転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第11話 残り時間

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 一九三六年一月二一日。
 宍戸は、フランスにいるジル・ロンダと連絡を取り、ラインラント進駐に関して意見を交換していた。
 二人の見解は概ね一致しており、ドイツによるフランス方面への進軍を食い止める方向で動くことにした。
「いやぁ、話が分かる人間がいて助かるー」
 スマホをしまいながら、宍戸はそんなことをボヤく。
「しかし、ラインラント進駐は止められないにしても、ドイツの道路にされたベネルクス三国に軍を集中配備してくれるのは助かる。でも、いつかドイツ国内に溜まった鬱憤という名のガスが爆発する。次はその爆発を何とか抑えつつ、ガス抜きしていかないといけないなぁ」
 宍戸は半年ほど先のことを考える。もし上手くいけば、第二次世界大戦を回避できるかもしれないと考えたからだ。
 そこに海軍の下士官が入ってくる。
「宍戸様、昼食をお持ちしました」
「あ、いつもありがとうございます」
 そういって昼食を受け取り、机に置く。
 その時、下士官が意を決して言葉を発した。
「あの、こんなことを言うのはおこがましいかもしれませんが、宍戸様は世界を掌握された人間か何かでしょうか?」
「え? そんなわけないでしょう。ご存じの通り、元の世界ではただの一般市民でしたから」
「それなら何故、宍戸様はナチ党の動きを何とかできると考えているのですか?」
「それはー……」
 改めて考えてみると、確かに突拍子もない話だ。たった一個人の、権力も人脈もほとんどない人間が、独裁政治を完成させた強権国家に太刀打ちなどできようか。
「こんなことを言ってしまうのは駄目な事だと思っているのですが、宍戸様はもう少し現実を見たほうがいいかと思います」
「現実を見る……」
 宍戸はショックを受けた。今まで転生者というだけで御前会議に出席したり、華族になろうとしたりと、まさに特権によって成り上がろうとしている無能と同じである。
 宍戸は今の自分を恥じた。「なんでもできる」という無敵の感覚を存分に浴びていたのだ。
「……確かに、今の自分は少し行き過ぎた自信に満ちていました。何者よりも秀でているという感覚が、すごく心地よかった……」
 そういって宍戸は、自分を戒める。
「ありがとうございます。少し落ち着きました」
 その時だった。部屋の外から誰かが走ってくる音が聞こえる。
「宍戸様! 大変です! 少数ですがラインラントにドイツ軍が進軍しているとの情報が入りました!」
「何ィー!?」
 宍戸は心臓が飛び出るような感覚を覚える。すぐにドイツにいるケプファーに連絡を取る。
『ドイツ軍がラインラントに軍を動かしたという連絡が入ったが、一体何がどうなってる?』
『そんなの分からないわ! 私だって今初めて聞かされたのよ!?』
「嫌な予感がする……!」
 宍戸はすぐにグループチャットにメッセージを飛ばした。
『ロンダ、今すぐフランス軍をラインラントとベネルクス国境に派兵してくれ!』
『落ち着いてくれ。そう簡単に軍を動かせるわけないだろう』
『ラインラントで何かあった?』
『ドイツの野郎が進軍を始めた』
『落ち着けシシド。こちらの諜報では、まだ歩兵十個大隊程度の動きだ。これ以上の動きがあるなら、すでにフランス軍の上層部が黙っちゃいないさ』
『時間の差はあれど、結局こうなってしまうのね……』
 主に、男性陣は理性的で、女性陣は冷静であった。一番落ち着きがないのは宍戸くらいか。
「君らサラミ戦術というものを知らないのか?」
 前の世界で、中華人民共和国から進行形でサラミ戦術を受けてた日本人の感想が漏れる。
『既成事実化されると面倒だぞ。早く対処するんだ』
『極東の人間が欧州の事に首突っ込むのは辞めておいたほうがいいぞ』
「確かに……。欧州情勢は複雑怪奇なり……」
 宍戸は大人しく引き下がることにした。
 この日のグループチャットは、「現状のドイツ軍を静観する」という結論に至ったようだ。この結論は、元の世界の世界情勢と似ている。
 結局ドイツ軍はライン川を越え、非武装地帯であるラインラントに陸軍を進軍させた。これにより、事実上ヴェルサイユ条約とロカルノ条約を破棄したことになった。
 ドイツにいるローザ・ケプファーは、食事を与えられた際にヒトラーの真意を聞こうとした。
「どうして軍をラインラントに進駐させたの!? これじゃあ先の大戦の二の舞になるわ!」
「総統は崇高なる理念を持たれるお方だ。貴様のようなヤツに教える義理はない」
 結局、ケプファーは何も情報を得ることはできなかった。
 この出来事で、世界の緊張度は上昇していくことになる。
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