転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
9 / 149

第9話 阻止

しおりを挟む
 一九三六年一月十六日。
 朝の新聞には一面で、ロンドン海軍軍縮会議から脱退したというニュースが報じられた。
「まぁ、予定通りっちゃ予定通りか」
 海軍の下士官から朝食を貰ったついでに、このニュースを聞いた宍戸の感想はこの通りである。
 そしてこれにより、海軍の軍拡競争が始まることを意味していた。
「海軍の戦力は増強されることになるけど、果たしてどこまでやっていけるかだな……」
 宍戸は少し考える。
(現在の仮想敵国はアメリカだ。アメリカの物量はすさまじいものだし、実際過去の日本はそれが原因で敗戦したようなものだ。もし戦うようなことがあれば、短期決戦でケリを着けるしかない……)
 宍戸はチラッとスマホを見る。
(もしもの時は、アメリカの転生者であるカーラ・パドックを交渉人として使う手もある。まぁ、あくまでも手段の一つにすぎないけど)
 大統領と面会できる立場とはいえ、転生者という認識がどこまで影響力を持つのかは不透明だ。それなら、通常の外交を行ったほうが早い。
「やることはまだまだ多いな……」
 その翌日。内務省の役人がやってきた。
「クーデターの首謀者らを、国家転覆を企てた容疑で逮捕しました」
「やることが早いっすね……」
「罪をでっちあげる方法はいくらでもあります。我々が一番法律の近くで仕事している人間ですので」
「こわー……」
 さすがの宍戸も引いた。
「それで、彼らをどうするつもりですか?」
「当然、全員死刑にします。ですが、全員自白しましたので、内乱罪の適用ではなく、不当な武力行使をしようとした罪に問います」
「なんというか、ご愁傷様としかいいようがないですね……」
「また、今回の事件を公表し、国家転覆などの危険思想を持った人間を逮捕できるような法律の制定も行う予定です」
「し、思想犯保護観察法……」
 少し危ない方向に向かっているような気もするが、元の世界でもそんな感じであった。おそらくそこまで強い影響は出ないだろう。
「とにもかくにも、今はクーデターを阻止できたことを喜ぶべきなんでしょうな」
 宍戸が言う。安堵はできないが、少し安心した。
「後は関東軍が満州から撤退してくれるかだが……」
 今の心配事はそこだ。このままいけば、大陸側と太平洋側の二正面で戦争を起こすことになる。ただでさえ資源のない日本が、より資源のない状況へと追い込まれる。それだけは何としても阻止しなければならない。
「開戦まで時間がない。早くしなければ……」

━━

 ドイツ、ベルリン。総統官邸の地下。そこに、幽閉された一人の女性がいた。
 ローザ・ケプファー。宍戸と同じ転生者だ。
 彼女は転生以来、この場所に囚われている。
 そこに、一人の男性が大勢の部下を連れてやってきた。
「ご機嫌はいかがかね? ケプファー君」
 第二次世界大戦を勃発させた元凶とも言える男、アドルフ・ヒトラーである。
「乙女をこんな場所に幽閉するなんて、いい趣味してるわね」
「君は少し勘違いしているようだ。君がここに幽閉されているのは、君がこの世界で最も情報を持っている人間の一人だからだ。その力は諜報などでは決して奪うことのできない情報もある。それを私のために使ってみないか?」
「嫌よ。それを使えばどうなるか、あなたが一番良く知っているじゃない」
「当然だとも。私の夢は、この祖国を発展させて、アーリア人のための最高な国にすることだ。そのためには、どうしても君の協力が必要だ」
「……そう。なら、一つ教えてあげる。あなたの末路とも言うべき最期を」
「末路、だと?」
「そうよ。あなたが始めた戦争は、やがて自分の首を絞める結果になるわ。ソ連がベルリン市街地に侵入し、そしてあなたは地下の司令室で自殺する……」
「……なるほど、スターリンの軍勢にやられるよりはマシだろうな」
 ヒトラーは少し笑う。
「なぜ笑っているの? あなたは追い込まれる運命にあるのよ?」
「未来から来た君なら分かっているだろう。私は死線を何度もくぐってきた。そして今、こうして総統として君臨している。そのような未来が訪れるのなら、そうならないように対策するだけだ。私は崇高なるアーリア人の頂点に立つ人間なのだからな」
 そういってヒトラーは、ケプファーの前から去る。
 それを確認したケプファーは、強張らせた肩の力を抜く。
「はぁぁぁ……。なんとかなったぁ……」
 彼女は人前では凛々しい雰囲気を醸し出しているが、それは極度の緊張状態に陥っているからである。本当の彼女は、臆病な性格なのだ。
「それから、どうやってここを出よう……?」
 彼女はこの総統官邸からの脱出を考えていた。臆病ゆえの逃避癖。危険な場所からは逃げるという、生物の本能的なことをしているのだ。
 戦いたくない、だから逃げる。嫌なことから逃げ出し、自分のできることを進んでやる。それが、彼女の目指す生き方なのだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で農業を -異世界編-

半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。 そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

処理中です...