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近未来新聞
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その日、彼が仕事から帰りアパートのドアに立つと、新聞受けに夕刊が入っていた。
(また新聞屋が入れていったのだろう…)
そう思うと彼はその夕刊を手に、ドアを開け中へ入った。それから帰りにコンビニで買ったおにぎりとカップラーメンと一緒に、夕刊をテーブルの上に置き、台所で湯を沸かし、テーブルへ戻るとその夕刊を開いた。
その夕刊には「近未来新聞」と書いてあった。そしてその日付を見て彼は驚いた。翌日になっていたのだ。
その夕刊には、少年たちの残虐事件が並んでいた。
「港で少年が集団で老人に暴行後、岸壁から海に突き落として殺害した」
「シンナーを吸った少年が自転車に乗った主婦を襲い、殴り殺した上、現金を奪った」
程なくやかんがピーと鳴り、彼はやかんを持ってきてテーブルの上に置き、カップラーメンにお湯を注ごうとした。ところが彼は誤って夕刊の上にお湯をこぼしてしまった。
そしてそのお湯は、少年たちの集団暴行事件の記事の上にかかっていた。それで彼は台所で布巾を取り、そして夕刊の上にこぼれたお湯を拭こうとしたそのとき、彼は我が目を疑った。
記事の内容が変わっていたのだ。
「港で老人が海へ転落。近くにいた少年らが海に飛び込みその老人を救出。幸い老人は一命を取り留めた」
少年らの誇らしげな顔写真も現れた。
驚いた彼は、試しに主婦の記事にもお湯をかけてみた。すると、
「主婦が乗った自転車が坂を暴走。近くでペンキを塗っていた塗装工の少年が身を挺して主婦の自転車を止めた。坂の下は大通りに面し、一歩間違えば大惨事となるところだった」
少年と主婦の一緒の笑顔の写真も現れた。
それから彼は食事も忘れ、夕刊の凄惨な記事に次々とお湯をかけていった。すると記事は次々と、「少年らの善意の行動」へと変わっていったのだ。やがて夕刊は、少年らの笑顔でいっぱいになった。
翌日彼は仕事帰り、コンビニで夕食とその日の夕刊を買い、帰るとドアの新聞受けにはやはり近未来新聞があった。
二つの夕刊とわびしい夕食を抱え、彼はドアを開け中へ入った。
彼はまずコンビニで買った夕刊を開いた。するとそこには凄惨な記事は見当たらなかった。反対に、「少年たちの善意の行動」を報じる記事が多数見られた。そしてそれらは皆、彼が昨日、近未来新聞にお湯をかけ、「変更」したものと全く同じ内容だった。少年らの笑顔も全く同じだったのだ。
それから彼は近未来新聞を開けた。もちろん日付は翌日だった。そしてそこには、少年らの残虐事件がずらりと並んでいた。それで彼は前日のように、それらの記事に次々とお湯をかけた。すると新聞は少年たちの笑顔で満たされ、それらは翌日、コンビニで買った夕刊の記事となった。
それからも毎日、彼の元には近未来新聞が届けられ、彼は毎日、凄惨な記事にお湯をかけ続け、紙面を少年の笑顔で満たし続けた。
それからしばらくして、街に異変が起きていた。街は少年たちの明るい笑顔であふれていたのだ。もはや無表情で尖った目をした少年の姿は、どこにもなかった。
彼は、自らが少年たちを罪から救っていると確信し、そのことに喜びを感じていた。そして彼は、自らが少年の頃犯した罪も、もしかすると許されるのではないかとさえ思い始めていた。
彼の犯した罪、それは強盗殺人だった。
彼は捜査を逃れるため職と住所を点々とし、今のアパートに移り住んだのも、つい最近のことだった。そして間もなく、この事件は時効を迎えるところだった…
そんなある日、彼は近未来新聞の記事を読み、愕然とした。それは彼自身の記事だったのだ。
〈強盗殺人容疑者、時効寸前に逮捕〉
「警察は昨日午後六時三十分頃、容疑者をつきとめ、自宅アパートにて逮捕。警察の取り調べに容疑者は大筋で犯行を認めているという」
時計を見ると午後六時二十七分だった。彼は大急ぎで湯を沸かし、やかんがピーとなるのももどかしく、震える手で自分の記事にお湯をかけた。
と、そのとき、ドアにノックの音がした。それで彼はベランダから外へ出て、走って逃げた。
それを見付けた警官は彼を追いかけた。
走りながら、彼は神に祈った。
(神様、どうか僕が捕まる記事を変えてください。どうか僕が人助けを、良い行ないをやったという記事に書き変えてください…)
その頃、彼のアパートに残された近未来新聞の記事は…
〈強盗殺人容疑者、踏切で幼児を救出。容疑者は列車にはねられ死亡〉
「警察は昨日午後六時三十分頃、容疑者の自宅アパートを訪れたが、容疑者はベランダから逃走。警察官が追跡したところ、容疑者は突然、遮断機の降りた踏切へ進入。踏切内で遊んでいた幼児を抱きかかえると、踏切の外へ放り投げ、幼児は無事だったが、その直後、容疑者は走ってきた列車に…」
(また新聞屋が入れていったのだろう…)
そう思うと彼はその夕刊を手に、ドアを開け中へ入った。それから帰りにコンビニで買ったおにぎりとカップラーメンと一緒に、夕刊をテーブルの上に置き、台所で湯を沸かし、テーブルへ戻るとその夕刊を開いた。
その夕刊には「近未来新聞」と書いてあった。そしてその日付を見て彼は驚いた。翌日になっていたのだ。
その夕刊には、少年たちの残虐事件が並んでいた。
「港で少年が集団で老人に暴行後、岸壁から海に突き落として殺害した」
「シンナーを吸った少年が自転車に乗った主婦を襲い、殴り殺した上、現金を奪った」
程なくやかんがピーと鳴り、彼はやかんを持ってきてテーブルの上に置き、カップラーメンにお湯を注ごうとした。ところが彼は誤って夕刊の上にお湯をこぼしてしまった。
そしてそのお湯は、少年たちの集団暴行事件の記事の上にかかっていた。それで彼は台所で布巾を取り、そして夕刊の上にこぼれたお湯を拭こうとしたそのとき、彼は我が目を疑った。
記事の内容が変わっていたのだ。
「港で老人が海へ転落。近くにいた少年らが海に飛び込みその老人を救出。幸い老人は一命を取り留めた」
少年らの誇らしげな顔写真も現れた。
驚いた彼は、試しに主婦の記事にもお湯をかけてみた。すると、
「主婦が乗った自転車が坂を暴走。近くでペンキを塗っていた塗装工の少年が身を挺して主婦の自転車を止めた。坂の下は大通りに面し、一歩間違えば大惨事となるところだった」
少年と主婦の一緒の笑顔の写真も現れた。
それから彼は食事も忘れ、夕刊の凄惨な記事に次々とお湯をかけていった。すると記事は次々と、「少年らの善意の行動」へと変わっていったのだ。やがて夕刊は、少年らの笑顔でいっぱいになった。
翌日彼は仕事帰り、コンビニで夕食とその日の夕刊を買い、帰るとドアの新聞受けにはやはり近未来新聞があった。
二つの夕刊とわびしい夕食を抱え、彼はドアを開け中へ入った。
彼はまずコンビニで買った夕刊を開いた。するとそこには凄惨な記事は見当たらなかった。反対に、「少年たちの善意の行動」を報じる記事が多数見られた。そしてそれらは皆、彼が昨日、近未来新聞にお湯をかけ、「変更」したものと全く同じ内容だった。少年らの笑顔も全く同じだったのだ。
それから彼は近未来新聞を開けた。もちろん日付は翌日だった。そしてそこには、少年らの残虐事件がずらりと並んでいた。それで彼は前日のように、それらの記事に次々とお湯をかけた。すると新聞は少年たちの笑顔で満たされ、それらは翌日、コンビニで買った夕刊の記事となった。
それからも毎日、彼の元には近未来新聞が届けられ、彼は毎日、凄惨な記事にお湯をかけ続け、紙面を少年の笑顔で満たし続けた。
それからしばらくして、街に異変が起きていた。街は少年たちの明るい笑顔であふれていたのだ。もはや無表情で尖った目をした少年の姿は、どこにもなかった。
彼は、自らが少年たちを罪から救っていると確信し、そのことに喜びを感じていた。そして彼は、自らが少年の頃犯した罪も、もしかすると許されるのではないかとさえ思い始めていた。
彼の犯した罪、それは強盗殺人だった。
彼は捜査を逃れるため職と住所を点々とし、今のアパートに移り住んだのも、つい最近のことだった。そして間もなく、この事件は時効を迎えるところだった…
そんなある日、彼は近未来新聞の記事を読み、愕然とした。それは彼自身の記事だったのだ。
〈強盗殺人容疑者、時効寸前に逮捕〉
「警察は昨日午後六時三十分頃、容疑者をつきとめ、自宅アパートにて逮捕。警察の取り調べに容疑者は大筋で犯行を認めているという」
時計を見ると午後六時二十七分だった。彼は大急ぎで湯を沸かし、やかんがピーとなるのももどかしく、震える手で自分の記事にお湯をかけた。
と、そのとき、ドアにノックの音がした。それで彼はベランダから外へ出て、走って逃げた。
それを見付けた警官は彼を追いかけた。
走りながら、彼は神に祈った。
(神様、どうか僕が捕まる記事を変えてください。どうか僕が人助けを、良い行ないをやったという記事に書き変えてください…)
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