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第65話 グダンスク湾攻防戦 後編
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ハーミーズとアーク・ロイヤル両艦は、敵艦を攻撃すべく、ソードフィッシュの発艦を急いでいた。
攻撃できるならと、爆雷を最浅の水深で爆発するように設定し、それを投下するという無茶を始めたのだ。
すでに第三波攻撃までしているが、これがなかなかうまくいかない。
というのも、敵艦の針路前方に爆雷を投下するのだが、イギリス海軍では誰もやったことがない上に、敵が舵を切って回避してしまうため、爆発の衝撃が伝わりづらいのだ。
さらにこの攻撃を行うには、敵艦に肉薄する必要があるため、簡単に撃墜されてしまう。
第三波攻撃の時点で出撃機体が二十八機に対して、撃墜された機体は四機にもなる。
ソードフィッシュとしては、異様に高い損耗率だ。とはいえ、これは戦争であるため損耗率が高いと言われればそれまでだが。
だが、この結果はグロッド少将や参謀たちを悩ませる。
「これ以上航空兵を失うわけにはイカン……。しかしそれでは、ここから出ることはおろか、ここで骨を埋める結果になりかねん……」
「少将、ここは護衛艦隊の駆逐艦を使うのはいかがでしょう。もう我々の戦力は、彼らしかいません」
そこへ、さらに悪いニュースが飛び込んでくる。
「爆雷の残量が三割を切りました! これ以上の攻撃は、帰路での対潜攻撃に支障をきたします!」
「くっ、我々もここまでか……」
空母艦隊の司令部は静まり返る。どうにかして現状を打破しなければならないのだが、それが叶わない。
そんな時、通信兵がメモ紙を持って司令部に入ってくる。
「ゆ、友軍からの通信です!」
「友軍だと? 一体誰が……」
「電文は『女王陛下のご登場だ』とあります!」
「女王陛下……? まさか……!」
バルト海を悠然と進む、一つの艦隊。
「我々が来たからには、敵の思うようにはさせんぞ」
クイーン・エリザベスを旗艦とした主力艦隊。ウォースパイトの他、重巡洋艦を四隻も擁する、まさに火力も物を言わせるような艦隊だ。
まさにロバート・コーデンが予測していた通りの展開になった。
そしてその艦隊を指揮するのは、モーリス中将である。
「レーダー探知、敵艦と思われる艦影を四隻捕捉しました」
「よろしい。主砲射撃用意。目標は敵艦隊の先頭を行く艦だ」
「主砲射撃用意! 目標、敵艦隊の先頭!」
クイーン・エリザベスとウォースパイトの砲塔が右舷へと向く。交互射撃のため、各砲塔の片方が仰角を上げる。
「目標との距離一万!」
「測距完了! 偏差、右に四! 仰角五!」
「主砲装填よし!」
「射撃準備完了しました」
モーリス中将に報告が入る。
その一方で、ドイツ艦艇はイギリス主力艦隊の様子に気が付いていないようだ。
モーリス中将は、これを好機と捉えた。
「主砲、射撃開始」
「撃てー!」
口径が十五インチもある砲口から火が噴く。体中に響き渡る重低音が、艦内にいる人々にまで襲ってくる。
砲弾は空中を進み、そのまま敵艦の周辺の海面に突き刺さる。
それは敵艦の艦橋と同じくらいの高さまで噴き上がった。
「どうだ? 命中したか?」
モーリス中将が尋ねる。
「いえ、命中弾はない模様です。しかし、確実に射程に捉えています」
「ならばよろしい。次弾発射用意」
「次弾発射用意!」
すでに砲弾が装填されている、もう片方の砲身が上方を向く。
「目標以前変わりなし」
「誤差修正、右に一、俯角コンマ五」
「修正よし」
それを聞いたモーリス中将は、双眼鏡を覗きながら命令する。
「次弾発射」
「撃て!」
再び砲口から火が噴く。
今度は、砲弾が目標の敵艦に突き刺さる。距離にして約十キロメートルだが、砲弾は上から降ってくるような弾道を描く。これにより、装甲が比較的薄い甲板をぶち抜くのである。
ここに来て、ようやくドイツ軍の反撃である。
『クソ、どこから攻撃しやがった!?』
『見張り員の情報からだと、あっちで光ったようだ』
『とにかく反撃だ!』
『主砲装填完了!』
『撃て撃て!』
水平線の向こうから何かが光った。
「敵の反撃が来ます」
「大丈夫だ、当たらんよ」
モーリス中将がそんなことを言う。
十数秒後、イギリス主力艦隊の前方一キロメートルの所で水柱が上がる。
「問題なかったな」
中将は自慢するように言う。
「次弾装填完了!」
各砲塔から艦橋に連絡が入る。
「よし。主砲発射」
「撃てー!」
こうして戦艦、そして重巡洋艦からの砲撃が、雨のようにドイツ艦隊に降り注ぐ。
そのうち、ウォースパイトの砲弾が敵艦の重要区画に命中したのか、双眼鏡を覗かなくても分かるくらいに大きな爆発を起こす。
「目標、大破しました」
「ならばよし。目標を次の艦に変更。全て撃破する」
「了解。次弾装填! 目標を次の艦に変更!」
「次弾装填急げ!」
冷静なイギリス海軍と対照的に、ドイツ海軍はかなり焦りと緊張、恐怖に飲まれていた。
『シュレスヴィヒ・ホルシュタインがやられた!』
『ま、まだだ! まだ戦艦のシュレジェンがいる!』
『撃ち返せ! 我々には総統とドイツ民族の加護がある!』
傲慢と慢心。この二つの要因により、ドイツ海軍の射撃を狂わせる。
最終的には一方的に、そして丁寧に砲撃で敵艦を沈めていく。その上、互いの距離が接近し、最終的にはイギリス海軍の主力艦隊とドイツ艦隊は数キロメートルまで近づいた。この接近によって、さらに射撃の命中率が上がる。
こうして太陽が顔を出す頃には、ドイツ艦隊は全艦行動不能になったのである。
そして輸送船団は無事にグダンクス湾を出ることに成功したのだった。
攻撃できるならと、爆雷を最浅の水深で爆発するように設定し、それを投下するという無茶を始めたのだ。
すでに第三波攻撃までしているが、これがなかなかうまくいかない。
というのも、敵艦の針路前方に爆雷を投下するのだが、イギリス海軍では誰もやったことがない上に、敵が舵を切って回避してしまうため、爆発の衝撃が伝わりづらいのだ。
さらにこの攻撃を行うには、敵艦に肉薄する必要があるため、簡単に撃墜されてしまう。
第三波攻撃の時点で出撃機体が二十八機に対して、撃墜された機体は四機にもなる。
ソードフィッシュとしては、異様に高い損耗率だ。とはいえ、これは戦争であるため損耗率が高いと言われればそれまでだが。
だが、この結果はグロッド少将や参謀たちを悩ませる。
「これ以上航空兵を失うわけにはイカン……。しかしそれでは、ここから出ることはおろか、ここで骨を埋める結果になりかねん……」
「少将、ここは護衛艦隊の駆逐艦を使うのはいかがでしょう。もう我々の戦力は、彼らしかいません」
そこへ、さらに悪いニュースが飛び込んでくる。
「爆雷の残量が三割を切りました! これ以上の攻撃は、帰路での対潜攻撃に支障をきたします!」
「くっ、我々もここまでか……」
空母艦隊の司令部は静まり返る。どうにかして現状を打破しなければならないのだが、それが叶わない。
そんな時、通信兵がメモ紙を持って司令部に入ってくる。
「ゆ、友軍からの通信です!」
「友軍だと? 一体誰が……」
「電文は『女王陛下のご登場だ』とあります!」
「女王陛下……? まさか……!」
バルト海を悠然と進む、一つの艦隊。
「我々が来たからには、敵の思うようにはさせんぞ」
クイーン・エリザベスを旗艦とした主力艦隊。ウォースパイトの他、重巡洋艦を四隻も擁する、まさに火力も物を言わせるような艦隊だ。
まさにロバート・コーデンが予測していた通りの展開になった。
そしてその艦隊を指揮するのは、モーリス中将である。
「レーダー探知、敵艦と思われる艦影を四隻捕捉しました」
「よろしい。主砲射撃用意。目標は敵艦隊の先頭を行く艦だ」
「主砲射撃用意! 目標、敵艦隊の先頭!」
クイーン・エリザベスとウォースパイトの砲塔が右舷へと向く。交互射撃のため、各砲塔の片方が仰角を上げる。
「目標との距離一万!」
「測距完了! 偏差、右に四! 仰角五!」
「主砲装填よし!」
「射撃準備完了しました」
モーリス中将に報告が入る。
その一方で、ドイツ艦艇はイギリス主力艦隊の様子に気が付いていないようだ。
モーリス中将は、これを好機と捉えた。
「主砲、射撃開始」
「撃てー!」
口径が十五インチもある砲口から火が噴く。体中に響き渡る重低音が、艦内にいる人々にまで襲ってくる。
砲弾は空中を進み、そのまま敵艦の周辺の海面に突き刺さる。
それは敵艦の艦橋と同じくらいの高さまで噴き上がった。
「どうだ? 命中したか?」
モーリス中将が尋ねる。
「いえ、命中弾はない模様です。しかし、確実に射程に捉えています」
「ならばよろしい。次弾発射用意」
「次弾発射用意!」
すでに砲弾が装填されている、もう片方の砲身が上方を向く。
「目標以前変わりなし」
「誤差修正、右に一、俯角コンマ五」
「修正よし」
それを聞いたモーリス中将は、双眼鏡を覗きながら命令する。
「次弾発射」
「撃て!」
再び砲口から火が噴く。
今度は、砲弾が目標の敵艦に突き刺さる。距離にして約十キロメートルだが、砲弾は上から降ってくるような弾道を描く。これにより、装甲が比較的薄い甲板をぶち抜くのである。
ここに来て、ようやくドイツ軍の反撃である。
『クソ、どこから攻撃しやがった!?』
『見張り員の情報からだと、あっちで光ったようだ』
『とにかく反撃だ!』
『主砲装填完了!』
『撃て撃て!』
水平線の向こうから何かが光った。
「敵の反撃が来ます」
「大丈夫だ、当たらんよ」
モーリス中将がそんなことを言う。
十数秒後、イギリス主力艦隊の前方一キロメートルの所で水柱が上がる。
「問題なかったな」
中将は自慢するように言う。
「次弾装填完了!」
各砲塔から艦橋に連絡が入る。
「よし。主砲発射」
「撃てー!」
こうして戦艦、そして重巡洋艦からの砲撃が、雨のようにドイツ艦隊に降り注ぐ。
そのうち、ウォースパイトの砲弾が敵艦の重要区画に命中したのか、双眼鏡を覗かなくても分かるくらいに大きな爆発を起こす。
「目標、大破しました」
「ならばよし。目標を次の艦に変更。全て撃破する」
「了解。次弾装填! 目標を次の艦に変更!」
「次弾装填急げ!」
冷静なイギリス海軍と対照的に、ドイツ海軍はかなり焦りと緊張、恐怖に飲まれていた。
『シュレスヴィヒ・ホルシュタインがやられた!』
『ま、まだだ! まだ戦艦のシュレジェンがいる!』
『撃ち返せ! 我々には総統とドイツ民族の加護がある!』
傲慢と慢心。この二つの要因により、ドイツ海軍の射撃を狂わせる。
最終的には一方的に、そして丁寧に砲撃で敵艦を沈めていく。その上、互いの距離が接近し、最終的にはイギリス海軍の主力艦隊とドイツ艦隊は数キロメートルまで近づいた。この接近によって、さらに射撃の命中率が上がる。
こうして太陽が顔を出す頃には、ドイツ艦隊は全艦行動不能になったのである。
そして輸送船団は無事にグダンクス湾を出ることに成功したのだった。
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