転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第68話 空中戦

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 一九三七年七月四日。フランス、リール近郊。
 その上空を飛んでいくフランス空軍の飛行隊があった。哨戒任務に当たっている第六三六飛行大隊所属のエスマーレ隊である。
 隊長であるエスマーレ大尉を先頭に、合計六機のMS406が飛行している。
 史実ではMS406はそこまで普及していなかったが、一九三六世界では早期に研究開発、そして製造されたようだ。この飛行隊では無線機は積んでおらず、機体の動きか、発光によるモールス信号でやり取りをする。
「もうこの辺りは前線か……。だいぶやられているようだ」
 エスマーレ大尉は、周辺の様子を伺いながら下の方を眺める。
 数キロメートルごとに黒い煙が小さく上がっている。戦車が破壊された煙と思われる。残念ながら、この煙が味方であるフランスのものか、敵であるドイツのものかは分からない。
 ただ、そこで戦闘が行われていたことだけを物語っていた。
 そんな中、エスマーレ大尉のすぐ後ろを飛んでいた部下の機体から、何か光るような物が見えた。
 エスマーレ大尉がそちらを振り向くと、部下がとある方向へ指を向けていた。その方向を見ると、同じくらいの高度に何かキラキラ光る物が見える。
「あれは……」
 エスマーレ大尉は、機体を右方向に二度傾けた。これは、そちらの方向に移動するという合図だ。
 機体を傾け、右方向に緩く旋回する。後続の部下たちもエスマーレ大尉の機体に追従する。
 そのまましばらく飛行していると、機影がはっきりとしてくる。
 どうやら二種類の軍用機が、大編隊を組んで飛行しているようだ。その中で、中心部分に固まっていた航空機は、逆ガル翼をしていた。
「しまった! スツーカだ!」
 どうやら敵であるドイツ空軍の爆撃隊を発見したようだ。
 エスマーレ大尉は素早く機体を左右に振る。戦闘の合図である。
 エンジンをフルスロットルに入れ、上昇を開始する。それに合わせるように、敵編隊の護衛をしていたBf109も編隊を離れて、こちらを攻撃しようとしている。
「いくぞ……。ついてこいよっ」
 部下を励ますようにエスマーレ大尉は呟き、操縦桿を思いっきり倒す。
 先にエスマーレ大尉が仕掛ける。まだ距離がある中、ヘッドオン気味に攻撃を開始する。初弾は命中せず、敵が回避しつつある中、双方が交差する。
 敵機が反転して攻撃しようとする中、エスマーレ大尉はエンジン全開でスツーカ爆撃隊のほうに向かう。部下たちもそれに続いた。
 スツーカは反撃のためにこちらに機首を向ける。それを見計らって、エスマーレ大尉は操縦桿を奥に倒し、機体の高度を下げる。若干スツーカの下になったのを確認すると、今度は思いっきり操縦桿を引き、機体を上げる。ちょうど機首の延長線上にスツーカが入った。
 その瞬間をエスマーレ大尉は見逃さなかった。反射的に機銃の引き金を引く。
 機銃から弾丸が発射され、スツーカの機体下部の中心付近に命中する。抱えていた爆弾には命中しなかったようだ。
 そのままスツーカ爆撃隊とすれ違う。エスマーレ大尉が攻撃したスツーカは、地面に吸い込まれるように墜ちていった。
「一機撃墜!」
 エスマーレ大尉が喜んでいると、すぐに残りのスツーカ爆撃隊の後部機銃の攻撃を受ける。そのさらに向こうには、先ほど交差したBf109もいる。
「行くぞ! 散開して攻撃だ!」
 無線などで繋がってはいないが、エスマーレ大尉の言葉が聞こえているかのように部下たちは振舞う。エスマーレ隊は散開し、それぞれの戦闘機と交戦する。
 スツーカの後部機銃による攻撃もある中、それを回避しつつ敵を狙いすます。
 そんな中、エスマーレ隊の一機が敵の攻撃をモロに食らい、エンジンから火を噴く。パイロットはすぐさま風防を開け、機体から脱出した。
 撃墜された機体がスツーカ爆撃隊のほうへと墜ちていく。スツーカ爆撃隊はそれを簡単に回避するが、その下にいたBf109には心配がいかなかったようだ。
 火を噴いたMS406とBf109が衝突し、空中でバラバラに分解された。あの状況では、敵のパイロットは生きていないだろう。
 だが、そんな心配をしているほど、空戦に余裕はない。いつの間にかスツーカ爆撃隊は飛行を続け、エスマーレ隊は残りの敵機を撃墜するのに精一杯であった。
 そんな中、エスマーレ隊の一機の様子がおかしいことに大尉は気が付いた。
 敵機の後ろを取っているのにも関わらず、攻撃しないのだ。
「弾が詰まったか、それとも弾切れか?」
 とにかく彼と、その機体を守らなければならない。しかし、エスマーレ大尉は別の敵機を相手しているため、助けに入れない。
 その時だった。攻撃しない彼の機体が、一瞬不可解な動きをした。
 次の瞬間、高度を下げつつあった敵機に向かって、直接体当たりしたのだ。翼同士がぶつかり合い、激しくきりもみ回転する。
「あぁ!」
 エスマーレ大尉は敵機を墜とし、すぐに向かおうとしていた時だった。
 だが、機体から分離するように飛ぶ人影を見る。どうやら部下は脱出に成功したようだ。
「すまない、すぐに助けに行くからな……」
 開いたパラシュートを見ながら、エスマーレ大尉は心に誓う。
 どうやら、体当たりした機体が最後だったようだ。
 しかし、スツーカ爆撃隊は取り逃がしてしまった。
「クソ、今回の任務は失敗だな」
 それでも、機体の性能差と数の差があるにも関わらず、敵戦闘機を全機撃墜できたのは立派なことである。
 エスマーレ大尉は複雑な気持ちのまま、編隊を組みなおして航空基地へと戻っていった。
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