転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第21話 ラジオ

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 一九三六年二月二三日。この日は日曜日で、宍戸は邸宅にてくつろいでいた。
 だが、ただくつろいでいる訳ではない。スマホで各国の転生者と連絡を取り合い、世界を良き方向へ導くために情報交換をしていた。
 十四時くらいに、外出していたすず江が帰宅する。その後ろにいた見知らぬ人が、大きな箱のようなものを抱えていた。
「何事……?」
「すごい物を買ったのです。我が家に必要だと思って、頑張って契約してきました」
 すず江は胸を張る。
 見知らぬ人は、床に箱を置いて蓋を開けた。そこには、レトロチックなラジオが入っていた。
「ラジオ?」
「すず江様が、和一様のお手伝いになればとの思いで購入しました」
 そばにいた使用人が答える。
「それはいいんだけど、お金ってどうしたの?」
「既にご主人様名義で銀行の口座が開設されておりまして、そこから引き出しました」
「知らないうちに銀行口座が出来てた……」
 宍戸は少し狼狽える。
「ご安心ください。ご主人様の手を煩わせることはいたしませんので」
「そういう問題かなぁ……」
 宍戸は頭に手をやる。
(色々と聞きたいことはあるけど、聞いたところで岡田総理による超法規的措置が働いているんだろうなぁ……。おそらく、口座に入ってる金の出どころも……)
 宍戸はそれ以上考えるのをやめた。
 見知らぬ人はおそらく電気工事屋で、ラジオを設置するために来たのだろう。
 すず江の指示の元、専用のテーブルの上にラジオが設置された。
「じゃ、失礼しやーす」
 工事屋は工賃を受け取ると、すぐに帰っていった。
「和一様、これで政府発表の情報も、すぐに聞けますよ」
 すず江は楽しそうに言う。そんな彼女に、宍戸は残酷な事実を突きつけなければならなかった。
「すず……。俺、もう政府と関わりを持ってるから、ラジオはそんなに重要じゃない……」
「……はっ」
 すず江は、宍戸の特殊な職業のことを思い出した。
「あわわ……。どうしましょう……?」
「まぁ、買っちゃったのなら仕方ない。元を取り返すくらい聞けばいいじゃないか」
「そ、それもそうですね!」
「じゃ、早速ニュースか音楽でも聞こうか」
 宍戸はラジオの電源を入れ、ツマミを合わせる。すると、スピーカーの向こうから、男性アナウンサーの声が聞こえてきた。
『……繰り返します。速報です。先程、岡田首相が衆議院を解散させ、総理大臣職を辞すると発表いたしました』
 それは、宍戸にとって衝撃の内容だった。
「な、なんで解散なんか……」
 それと同時に、玄関の扉がノックされる音がする。使用人が扉を開けると、そこには見たことのある老人が立っていた。
「お、岡田総理……」
「やぁ、宍戸君。急にすまないね」
 すぐに客間に通す。とにかく今は、話を聞かないと分からないだろう。
「わざわざ我が家にまで来ていただいてありがたいのですが、一体どうしたんですか? 暗殺されるかもしれないのに……」
「まぁ、だいたい分かっているだろう」
「衆議院解散と辞職、ですよね?」
「そうだ。まぁ、もとより解散と辞職は考えていたことだ。本当ならスペイン内戦が始まる前にとも思っていたんだがな」
「これでもかなり早い段階で内戦勃発ですよ」
「そうか、ならもう大丈夫だな」
 そういって岡田総理は、出された緑茶を飲む。
「私は、君に爵位と役割を与えた。それだけで十分役目を果たしたと思っているよ。本当なら政治家にでもなってほしかったが、それではあまりにも権力が集中してしまう。我が国には陛下がおられることだしな」
 岡田総理はゆっくりと立ち上がり、玄関のほうへと向かう。
「岡田総理……!」
「宍戸君。これからも難儀な事態が増えるかもしれない。しかし、決してくじけないように。君の知恵と知識、そして統率力が、帝国の未来を変えるのだから」
 宍戸は、そのまま岡田総理のことを見送った。宍戸がリビングに戻り、ラジオから流れる流行歌を聞いているすず江の隣に座る。
「総理との話はいかがでしたか?」
「まぁ……、うん。一言で表すと、頑張れって言われたよ」
「和一様は十分に頑張ってますよ」
「そうだね。でも、これからは大変な時代になる。その時に踏ん張らないといけないし、国民を路頭に迷わせるようなことはしちゃいけないからな」
 そういって宍戸は、ラジオから流れる音楽を聞く。現代人の宍戸にしてみれば、音質の悪いラジオから流れる曲は、何と言っているのかすらさっぱり分からない。しかし、これから訪れるであろう戦争の雰囲気を打ち壊すような、そんな明るい曲が流れるのだった。
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