転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
124 / 149

第124話 敵主力艦隊

しおりを挟む
 一九三九年三月十五日。
 帝国海軍第一艦隊は、イギリスのポーツマスの沖合に停泊していた。
「イギリス軍の広報から、ドイツと連合国軍による東方戦線は連合国側がやや前進していると言っています」
「うむ。もともと陸軍国家であるソ連及び新生ロシア帝国と、我が帝国の精鋭たる陸軍が力を合わせれば、ドイツ軍など敵ではないだろう」
 山本長官は、大和の甲板にテーブルなどを置いて、紅茶を楽しんでいた。
 山本長官のティータイムの相手は、イギリス海軍大西洋艦隊旗艦「キング・ジョージ六世」の艦長、ジョージ・アイク海軍大将である。
『しかし、世の中は何が起きるか分かりませんよ。転生者の時と同じように……』
 そう英語で話したアイク大将は紅茶をすする。どうやら日本語を理解しているようだ。
『確かに、その通りですな。この後の戦いも勝ち続ける保障はありません。しかし、勝ち続ける他ないのも事実でしょう』
『そうですねぇ。ナチス・ドイツの悪評は、未来でも語り継がれているようですし』
『それで、米国の作戦の評価はいかがでしょう?』
 アイク大将に聞く山本長官。事前に、アメリカからフランス領土奪還のための作戦を通告されていた。
 パリ解放を含めたフランス領土奪還のための作戦行動を、アメリカはスタンドバイ作戦と命名した。そのスタンドバイ作戦の中に含まれる、フランス領土上陸作戦をウェイクアップ作戦としている。
 いわば、史実におけるノルマンディー上陸作戦だ。
『コタンタン半島及びブルターニュ地方を中心にフランス領土に上陸。西部戦線を再構築した上で再開させる。ドイツにとってみれば、西部と東部で戦線が構築され、否が応でも二正面作戦を取らざるを得ない。現状を鑑みれば、最適な判断だと思いますよ』
 アイク大将はそのように評価する。
『フランスも亡命していますからな。パリ解放は絶対条件とも言えるでしょう』
 山本長官もそのように話す。
『このウェイクアップ作戦にて、我々英国と日本はドイツ海軍の接近を阻止するという名目で招集されています。アドミラル・ヤマモトはどのように考えますか?』
『我が大和型戦艦が、連合国の戦艦の中で最も攻撃力・防御力が高いのは自明です。想定される相手は、ドイツ海軍の最大戦力であるベルリン級戦艦。帝国海軍第一艦隊が相手するのは当然の帰結でしょう』
『それもそうですね。ならば我々王立海軍もドイツ海軍と相まみえるとして、上陸作戦はイギリス陸軍に任せましょう』
『確かDデイは、一週間後でしたかな?』
『えぇ。我が大西洋艦隊も出番ですからね。私もあなた方と一緒ならばよかったのですが、残念ながら上陸作戦に主力を割いてしまっていて……。水雷戦隊中心の艦隊のみの捻出で申し訳ないくらいです』
『いえいえ。第一艦隊は戦艦と空母が中心の艦隊です。駆逐艦や巡洋艦がいるのは、バランスが取れてとても素晴らしい』
『ありがとうございます。それでは私はこれにて……』
 そういってアイク大将は、大和から降りていった。
「さて、我々も仕事しようか」
 そういって山本長官は、椅子から立ち上がる。
「出航準備、整っています」
 大和の艦長が山本長官に報告する。
「よろしい。では、米国の作戦要綱に従い、作戦を実施する」
 そうして第一艦隊は出撃する。
 今回の第一艦隊の目標は、ル・アーブルより東の海域、イギリス海峡の向こうからやってくるであろうドイツ艦隊の攻撃を阻止することにある。そのため、攻撃力の高い第一艦隊が選ばれたのだろう。
 一九三九年三月二十一日。第一艦隊はイギリス海峡からドーバー海峡に移動していた。
 第一艦隊の前方には、イギリスの対潜艦隊がいる。駆逐艦と巡洋艦で構成されている艦隊で、Uボートの脅威から守ってくれることだろう。
「さて、ドイツ艦隊はどこからやってくるかな……」
 山本長官は大和の艦橋から、双眼鏡を使って周辺を見渡す。
 その時、偵察をしていた水偵から連絡が入る。
「前方八十キロメートルほどの位置に、戦艦と思われる艦影を発見したとのことです!」
 通信兵が艦橋に上がってきて、そのように報告する。
「艦影からどの戦艦であるか分かるか?」
「手元の資料と参照するに、ビスマルク級戦艦一隻、シャルンホルスト級巡洋戦艦一隻、資料にない戦艦二隻、その他重巡洋艦数隻とのことです」
「となると、これがドイツ海軍の主力艦隊である可能性が高いな……」
 山本長官は少し考え、指示を出す。
「もう少し近づいて偵察出来ないか?」
「可能だとは思いますが、撃墜されないでしょうか?」
「そうだな……。命の危険を感じたら、すぐに空域を離脱するように付け加えてくれ」
「はっ!」
 その後、水偵による観測が行われる。上空一〇〇〇メートルからの偵察を行ったものの、やはり対空機銃は撃たれた。搭乗員は命の危険を感じたため、即座に現空域を離脱した。
 しかし、得られたものはあった。水偵はすぐに情報を送る。
「偵察機から情報きました! 正体不明の艦影は、ベルリン級戦艦の可能性が高いとのことです!」
「本命のお出ましだな」
 そういって山本長官は、軍帽をかぶり直し、こう宣言した。
「総員、戦闘準備」
 いよいよ、ドイツ主力艦隊との戦いが始まる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...