転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
57 / 149

第57話 独立

しおりを挟む
 一九三七年二月二十八日。新生ロシア帝国暫定首都、ウラジオストク。
 この地に、新しい皇帝の血脈が生まれようとしていた。
「あぁ……。なんで俺が皇帝になんかなるんだ……」
 戴冠式を明日に控えているアレクセイ・イグナトフは、仮の王宮であるアパートの一室のベッドで横になっていた。
「どうしてこうなっちまったかなぁ……」
 そんなことを呟いていると、スマホが鳴る。電話のようだ。
 イグナトフは仕方なく電話に出る。
「もしもし?」
『もしもし、日本の宍戸だ』
「あぁ、君か。何か用?」
『大まかな状況は外務省から聞いてる。新生ロシア帝国の皇帝になるそうじゃないか』
「僕のことを笑うために電話したのか? 相当悪趣味だな」
『ちょっとばかり気分をよくしようと思っただけだ。そんな皇帝陛下と、少し外交がしたいと思ってね』
「外交? また変な話を持ってくるつもりじゃないよね?」
『そこまで変な話じゃないさ。単刀直入に言うと、ぜひ皇帝として頑張ってほしいんだ』
「やっぱり僕のことをバカにしてない?」
『ちゃんと理由はあるよ。まずはドイツと対抗するために、新生ロシア帝国を治めてほしい』
「なんでドイツと……」
『近い将来、新生ロシア帝国でユダヤ人を難民として受け入れてほしいからだ。受け入れが上手くいけば、技術大国として成り上がれるぞ』
「おいおいおいおい、ちょっと待ってくれよ。いきなり帝国の君主になれって言われて衝撃的だったのに、おまけみたいにそんなこと言うなよ。それなら皇帝になるより難民受け入れのための職員になったほうがマシじゃないか」
『まぁまぁ、そういうなって。ついでの話だし、皇帝になるよりは面倒じゃなさそうだろ?』
「明らかに面倒だよ。そもそも普通はやらないんだよ、そんなこと」
『普通はやらないことをやるからこそ、人は英雄になれる。やってみる価値があるなら、どんなことにも飛び込んでいくのが、国を大きく発展させる方法だと俺は思うぞ。もちろん、やらなきゃよかったって思うようなハズレもあるだろうけど』
 宍戸の言葉を聞いて、イグナトフは妙に納得する。
「……確かにそうかもしれないな」
 宍戸の言葉に、イグナトフは同意する。
「僕は、新しい国の光。不安に思う人々を救うためにいる。そう考えれば、皇帝の座に座ることも、案外悪くないかもね」
『お、いいね、その心意気だよ』
「まぁ、まだ緊張とかするけど……。誰かがやるべき立場になれる人なんて、そんなに多くはないからね」
『じゃあ、よろしく頼むよ、ロシア皇帝陛下』
「うん」
 そういって電話は切れた。
「僕がやらなきゃ駄目なんだ……。僕が最悪な世界を変えるんだ……」
 戦いたくない、だから変える。祖国を変えるためなら、新しい国の君主にでもなる。
 それは、イグナトフの決めた道なのだから。
 翌日、一九三七年三月一日。
 イグナトフは、ウラジオストクの中央広場━━現在の地名で言う「革命の闘士の広場」━━で戴冠式を行う。
 実際に頭に乗せるのは、黄金に光り輝く豪華な王冠ではなく、その辺にあった木材を張り合わせて作った木製の王冠である。おそらく世界で一番貧しい王族の誕生だろう。
 まずイグナトフは、近くの教会の司祭により、イグナトフ自身が皇帝になることを承認される。
「それでは、皇帝陛下に王冠を」
 そういって見た目が悪い王冠を、イグナトフは頭に乗せられた。周辺で見ていたウラジオストクの住民から、まばらな拍手を貰う。
 そして最後に、イグナトフは出来の悪い椅子に座る。これが玉座となったのだ。
 こうしてイグナトフは、イグナトフ朝新生ロシア帝国初代皇帝アレクセイ一世として、新しい国家の君主へと成り上がった。
 アレクセイ一世は、目の前にいる国民に向かって宣誓する。
「私は一国の王として、ロシア正教会の教えに則り、国を治めていくことを誓う」
 これまでにない、自信に満ち溢れた宣誓だった。
 こうしてアレクセイ一世の戴冠式は終了。宣誓の姿を収めた写真は、地元新聞社に持ち込まれ、号外として配布された。
 さらにロシア帝国暫定政府は、これをプロパガンダとするべく、周辺国家である日本、ソ連、中華民国などに写真の複製を送りつけた。
 これにより、各国の新聞各社がこぞって新生ロシア帝国のことを話題に上げる。そしてニュースは世界中に広まった。
『新生ロシア帝国、独立を宣言』
 世界はさらに混沌を極めていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...