おもしろSFショート

山田みぃ太郎

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出来損ないのタイムマシン(バージョンC)

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 これまでのバージョンの復習。
 で、ご存知のように、そもそもこの「出来損ないのタイムマシン」は、本体から電気信号を発生し、それを金属に伝え、その金属はアンテナの役割をして電磁波を発生し、その結果それに囲まれた空間が、ある時間に「留まる」という、極めてユニークな特性を持つ。
 それゆえにタイムマシン作動中は、あたかも外部の時が「止まった」ように感じられるのだ。
 もっとも実際は、外部の世界は止まってないのだけど、その囲まれた空間は、ある時刻、例えば9月19日午後7時19分に「居続ける」ため、内部から見た外部は、その時間で「固定」されるのだ。
 ややこしい?
 ともあれ小難しい話はさておき、空間内部の時間が固定されるがゆえに、外部が「止まる」のだってば!
 そしてその一方、内部は通常の速さで時が進む。
 ともあれとにかくそういうカラクリなのだ!
 で、いよいよ出来損ないのタイムマシンの使い方バージョン3!
 それでは物語を主人公に語ってもらいましょう。
 やはりペットサークルでの実験が失敗した直後からですよ♪
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そういうわけで俺は、その出来損ないのタイムマシンの「使い道」をあれこれと、それこそ寝る間も惜しんで考えた。ともあれ、金属で囲まれた空間内でタイムマシンを金属に接続すると、その空間内は特定の時間に留まる。
 それから俺は、「ものは試し」と、自分の車に接続した。
 シガーライターのところに接続したのだ。
 とにかく車とは、閉じた金属の空間だから、このタイムマシンの作動には都合がいい構造なのだ。
 それでとりあえず走り出し、少し走ってから、道がすいたところで電源をオンにした。
 タイムマシンの影響で俺の車が、どこぞのハイブリッドカーみたく暴走されると困るので、道がすいたところでやってみたのだ。
 で、オンにしたが、車は何事もなかったかのように、すいすいと走り続けた。
 金属内の閉じた空間内部では、「時」は通常どおりに過ぎていくのだ。
 これは他の実験でも同様だったし。
 だからエンジンも含め、車のメカも全て問題なく作動した。

 それで、道がすいていたからそのまま少し走ると、いきなり渋滞していた。
 それで最後尾に停まり、待っていたが、待てど暮らせど走り出さない。
 だけどこれはどうも普通の渋滞ではなさそうだ。
 前に止まっていた車が、走行中と同じ車間距離を取っていたのだ。
 だから俺はすぐに気付いた。
 つまり、俺の車以外は「時が止まっている」のだ。
 いやいや、俺の車が「ある時」に留まっているのだ。
 だから実際には走っている。
 だけど俺から見ると動かないのだ。
 ややこしい?
 とにかく! 本当は動いている(走っている)のだけど、俺から見たら止まっているのだ。
 ああもうややこしい!
 まあいい!
 そしてそのとき、俺の頭の中でドカンと閃光が閃き、そして俺は物凄いことを思いついた。

 それから程なく、おれはある友人の元を訪れた。
 実は彼は小型機を所有しているのだ。
 それから焼酎を飲みながら、俺はその友人に、「出来損ないのタイムマシン」の一連のいきさつを全部話した。
 実際その人も結構、いや相当ユニークな、そして俺同様風変わりな人物で、だからやたらと俺と気が合うのだが、俺がその出来損ないのタイムマシンを、自分の自動車に接続して実験した話を聞くや、即座に「それは面白い!」とひざを叩き、それから「早速俺の飛行機で実験だ!」と興奮気味に話し始めた。
 で、彼の所有する飛行機はビーチクラフトボナンザという機種で、低翼で単発エンジンの6人乗りだが、巡航速度は時速370キロメートル、航続距離は2000キロメートルにも及ぶというかなりの高性能だ。
 それで気の早い、そしてせっかちな彼は「やろうやろう!」と言い、それで翌日には早速テスト飛行と決まり、その夜は、それから前祝に焼酎で乾杯した。

 そしてその翌日の早朝、二人でその飛行機が駐機してある最寄の空港へと向かい、早速乗り込み、俺は飛行機にタイムマシンを接続。
 飛行機だって金属(ジュラルミン)で出来た閉じた空間なので、理屈の上では俺の自動車と同じだ。
 で、タイムマシンを作動させながら、試しにエンジンを掛けたり、エルロンやエレベーターなんかも動かしたが問題なく動く。
  それから一旦タイムマシンを止め、その人は管制塔と連絡し、離陸許可をリクエスト。
 そういうことはきちんとやらないと、下手をすると「消息不明」とかになってしまうから。
 で、午前9時ちょうど、無事離陸許可も出てテイクオフとなった。
 そして飛行機はエンジンも快調でぐんぐん上昇し、十分な高度に達した9時5分、俺はタイムマシンを作動させた。
 もちろん作動後も、飛行機は何事もなかったかのように順調に飛行を続けた。
 だけど突然、航空無線が入らなくなった。
 外の世界は「止まって」いるのだからこれは当たり前だのクラッカー!
 まあいい。

 それからボナンザは順調に飛行を続け、そしてきっと飛行機の外の世界は「止まって」いるのだろうけれど、空からは見る分には全く分からない。
 俺は南へ向かう飛行機の窓から、海に浮かぶきれいな島々の眺望を楽しんだ。
 それから少しして、俺たちの乗っているボナンザは時速370キロで巡航中なのだけど、それが何とジェット旅客機(ボーイング787)を、いとも簡単に追い越したのだ!
 彼が言うには、ジェット旅客機はそのとき時速800キロくらいは出てるだろうから、やっぱり旅客機は空中で「止まって」いるのだろうというのだ。
 俺たちがある時刻に留まっている故に、俺たちから見ると外の世界は時が止まり、飛行機も空中に「止まって」いるのだ!
 ややこしい?
 まあいいじゃん!

 ともあれそれから、俺たちにとって二時間ほど海上を南に飛ぶと、目的地の南の島の小さな空港に接近した。そこで俺はタイムマシンを解除し、それから彼はその空港の管制塔に無線で連絡し、着陸許可を得てから無事着陸した。
 そして駐機後、空港の小さな建物に入り時計を見ると、何と9時15分だった!
  実はその小さな島までの距離は600キロメートルである。
 ボナンザなら2時間ほど掛かる。
 実際「俺たち」にとってはそうだった。
 だけど外の世界では、その600キロメートルを、ボナンザは何と10分で「飛んだ」ことになる。
「これは航空業界に革命を起こすな…」
 それから俺たちは百合が浜で釣りを楽しみながら、彼は俺にぼそっとそう言った。
 そして彼は航空業界で結構な有名人だったこともあり、この「出来損ないのタイムマシン」のことは、それから瞬く間に航空業界に知れ渡ったのだ。
 そして程なく、俺の作ったその「出来損ないのタイムマシン」には、航空産業からの注文が殺到した。
 そして今や、ほぼ全ての旅客機、とくに国際線では、この「出来損ないのタイムマシン」が搭載されるに至ったのである。
 なんたって、例えば東京~ニューヨークだって数分で移動できるのだから…

 つづく
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