68 / 149
第68話 空中戦
しおりを挟む
一九三七年七月四日。フランス、リール近郊。
その上空を飛んでいくフランス空軍の飛行隊があった。哨戒任務に当たっている第六三六飛行大隊所属のエスマーレ隊である。
隊長であるエスマーレ大尉を先頭に、合計六機のMS406が飛行している。
史実ではMS406はそこまで普及していなかったが、一九三六世界では早期に研究開発、そして製造されたようだ。この飛行隊では無線機は積んでおらず、機体の動きか、発光によるモールス信号でやり取りをする。
「もうこの辺りは前線か……。だいぶやられているようだ」
エスマーレ大尉は、周辺の様子を伺いながら下の方を眺める。
数キロメートルごとに黒い煙が小さく上がっている。戦車が破壊された煙と思われる。残念ながら、この煙が味方であるフランスのものか、敵であるドイツのものかは分からない。
ただ、そこで戦闘が行われていたことだけを物語っていた。
そんな中、エスマーレ大尉のすぐ後ろを飛んでいた部下の機体から、何か光るような物が見えた。
エスマーレ大尉がそちらを振り向くと、部下がとある方向へ指を向けていた。その方向を見ると、同じくらいの高度に何かキラキラ光る物が見える。
「あれは……」
エスマーレ大尉は、機体を右方向に二度傾けた。これは、そちらの方向に移動するという合図だ。
機体を傾け、右方向に緩く旋回する。後続の部下たちもエスマーレ大尉の機体に追従する。
そのまましばらく飛行していると、機影がはっきりとしてくる。
どうやら二種類の軍用機が、大編隊を組んで飛行しているようだ。その中で、中心部分に固まっていた航空機は、逆ガル翼をしていた。
「しまった! スツーカだ!」
どうやら敵であるドイツ空軍の爆撃隊を発見したようだ。
エスマーレ大尉は素早く機体を左右に振る。戦闘の合図である。
エンジンをフルスロットルに入れ、上昇を開始する。それに合わせるように、敵編隊の護衛をしていたBf109も編隊を離れて、こちらを攻撃しようとしている。
「いくぞ……。ついてこいよっ」
部下を励ますようにエスマーレ大尉は呟き、操縦桿を思いっきり倒す。
先にエスマーレ大尉が仕掛ける。まだ距離がある中、ヘッドオン気味に攻撃を開始する。初弾は命中せず、敵が回避しつつある中、双方が交差する。
敵機が反転して攻撃しようとする中、エスマーレ大尉はエンジン全開でスツーカ爆撃隊のほうに向かう。部下たちもそれに続いた。
スツーカは反撃のためにこちらに機首を向ける。それを見計らって、エスマーレ大尉は操縦桿を奥に倒し、機体の高度を下げる。若干スツーカの下になったのを確認すると、今度は思いっきり操縦桿を引き、機体を上げる。ちょうど機首の延長線上にスツーカが入った。
その瞬間をエスマーレ大尉は見逃さなかった。反射的に機銃の引き金を引く。
機銃から弾丸が発射され、スツーカの機体下部の中心付近に命中する。抱えていた爆弾には命中しなかったようだ。
そのままスツーカ爆撃隊とすれ違う。エスマーレ大尉が攻撃したスツーカは、地面に吸い込まれるように墜ちていった。
「一機撃墜!」
エスマーレ大尉が喜んでいると、すぐに残りのスツーカ爆撃隊の後部機銃の攻撃を受ける。そのさらに向こうには、先ほど交差したBf109もいる。
「行くぞ! 散開して攻撃だ!」
無線などで繋がってはいないが、エスマーレ大尉の言葉が聞こえているかのように部下たちは振舞う。エスマーレ隊は散開し、それぞれの戦闘機と交戦する。
スツーカの後部機銃による攻撃もある中、それを回避しつつ敵を狙いすます。
そんな中、エスマーレ隊の一機が敵の攻撃をモロに食らい、エンジンから火を噴く。パイロットはすぐさま風防を開け、機体から脱出した。
撃墜された機体がスツーカ爆撃隊のほうへと墜ちていく。スツーカ爆撃隊はそれを簡単に回避するが、その下にいたBf109には心配がいかなかったようだ。
火を噴いたMS406とBf109が衝突し、空中でバラバラに分解された。あの状況では、敵のパイロットは生きていないだろう。
だが、そんな心配をしているほど、空戦に余裕はない。いつの間にかスツーカ爆撃隊は飛行を続け、エスマーレ隊は残りの敵機を撃墜するのに精一杯であった。
そんな中、エスマーレ隊の一機の様子がおかしいことに大尉は気が付いた。
敵機の後ろを取っているのにも関わらず、攻撃しないのだ。
「弾が詰まったか、それとも弾切れか?」
とにかく彼と、その機体を守らなければならない。しかし、エスマーレ大尉は別の敵機を相手しているため、助けに入れない。
その時だった。攻撃しない彼の機体が、一瞬不可解な動きをした。
次の瞬間、高度を下げつつあった敵機に向かって、直接体当たりしたのだ。翼同士がぶつかり合い、激しくきりもみ回転する。
「あぁ!」
エスマーレ大尉は敵機を墜とし、すぐに向かおうとしていた時だった。
だが、機体から分離するように飛ぶ人影を見る。どうやら部下は脱出に成功したようだ。
「すまない、すぐに助けに行くからな……」
開いたパラシュートを見ながら、エスマーレ大尉は心に誓う。
どうやら、体当たりした機体が最後だったようだ。
しかし、スツーカ爆撃隊は取り逃がしてしまった。
「クソ、今回の任務は失敗だな」
それでも、機体の性能差と数の差があるにも関わらず、敵戦闘機を全機撃墜できたのは立派なことである。
エスマーレ大尉は複雑な気持ちのまま、編隊を組みなおして航空基地へと戻っていった。
その上空を飛んでいくフランス空軍の飛行隊があった。哨戒任務に当たっている第六三六飛行大隊所属のエスマーレ隊である。
隊長であるエスマーレ大尉を先頭に、合計六機のMS406が飛行している。
史実ではMS406はそこまで普及していなかったが、一九三六世界では早期に研究開発、そして製造されたようだ。この飛行隊では無線機は積んでおらず、機体の動きか、発光によるモールス信号でやり取りをする。
「もうこの辺りは前線か……。だいぶやられているようだ」
エスマーレ大尉は、周辺の様子を伺いながら下の方を眺める。
数キロメートルごとに黒い煙が小さく上がっている。戦車が破壊された煙と思われる。残念ながら、この煙が味方であるフランスのものか、敵であるドイツのものかは分からない。
ただ、そこで戦闘が行われていたことだけを物語っていた。
そんな中、エスマーレ大尉のすぐ後ろを飛んでいた部下の機体から、何か光るような物が見えた。
エスマーレ大尉がそちらを振り向くと、部下がとある方向へ指を向けていた。その方向を見ると、同じくらいの高度に何かキラキラ光る物が見える。
「あれは……」
エスマーレ大尉は、機体を右方向に二度傾けた。これは、そちらの方向に移動するという合図だ。
機体を傾け、右方向に緩く旋回する。後続の部下たちもエスマーレ大尉の機体に追従する。
そのまましばらく飛行していると、機影がはっきりとしてくる。
どうやら二種類の軍用機が、大編隊を組んで飛行しているようだ。その中で、中心部分に固まっていた航空機は、逆ガル翼をしていた。
「しまった! スツーカだ!」
どうやら敵であるドイツ空軍の爆撃隊を発見したようだ。
エスマーレ大尉は素早く機体を左右に振る。戦闘の合図である。
エンジンをフルスロットルに入れ、上昇を開始する。それに合わせるように、敵編隊の護衛をしていたBf109も編隊を離れて、こちらを攻撃しようとしている。
「いくぞ……。ついてこいよっ」
部下を励ますようにエスマーレ大尉は呟き、操縦桿を思いっきり倒す。
先にエスマーレ大尉が仕掛ける。まだ距離がある中、ヘッドオン気味に攻撃を開始する。初弾は命中せず、敵が回避しつつある中、双方が交差する。
敵機が反転して攻撃しようとする中、エスマーレ大尉はエンジン全開でスツーカ爆撃隊のほうに向かう。部下たちもそれに続いた。
スツーカは反撃のためにこちらに機首を向ける。それを見計らって、エスマーレ大尉は操縦桿を奥に倒し、機体の高度を下げる。若干スツーカの下になったのを確認すると、今度は思いっきり操縦桿を引き、機体を上げる。ちょうど機首の延長線上にスツーカが入った。
その瞬間をエスマーレ大尉は見逃さなかった。反射的に機銃の引き金を引く。
機銃から弾丸が発射され、スツーカの機体下部の中心付近に命中する。抱えていた爆弾には命中しなかったようだ。
そのままスツーカ爆撃隊とすれ違う。エスマーレ大尉が攻撃したスツーカは、地面に吸い込まれるように墜ちていった。
「一機撃墜!」
エスマーレ大尉が喜んでいると、すぐに残りのスツーカ爆撃隊の後部機銃の攻撃を受ける。そのさらに向こうには、先ほど交差したBf109もいる。
「行くぞ! 散開して攻撃だ!」
無線などで繋がってはいないが、エスマーレ大尉の言葉が聞こえているかのように部下たちは振舞う。エスマーレ隊は散開し、それぞれの戦闘機と交戦する。
スツーカの後部機銃による攻撃もある中、それを回避しつつ敵を狙いすます。
そんな中、エスマーレ隊の一機が敵の攻撃をモロに食らい、エンジンから火を噴く。パイロットはすぐさま風防を開け、機体から脱出した。
撃墜された機体がスツーカ爆撃隊のほうへと墜ちていく。スツーカ爆撃隊はそれを簡単に回避するが、その下にいたBf109には心配がいかなかったようだ。
火を噴いたMS406とBf109が衝突し、空中でバラバラに分解された。あの状況では、敵のパイロットは生きていないだろう。
だが、そんな心配をしているほど、空戦に余裕はない。いつの間にかスツーカ爆撃隊は飛行を続け、エスマーレ隊は残りの敵機を撃墜するのに精一杯であった。
そんな中、エスマーレ隊の一機の様子がおかしいことに大尉は気が付いた。
敵機の後ろを取っているのにも関わらず、攻撃しないのだ。
「弾が詰まったか、それとも弾切れか?」
とにかく彼と、その機体を守らなければならない。しかし、エスマーレ大尉は別の敵機を相手しているため、助けに入れない。
その時だった。攻撃しない彼の機体が、一瞬不可解な動きをした。
次の瞬間、高度を下げつつあった敵機に向かって、直接体当たりしたのだ。翼同士がぶつかり合い、激しくきりもみ回転する。
「あぁ!」
エスマーレ大尉は敵機を墜とし、すぐに向かおうとしていた時だった。
だが、機体から分離するように飛ぶ人影を見る。どうやら部下は脱出に成功したようだ。
「すまない、すぐに助けに行くからな……」
開いたパラシュートを見ながら、エスマーレ大尉は心に誓う。
どうやら、体当たりした機体が最後だったようだ。
しかし、スツーカ爆撃隊は取り逃がしてしまった。
「クソ、今回の任務は失敗だな」
それでも、機体の性能差と数の差があるにも関わらず、敵戦闘機を全機撃墜できたのは立派なことである。
エスマーレ大尉は複雑な気持ちのまま、編隊を組みなおして航空基地へと戻っていった。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる