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第22話 襲われた
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翌朝。草薙は新鮮な気持ちで目覚める。昨晩はミゲルの質問に答えっぱなしであった。それがなんだか一つの縁のような感覚を覚えさせる。
草薙たちは宿を出て、朝食にちょうどいいパンを食べる。
「この後すぐにこの街を出発すれば、夕方過ぎにはクランクに到着するはずだ」
御者をしているマシューがそのように確認する。
「順調に行けばの話だがな。道中は何が起きるか分からない。特に野生の魔物との遭遇なんかはな。なんてことない場合は俺たちが対処するが、もしもの時は手を借りることになる。その時はよろしく」
アニスがそのように忠告する。
「しかし、この先にそんな危険な場所はないんじゃねぇか?」
ジークがそのように聞く。
「いや。可能性は低いが、魔物などの怪物化による襲撃はあると考えたほうがいいだろう。こういった事例は現在も複数あるからな。怪物化によって狂暴になんかなってしまったら、俺たちでは手の付けようがない」
「なるほどな……」
「もしもの時は、ナターシャお嬢様だけでも逃がすこともあるだろう。その際は、申し訳ないが犠牲になってくれ」
「冒険者というのは、元よりそういう職業だからね」
アニスの言葉に、ミゲルが返す。
こうして一行は、ジョーディの街を出発する。ここから一日かけてクランクの街へと向かうのだ。
とはいっても移動するだけの時間であり、草薙たちはかなり暇な状態になる。
「タケルのスキルは身体強化だったね? 実際使ってみてどうだい?」
「使ってるっていう感覚はないですね。なんていうか、筋肉を自然に動かしていればスキルが勝手に発動している感じです」
「なるほどな。人によってはそういうスキル発動の仕方があると聞いたことがある。タケルもそういうタチか」
そんな話をしていると、馬車の速度がだんだんと落ちてくる。
「アレ? 馬車が止まりそうだな……」
「何かあったんでしょうか?」
ミーナが馬車の外を見ようとする。その時だった。
急に馬車が方向転換し、街道を外れる。
「うわわわ!」
「なんだ!?」
街道の脇の草むらに突っ込み、馬車は止まった。すぐにマシューがワゴンに駆け寄ってくる。
「魔物の襲来だ! 数が多すぎるから援護を頼む!」
出番はないと思っていた、魔物の襲来である。ミゲルとジーク、アリシアは何の合図もせずに馬車から飛び降りる。
「え、マジ?」
草薙は状況を理解するのに時間がかかったが、とにかく行動を起こさないといけない。草薙も馬車から飛び降りる。
目の前には、赤紫色に変色したオオカミのような見た目の魔物であった。しかも数が滅茶苦茶多い。
「アレはクレイウルフ! でもこんなに数がいるなんて聞いたことないです!」
ミーナが解説するように言う。それだけでこの状況が異常事態であることが理解できるだろう。
「この数、まるでスタンピードだ!」
「慌てるな! まず僕が斬り込み隊長を務める! ジークとアリシアはいつものように援護!」
ミゲルが冷静に指示を飛ばす。
「お、俺は……」
草薙はミゲルに判断を仰ごうとする。しかしその言葉は届かず、ミゲルは突撃していく。
その様子を見た草薙は、あることを思い出してしまう。自分の意見なんてなかった高校生時代。何をやるにしても、誰かの指示を必要とした。その悪い癖は大学に入学しても続く。なりゆきで始めたボクシングも、個人の練習メニューなどなく、先輩や同期のメニューを繰り返し行い、顧問の指示通りに動くだけであった。指示がないと動けない、指示待ち人間が草薙なのだ。
そのトラウマとも言える感情が噴き出し、草薙は思わずその場で動けなくなってしまった。そして同時に、ある感情に支配される。
希死念慮。粘着性のある液体のような感情は、草薙の体をガチガチに硬直させる。
(あぁ、俺はここで死ぬのか……)
もはや諦めに近いか。そんな虚ろとした目で、ふと目の前を見る。そこにはミーナがいたが、今まさにクレイウルフに噛みつかれそうになっていた。
その瞬間、草薙の体が動く。それは反射的なものだった。知り合いを見殺しにすることなんて出来ない、優しさの現れであった。
短地スキルでミーナをクレイウルフから救出する。
「タケルさん!」
クレイウルフの群れから少し離れた場所で止まった草薙。その草薙を見て、ミーナは叫ぶ。草薙の目には、大粒の涙があったからだ。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、俺は大丈夫です。ちょっと嫌なことを思い出してしまって……」
そういってミーナを地面に下ろす。
(あんな記憶があったから、漠然と死にたいと思ってた。けど、今は違う。自分一人で完結していい人生じゃないんだ)
草薙は覚悟を決め、クレイウルフに相対する。
「俺を……、殺してみろ!」
複数のクレイウルフが草薙に向かって飛びかかってくる。草薙はそれを回避することなく、右半身を引いた体勢で待ち受ける。
クレイウルフが草薙に噛みつこうとする。その瞬間、草薙の体勢はパンチを打った後の姿になっていた。
次の瞬間、草薙に襲い掛かっていた複数のクレイウルフは、文字通り木っ端みじんになっていた。
その様子を見ていたミーナは、目を見張る。
「すごい……! 一瞬でクレイウルフが……!」
草薙はクレイウルフが木っ端みじんになったのを確認すると、短地スキルで移動して戦場へと出る。
「うおぉぉぉ!」
雄叫びを上げ、草薙はミゲルのいるほうへとなりふり構わず最短距離で突っ込む。その途中にあった障害物は、岩だろうと木だろうと、クレイウルフであっても全て粉砕した。
そして草薙は、ミゲルの背後に到着した。
「タケルの本気が見れそうだな……!」
ミゲルは剣を構えつつ、草薙に話しかける。
「お眼鏡に叶うかどうかは分かりませんけどね」
「それでいい。力みすぎると実力を発揮出来ないこともあるからな」
ミゲルは突撃してくるクレイウルフを斬りつけながら、草薙にアドバイスを送る。
「こっちは徒手空拳なのでね。力を入れないと撃破できないんですよ」
そう言いつつも、草薙はクレイウルフの猛攻を突きや蹴りで防ぎきる。
「なら、全力で行くしかないだろう!」
「もちろん!」
ミゲルと草薙は、同時に地面を蹴って前進する。
『アガスト・ミギー!』
ジークはダガーナイフ特化のスキルを発動し、幾千ものナイフの雨を降らせる。
『キンター・カゲスト!』
アリシアもスキルを発動し、ミゲルたちの身体機能を底上げしている。
残念ながらミーナは戦闘要員ではないため、安全な場所で見守っていた。
そうして、百匹はいたであろうクレイウルフは残らず駆除された。
「はぁ、はぁ、なんとかなった……」
草薙はスキルの影響で痛む体を休めながら、辺りを見渡す。馬車はもちろん、ナターシャやミーナも無事である。
その時、スキルレベルが上がったような感覚がする。ステータスを開いてみると、当然の如くスキルのレベルが上がっていた。
『身体強化レベル八
短地レベル五
自己防御レベル七』
いまだ経験値テーブルが不明だが、ずいぶんとレベルが上がったようだ。
そこに、ミゲルがやってくる。
「タケルの実力はなかなかのものだね。さすが、模擬戦でアラドたちを撃破しただけあるね」
「そうかな……。勝負事では負けることが多かったから、そんな感覚はないなぁ」
「大丈夫、タケルは十分に強い」
そういってミゲルは手を差し出す。草薙はその手を取り、立ち上がった。
周辺の状況を確認した草薙たちは、状況を報告するのと本来の目的を達成するため、クランクの街へと再出発するのだった。
草薙たちは宿を出て、朝食にちょうどいいパンを食べる。
「この後すぐにこの街を出発すれば、夕方過ぎにはクランクに到着するはずだ」
御者をしているマシューがそのように確認する。
「順調に行けばの話だがな。道中は何が起きるか分からない。特に野生の魔物との遭遇なんかはな。なんてことない場合は俺たちが対処するが、もしもの時は手を借りることになる。その時はよろしく」
アニスがそのように忠告する。
「しかし、この先にそんな危険な場所はないんじゃねぇか?」
ジークがそのように聞く。
「いや。可能性は低いが、魔物などの怪物化による襲撃はあると考えたほうがいいだろう。こういった事例は現在も複数あるからな。怪物化によって狂暴になんかなってしまったら、俺たちでは手の付けようがない」
「なるほどな……」
「もしもの時は、ナターシャお嬢様だけでも逃がすこともあるだろう。その際は、申し訳ないが犠牲になってくれ」
「冒険者というのは、元よりそういう職業だからね」
アニスの言葉に、ミゲルが返す。
こうして一行は、ジョーディの街を出発する。ここから一日かけてクランクの街へと向かうのだ。
とはいっても移動するだけの時間であり、草薙たちはかなり暇な状態になる。
「タケルのスキルは身体強化だったね? 実際使ってみてどうだい?」
「使ってるっていう感覚はないですね。なんていうか、筋肉を自然に動かしていればスキルが勝手に発動している感じです」
「なるほどな。人によってはそういうスキル発動の仕方があると聞いたことがある。タケルもそういうタチか」
そんな話をしていると、馬車の速度がだんだんと落ちてくる。
「アレ? 馬車が止まりそうだな……」
「何かあったんでしょうか?」
ミーナが馬車の外を見ようとする。その時だった。
急に馬車が方向転換し、街道を外れる。
「うわわわ!」
「なんだ!?」
街道の脇の草むらに突っ込み、馬車は止まった。すぐにマシューがワゴンに駆け寄ってくる。
「魔物の襲来だ! 数が多すぎるから援護を頼む!」
出番はないと思っていた、魔物の襲来である。ミゲルとジーク、アリシアは何の合図もせずに馬車から飛び降りる。
「え、マジ?」
草薙は状況を理解するのに時間がかかったが、とにかく行動を起こさないといけない。草薙も馬車から飛び降りる。
目の前には、赤紫色に変色したオオカミのような見た目の魔物であった。しかも数が滅茶苦茶多い。
「アレはクレイウルフ! でもこんなに数がいるなんて聞いたことないです!」
ミーナが解説するように言う。それだけでこの状況が異常事態であることが理解できるだろう。
「この数、まるでスタンピードだ!」
「慌てるな! まず僕が斬り込み隊長を務める! ジークとアリシアはいつものように援護!」
ミゲルが冷静に指示を飛ばす。
「お、俺は……」
草薙はミゲルに判断を仰ごうとする。しかしその言葉は届かず、ミゲルは突撃していく。
その様子を見た草薙は、あることを思い出してしまう。自分の意見なんてなかった高校生時代。何をやるにしても、誰かの指示を必要とした。その悪い癖は大学に入学しても続く。なりゆきで始めたボクシングも、個人の練習メニューなどなく、先輩や同期のメニューを繰り返し行い、顧問の指示通りに動くだけであった。指示がないと動けない、指示待ち人間が草薙なのだ。
そのトラウマとも言える感情が噴き出し、草薙は思わずその場で動けなくなってしまった。そして同時に、ある感情に支配される。
希死念慮。粘着性のある液体のような感情は、草薙の体をガチガチに硬直させる。
(あぁ、俺はここで死ぬのか……)
もはや諦めに近いか。そんな虚ろとした目で、ふと目の前を見る。そこにはミーナがいたが、今まさにクレイウルフに噛みつかれそうになっていた。
その瞬間、草薙の体が動く。それは反射的なものだった。知り合いを見殺しにすることなんて出来ない、優しさの現れであった。
短地スキルでミーナをクレイウルフから救出する。
「タケルさん!」
クレイウルフの群れから少し離れた場所で止まった草薙。その草薙を見て、ミーナは叫ぶ。草薙の目には、大粒の涙があったからだ。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、俺は大丈夫です。ちょっと嫌なことを思い出してしまって……」
そういってミーナを地面に下ろす。
(あんな記憶があったから、漠然と死にたいと思ってた。けど、今は違う。自分一人で完結していい人生じゃないんだ)
草薙は覚悟を決め、クレイウルフに相対する。
「俺を……、殺してみろ!」
複数のクレイウルフが草薙に向かって飛びかかってくる。草薙はそれを回避することなく、右半身を引いた体勢で待ち受ける。
クレイウルフが草薙に噛みつこうとする。その瞬間、草薙の体勢はパンチを打った後の姿になっていた。
次の瞬間、草薙に襲い掛かっていた複数のクレイウルフは、文字通り木っ端みじんになっていた。
その様子を見ていたミーナは、目を見張る。
「すごい……! 一瞬でクレイウルフが……!」
草薙はクレイウルフが木っ端みじんになったのを確認すると、短地スキルで移動して戦場へと出る。
「うおぉぉぉ!」
雄叫びを上げ、草薙はミゲルのいるほうへとなりふり構わず最短距離で突っ込む。その途中にあった障害物は、岩だろうと木だろうと、クレイウルフであっても全て粉砕した。
そして草薙は、ミゲルの背後に到着した。
「タケルの本気が見れそうだな……!」
ミゲルは剣を構えつつ、草薙に話しかける。
「お眼鏡に叶うかどうかは分かりませんけどね」
「それでいい。力みすぎると実力を発揮出来ないこともあるからな」
ミゲルは突撃してくるクレイウルフを斬りつけながら、草薙にアドバイスを送る。
「こっちは徒手空拳なのでね。力を入れないと撃破できないんですよ」
そう言いつつも、草薙はクレイウルフの猛攻を突きや蹴りで防ぎきる。
「なら、全力で行くしかないだろう!」
「もちろん!」
ミゲルと草薙は、同時に地面を蹴って前進する。
『アガスト・ミギー!』
ジークはダガーナイフ特化のスキルを発動し、幾千ものナイフの雨を降らせる。
『キンター・カゲスト!』
アリシアもスキルを発動し、ミゲルたちの身体機能を底上げしている。
残念ながらミーナは戦闘要員ではないため、安全な場所で見守っていた。
そうして、百匹はいたであろうクレイウルフは残らず駆除された。
「はぁ、はぁ、なんとかなった……」
草薙はスキルの影響で痛む体を休めながら、辺りを見渡す。馬車はもちろん、ナターシャやミーナも無事である。
その時、スキルレベルが上がったような感覚がする。ステータスを開いてみると、当然の如くスキルのレベルが上がっていた。
『身体強化レベル八
短地レベル五
自己防御レベル七』
いまだ経験値テーブルが不明だが、ずいぶんとレベルが上がったようだ。
そこに、ミゲルがやってくる。
「タケルの実力はなかなかのものだね。さすが、模擬戦でアラドたちを撃破しただけあるね」
「そうかな……。勝負事では負けることが多かったから、そんな感覚はないなぁ」
「大丈夫、タケルは十分に強い」
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