そういえば私が小学生のころ、道路を渡っていて、オートバイにはねられたことがあるのだが、「ごん」とはねられて「どしゃん」と道路におちるまでのまあ長かったこと。
 私は全治二か月の重傷だったけど死ななかった。
 だけどその間、パノラマ視のようなものを見た気がする。
 それは数分間くらい持続した気がする。数分間、宙を舞っていた気がするのだ。
 だけどオートバイにはねられて、2、3メートル飛ばされたとして、その時間はやっぱりこたつの天板同様、1秒かそこらだろう。
 で、ずいぶん前置きが長くなったが、要するに夢とか、パノラマ視とか、とにかくそういう現象を体験する際、その人が感じる時間の長さと、客観的な、つまり外部、あるいは他人にとっての時間の長さは全く異なるのではないか。
 つまり、場合によっては「一瞬」にして「永遠」の夢を見ることが可能なのではないのか!

 とにかく私はそういう考えに取りつかれ、とある研究を始めたのだ。
 実は私は、長年脳の研究をやり、夢枕なる、人の夢をコントロールするという恐るべき装置を開発したことは、前の話(小説)で述べた。
 一応私は脳科学者なのだ。
 そしてこれからの話は、その夢枕の応用である。
 前の話で書いたように、夢枕は特殊な電磁波を発生し、その人の夢をコントロールする訳だが、その電磁波を発生する、夢枕に内蔵されたアンテナで、実はその人の夢を含めた、いろんな脳の働きを「受信」できるのだ。
 そして脳の医学研究をやっている私は、その研究の趣旨を丁寧にご説明し、しっかりとご家族の承諾を得て、臨終の間際にある数人の方の、まさにそのご臨終の床にその夢枕を置かせて頂き、その方の最後の瞬間の脳の活動を記録させていただいたのだ。
 それで、これまた企業秘密なので詳細は申し上げられないが、驚くべきことに、臨終の直前にパノラマ視と思われる脳の活動が、見事に夢枕に記録されていたのである。
 何故にそれがパノラマ視と分かったかという理由も、これまた企業秘密故申し上げられないのは極めて残念である。
 さてさて、それで解析の結果、その方が三途の川を渡ったとおぼしき瞬間に、脳は(脳といっても「心」を司る重要な部分だが)その活動を止め、それからややあって医師は死亡確認となって「ご臨終です」と宣告する。
 実はその方々の脳の最後の活動の様子は、テラビット級のUSBメモリーにコピーし、ご遺族にお渡しした。
 このUSBメモリーは事情が事情なだけに、特注品の、凄く荘厳なデザインのものにした。
 で、ご遺族はそのUSBメモリーをお仏壇の位牌の隣に飾っておられるようだった。
 なんたって、ご遺族にとっては、そのお亡くなりになった方の最後の瞬間の記録(おもいで)なのだから。
 それで、その夢枕で記録したデータをもとに、私はそれを(これまた企業秘密で詳細は申し上げられないが)特殊なデジタル処理を行い、その結果を元に、夢枕から特殊な電磁波を発することにより、通常の、つまり健常な方においてもパノラマ視を誘発することに成功した。
 そしてここが極めて重要な点だが、夢の中においては「一瞬」にして「永遠」を体験できるのである。
 そのことは、エンパイアステートビルの話等、この小説の冒頭に書いた。
 いやいや、この小説の中で何度も書いた。
 ともあれ、臨終の間際のパノラマ視状態は客観的に、つまり看取っている周囲の方々にとっては「一瞬」だが、そのご本人にとっては必ずしもそうではない。
 それは自分が生まれてから、それまでの人生が走馬灯のように…、ああ、この話も書きましたな。
 で、私は夢枕に、もう一つの機能を加えることに成功した。で、その詳細は企業…、まあいいや。
 ともあれその機能とは、パノラマ視の、言っててみればその「上映時間」をコントロールすることである。
 ぶっちゃけ、その方の主観に置いて、何十年という驚くべき長い時間、そのパノラマ視が続くように設定することさえできるのである。
 で、これってもう「人生そのもの」じゃありませんか?
 だけど客観的には一瞬…
 だけど、私はさらに凄い機能を夢枕に追加することに成功した。
 これも企業秘密で…
 ええと、その機能により、それはエンドレステープみたいに何度も何度もパノラマ視が「上映」されるのである。
 しかも毎回全く同じものではなく、乱数表という機能を組み込むと、毎回のパノラマ視、すなわち「人生」が微妙に、あるいはかなり異なるのである。
 何だかややこしくて申し訳ないが、ぶっちゃけ、その臨終の間際の人にとってのパノラマ視は、具体的にはこんな感じになる。

 それはその人が物心ついたころから始まる。そして幼少期、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、就職、結婚、子育て、中年の時代、老後と、その人の主観においては数十年という時を体験できるのだ。
 それと補足しておくと、そのパノラマ視は単なるパノラマ視ではなく、何というか、ロールプレイングゲームゲーム的、というか、現実に体験している「人生」に限りなく近いのである。
 それについては私自身がそのパノラマ視を体験し、他の人にも体験してもらい、そういう風に完璧に設定したのだ。
 さてさて、それでまさにその「人生」における終わりの、つまりいよいよ臨終のとき、また新たな人生が「上映」される。
 それは再び物心ついたときから始まり、だけど夢枕に備わった乱数表の作用で、前回とは異なった人生になる。
 最初に「上映」された人生が、その方のオリジナルの人生に近い、例えばオーソドックスなサラリーマンの人生だったとすると、次の「人生」はプロ野球選手かも知れない。はたまたIT企業の社長として成功する人生かも知れない。
 ともあれそういう具合に夢枕の作用で、臨終の間際に何度も何度も、しかもバラエティーに富んだ「人生」を何度でも経験出来る。
 永遠に!
 つまりこの夢枕があれば…、それを私は「永遠の夢枕」と命名したのだが、要するに我々は、その主観において、「永遠の命」を手にしたと言えるのである。
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