死にたがり戦士の異世界無双

紫 和春

文字の大きさ
21 / 66

第21話 移動した

しおりを挟む
 約二週間ほど時間が空いた。その間、草薙は「金剛石の剣」のメンバーと共に特訓をし、自分のスキル向上に努めていた。

 その結果、スキルは順調に上昇し、次のようになる。

『身体強化レベル五
 短地レベル三
 自己防御レベル五』

 防御方面に力を入れた事で、自己防御スキルが向上している。

 そんな特訓を経た後、ナターシャはある情報を入手する。

「王国の南のほうにあるクランクという街の近くで、怪物化した魔物の群れを発見したそうですの。ここからだと馬車で二日ほどかかりますが、重要な情報がある可能性がありますので是非とも行っていただきたいですわ」
「馬車で二日か……。それなりの荷物が必要になるね」

 ナターシャの説明を受け、ミゲルは少し考える。二日の移動時間に加え、荷物も相応の量になるだろう。

「馬車に関しては、私の屋敷にあるものを貸し出しますわ。ご心配なく」
「それは助かる」
「それと、今回は怪物化の情報を確認したいので、私も同伴いたしますわ」
「となると、少なくとも六人……。いや御者もいるからおよそ八人といったところか」
「えぇ。御者にはマシューとアニスを抜擢しますわ。彼らは私の護衛も兼ねてますの」
「了解した。ひとまず情報の共有は以上か?」
「そうですわ」

 ナターシャは情報共有した紙をしまい、全員の顔を見る。

「出発は明後日。ここに集合して出発ですわ」

 こうして各々準備を整え、クランクへと向かう日がやってきた。大型の馬車を用意して貰い、ギルドの前で待機していた。

「全員揃ったな?」

 ミゲルが見渡して言う。草薙とナターシャ、ミーナも準備は出来ている。

 そこにギルド長がやってきた。

「諸君らの無事を祈る。怪物化の原因が少しでも分かることを願うぞ」
「もちろんです」

 ギルド長とミゲルが握手を交わす。いい感じの場面であるが、草薙はやる気のない顔をしている。

(あぁ、こんな責任重大な仕事を任されてしまった……。死にたい)

 案の定強い希死念慮を感じており、今にも馬に蹴られて死んでしまおうとも考えていた。

 しかしそんなことをしてしまったら、ナターシャやミーナ、その他多くの関係者に迷惑をかけることになる。それだけは絶対に避けなければならない。

 結局草薙は、希死念慮を抱えたまま馬車に乗り込むのだった。

「それでは行ってくる」

 ミゲルが最後に馬車へ乗り込み、馬車はギルドを出発する。

 まずはエルケスの南に伸びているカレロ街道を通り、途中の街であるジョーディに立ち寄る。そこで一泊した後に東へ向かい、クランクに到着する行程だ。

 馬車の中では、草薙の隣にいるナターシャがミゲルと楽しげに会話している。

「タケルの戦闘のセンスは独特だと常々感じるよ。一体どこの流派の人間なんだ?」
「彼の故郷はここから遠くて、そこで修行していたそうですわ」
「ほう。王国の外からか。それはより興味が湧くね」

 草薙本人が横にいるのに、彼抜きで話が進んでいる。しかし、そんな状況には慣れている。

 この世界に転生する前の草薙は、かなり引っ込み思案な部分があった。本人はアピールしているつもりでも、他人から見るとそうでもない場合が多い。そのため、草薙の周りにいる人間が代わりにアピールしていたこともあった。草薙は、自身の積極性が欠如していたことによるものだと判断している。

 それでも、褒められるという経験は少ない。草薙は少々こそばゆい感覚を覚えるが、眠気には勝てずに道中ずっと寝ていた。

 日が落ちて暗闇が辺りを支配した時になって、ようやくジョーディの街に到着した。馬を預かり所に預け、宿屋に直行する。

「それでは、男性が三人と二人、女性三人の三部屋でご用意します」

 草薙はミゲルとジークと一緒の部屋となった。しかし、彼らと話すなんてことはしない。馬車の中でも寝ていたが、ここでも寝ようとしていた。

 しかし、それを阻止する人間が一人。

「タケル、時間いいか?」

 ミゲルが草薙に話を振ってきた。草薙は面倒な予感がして寝入ってしまおうとも考えた。

 しかし、この世界に転生する直前に、かつて柔道を教えてくれた先生に言われたことを思い出す。

『草薙は人との会話が足りてない気がするんだよね。草薙自身はちゃんと会話してるつもりでも、相手は草薙のことを知らない場合が多い。そのことに気づけないと、後で大変なことになるよ』

 会話不足。草薙も薄々感じていた課題だ。人見知りの気もある草薙は、人との歩み寄り方を間違えていたり、距離を見誤っている節がある。それを改善するためには、人と会話を行うほかない。

「……なんでしょう?」

 草薙はベッドから起き上がり、ミゲルの方を見る。

「タケルはどこの国から来たんだ?」
「……東の方にある国からですね。この国に来るまでの道中はよく覚えてませんが」
「そうなのか。もしかして、あまり言いたくないことだったりするのか? それなら申し訳ない」
「いえ、急に不安になるようなことではないので」

 なんだか、中学の時の修学旅行の夜を思い出す。友達と夜遅くまで話し込み、笑い合うような、あの感覚。

 それが、ふと草薙の中で芽生えたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...