転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
91 / 149

第91話 択捉島爆撃

しおりを挟む
 一九三八年十一月三日。
 カムチャッカ半島の先端付近の沖合を航行する数隻の潜水艦がいた。帝国海軍の伊号潜水艦だ。
 彼らは哨戒任務として、千島列島の太平洋側を北上する形で海上を走っていた。
 潜水艦だけの哨戒部隊もなかなか珍しいが、こうでもしないと、水上艦が不足しかねない。致し方ない処置と言えるだろう。
「なーんにもないっすねぇ」
 周囲を警戒している士官が、一緒に艦橋に上がっていた艦長に話を振る。
「そうだな。何も無いのが一番だ。そして最悪でもある」
「どういうことっすか?」
「平時で何も無いことは、平和そのものを意味する。しかし、戦時で何も無いことなんてない。隙や余裕があれば、攻撃を続けなければならないからだ。今は戦時。何も無いということは、敵が何かを企んでいる時と言える」
「それもそうっすねー」
 士官は適当に言葉を返す。
 その時だった。
 少々曇っていた空だったが、その隙間から何かキラキラした物が見えた。ついでに、潜水艦から発せられる機関以外のエンジン音も微かに聞こえる。
「艦長、何も無いってことはないみたいっすね」
 士官は双眼鏡ではなく、肉眼で上空を見る。明らかに航空機だろう。
「そのようだな」
 日本の陸海軍航空隊が、この周辺を飛行する計画は聞いていない。そして航空機群は、日本領土に接近しているように飛行している。
 やってきたであろう方角には、アリューシャン諸島がある。
 つまり。
「あの飛行機たちは、米国の爆撃機だろう」
「敵機捕捉! おそらくB-25と思われます!」
「高度から見て、空母から発艦したものだろう。彼らの目的地はおそらく……、択捉島だ」
 敵爆撃機の進路を見て、艦長がそう言った。
「択捉島の基地に連絡! 敵の爆撃隊がそちらに向かっていることを知らせるんだ!」
「了解!」
 実際、艦長の読み通りで、伊号潜水艦から東の方角約三百キロメートルの所に、アメリカの空母艦隊がいた。
 そこからB-25が発艦し、択捉島を目指していた。
『いいか、寄り道するなよ? そうじゃなきゃ、敵地への片道切符になっちまう』
 爆撃隊の指揮をする大佐は、皆に言い聞かせるように言う。
 実際、発艦した地点から択捉島までは一二〇〇キロメートル強あり、妨害なしで真っすぐ飛んだとしても、空母に帰ってくるころには燃料が尽きてしまう。それを抑えるために、巡航高度を維持する分にはなるべく出力を絞って飛行している。
 高度五〇〇〇メートルを飛行していると、目的地が見えてくる。
『目標視認。ちょうど雲も切れ始めている。攻撃するなら今だ』
 爆撃隊に連絡をしていると、銃座に座っている兵士が声を上げる。
『大佐! 一時方向下方に何かいます!』
『それなら、下にいる護衛隊に任せるんだ。我々は我々の仕事をすればいい』
 爆撃隊に接近する何かとは、択捉島の基地で待機していた帝国海軍の九八戦である。潜水艦からの連絡を受け、緊急発進したのだ。
 その九八戦が相手にするのは、グラマン鉄工所とも呼ばれるF4Fワイルドキャットである。
 ワイルドキャットは九八戦のことを確認すると、一斉に九八戦に襲い掛かる。そして空戦が始まった。
 強固な機体であるワイルドキャットは、急降下で九八戦の編隊に飛び込む。それを九八戦は回避する。
 双方散開し、各々が目標を決めて格闘戦が行われる。運動性能が高い九八戦が、優位な位置を取り続けるものの、七.七ミリ機銃だけではワイルドキャットは墜ちない。仕方なく二〇ミリ機銃を使い、何とかして墜としていく。
 二〇ミリ機銃を使って狙うが、集中して狙っている間に別の機体が強襲してくる。そうして墜ちていく九八戦も多かった。
 次第にお互いの数が減っていく。残っている機体だけを見れば、九八戦のほうが多い。
 だが、これ以上は弾がなくなる上、高度も低い。今から爆撃隊のいる高度まで上がるのには時間がかかるだろう。その間に爆撃隊による爆撃が行われてしまう。
『今回は我々の勝利だな』
 大佐はそんなことを言いながら、次の指示を出す。
『爆弾倉開け!』
 爆弾が顔を覗かせる。それを確実に基地に届けるため、爆撃手が最終調整に入る。
『ちょい右……。ちょい右……。オーケー、そのまま』
 そして爆弾が落とされそうになった時だった。
 爆撃隊のさらに上空から、何かが急降下してきた。通り過ぎざまに機銃攻撃を行い、エンジンを燃やしていく。
『なんだあの機体は!?』
 特徴的な直線翼、九八戦と見間違えるほどに似た機体。
 帝国陸軍航空隊所属の一式戦闘機である。武装は七.七ミリ機銃と十二.七ミリ機銃であるが、正確な狙撃によって次々と爆撃機のエンジンと翼を破壊していく。
 あっという間に、数十機いた爆撃隊は数機まで減っていた。
「海軍の連中、驚いているだろうな」
 史実では飛行第六四戦隊、通称加藤隼飛行隊の隊長として知られる加藤健夫が、そんなことを言う。
 制式採用されたばかりである一式戦闘機六機だけで、敵の爆撃隊を壊滅状態にまで陥れたところを見るに、この一九三六世界でもエース・パイロットの素質を持っているようだ。
 こうして、アメリカ海軍による択捉島への爆撃は、失敗に終わったのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で農業を -異世界編-

半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。 そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...