92 / 149
第92話 ル・アーヴルの撤退
しおりを挟む
一九三八年十一月四日。フランス、ル・アーヴル。
パリ陥落を許したことで、イギリス軍はフランスから撤退することになる。それに伴い、フランス政府関係者も一緒に、イギリス本土へと渡ることになる。
その中には転生者であるジル・ロンダもいた。
すでに撤退作戦が決行されてから二週間も経つが、撤退した人員は五万人ほど。残っている人員は、二十万以上もいる。
しかし、パリ陥落が本当のことだと知れ渡ると、イギリス海峡を渡るためにありとあらゆる船が動員される。その中には、二百キロメートルも離れた港町からやってきた沿岸漁業用の小型船も含まれていた。これらの小型船は、浜から沖合にいる軍用艦まで渡る手段として用いられる。
そんな中、ジル・ロンダを含むフランス政府団は、艦に乗れるのを今か今かと待ち続けていた。
「マズいな……。こんな渋滞になっているなんて聞いてないぞ」
司法省の副大臣が、道路の様子を見て言う。ル・アーヴルの港まであと十キロメートルくらいの所だ。
一般市民も混乱しているようで、道路は人と自動車でいっぱいいっぱいだった。
「このままじゃ、港に到着するのに一日以上かかるかもしれません。歩いたほうが早いですよ」
ロンダがそのように提案する。
「そうだな……。歩いていくことにしよう。大統領を優先に送り届けるんだ」
そういって各人は自動車から降りて、港に向かって進みだす。他の車に乗っていた大統領や軍事省の大臣らも、自動車を降りて一緒に歩き出す。
「ロンダ様、離れないようにしてください」
「分かってますよ。僕のこと何歳だと思っているんですか」
ロンダは少しムッとするが、この状況を見て考えを改める。
政府団が固まって移動をし始めたときだった。
上空のどこからともなく聞こえるエンジン音。そして直後に鳴り響く空襲警報。
「ドイツ軍だぁー!」
誰かが叫ぶと、その声に合わせるように人々は自動車や物陰に隠れる。政府団もその場に身を屈めて、衝撃に備える。
ドイツ空軍のスツーカに装備されている、ジェリコのラッパが鳴り響く。しばらくして衝撃音。どうやら、この町が爆撃されたわけではないようだ。
「とにかく急ごう。ここも時機に危険になる」
そんなことは分かっている。ロンダは思わずそんなことを言いそうになったが、グッと堪えた。
そんな中、フランスの空を飛んでいるのはドイツ空軍だけではない。
北のほうからスピットファイアが飛んできた。先ほどのスツーカを攻撃しようとしているのか、かなり低空で飛んできている。
だが、呑気に空中戦を眺めている時間はない。政府団は急いでル・アーヴルへと向かう。
数時間ほど歩いて、ようやく港に到着した。浜辺には、イギリス兵やフランス兵が集まっており、沖合にある駆逐艦へと仮設の埠頭やはしけを使って駆逐艦や大型艦に乗り込んでいた。
それでも物事は綺麗には進まない。ドイツ軍は、ル・アーヴルからイギリス本土へ撤退することを完全に把握しており、ここを重点的に攻撃している。
スツーカによる空爆は一日に何度も発生し、軍艦の対空攻撃もむなしく、たった一日で駆逐艦二隻があっという間に沈んだ。
そのような中でも撤退は進んでいるものの、イギリス兵が優先的に乗船している。フランス兵や政府関係者は二の次だ。
「こうしている間にも、ドイツ軍が攻めてきているんだぞ」
軍事省の大臣がやきもきしている。ここに長く留まっていることで、ドイツ軍に捕まる可能性がどんどん高くなる。せめてフランス海軍の艦に乗ることができれば、何とかなるはずだ。
しかし、そのような幸運なことは起こらない。ここまで一緒に来た内閣職員が、イギリス艦艇に乗れないかを打診するも、簡単に一蹴されてしまう。
「これ以上は無理かもしれないな……」
浜辺で大統領がそんなことを言う。政府団の誰もが絶望の表情をしていた。
そんな時、沖合から汽笛が鳴る。
そちらを見ると、一隻の漁船があった。
「君たち! 何か困っていることがあるのかい!?」
漁船の船長と思われる男性が大声で聞いてくる。
「えぇ、そうです! 我々はフランス政府の内閣です!」
「そいつは大変だ! うちの船に乗りな! 乗せてくれる軍艦を探そう!」
そういって浜辺に座礁するギリギリまで寄せてくれる。政府団は泳いで、その漁船まで行く。
「こんな時期に海水浴なんて、無茶をさせてしまったね。早く乗せてくれる軍艦を探そう」
そういって漁船は、駆逐艦が停泊している沖合をすいすいと進む。
何とかフランス海軍の駆逐艦を探し出し、無事に乗せてくれることになった。
「いやぁ、良かった。これで我が国も安泰だ」
そういって船長の男性は、駆逐艦から離れ、帰路につく。
その時だった。駆逐艦から警報が鳴り響き、対空機銃が一斉に発射される。
Bf109が機銃掃射してきたのだ。海面には機銃が着弾した水柱が小さく立ち、ロンダたち政府団のいる駆逐艦へと接近してきた。
しかし、その直前に駆逐艦の対空機銃が命中し、Bf109は駆逐艦の手前百メートルの所で海面に激突した。
ロンダはふと、先ほどの漁船を見る。その漁船は船首を空に向けて、沈没していた。
「あ、あ……」
漁船はあっという間に海面から消える。この調子では、おそらく船長も生きてはいないだろう。
「……クソ、クソ……! ヒトラーの野郎……! 絶対にぶっ殺してやる……!」
ロンダはブチ切れながら、そう誓った。
パリ陥落を許したことで、イギリス軍はフランスから撤退することになる。それに伴い、フランス政府関係者も一緒に、イギリス本土へと渡ることになる。
その中には転生者であるジル・ロンダもいた。
すでに撤退作戦が決行されてから二週間も経つが、撤退した人員は五万人ほど。残っている人員は、二十万以上もいる。
しかし、パリ陥落が本当のことだと知れ渡ると、イギリス海峡を渡るためにありとあらゆる船が動員される。その中には、二百キロメートルも離れた港町からやってきた沿岸漁業用の小型船も含まれていた。これらの小型船は、浜から沖合にいる軍用艦まで渡る手段として用いられる。
そんな中、ジル・ロンダを含むフランス政府団は、艦に乗れるのを今か今かと待ち続けていた。
「マズいな……。こんな渋滞になっているなんて聞いてないぞ」
司法省の副大臣が、道路の様子を見て言う。ル・アーヴルの港まであと十キロメートルくらいの所だ。
一般市民も混乱しているようで、道路は人と自動車でいっぱいいっぱいだった。
「このままじゃ、港に到着するのに一日以上かかるかもしれません。歩いたほうが早いですよ」
ロンダがそのように提案する。
「そうだな……。歩いていくことにしよう。大統領を優先に送り届けるんだ」
そういって各人は自動車から降りて、港に向かって進みだす。他の車に乗っていた大統領や軍事省の大臣らも、自動車を降りて一緒に歩き出す。
「ロンダ様、離れないようにしてください」
「分かってますよ。僕のこと何歳だと思っているんですか」
ロンダは少しムッとするが、この状況を見て考えを改める。
政府団が固まって移動をし始めたときだった。
上空のどこからともなく聞こえるエンジン音。そして直後に鳴り響く空襲警報。
「ドイツ軍だぁー!」
誰かが叫ぶと、その声に合わせるように人々は自動車や物陰に隠れる。政府団もその場に身を屈めて、衝撃に備える。
ドイツ空軍のスツーカに装備されている、ジェリコのラッパが鳴り響く。しばらくして衝撃音。どうやら、この町が爆撃されたわけではないようだ。
「とにかく急ごう。ここも時機に危険になる」
そんなことは分かっている。ロンダは思わずそんなことを言いそうになったが、グッと堪えた。
そんな中、フランスの空を飛んでいるのはドイツ空軍だけではない。
北のほうからスピットファイアが飛んできた。先ほどのスツーカを攻撃しようとしているのか、かなり低空で飛んできている。
だが、呑気に空中戦を眺めている時間はない。政府団は急いでル・アーヴルへと向かう。
数時間ほど歩いて、ようやく港に到着した。浜辺には、イギリス兵やフランス兵が集まっており、沖合にある駆逐艦へと仮設の埠頭やはしけを使って駆逐艦や大型艦に乗り込んでいた。
それでも物事は綺麗には進まない。ドイツ軍は、ル・アーヴルからイギリス本土へ撤退することを完全に把握しており、ここを重点的に攻撃している。
スツーカによる空爆は一日に何度も発生し、軍艦の対空攻撃もむなしく、たった一日で駆逐艦二隻があっという間に沈んだ。
そのような中でも撤退は進んでいるものの、イギリス兵が優先的に乗船している。フランス兵や政府関係者は二の次だ。
「こうしている間にも、ドイツ軍が攻めてきているんだぞ」
軍事省の大臣がやきもきしている。ここに長く留まっていることで、ドイツ軍に捕まる可能性がどんどん高くなる。せめてフランス海軍の艦に乗ることができれば、何とかなるはずだ。
しかし、そのような幸運なことは起こらない。ここまで一緒に来た内閣職員が、イギリス艦艇に乗れないかを打診するも、簡単に一蹴されてしまう。
「これ以上は無理かもしれないな……」
浜辺で大統領がそんなことを言う。政府団の誰もが絶望の表情をしていた。
そんな時、沖合から汽笛が鳴る。
そちらを見ると、一隻の漁船があった。
「君たち! 何か困っていることがあるのかい!?」
漁船の船長と思われる男性が大声で聞いてくる。
「えぇ、そうです! 我々はフランス政府の内閣です!」
「そいつは大変だ! うちの船に乗りな! 乗せてくれる軍艦を探そう!」
そういって浜辺に座礁するギリギリまで寄せてくれる。政府団は泳いで、その漁船まで行く。
「こんな時期に海水浴なんて、無茶をさせてしまったね。早く乗せてくれる軍艦を探そう」
そういって漁船は、駆逐艦が停泊している沖合をすいすいと進む。
何とかフランス海軍の駆逐艦を探し出し、無事に乗せてくれることになった。
「いやぁ、良かった。これで我が国も安泰だ」
そういって船長の男性は、駆逐艦から離れ、帰路につく。
その時だった。駆逐艦から警報が鳴り響き、対空機銃が一斉に発射される。
Bf109が機銃掃射してきたのだ。海面には機銃が着弾した水柱が小さく立ち、ロンダたち政府団のいる駆逐艦へと接近してきた。
しかし、その直前に駆逐艦の対空機銃が命中し、Bf109は駆逐艦の手前百メートルの所で海面に激突した。
ロンダはふと、先ほどの漁船を見る。その漁船は船首を空に向けて、沈没していた。
「あ、あ……」
漁船はあっという間に海面から消える。この調子では、おそらく船長も生きてはいないだろう。
「……クソ、クソ……! ヒトラーの野郎……! 絶対にぶっ殺してやる……!」
ロンダはブチ切れながら、そう誓った。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる