19 / 66
第19話 達成した
しおりを挟む
二時間ほどかけて森から脱出した草薙たちは、ラトニ村へと帰還した。
村の入り口にいた村長が出迎える。
「おぉ! お二人とも、無事でしたかい?」
「えぇ、なんとか」
「それで……、そちらはマニモストアの残骸ですか……?」
「はい」
そういって草薙は、村長にマニモストアが怪物のようになっていたことを伝える。
「……なので、何かしらの参考になればと思い、こうしてマニモストアの一部を採取してきた訳です」
「なるほど……、食人植物の怪物化ですか……。それは奇妙な話ですのう」
村長は顎に手をやり、何かを思い出す。
「そういえば最近王国内で、植物の怪物化や魔物の怪人化が進んでいるという話を聞いたことがありますの」
「そんな話が……」
「とはいっても、出現している数が少ないこともあって、調査が進んでいないとかなんとか。この話も各町村の長に伝わっているだけで、実害も少ないとのことで……」
「うーん、でもこうして出現しているのだから、何かしらの原因があるわけですよね?」
「それが分かれば苦労はしないものですがのぉ」
結局、ここにいる人だけで理解するのは困難であるということになった。
「とにもかくにも、マニモストアの駆除には成功しました。確か、村長さんが何かするんでしたっけ?」
「うむ、そうだの。クエストの紙を貸しておくれ」
そういって村長は、クエストの紙に依頼内容が達成されたことを示すサインを書く。
「これをギルドに提出すれば、クエスト完了ですぞ」
「ありがとうございます。それじゃあ自分たちはこれで……」
「あぁ、待ってくだされ」
村長が草薙たちのことを呼び止め、何かを取ってくる。
「これ、少しばかりだが感謝の気持ちです」
「これがクエスト報酬ってことですか?」
「いや。それとはまた別の、ささやかな感謝の気持ちですぞ」
「そんな……! 悪いですよ」
草薙は受け取りを拒否しようとした。しかし、村長に押し切られる。
「まぁまぁ、そう言わずに……。納めてくだせぇ」
結局、人の善意に逆らえずに物品を受け取った。
「それでは、自分たちはこれで失礼します」
翌朝。馬車を出し、ラトニ村を出発する草薙とミーナ。村人たちは総出で見送った。
「なんだか、よく分からないままクエストが終わりました……」
「そうですねぇ。マニモストアのサンプルも持って帰ってきたのはいいものの、この後どうすればいいのやら……」
草薙はそんなことを思いながら、村長から貰った「ささやかな感謝の気持ち」の袋を開ける。中には村で採取されたと思われる草が入っていた。
「なにこれ……?」
草薙は試しに一つの草を取り出してみる。得も言われぬ独特の香りが漂うだろう。
その匂いを嗅いだミーナが気づく。
「これ、ナンヨウボウケンソウという薬草だと思います。数百年前の冒険者や旅人たちがこぞって重宝したと言われる逸品です」
「そんな大層な品を貰っちゃっていいものだろうか……」
「それとは別に、冒険者に対する贈与問題もありますね。冒険者は武力省の特殊官僚なので、贈与一つで賄賂扱いになることもしばしばあります。今回は感謝の意を込めた物品の受け渡しなので、賄賂になることはないでしょう」
そのようにミーナが解説する。
(本当になんでこんなに近代的な国家体制しているんだこの国は……)
そして草薙の懐疑的な考えが加速していくのだった。
夕方過ぎにエルケスに戻ることが出来た。まずは冒険者ギルドに向かい、クエスト達成の報告をする。
「クエストの達成を確認しました。こちらが報酬になります」
受付嬢はカウンターの下から金貨を数枚取り出す。これで四百セイル。しばらく食いっぱぐれになることはない。
「あぁ、あと一つ報告があります」
「何でしょう?」
「今回のクエストの討伐対象が、怪物と化していたんです」
「怪物……? 少々お待ちください」
その言葉を聞いた受付嬢は、カウンター裏の部屋に消える。すぐにギルド長がやってくる。
「やぁ、タケル。例の怪物化を確認したようだな」
「はい。サンプルもここにあります」
そういって怪物化したマニモストアの一部を提出する。
「これは……、デカいな……」
口のような葉を見て、そのように呟く。
「これがヒト型のようになって動いていたと?」
「その通りです」
「やはり、何か異変が起こりつつあるのか……」
「起こりつつある?」
草薙はギルド長に尋ねる。
「あぁ。この怪物化の現象が始まったのは今から二十年ほど前からだ。最初は小さな変化だったが、次第に大型化と狂暴化を繰り返していった。そして四年前に大規模なスタンピードが発生した。エルケスに匹敵する街が地図から消滅したのだ。それ以来、ギルド本部や国の機関が調査をしているが、最近はどうも先行きが怪しくてな……」
そんな身の上話が出てきてしまい、草薙は困惑する。
「さて、怪物化の話だな。結局、これの原因が何なのかというのは分かっていない。未知の魔法現象によるものなのか、進化が加速した結果なのか……。それすらも考えあぐねている状態なのだよ」
「そうなんですか……」
「それでなんだが、このサンプルをギルド本部に送ってもいいか?」
「えぇ、問題ないです。これを屋敷に持ち帰っても、持て余すだけですし」
ギルド長がそのようなことを尋ねてきたので、草薙は了承する。
とにもかくにも、草薙の初めてのクエストは無事達成で終了した。
村の入り口にいた村長が出迎える。
「おぉ! お二人とも、無事でしたかい?」
「えぇ、なんとか」
「それで……、そちらはマニモストアの残骸ですか……?」
「はい」
そういって草薙は、村長にマニモストアが怪物のようになっていたことを伝える。
「……なので、何かしらの参考になればと思い、こうしてマニモストアの一部を採取してきた訳です」
「なるほど……、食人植物の怪物化ですか……。それは奇妙な話ですのう」
村長は顎に手をやり、何かを思い出す。
「そういえば最近王国内で、植物の怪物化や魔物の怪人化が進んでいるという話を聞いたことがありますの」
「そんな話が……」
「とはいっても、出現している数が少ないこともあって、調査が進んでいないとかなんとか。この話も各町村の長に伝わっているだけで、実害も少ないとのことで……」
「うーん、でもこうして出現しているのだから、何かしらの原因があるわけですよね?」
「それが分かれば苦労はしないものですがのぉ」
結局、ここにいる人だけで理解するのは困難であるということになった。
「とにもかくにも、マニモストアの駆除には成功しました。確か、村長さんが何かするんでしたっけ?」
「うむ、そうだの。クエストの紙を貸しておくれ」
そういって村長は、クエストの紙に依頼内容が達成されたことを示すサインを書く。
「これをギルドに提出すれば、クエスト完了ですぞ」
「ありがとうございます。それじゃあ自分たちはこれで……」
「あぁ、待ってくだされ」
村長が草薙たちのことを呼び止め、何かを取ってくる。
「これ、少しばかりだが感謝の気持ちです」
「これがクエスト報酬ってことですか?」
「いや。それとはまた別の、ささやかな感謝の気持ちですぞ」
「そんな……! 悪いですよ」
草薙は受け取りを拒否しようとした。しかし、村長に押し切られる。
「まぁまぁ、そう言わずに……。納めてくだせぇ」
結局、人の善意に逆らえずに物品を受け取った。
「それでは、自分たちはこれで失礼します」
翌朝。馬車を出し、ラトニ村を出発する草薙とミーナ。村人たちは総出で見送った。
「なんだか、よく分からないままクエストが終わりました……」
「そうですねぇ。マニモストアのサンプルも持って帰ってきたのはいいものの、この後どうすればいいのやら……」
草薙はそんなことを思いながら、村長から貰った「ささやかな感謝の気持ち」の袋を開ける。中には村で採取されたと思われる草が入っていた。
「なにこれ……?」
草薙は試しに一つの草を取り出してみる。得も言われぬ独特の香りが漂うだろう。
その匂いを嗅いだミーナが気づく。
「これ、ナンヨウボウケンソウという薬草だと思います。数百年前の冒険者や旅人たちがこぞって重宝したと言われる逸品です」
「そんな大層な品を貰っちゃっていいものだろうか……」
「それとは別に、冒険者に対する贈与問題もありますね。冒険者は武力省の特殊官僚なので、贈与一つで賄賂扱いになることもしばしばあります。今回は感謝の意を込めた物品の受け渡しなので、賄賂になることはないでしょう」
そのようにミーナが解説する。
(本当になんでこんなに近代的な国家体制しているんだこの国は……)
そして草薙の懐疑的な考えが加速していくのだった。
夕方過ぎにエルケスに戻ることが出来た。まずは冒険者ギルドに向かい、クエスト達成の報告をする。
「クエストの達成を確認しました。こちらが報酬になります」
受付嬢はカウンターの下から金貨を数枚取り出す。これで四百セイル。しばらく食いっぱぐれになることはない。
「あぁ、あと一つ報告があります」
「何でしょう?」
「今回のクエストの討伐対象が、怪物と化していたんです」
「怪物……? 少々お待ちください」
その言葉を聞いた受付嬢は、カウンター裏の部屋に消える。すぐにギルド長がやってくる。
「やぁ、タケル。例の怪物化を確認したようだな」
「はい。サンプルもここにあります」
そういって怪物化したマニモストアの一部を提出する。
「これは……、デカいな……」
口のような葉を見て、そのように呟く。
「これがヒト型のようになって動いていたと?」
「その通りです」
「やはり、何か異変が起こりつつあるのか……」
「起こりつつある?」
草薙はギルド長に尋ねる。
「あぁ。この怪物化の現象が始まったのは今から二十年ほど前からだ。最初は小さな変化だったが、次第に大型化と狂暴化を繰り返していった。そして四年前に大規模なスタンピードが発生した。エルケスに匹敵する街が地図から消滅したのだ。それ以来、ギルド本部や国の機関が調査をしているが、最近はどうも先行きが怪しくてな……」
そんな身の上話が出てきてしまい、草薙は困惑する。
「さて、怪物化の話だな。結局、これの原因が何なのかというのは分かっていない。未知の魔法現象によるものなのか、進化が加速した結果なのか……。それすらも考えあぐねている状態なのだよ」
「そうなんですか……」
「それでなんだが、このサンプルをギルド本部に送ってもいいか?」
「えぇ、問題ないです。これを屋敷に持ち帰っても、持て余すだけですし」
ギルド長がそのようなことを尋ねてきたので、草薙は了承する。
とにもかくにも、草薙の初めてのクエストは無事達成で終了した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる