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第23話 二者択一
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一九三六年三月三日。
撤退しつつある関東軍に対して、立川戦略研究所から大本営を通じて、ある命令が下る。
『内地に引き上げる部隊のうち、撤退が最も遅かった師団一個は、問答無用でスペインに派遣することとする。加えて、引き上げを拒否した場合、一兵卒に至るまで全員死刑に処す』
非合理的かつ非効率的ではあるが、インパクトのある命令が下った。
この命令は、思いの外効果があったようで、即座に各部隊が引き上げに入った。
しかし満州国は広い。ソ連との国境付近にいた部隊は引き上げに時間がかかるだろう。
各部隊が撤退に力を入れている中、立川戦略研究所はある決断をしていた。
「……では、前線にいた第九師団をスペインに派遣することを決定します」
すでにスペインに派遣する部隊が決定していたのだ。
(先に発した命令は、引き上げを容易にするためのブラフ。スペインに派遣する部隊はこちらで勝手に決めて、後は内地に引き上げるように見せかけて、そのままヨーロッパまでの船旅だ)
海軍研究員からの発案であったが、そこそこ合理的であったため、その案が採用されたのである。
(正直、悪魔か何かが考える案だったが、背に腹は代えられぬ……)
宍戸は心の中で手を合わせるのだった。
そしてもう一つ、重要な決定が成されようとしていた。それは、次の内閣が組閣された時に決定される、重要な事項である。
「スペイン内戦において、どちらの勢力に肩入れするか……」
史実の日本は、ファシスト陣営である反乱軍を支持し、武器の供与などを行った。
今回の場合、正直どちらに転ぶかは正直分からない。与党が変われば、政府軍を支持するかもしれない。
どちらにせよ、その結果は二週間後の解散総選挙で決まる。
そんな折、研究所を訪れる海軍軍人の姿があった。米内光政中将である。
「君が宍戸海軍少将かね?」
「はい、その通りです」
「少し話がある」
宍戸と米内中将は小さな会議室に入る。米内中将が席に着くと、ゆっくりと話し始める。
「風の噂で聞いたのだが、君はスペイン内戦には不干渉でいたいらしいじゃないか」
「そう、ですね。なるべくなら面倒事は避けたいですし」
「私だってそうだ。軍政は面倒な事ばかりだ。しかし、指名されてしまったからには力を発揮せねばならない。それが日本男児というものだ」
なぜか説教のようなものを受ける宍戸。
「話がズレたな。君はスペイン内戦のことをどう見る?」
「……どっちにも付きたくないです。厳密に言えば、付けないといいますか。政府軍は反ファシズム。つまり枢軸国と敵対している連合国と親和性が高いです。あのアメリカやイギリスに接近できるとは思えません。反乱軍はファシズム。日本と外交的に距離が近い枢軸国が支持していますが、悪名高きナチス党と手を組むのは気が引けます」
「なるほど……。それが君の意見か」
米内中将は少し俯き、軽く溜息をついた。
「まぁ、理想論と言うか、君のエゴが詰まった主張だな」
宍戸は直球の意見に、少し心が傷ついた。
「確かに、極論を言えば中立でいたいのが普通だ。しかし、国際情勢は複雑に作用し合う。欧州での出来事が、波及的に帝国にまで影響を及ぼす。だから状況を注視して放置するというのはあり得ない話なのだよ」
「うっ……」
宍戸は指摘された通りの思考をしていたため、身につまされる思いだった。
「それを踏まえた上で聞いてほしいが、今の帝国の打つ手はもう決まっている。反乱軍を支持する」
「……本当ですか?」
「嘘を言ってどうする? これは岡田総理が、衆議院解散前から与野党で内密に話し合っていたことだ。元より、ナチス・ドイツとは外交のために接近している節がある。それを追いかけるように、我が帝国は反乱軍を支持するだろう」
「そう……ですか」
「何か気になることでもあるのかね?」
「自分と同じ境遇の人がいるんです。未来から転生してきた人が。彼女は今、一人で政府軍のいるマドリードに向かっているはずです。そんな彼女を、自分は救いたい」
「そのために、関東軍の一個師団をスペインに送り込むわけか」
「たった一人のために動員する人数ではないですし、特殊部隊でもないわけですが、そこにいるのは数ヶ月前まで一般人だった人です。今の心境は、とても心細いはずです。だからこそ、救いの手を差し伸べたいんです」
「ふむ、そこそこ考えているんだな」
そういって米内中将は、椅子から立ち上がる。
「よろしい。関東軍の輸送に協力しよう。元よりそのつもりだったが、今ので決心がついたよ」
「あ、ありがとうございます」
こうして、関東軍のスペイン遠征の準備が着々と進められていく。
撤退しつつある関東軍に対して、立川戦略研究所から大本営を通じて、ある命令が下る。
『内地に引き上げる部隊のうち、撤退が最も遅かった師団一個は、問答無用でスペインに派遣することとする。加えて、引き上げを拒否した場合、一兵卒に至るまで全員死刑に処す』
非合理的かつ非効率的ではあるが、インパクトのある命令が下った。
この命令は、思いの外効果があったようで、即座に各部隊が引き上げに入った。
しかし満州国は広い。ソ連との国境付近にいた部隊は引き上げに時間がかかるだろう。
各部隊が撤退に力を入れている中、立川戦略研究所はある決断をしていた。
「……では、前線にいた第九師団をスペインに派遣することを決定します」
すでにスペインに派遣する部隊が決定していたのだ。
(先に発した命令は、引き上げを容易にするためのブラフ。スペインに派遣する部隊はこちらで勝手に決めて、後は内地に引き上げるように見せかけて、そのままヨーロッパまでの船旅だ)
海軍研究員からの発案であったが、そこそこ合理的であったため、その案が採用されたのである。
(正直、悪魔か何かが考える案だったが、背に腹は代えられぬ……)
宍戸は心の中で手を合わせるのだった。
そしてもう一つ、重要な決定が成されようとしていた。それは、次の内閣が組閣された時に決定される、重要な事項である。
「スペイン内戦において、どちらの勢力に肩入れするか……」
史実の日本は、ファシスト陣営である反乱軍を支持し、武器の供与などを行った。
今回の場合、正直どちらに転ぶかは正直分からない。与党が変われば、政府軍を支持するかもしれない。
どちらにせよ、その結果は二週間後の解散総選挙で決まる。
そんな折、研究所を訪れる海軍軍人の姿があった。米内光政中将である。
「君が宍戸海軍少将かね?」
「はい、その通りです」
「少し話がある」
宍戸と米内中将は小さな会議室に入る。米内中将が席に着くと、ゆっくりと話し始める。
「風の噂で聞いたのだが、君はスペイン内戦には不干渉でいたいらしいじゃないか」
「そう、ですね。なるべくなら面倒事は避けたいですし」
「私だってそうだ。軍政は面倒な事ばかりだ。しかし、指名されてしまったからには力を発揮せねばならない。それが日本男児というものだ」
なぜか説教のようなものを受ける宍戸。
「話がズレたな。君はスペイン内戦のことをどう見る?」
「……どっちにも付きたくないです。厳密に言えば、付けないといいますか。政府軍は反ファシズム。つまり枢軸国と敵対している連合国と親和性が高いです。あのアメリカやイギリスに接近できるとは思えません。反乱軍はファシズム。日本と外交的に距離が近い枢軸国が支持していますが、悪名高きナチス党と手を組むのは気が引けます」
「なるほど……。それが君の意見か」
米内中将は少し俯き、軽く溜息をついた。
「まぁ、理想論と言うか、君のエゴが詰まった主張だな」
宍戸は直球の意見に、少し心が傷ついた。
「確かに、極論を言えば中立でいたいのが普通だ。しかし、国際情勢は複雑に作用し合う。欧州での出来事が、波及的に帝国にまで影響を及ぼす。だから状況を注視して放置するというのはあり得ない話なのだよ」
「うっ……」
宍戸は指摘された通りの思考をしていたため、身につまされる思いだった。
「それを踏まえた上で聞いてほしいが、今の帝国の打つ手はもう決まっている。反乱軍を支持する」
「……本当ですか?」
「嘘を言ってどうする? これは岡田総理が、衆議院解散前から与野党で内密に話し合っていたことだ。元より、ナチス・ドイツとは外交のために接近している節がある。それを追いかけるように、我が帝国は反乱軍を支持するだろう」
「そう……ですか」
「何か気になることでもあるのかね?」
「自分と同じ境遇の人がいるんです。未来から転生してきた人が。彼女は今、一人で政府軍のいるマドリードに向かっているはずです。そんな彼女を、自分は救いたい」
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「ふむ、そこそこ考えているんだな」
そういって米内中将は、椅子から立ち上がる。
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