オカルト・アポカリプス~人類なき後の地球における心霊現象の発生について~

紫 和春

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第42話 可能性の話をしました

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「なんで真空崩壊が起きるんだよ……? そこに関係性があるのかよ……?」

 小堀が九王に聞く。

「本来のガンマ線バーストは、強力なガンマ線が放射される現象です。ガンマ線バーストとソルレイバーストは、同じガンマ線によるものというのはこれまでの観測からも分かると思います」
「そうだな。それは前提知識になる」

 シュートリヒが相槌を入れる。

「そしてソルレイバーストは余剰次元から放出されていることは、この音声からも明らかですよね。つまり、今は3pmという隙間か穴か、そういう狭間から余剰次元に存在するエネルギーがこの宇宙に流入していることになります」
「そうなる……のか?」
「たぶんそういうことだと思う」

 小堀が少々混乱している横で、シンは自分の中で咀嚼出来ているようだ。

「この隙間はまだ小さく、流入は抑えられている状態ですが、近い将来この堤防が決壊してしまった時が大変です」
「決壊?」
「はい。余剰次元に存在する莫大なエネルギーが、この空間一帯へと流れ込む状態になるのです。そうなった時に何が起きるでしょう?」
「おいおい、まさか……」

 シュートリヒが何かを察したようで、どんどん顔が青白くなっていく。

「準安定状態だった偽の真空に対して、ビッグバンに匹敵するであろうエネルギーが一点に集中することになります。それはすなわち、真の真空へ相転移する真空崩壊を引き起こすことになるのです」
「そういうことになるんだね」

 九王の説明が終わるのを待っていたかのように、ウッマが結論をまとめる。

「余剰次元がこの空間に介入できる以上、どこかに隙間が存在し、そしてそこから膨大なエネルギーが流入する可能性がある。そしてそれが発生すれば、偽の真空にある基底ポテンシャルが刺激され、真の真空に遷移する。こういうことだね?」
「えぇ、色々と端折ればそんな感じです」
「だからバーストを放置していると真空崩壊が引き起こされるって言ったのか」

 小堀が納得したように言う。
 九王は改めて一同に向き直り、話を続ける。

「このままでは、この宇宙や我々の終わりを引き起こすことになります。なので ILPAを稼働させるために第4銀河艦隊の力が必要になるんです。どうか、協力をお願いできませんか?」

 そういって九王は頭を下げる。それを見たシュートリヒは難しい顔をした。

「スペーサーにも影響を与える可能性があるなら、一刻も早くそれを排除するべきなのだが、いかんせん話が突飛すぎるのがな……。きちんと計算なり精査された提言なら第4銀河艦隊我々の上層部も聞いてくれるはずだ。だが貴様の考えは、大したエビデンスも存在しない直感によるものなのだろう?」
「それだけじゃあ上層部は動いてくれそうにもないな」

 シュートリヒの意見に、シンも賛同する。妥当な意見だろう。たった一人の、しかも何の裏付けもされていない意見で、巨大な組織一つを動かすことは出来ないからだ。

「だが……」

 それでもシュートリヒは言葉を続ける。

「第4銀河艦隊が動けなくても、第185突撃調査隊なら……、可能性はなくはないだろう」
「いきなり最上部組織系統に入り込まなくても、途中にある下部組織ならまだ柔軟に対応できる可能性があるね」

 ここでもシンはシュートリヒの意見に賛同する。

「確かにな。突撃調査隊に編入されている平時標準戦艦の機関一個あれば、加速器に使われる電力は賄えるはずだ」

 小堀も別の切り込みから援護をする。

「だが問題は、それでも突撃調査隊を動かすほどの力がないってことだ……」

 シュートリヒが少し残念そうな空気を滲ませる。シンも小堀も、自分が所属している組織での権限がどの程度なのかをよく知っているのか、同じような顔をしていた。

「そうですか……」

 九王は頭を上げ、シュンとしてしまった。
 そんな様子を見た小堀は、ある大きな決断をする。

「……よし、分かった。俺の体を賭けよう」
「貴様ッ……! それ本気で言ってるのか!?」
「俺だってそんな覚悟決められないよ」
「止めたほうがいい。命を投げ捨てるのと一緒だぞ?」

 小堀の決断に、シュートリヒとシンが再考するように促す。
 それでも小堀の決断は変わらないようだ。

「元より俺は一度死にかけた人間だ。ここで命を投げ出しても何も後悔しない」

 それを言われたシュートリヒは、何か言おうとしたものの、言葉を飲み込んだ。

「……他人の生死までに口を挟むのは、騎士道に反する。だが、貴様がそう決断したのなら、その意思は最後まで貫き通せ」
「無論、そのつもりだよ」

 そういって小堀は九王に向き直る。

「俺は自分の本体の体を差し出すことで、残りの寿命に使われるはずのリソースを別の方法に変換する。九王君の価値観に直すなら、奴隷になることを選択したわけだ」
「それは……。私としてはありがたい話ですが、そんな簡単に決断していいんですか?」
「あぁ。さっきも言ったが、俺は一度死んだような人間だからな」

 そういって小堀は立ち上がる。

「それじゃあここは一つ、突撃調査隊の司令部にカチコミしに行こうぜ」

 その言葉に、一同は頷くのであった。
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