46 / 149
第46話 進言
しおりを挟む
一九三六年八月六日。宍戸は首相官邸を訪れていた。
ここに来た理由は当然、日英仏蘭の四ヶ国による同盟の実現のためだ。
職員が出迎え、そのまま応接室に案内される。そこには米内総理と外務大臣がいた。
「よく来たな。ま、かけてくれ」
「失礼します」
宍戸はソファにかける。
「それで、今日の話とはなんだ?」
「実はですね……」
宍戸は、四ヶ国同盟の概要を説明をする。
それを聞いた米内は、眉間にシワを寄せる。
「……それは、今日見た夢の内容か?」
「いえ、本気で考えた内容です」
「いくらなんでも無茶です!」
米内総理の横で、外務大臣が叫ぶ。
「我が国の主張が通らなかったから国際連盟を脱退したのに、どうしてそこに戻るような真似をするんです!?」
「彼の言う通りだ。我々は不本意ながら連盟を抜けたんだ。そこに戻る理由はなんだ? なぜそこにこだわる?」
米内総理の問いかけに、宍戸は答える。
「簡単なことです。ナチス・ドイツを完全な悪にしたいんですよ」
「ナチス・ドイツを悪に?」
「前にも誰かに話したと思うんですが、自分がいた世界では、ナチス・ドイツはある種の悪の象徴として捉えられていました。そのような悪行を繰り返してはならないと、ナチス・ドイツ解体後のドイツの学校では教えているのです。ナチス・ドイツ……、いや、ヒトラーさえいなくなれば、世界に平穏が訪れるのです」
宍戸は米内総理に熱弁する。
「……ヒトラーはそれほどまでに恐ろしい存在かね?」
「えぇ、恐ろしいです。そして、そのヒトラー率いるナチス・ドイツを追いつめたソ連も、です」
「ソ連がナチス・ドイツを追いつめたんですか……!?」
外務大臣は驚きすぎて、逆に疲れているようだ。
「にわかには信じがたいが、それは本当なのかね?」
「本当です。信じてください」
宍戸はまっすぐな目で、米内総理を見る。
それに参ったのか、米内総理は一つ溜息をついた。
「要するに、ナチス・ドイツとの関係を断つ、と言いたいのだな?」
「はい」
「……これはとんでもない決断になるぞ」
「これも、大日本帝国が生き残るためです」
米内総理は顎に手をやって、少し考える。
「帝国のためなら仕方ない。最終的にはナチス・ドイツとの対立を視野に入れよう」
「ありがとうございます」
宍戸と米内総理は、目を合わせて合意する。その横で外務大臣は頭を抱えていた。
「それに関係する話だが、こちらからも話しておきたいことがある」
そういって米内総理は、外務大臣のことをつつく。
「はっ……。えぇと、これは外務省の諜報員が掴んだ情報なのですが、ナチス・ドイツの歩兵師団がチェコスロバキアに移動しているとのことです」
「……は?」
今度は宍戸があっけに取られてしまった。
「おそらく、チェコスロバキアを武力でぶん捕ろうという魂胆だろう。これは史実通りかね?」
米内総理が宍戸に聞く。
「……そんなことはありません。少なくとも、ズデーテン分割は武力を使わないで穏便に済んだはずです」
「なら、どうやって分割したのかね?」
「確か……、ミュンヘン会議にて、イギリス、フランス、イタリア、ドイツの首相が会合し、ドイツの領土拡大をしないという条件を元に、分割を容認していました」
「まぁ、筋の通る話だな。おそらく、今回は武力でなんとかするという話だな」
「でも、それをやったらイギリスやフランスが黙ってないですよ?」
「しかし、場所が場所だ。残念ながら、イギリスは動くことはないだろう」
「ならフランスは?」
「どうだろうな。ラインラントより先に進めないのなら、それまでだろう」
「そうなると、列強の大規模な衝突はないと?」
「おそらくは。しかしこれも時間の問題だろう。ナチス・ドイツと英国で結ばれた英独海軍協定が破棄されれば、イギリスはすぐにでも対独開戦をするはずだ」
「うーん……。世界情勢は複雑怪奇だなぁ……」
「しかしこうみると、武力に物を言わせるナチス・ドイツは、確かに悪そのものに見えるな」
「そのうちユダヤ人の迫害を始めますし、やはり今のうちに手を切るのが得策ですよ」
「うむ……、そのようだな」
米内総理は少し唸ると、決断した。
「分かった。ナチス・ドイツとは手を切る。ただし、これに関しては水面下で隠密に進めるように」
こうして米内総理の決断により、ドイツとの国交を断絶するための準備が進んでいくことになった。
ここに来た理由は当然、日英仏蘭の四ヶ国による同盟の実現のためだ。
職員が出迎え、そのまま応接室に案内される。そこには米内総理と外務大臣がいた。
「よく来たな。ま、かけてくれ」
「失礼します」
宍戸はソファにかける。
「それで、今日の話とはなんだ?」
「実はですね……」
宍戸は、四ヶ国同盟の概要を説明をする。
それを聞いた米内は、眉間にシワを寄せる。
「……それは、今日見た夢の内容か?」
「いえ、本気で考えた内容です」
「いくらなんでも無茶です!」
米内総理の横で、外務大臣が叫ぶ。
「我が国の主張が通らなかったから国際連盟を脱退したのに、どうしてそこに戻るような真似をするんです!?」
「彼の言う通りだ。我々は不本意ながら連盟を抜けたんだ。そこに戻る理由はなんだ? なぜそこにこだわる?」
米内総理の問いかけに、宍戸は答える。
「簡単なことです。ナチス・ドイツを完全な悪にしたいんですよ」
「ナチス・ドイツを悪に?」
「前にも誰かに話したと思うんですが、自分がいた世界では、ナチス・ドイツはある種の悪の象徴として捉えられていました。そのような悪行を繰り返してはならないと、ナチス・ドイツ解体後のドイツの学校では教えているのです。ナチス・ドイツ……、いや、ヒトラーさえいなくなれば、世界に平穏が訪れるのです」
宍戸は米内総理に熱弁する。
「……ヒトラーはそれほどまでに恐ろしい存在かね?」
「えぇ、恐ろしいです。そして、そのヒトラー率いるナチス・ドイツを追いつめたソ連も、です」
「ソ連がナチス・ドイツを追いつめたんですか……!?」
外務大臣は驚きすぎて、逆に疲れているようだ。
「にわかには信じがたいが、それは本当なのかね?」
「本当です。信じてください」
宍戸はまっすぐな目で、米内総理を見る。
それに参ったのか、米内総理は一つ溜息をついた。
「要するに、ナチス・ドイツとの関係を断つ、と言いたいのだな?」
「はい」
「……これはとんでもない決断になるぞ」
「これも、大日本帝国が生き残るためです」
米内総理は顎に手をやって、少し考える。
「帝国のためなら仕方ない。最終的にはナチス・ドイツとの対立を視野に入れよう」
「ありがとうございます」
宍戸と米内総理は、目を合わせて合意する。その横で外務大臣は頭を抱えていた。
「それに関係する話だが、こちらからも話しておきたいことがある」
そういって米内総理は、外務大臣のことをつつく。
「はっ……。えぇと、これは外務省の諜報員が掴んだ情報なのですが、ナチス・ドイツの歩兵師団がチェコスロバキアに移動しているとのことです」
「……は?」
今度は宍戸があっけに取られてしまった。
「おそらく、チェコスロバキアを武力でぶん捕ろうという魂胆だろう。これは史実通りかね?」
米内総理が宍戸に聞く。
「……そんなことはありません。少なくとも、ズデーテン分割は武力を使わないで穏便に済んだはずです」
「なら、どうやって分割したのかね?」
「確か……、ミュンヘン会議にて、イギリス、フランス、イタリア、ドイツの首相が会合し、ドイツの領土拡大をしないという条件を元に、分割を容認していました」
「まぁ、筋の通る話だな。おそらく、今回は武力でなんとかするという話だな」
「でも、それをやったらイギリスやフランスが黙ってないですよ?」
「しかし、場所が場所だ。残念ながら、イギリスは動くことはないだろう」
「ならフランスは?」
「どうだろうな。ラインラントより先に進めないのなら、それまでだろう」
「そうなると、列強の大規模な衝突はないと?」
「おそらくは。しかしこれも時間の問題だろう。ナチス・ドイツと英国で結ばれた英独海軍協定が破棄されれば、イギリスはすぐにでも対独開戦をするはずだ」
「うーん……。世界情勢は複雑怪奇だなぁ……」
「しかしこうみると、武力に物を言わせるナチス・ドイツは、確かに悪そのものに見えるな」
「そのうちユダヤ人の迫害を始めますし、やはり今のうちに手を切るのが得策ですよ」
「うむ……、そのようだな」
米内総理は少し唸ると、決断した。
「分かった。ナチス・ドイツとは手を切る。ただし、これに関しては水面下で隠密に進めるように」
こうして米内総理の決断により、ドイツとの国交を断絶するための準備が進んでいくことになった。
7
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
電子の帝国
Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか
明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる