転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第24話 行き違い

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 一九三六年三月十六日。総選挙の結果が公表された。
 結果は立憲政友会が過半数を維持し、なんとか与党を続けられることになった。
 それに伴い、総理大臣を含めた内閣閣僚が刷新される。そこで指名されたのは、米内中将であった。
「私が総理になっても、何も出てこないのだがな」
 後に記者の質問にそう答える米内。こうして史実よりだいぶ早い、米内内閣が成立したのであった。
「米内内閣組閣により、海軍大臣として初入閣した高木惣吉だ」
「同じく、初入閣した木村兵太郎である」
「よろしくお願いします」
 数日後、大本営立川戦略研究所にやってきた陸海軍の大臣。宍戸はいつものように出迎えた。
「噂は聞いている。所長の考えていることはよく分からないそうじゃないか」
「そうですか? 自分では結構単純な思考をしてると思うんですけどね」
 高木海軍大臣から割と心外なことを言われ、宍戸はそれを否定する。
「彼の意見に同意する。一体なんだね? いきなり関東軍の一個師団をスペインに送るなど、蛮行に等しいじゃないか」
 木村陸軍大臣が宍戸に文句を言う。
「必要だから送ったまでです。向こうに着いたら、反乱軍に味方しつつ、要人確保に動いてもらいますから」
「そのためだけに軍隊を動かすんじゃない。タダで動くものじゃないんだぞ」
「それは以後気を付けます」
「それに、今回の満州国からの撤退は一体なんだ? そこまでして帝国の国力を削ぎたいのか?」
「国のためを思っての行動です。現在の日本は、アメリカと対立関係にありますが、実際に武力が衝突するを避けるためにやっているのです」
「それは言い訳に過ぎん。だいたいだな……」
「まぁ、木村さん。その辺にしておきましょうや。今は、帝国の未来を話に来ているんですから」
 高木海軍大臣が木村陸軍大臣のことを止める。
「では、会議室にどうぞ」
 そういって三人は会議室に入る。
「早速本題に入りますが、今後の日本の大まかな方針をお話したいと思います」
 そういって宍戸は、二人に手書きの紙を一枚ずつ渡す。
「まず一九四〇年までに、ソ連と中立条約を結びます。有効期間は五年とします。この交渉をする時は、ドイツとソ連が不可侵条約を結んだ後から開始します」
「ナチス・ドイツとソ連が不可侵条約だと? ありえない」
「それがありえるんですよね。不可侵条約が結ばれたことで、当時の内閣が吹っ飛ぶという事態を引き起こしています」
「そんなことが……」
「これに伴い、現在進行しているドイツとの外交交渉を順次取り止めます。まぁ、これは外務省案件ですので、お二人には特に関係ないですね」
「待て待て待て待て! 貴様は本当に何を考えている!?」
 木村陸軍大臣が宍戸のことを止める。
「ナチス・ドイツとの交渉を止めるだと? そんなことすれば、ソ連の思うつぼだぞ」
「しかし独ソ不可侵条約によって、現在進んでいる防共協定は半分無意味になります。このまま協定を結んだとしても、独ソ戦が始まるまで放置することになりますよ。それなら、最初からドイツとは希薄な関係であったほうがいいでしょう」
「しかしドイツのことだ。もしかしたら不可侵条約を破ってくる可能性も否定できまい」
 高木海軍大臣が宍戸に反論する。
「……それは確かにあるかもしれません」
「不本意だが高木大臣の言う通りだ。約束事を破ることに何の違和感も持たない連中だぞ」
「ドイツに限ったことではないが、列強国は平気で規律や条約を無視することもある。当然、我が帝国もその一国ではあるが」
「そもそも、だ。この戦略を考えたのは誰だ?」
 木村陸軍大臣が宍戸に聞く。
「自分ですが……」
「他には?」
「いや、自分一人です」
 それを聞いた木村陸軍大臣は、怒りを通り越して呆れていた。
「貴様、こんな子供のような絵空事が現実に起こると思っているのか? 俺が言うのもなんだが、一人で考えた計画は計画と呼ばん。妄想と言うんだ」
「しかし、これは史実であったことを反映していて……」
「宍戸君がこの世界に転生してきた時点で、未来における史実とは異なっているだろう。本来なら、二月末に陸軍の青年将校がクーデターを起こすはずだったが、宍戸君の情報提供によりこれは未然に防がれたそうじゃないか。この時点ですでに未来は変わっていると言っても差し支えないだろう」
 高木海軍大臣が、宍戸のことをなだめるように説得する。
「それは、そうかもしれませんが……」
「『塵も積もれば山となる』……。ほんの少しの違いが、やがては大きな差になってくる。何事も慎重に、なるべく多くの意見を取り入れるべきだ」
「こんなものじゃ、まず話にならん。今日は帰らせてもらう」
 高木海軍大臣の理論立てた説得と、木村陸軍大臣の悪質クレーマーのような発言。性質の異なる二つの意見が、宍戸の心を抉ってくる。
 高木海軍大臣はともかく、木村陸軍大臣は機嫌を悪くして帰っていった。
「……何がいけなかったんだろうなぁ」
 宍戸は自分の机の前で、上の空になりながら今回の原因を探っていた。
 すると、書類を持ってきた一人の下士官が、声をかけてくる。
「所長。大変申し上げにくいのですが、所長は一人歩きが過ぎます。研究所内でも、所長の自由奔放ぶりに困惑しているのです。その……、もう少し他人と関わるのはどうでしょうか?」
 そういって下士官は、書類を置いてさっさと退散した。
「……関わりを持つ、かぁ」
 学校を卒業するたびに人間関係がリセットされていた宍戸には、身に覚えのある指摘だった。
「ちゃんと話をしなきゃな……」
 宍戸は小さく決意した。
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