死にたがり戦士の異世界無双

紫 和春

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第18話 遭遇した

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 村長から貰った地図を元に、森の中へと入っていく。森の木々には目印として、樹皮に特徴的な傷が付けられている。地図に書かれた方角や傷を頼りに、薄暗い鬱蒼とした森の中を進む。

「はぁ、はぁ……。意外とキツイな」

 手の入っていない森は足元がぬかるんでおり、草薙の息を上げる要因になる。その一方でミーナは涼しい顔をしていた。

「ミーナは疲れてないんですか……?」
「大丈夫です。このくらい、いつものクエストでやっていますから」

 さすがは冒険者になるための関門を抜けた人間だ。人は見た目によらないとはよく言うが、その通りなのだなと草薙は思う。

 一時間ほど草木をかき分けると、目的の場所に近いという目印が現れる。

「この先に、最初のマニモストアがいるのか……」

 草薙は改めて地図に書かれたメモを読む。マニモストアの特徴として、動くものに反応してツタを俊敏に動かすという特徴がある。それを回避するために、なるべくゆっくり動いて根を引っこ抜くという対処法があるらしい。しかし、現在は人よりも大型になっているため、この方法が使えるかどうかは不明とのことだ。

「燃やしてしまうのが一番手っ取り早いけど、この森の中で火なんか使ったら、あっという間に森林火災になってしまうだろうな……」
「ここは今まで通り、手で抜く方法が一番かもしれません」

 ミーナの助言もあり、草薙はこのままマニモストアに接近することにした。

 地図を頼りに森の中を進んでいくと、周りの緑に対して異様に暗い深緑色の植物を発見する。木の幹の向こう側に大きなそれはあった。

「おそらく、アレがマニモストアだと思います。俺はこのままゆっくり接近します。ミーナさんはもしもの時に備えて待機していてください」
「分かりました」

 小声で指示する草薙。そして第三匍匐前進でゆっくりとマニモストアへと接近する。

 ゆっくりと、音を立てないように慎重に移動する草薙。体感では分速一メートルくらいだろうか。

 そしてマニモストアまで一メートル圏内の場所まで来た。草薙はマニモストアの根を引っこ抜くために手を伸ばす。

 その瞬間だった。ヌラリとマニモストアの影が動く。

(何……? 俺の動きに反応した……?)

 その場で動きを止めた草薙は、マニモストアの様子を伺う。マニモストアはまだゆっくりと動き続けていた。

 そしてマニモストアが姿を表す。それは植物の姿ではなく、深緑色をしたヒト型の何かであった。顔に当たる部分は二枚貝のような口で出来ており、四肢はツタが絡まって複雑な筋肉のようになっている。

 その上、動きは想像よりかなり早い。ガバァと開いた口が襲い掛かってくる。

「うぉぉぉ!」

 草薙は反射的に横に転がり、マニモストアの攻撃を回避する。マニモストアは文字通り倒れこんできたため、顔から地面に突っ込む。

 草薙はマニモストアのことを放り出して、ミーナのほうに逃げる。

「ミーナさん! 逃げますよ!」
「はいー?」

 そんなことを言いつつも、ミーナはしっかりと草薙の後ろについてくる。

「何が起きたんですか?」
「食人植物が人間みたいになったんですよ! 動きもかなり俊敏になってる!」
「どうしましょう?」
「こっちが聞きたいですよ!」

 ぬかるみに足を取られながら、全速力で逃げる二人。

 その後ろから、マニモストアが全力で追いかける。

「あいつ意外と早ぇ!」

 草薙は逃げながらも、どうにかしてマニモストアを撃破する方法を考える。

(このままじゃ、森の外にアイツを出すことになる。いや、その方が楽ではあるが後処理が面倒だったりするが……)

 その時、草薙にある考えが浮かぶ。

(これ、いけるか……?)

 しかし、やらねばこちらがやられる。草薙は賭けに出た。

 地図を取り出し、残りのマニモストアのいる場所を確認する。

「ミーナさん! 別のマニモストアの場所まで行きます!」
「えぇ!?」

 珍しくミーナが感情を出している。

「この状況でそんなことしたら、大変なことになりますよー」
「それでもやらないといけない! クエストを遂行するために必要なことなんだ!」

 そういって地図と目印を走りながら確認していく草薙。

 次の目的地でも、マニモストアはヒト型の怪物と化していた。

「オラッ! こっち来い!」

 草薙はわざと怪物を挑発し、気を引かせる。二体目のマニモストアも草薙のことに気が付き、こちらに接近してくる。

 その調子で走り続け、次の目的地へと移動する。後ろからは二体のマニモストアが追いかけてきている状況だ。

「タケルさん! いつまで走るんですか!?」

 ミーナはだいぶ限界に近いようだ。

(ここでスピードを落とすわけにはいかない……! だったら!)

 草薙はミーナの体をヒョイと持ち上げ、いわゆるお姫様だっこのような形になる。

「ひゃ……!」

 ミーナは、持ち上げられた時に油断した声を漏らす。しかし、それに気を取られている場合ではない。草薙は急いで次の目的地へ走る。

 そして無事に到着した。そこにはマニモストアの怪物が二体いた。

「よし! これで……!」

 そういって草薙は、ミーナを抱えたまま垂直飛びをする。全力で飛んだ上で身体強化のスキルが発動したことにより、軽々と数メートルも上に飛んだ。

 丈夫な木の枝に乗り、静かに下の様子を伺う。そこでは四体のマニモストアが一堂に会し、お互いのことを牽制し合っている。

 やがて怪物たちは、互いに互いの体へ噛みつき、殴り合い、蹴りをしていく。その惨劇に近い様子は三十分ほどに渡って続き、やがて満身創痍の一体だけが残った。

 そこに、草薙は最後の一撃を加える。

「俺を、殺してみろぉ!」

 そう言いながら木の枝から飛び降り、踵落としで怪物の体を叩き潰した。緑色の体液が飛び散り、怪物はグチャグチャになる。

「……これで終わりかな」

 草薙は周りを見ながら言う。

(怪物には怪物をぶつける。やはり先人の知恵は間違っていなかった)

 草薙がやったのは怪物たちを遭遇させただけで、トドメもタイミングを計っていただけである。

「タケルさーん、下ろしてくださーい……!」

 木の枝の上で、ミーナが助けを呼ぶ。

「あ、今下ろします」

 草薙はミーナを下ろし、無残な姿になった怪物の姿を見る。

「しかし、実際にこれはなんだったろうか……?」
「葉っぱの一つでも持って帰ります?」
「確かに、その方がいいかもしれないですね」

 そのようにまとまり、草薙たちはツタの一部と顔である葉を回収したのだった。
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