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煙草とともに…素晴らしき我が人生
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ここから医学的作品を何作品か掲載します。
もちろん完全なるフィクションです。
つまり著者である私の脳内のお花畑の世界です。
従って、いかなる現実の出来事とも無関係です。
その点をご理解頂きたく思います。
以下、医療に関係するエッセイ風ショートショートを掲載いたします。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〈煙草とともに…素晴らしき我が人生〉
十五で煙草を始めて五十になった。
今日も元気だ煙草が旨いと、俺は自信満々に生きてきた。
そんな俺が気まぐれに健診を受けたら、健診の医者は腹部エコーとやらで腹部大動脈瘤とやらを発見しやがった。
そして健診の医者は早速紹介状を書き、それを持って俺が大学病院に行ったら散々いじくりまわされた挙句、大学の医者は言った。
「あなたの腹部大動脈瘤は、今すぐに手術するほどではありませんが、厳重に経過を診る必要があります。血圧も高いですから血圧の薬も始めないといけませんし、血糖値も高いので食事の管理も厳重にやらなければいけません。それに糖尿病の薬も飲まなければいけませんね」
「はぁ」
「しかし何といっても煙草です。この期に及んで煙草を吸うのは、もはや自殺行為ですよ」
「はぁ?」
「腹部大動脈瘤が破れたら一巻の終わりですよ!」
「はぁ…」
それからいろいろ薬を出され、三ヵ月後にまた来いと言われたが、だけど行けば煙草がどうたらこうたらと言われるのがうざいので、二度とここには来ないと決めた。
それに薬は体に悪いと思ったので、すぐにゴミ箱に捨てた。
もちろん煙草はやめなかった。
一日四十本。
旨い!
それからしばらくしたある日、奥歯の歯茎に激痛。
歯医者に駆け込んだら歯槽膿漏だと。
それから歯医者は俺にねちねちと、こんなイカサマな話を始めた。
「喫煙者はお口が臭く、ヤニがついて汚いだけではなく、歯周病、つまり歯槽膿漏にかかりやすく、ひどくなりやすいので、歯槽膿漏を治療しても治りにくいことがわっています。また歯槽膿漏になるリスクもとても高いです。しかも治療を始めても歯肉の治りが悪く、手術をしたとしても効果も悪く、喫煙者の歯肉は再び悪くなっていく傾向にあります」
「で?」
「それからタバコの煙に含まれる一酸化炭素です。これは組織への酸素供給を妨げますし、ニコチンは血管を縮ませるので、体が、そしてもちろん歯肉が酸欠・栄養不足の状態になります。 また、ニコチンは体を守る免疫の機能も狂わせますので、病気に対する抵抗力が落ますし、さらに傷を治そうと組織を作ってくれる繊維芽細胞という細胞の働きまで抑えてしまうので、手術後も治りにくくなります。また、『ヤニ』という形で歯の表面に残っているので、歯がざらざらしてバイ菌が張り付きやすくなるのも歯槽膿漏を悪化させ、あるいは治りにくくする原因なのです」
「それで?」
「でも御安心下さい。 禁煙さえすれば、この危険性が下がっていくことも解っていますよ♪」
「もういい!」
俺はそう言うと歯医者を飛び出し、途中で薬局に寄り、俺が薬剤師に「痛み止めをくれ!」というと薬剤師が「どんな痛みですか?」とおせっかいなことを訊くので、「歯茎が痛い!」といったら「歯医者に行け!」というので、「俺は歯医者は大っ嫌いだ!」というと薬剤師は「そげですか」と言ってセデスをくれた。
それと気を利かせてくれて胃薬もくれた。
薬局を出て歩きながらセデスを飲むと歯茎の痛みは多少ましになったので、胃薬も飲んで、途中コンビニで缶入りのブラックコーヒーと煙草を買い、コンビニの前の灰皿のところで缶コーヒーと一緒に一服。
旨い!
それからしばらくしたある朝。
起きると右の手足が動かない。
ぶったまげて救急車で病院へ。
「脳梗塞ですね」
検査を終えて救急病院の医者がしたり顔でこう俺に言った。
それからしばらく入院治療とリハビリ。
多少良くはなった。
そして退院のとき医者が俺に言った。
「脳梗塞をやったのだから、もう煙草はやめたほうがいいですよ!」
「やめられねえんだよ、ばかやろう!」
煙草はやめられない。
一日四十本!
旨い!
退院後も脳梗塞の後遺症で、俺はぴょこたんぴょこたん歩き、右手も不自由で煙草に火を点けるのももどかしくなった。
もちろん相変わらず歯茎は痛いのでセデスは欠かさなかった。
ああ、それから俺には腹部大動脈瘤というやつもあったっけ。
まああのくそったれの大学病院とは縁を切ったが…
それからしばらくして、やけにのどが渇くし小便も沢山出ると思っていたら、突然意識がなくなってぶったおれ、またまた救急車で病院へ。
数日間治療を受け、それから医者は俺にたわごとを言った。
「重症の糖尿病です。あなたが倒れたのは『糖尿病性高浸透圧性昏睡』というものです…」なんたらかんたら。
「はぁ?」
「とにかく、食事管理をしっかりやらないと。それと煙草!」
「はぁ? また煙草ぉ?!」
「とにかく糖尿病の人が煙草を吸うのはもってのほかです」
「どうして?」
「糖尿病は血管を傷めます。煙草もしかり」
「何だよ、しかりって?」
「煙草も血管を傷めるのですよ。糖尿病と煙草のダブルパンチ! ところであなた、ほかにも病気いろいろあるでしょう? 歯槽膿漏とか脳梗塞とか、それに動脈瘤!」
「どうしてそのことを?」
「ちゃんと調べていますよ」
「調べるって、おめえら勝手に俺を調べたのか? まるでスパイだな!」
「スパイも何も、ここは病院ですから患者さんの病状を調べるのは当たり前です!」
「あたりまえだのクラッカーってか?」
「とにかく! これらの病気はヘビースモーカーの定番ですよ。だから煙草やめないとどうにもなりませんよ」
「定番? どうにもならん? てめえ医者だろう! 何とかしろ!」
「煙草やめない限りどうにもなりません!」
それで俺は「ええいやかましい!!」とわめいてからさっさと退院。
糖尿病なんか煙草と根性で治してやる!
で、相変わらず煙草が旨い。
一日四十本。
しかし最近やけに息切れがすると思っていたが、歩き煙草をしていたら突然物凄く息が苦しくなって、それでまた救急車で病院へ。
これまた検査の後、医者がドヤ顔で言った。
「肺気腫です。煙草の影響で肺が破壊されているのです。これ以上悪くならないためには、煙草はやめることです」
「ああそうですかい。はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはぁ~い」
そう言って俺は早々に退院。
以後、歩きながらの煙草はやめた。
煙草はゆっくりと座って吸うもんだ!
ああ、煙草が旨い。
それでも息は苦しいし、足が不自由でぴょこたんぴょこたん歩くし、煙草に火を点ける右手は不自由だし、それから腹部大動脈瘤もあったっけ。
それからのどが渇いて小便が沢山出て、歯茎も痛いからセデスは欠かさない。
だけど煙草が旨い。
そんなある日。
以前から足が冷たい感じがしていたし、しばらくぴょこたんと歩くと足が痛くなり、少し休むと良くなるを繰り返していた。
もちろん休むときの一服が旨かった。
しかしある日、その足の痛みがバリバリの激痛に変わり、またまた救急車で病院へ。
「ええと、バージャー病という足の血管が詰まる病気です。主な原因は煙草です。今すぐ煙草をやめないと最悪…」
「ああそうですかいそうですかいそうですかい! まったくどいつもこいつも!! くそったれ!!!」
そう言って俺は痛い足でぴょこたんぴょこたん歩いて病院を飛び出した。
それから敷地内禁煙のその病院の敷地ぎりぎりで、いやみたらしくプカプカと煙草を吸ってやった。
旨い。
至福の時。
それからも俺は吸った。
一日四十本。
だけどそれからしばらくして、女房が健診を受けたら胸のレントゲンで肺に影があると言われ、大学病院を紹介され、そこで検査を受けたら、末期の肺癌と言われたらしい。
女房は俺にいつも煙草を止めろと言っていた。
いつも「煙い、臭い、たまらん!」と。
だけど俺は煙草は旨いもので、煙くも臭くもなんともないと思っていたから、何度女房に言われても、もちろんやめるつもりはさらさらなかった。
そんな女房も入院したから、俺は家では煙草吸い放題になった。
(そもそも吸い放題だったが)
旨い。
一日40本。
もちろん女房の病室では、規則もあるし、煙草は吸えない。
だから見舞いではいつも我慢していた。
それから少しして女房の主治医が分かったような顔をして俺に説明した。
「奥さんは末期の肺癌です。余命はせいぜい二ヵ月です」
二か月と聞いて俺は愕然とした。
医者は続けた。
「御主人は煙草を吸いますね」
「はぁ。でもどうしてそれを?」
「どうしてもこうしても、その煙草の臭い。あなたの吐く息、そしてあなたの体中から煙草の臭いが発散していますよ。あなたが煙草を吸っているのは一発で分かります」
「一発で? はぁ、そういうもんなんですかい」
「あなたは受動喫煙という言葉を知っていますか?」
「知るか!」
「あなたはご家庭でも煙草を吸っていたでしょう。奥さんの隣でも」
「でもどうしてそれを?」
「奥さんは肺癌ですが、重い肺気腫にもなっています。肺気腫というのは煙草の煙で肺が破壊される病気です。そして煙草を一本も吸っていないあなたの奥さんが、どうして肺気腫になったと思いますか?」
「はぁ」
「それは受動喫煙によるものです」
「受動…」
「あなたの吸う煙草の先から出る煙。これを副流煙といいますが、この煙は煙草を吸わない奥さんも吸わされているのです。あなたが隣で煙草を吸っていれば」
「家に居るときぐらい自由に煙草、吸わせてよ!」
「だけどあなたの奥さんは、吸いたくもないのに何十年も煙草の煙を吸わされている。そして副流煙はあなたがいつも吸っている主流煙よりも有害と言われています」
「だれがそんなこと…」
「常識です。そして副流煙を吸わされた奥さんは肺気腫になり、肺気腫になると肺癌のリスクは跳ね上がります」
「じゃ、俺が吸った煙草のせいで女房が肺癌になったとでも?」
「はっきり言って、かなりの部分はそうです」
「あんたまで俺の煙草にケチを付けるのか!」
だけど、それから女房はどんどん衰弱し、息が苦しくなり、酸素吸入を受けながら苦しんで苦しんで、喘ぎ喘ぎ呼吸をし、最後に、「私が肺癌になったのはあなたの煙草のせいよ!」と、恨みたらしく言い遺し、それからしばらくして、あっさりと死んだ。
翌日、葬式で坊主がお経を読んでいるとき、畳に正座していた俺の足にまた激痛が起こった。
葬式どころではなく救急車で病院に行くと例のバージャー病で、両足が完全に腐っていたらしく、それで両足を切断する緊急手術を受けた。
両足無くなった。
それからの入院生活は車椅子だ。
電動車椅子。
脳梗塞の後遺症でぴょこたんぴょこたん歩いていた訳だから、車椅子も悪くないな…
俺はそう思うことにした。
入院していると煙草が吸えない建前だが、幸い同じ病室の奴に歩けるのがいたから、いつもそいつに頼んで近くのコンビニで煙草とブラックの缶コーヒーを買ってきてもらった。
そしてエレベーターで屋上へ行き、車椅子からフェンス越しに街を眺めながら、缶コーヒーと一緒に一服。
夜は夜景がきれいだった。
旨い!
至福の時
おっと、その前にセデス。
歯茎が痛いのだ。
それにこのごろ息切れが酷くなって、じっとしていても息苦しい。
息苦しいけど煙草はやめられない。
歯茎が痛いけど煙草はやめられない。
のどが渇くけど、小便もたいそう出るけど煙草はやめられない。
医者に何と言われてもやめられない。
歯医者に何と言われてもやめられない。
バージャー病で両足無くしても、煙草はやめられない。
病院の「敷地内禁煙」もくそくらえ!
そう思いながら、煙草を一本吸い終えたとき、俺の腹の中で何かが「プツン」と破けたような感覚が起こった。
同時に腹から背中に激痛が起こった。
そしてそれと同時に何だか腹が膨らみ始め、それに意識がぼ~っとしはじめた。
何となく俺は分かった。
俺の腹部大動脈瘤が破裂したのだと。
大学病院のくそ医者は「破裂したら一巻の終わりですよ」とぬかしていた。
多分俺の腹の中にある腹部大動脈とやらが、庭に水をまくホースが破けたときみたいに、破裂したんだろう。
そして破裂した血管から、ジャージャーと血が吹き出ている筈だ。
だから俺は一巻の終わりなのだろう。
俺はまだ五十と少し。
だけど、たぶん俺の煙草のせいで肺癌になり死んだ女房のように、俺も間もなく死ぬのだろう。
一巻の終わり。
俺、バチが当たったのかな…
そして俺は覚悟を決めた。
それから俺は震える手で、もう一本の煙草に火を付けた。
俺の人生最後の煙草だ。
もちろん完全なるフィクションです。
つまり著者である私の脳内のお花畑の世界です。
従って、いかなる現実の出来事とも無関係です。
その点をご理解頂きたく思います。
以下、医療に関係するエッセイ風ショートショートを掲載いたします。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〈煙草とともに…素晴らしき我が人生〉
十五で煙草を始めて五十になった。
今日も元気だ煙草が旨いと、俺は自信満々に生きてきた。
そんな俺が気まぐれに健診を受けたら、健診の医者は腹部エコーとやらで腹部大動脈瘤とやらを発見しやがった。
そして健診の医者は早速紹介状を書き、それを持って俺が大学病院に行ったら散々いじくりまわされた挙句、大学の医者は言った。
「あなたの腹部大動脈瘤は、今すぐに手術するほどではありませんが、厳重に経過を診る必要があります。血圧も高いですから血圧の薬も始めないといけませんし、血糖値も高いので食事の管理も厳重にやらなければいけません。それに糖尿病の薬も飲まなければいけませんね」
「はぁ」
「しかし何といっても煙草です。この期に及んで煙草を吸うのは、もはや自殺行為ですよ」
「はぁ?」
「腹部大動脈瘤が破れたら一巻の終わりですよ!」
「はぁ…」
それからいろいろ薬を出され、三ヵ月後にまた来いと言われたが、だけど行けば煙草がどうたらこうたらと言われるのがうざいので、二度とここには来ないと決めた。
それに薬は体に悪いと思ったので、すぐにゴミ箱に捨てた。
もちろん煙草はやめなかった。
一日四十本。
旨い!
それからしばらくしたある日、奥歯の歯茎に激痛。
歯医者に駆け込んだら歯槽膿漏だと。
それから歯医者は俺にねちねちと、こんなイカサマな話を始めた。
「喫煙者はお口が臭く、ヤニがついて汚いだけではなく、歯周病、つまり歯槽膿漏にかかりやすく、ひどくなりやすいので、歯槽膿漏を治療しても治りにくいことがわっています。また歯槽膿漏になるリスクもとても高いです。しかも治療を始めても歯肉の治りが悪く、手術をしたとしても効果も悪く、喫煙者の歯肉は再び悪くなっていく傾向にあります」
「で?」
「それからタバコの煙に含まれる一酸化炭素です。これは組織への酸素供給を妨げますし、ニコチンは血管を縮ませるので、体が、そしてもちろん歯肉が酸欠・栄養不足の状態になります。 また、ニコチンは体を守る免疫の機能も狂わせますので、病気に対する抵抗力が落ますし、さらに傷を治そうと組織を作ってくれる繊維芽細胞という細胞の働きまで抑えてしまうので、手術後も治りにくくなります。また、『ヤニ』という形で歯の表面に残っているので、歯がざらざらしてバイ菌が張り付きやすくなるのも歯槽膿漏を悪化させ、あるいは治りにくくする原因なのです」
「それで?」
「でも御安心下さい。 禁煙さえすれば、この危険性が下がっていくことも解っていますよ♪」
「もういい!」
俺はそう言うと歯医者を飛び出し、途中で薬局に寄り、俺が薬剤師に「痛み止めをくれ!」というと薬剤師が「どんな痛みですか?」とおせっかいなことを訊くので、「歯茎が痛い!」といったら「歯医者に行け!」というので、「俺は歯医者は大っ嫌いだ!」というと薬剤師は「そげですか」と言ってセデスをくれた。
それと気を利かせてくれて胃薬もくれた。
薬局を出て歩きながらセデスを飲むと歯茎の痛みは多少ましになったので、胃薬も飲んで、途中コンビニで缶入りのブラックコーヒーと煙草を買い、コンビニの前の灰皿のところで缶コーヒーと一緒に一服。
旨い!
それからしばらくしたある朝。
起きると右の手足が動かない。
ぶったまげて救急車で病院へ。
「脳梗塞ですね」
検査を終えて救急病院の医者がしたり顔でこう俺に言った。
それからしばらく入院治療とリハビリ。
多少良くはなった。
そして退院のとき医者が俺に言った。
「脳梗塞をやったのだから、もう煙草はやめたほうがいいですよ!」
「やめられねえんだよ、ばかやろう!」
煙草はやめられない。
一日四十本!
旨い!
退院後も脳梗塞の後遺症で、俺はぴょこたんぴょこたん歩き、右手も不自由で煙草に火を点けるのももどかしくなった。
もちろん相変わらず歯茎は痛いのでセデスは欠かさなかった。
ああ、それから俺には腹部大動脈瘤というやつもあったっけ。
まああのくそったれの大学病院とは縁を切ったが…
それからしばらくして、やけにのどが渇くし小便も沢山出ると思っていたら、突然意識がなくなってぶったおれ、またまた救急車で病院へ。
数日間治療を受け、それから医者は俺にたわごとを言った。
「重症の糖尿病です。あなたが倒れたのは『糖尿病性高浸透圧性昏睡』というものです…」なんたらかんたら。
「はぁ?」
「とにかく、食事管理をしっかりやらないと。それと煙草!」
「はぁ? また煙草ぉ?!」
「とにかく糖尿病の人が煙草を吸うのはもってのほかです」
「どうして?」
「糖尿病は血管を傷めます。煙草もしかり」
「何だよ、しかりって?」
「煙草も血管を傷めるのですよ。糖尿病と煙草のダブルパンチ! ところであなた、ほかにも病気いろいろあるでしょう? 歯槽膿漏とか脳梗塞とか、それに動脈瘤!」
「どうしてそのことを?」
「ちゃんと調べていますよ」
「調べるって、おめえら勝手に俺を調べたのか? まるでスパイだな!」
「スパイも何も、ここは病院ですから患者さんの病状を調べるのは当たり前です!」
「あたりまえだのクラッカーってか?」
「とにかく! これらの病気はヘビースモーカーの定番ですよ。だから煙草やめないとどうにもなりませんよ」
「定番? どうにもならん? てめえ医者だろう! 何とかしろ!」
「煙草やめない限りどうにもなりません!」
それで俺は「ええいやかましい!!」とわめいてからさっさと退院。
糖尿病なんか煙草と根性で治してやる!
で、相変わらず煙草が旨い。
一日四十本。
しかし最近やけに息切れがすると思っていたが、歩き煙草をしていたら突然物凄く息が苦しくなって、それでまた救急車で病院へ。
これまた検査の後、医者がドヤ顔で言った。
「肺気腫です。煙草の影響で肺が破壊されているのです。これ以上悪くならないためには、煙草はやめることです」
「ああそうですかい。はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはぁ~い」
そう言って俺は早々に退院。
以後、歩きながらの煙草はやめた。
煙草はゆっくりと座って吸うもんだ!
ああ、煙草が旨い。
それでも息は苦しいし、足が不自由でぴょこたんぴょこたん歩くし、煙草に火を点ける右手は不自由だし、それから腹部大動脈瘤もあったっけ。
それからのどが渇いて小便が沢山出て、歯茎も痛いからセデスは欠かさない。
だけど煙草が旨い。
そんなある日。
以前から足が冷たい感じがしていたし、しばらくぴょこたんと歩くと足が痛くなり、少し休むと良くなるを繰り返していた。
もちろん休むときの一服が旨かった。
しかしある日、その足の痛みがバリバリの激痛に変わり、またまた救急車で病院へ。
「ええと、バージャー病という足の血管が詰まる病気です。主な原因は煙草です。今すぐ煙草をやめないと最悪…」
「ああそうですかいそうですかいそうですかい! まったくどいつもこいつも!! くそったれ!!!」
そう言って俺は痛い足でぴょこたんぴょこたん歩いて病院を飛び出した。
それから敷地内禁煙のその病院の敷地ぎりぎりで、いやみたらしくプカプカと煙草を吸ってやった。
旨い。
至福の時。
それからも俺は吸った。
一日四十本。
だけどそれからしばらくして、女房が健診を受けたら胸のレントゲンで肺に影があると言われ、大学病院を紹介され、そこで検査を受けたら、末期の肺癌と言われたらしい。
女房は俺にいつも煙草を止めろと言っていた。
いつも「煙い、臭い、たまらん!」と。
だけど俺は煙草は旨いもので、煙くも臭くもなんともないと思っていたから、何度女房に言われても、もちろんやめるつもりはさらさらなかった。
そんな女房も入院したから、俺は家では煙草吸い放題になった。
(そもそも吸い放題だったが)
旨い。
一日40本。
もちろん女房の病室では、規則もあるし、煙草は吸えない。
だから見舞いではいつも我慢していた。
それから少しして女房の主治医が分かったような顔をして俺に説明した。
「奥さんは末期の肺癌です。余命はせいぜい二ヵ月です」
二か月と聞いて俺は愕然とした。
医者は続けた。
「御主人は煙草を吸いますね」
「はぁ。でもどうしてそれを?」
「どうしてもこうしても、その煙草の臭い。あなたの吐く息、そしてあなたの体中から煙草の臭いが発散していますよ。あなたが煙草を吸っているのは一発で分かります」
「一発で? はぁ、そういうもんなんですかい」
「あなたは受動喫煙という言葉を知っていますか?」
「知るか!」
「あなたはご家庭でも煙草を吸っていたでしょう。奥さんの隣でも」
「でもどうしてそれを?」
「奥さんは肺癌ですが、重い肺気腫にもなっています。肺気腫というのは煙草の煙で肺が破壊される病気です。そして煙草を一本も吸っていないあなたの奥さんが、どうして肺気腫になったと思いますか?」
「はぁ」
「それは受動喫煙によるものです」
「受動…」
「あなたの吸う煙草の先から出る煙。これを副流煙といいますが、この煙は煙草を吸わない奥さんも吸わされているのです。あなたが隣で煙草を吸っていれば」
「家に居るときぐらい自由に煙草、吸わせてよ!」
「だけどあなたの奥さんは、吸いたくもないのに何十年も煙草の煙を吸わされている。そして副流煙はあなたがいつも吸っている主流煙よりも有害と言われています」
「だれがそんなこと…」
「常識です。そして副流煙を吸わされた奥さんは肺気腫になり、肺気腫になると肺癌のリスクは跳ね上がります」
「じゃ、俺が吸った煙草のせいで女房が肺癌になったとでも?」
「はっきり言って、かなりの部分はそうです」
「あんたまで俺の煙草にケチを付けるのか!」
だけど、それから女房はどんどん衰弱し、息が苦しくなり、酸素吸入を受けながら苦しんで苦しんで、喘ぎ喘ぎ呼吸をし、最後に、「私が肺癌になったのはあなたの煙草のせいよ!」と、恨みたらしく言い遺し、それからしばらくして、あっさりと死んだ。
翌日、葬式で坊主がお経を読んでいるとき、畳に正座していた俺の足にまた激痛が起こった。
葬式どころではなく救急車で病院に行くと例のバージャー病で、両足が完全に腐っていたらしく、それで両足を切断する緊急手術を受けた。
両足無くなった。
それからの入院生活は車椅子だ。
電動車椅子。
脳梗塞の後遺症でぴょこたんぴょこたん歩いていた訳だから、車椅子も悪くないな…
俺はそう思うことにした。
入院していると煙草が吸えない建前だが、幸い同じ病室の奴に歩けるのがいたから、いつもそいつに頼んで近くのコンビニで煙草とブラックの缶コーヒーを買ってきてもらった。
そしてエレベーターで屋上へ行き、車椅子からフェンス越しに街を眺めながら、缶コーヒーと一緒に一服。
夜は夜景がきれいだった。
旨い!
至福の時
おっと、その前にセデス。
歯茎が痛いのだ。
それにこのごろ息切れが酷くなって、じっとしていても息苦しい。
息苦しいけど煙草はやめられない。
歯茎が痛いけど煙草はやめられない。
のどが渇くけど、小便もたいそう出るけど煙草はやめられない。
医者に何と言われてもやめられない。
歯医者に何と言われてもやめられない。
バージャー病で両足無くしても、煙草はやめられない。
病院の「敷地内禁煙」もくそくらえ!
そう思いながら、煙草を一本吸い終えたとき、俺の腹の中で何かが「プツン」と破けたような感覚が起こった。
同時に腹から背中に激痛が起こった。
そしてそれと同時に何だか腹が膨らみ始め、それに意識がぼ~っとしはじめた。
何となく俺は分かった。
俺の腹部大動脈瘤が破裂したのだと。
大学病院のくそ医者は「破裂したら一巻の終わりですよ」とぬかしていた。
多分俺の腹の中にある腹部大動脈とやらが、庭に水をまくホースが破けたときみたいに、破裂したんだろう。
そして破裂した血管から、ジャージャーと血が吹き出ている筈だ。
だから俺は一巻の終わりなのだろう。
俺はまだ五十と少し。
だけど、たぶん俺の煙草のせいで肺癌になり死んだ女房のように、俺も間もなく死ぬのだろう。
一巻の終わり。
俺、バチが当たったのかな…
そして俺は覚悟を決めた。
それから俺は震える手で、もう一本の煙草に火を付けた。
俺の人生最後の煙草だ。
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