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第138話 解放
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一九三九年四月二十九日。ドイツ領ポーランド、ワルシャワ。
ワルシャワの包囲戦の後に都市部を破壊し、ドイツ軍を退けた連合国軍は、有志でできる限りの街の復旧を行っていた。
その中で連合国は、解放したワルシャワに軍東部戦線臨時司令本部を設置することになった。設置した場所は、ポーランド大統領官邸である。
ここに臨時司令本部を設置した理由は三つ。司令本部として機能しやすいこと。ポーランド亡命政府に政権をスムーズに受け渡すことができること。そして、ここでドイツ領ポーランドの総督が仕事をしていたからだ。
最も大きな要因は三つ目であり、これから総督に対して尋問を行おうとしていた。
ドイツ占領下において、事実上ポーランドの実権を握っていた人間である。何か有益な情報を持っているに違いない。
そう踏んだ臨時司令本部が尋問を開始する。尋問には、ソ連、ロシア、日本の指揮官数人が立ち会うことになった。
「さて、何から聞こうか」
椅子に固定された総督に、軍刀を向ける欧州派遣軍の中佐。
篠田中将が落ち着くように声をかけようとした時、総督は通訳のロシア兵に何かを話す。それを聞いたロシア兵は驚いた表情をした。
『……ポーランド領土をポーランド亡命政府に返還するのと引き換えに、連合国に亡命することを約束してほしい、とのことです』
とんでもない発言に、指揮官たちは困惑する。
一度尋問は中断され、臨時司令本部にて緊急会議が行われる。
『厄介な注文をされてしまいましたね……』
篠田中将は腕を組み、困った表情をする。
新生ロシア帝国の国境からワルシャワまでなら、ドイツから奪取した土地ということでポーランド政府に返還できる。しかし、言葉の翻訳が間違っていないのなら、ドイツ占領下の全領土を返還すると言っているのだ。
『ヒトラーに指示を仰ぐこともなく、そのようなことを独断で判断するのだろうか。もししていたとして、全土にドイツ軍の残存兵がいないとも限らない。ここは慎重に判断する必要があるだろう』
『そんな戯言は聞き入れられないな』
篠田中将の言葉に、ソ連軍の指揮官が反論する。
『仮にあの総督を生かしたとして、ドイツ軍の野郎どもが素直に応じるとは思えねぇ。俺たちはこれまで通り、ポーランド奪還のために前進し続けるしかねぇんだよ』
『ならば、あの総督はどうするのだね?』
『簡単だ。銃殺刑に処す』
ソ連軍指揮官は簡潔に述べる。
『それは駄目だろう。国際法のハーグ陸戦条約があるのは言わずもがな、そこには俘虜の扱いも書かれているはずだ』
『それは戦争を数字でしか見ていないお偉いさんどもが、自分たちのエゴのために作り上げたまがい物に過ぎない。戦争で法律を守るなんぞ不可能だ』
『仮にエゴだとしても、人間である以上守るべき存在であることには間違いないはずだ。少なくとも、彼の亡命は認めるべきだ』
篠田中将は譲らない。それと同じように、ソ連軍指揮官も譲るつもりはないようだ。
『いいや、駄目だ。敵兵や敵国民は一人残らず全て粛清すべきだろう』
『それは人として越えてはならない一線を越えている。それだけは駄目だ』
『なら他に方法があるのか?』
『ポーランドを解放すると言っているのだから、情状酌量の余地はあるだろう。彼の権力を使えば、ドイツ兵は降伏するかもしれない』
『それが甘いって言ってるんだ。戦争は信用を削りながら戦う。敵の言葉は信用ならん』
『それでも、人間が信用し合わなければ、戦争は終わることはないだろう』
その言葉を聞いたソ連軍指揮官は、分かりやすく舌打ちをした。
『勝手にしろ。その代わり、お前らが窮地に陥っても助けはしない』
最終的に司令本部の決断としては、総督を捕虜として預かり、その代わりポーランド全域にいるドイツ軍の降伏もしくは撤退を促すことを求めることにした。
『それで問題ないか?』
通訳の兵士が、ポーランド総督に説明する。
『あぁ、それで問題ない。しかし、兵士が全員命令に従うとは限らない。そこだけは十分留意してほしい』
「そりゃ当然だな」
篠田中将は一つ溜息をつく。
尋問らしい尋問はせずに、総督の処分は決定した。
そして処分の対価として、ポーランド全土にいるドイツ兵に降伏もしくは撤退勧告を促すラジオ放送を流す。これを聞いたドイツ兵の何割が、命令を聞くのだろうか。そのような不安もあるが、この先の進軍がやりやすくなっただけマシである。
翌日、ワルシャワ解放を聞いたポーランド亡命政府が、数機の飛行機で一斉にワルシャワ近郊の飛行場に降り立った。祖国への記念すべき帰還だ。そしてすぐに、ポーランド再建のための仕事を始める。その中には、ロシアの外交官や軍人もいた。
ひとまず、ワルシャワの問題は解決したと言えるだろう。問題はこの後だ。ドイツ兵が総督の言葉をどこまで信じているか。
だが、それも時間の問題だろう。ポーランド全土にソ連とロシアの軍用機が一斉に降り立つことになるはずだ。そこから治安が回復していくはずだろう。
こうして、ワルシャワは完全に解放されたことになる。
ワルシャワの包囲戦の後に都市部を破壊し、ドイツ軍を退けた連合国軍は、有志でできる限りの街の復旧を行っていた。
その中で連合国は、解放したワルシャワに軍東部戦線臨時司令本部を設置することになった。設置した場所は、ポーランド大統領官邸である。
ここに臨時司令本部を設置した理由は三つ。司令本部として機能しやすいこと。ポーランド亡命政府に政権をスムーズに受け渡すことができること。そして、ここでドイツ領ポーランドの総督が仕事をしていたからだ。
最も大きな要因は三つ目であり、これから総督に対して尋問を行おうとしていた。
ドイツ占領下において、事実上ポーランドの実権を握っていた人間である。何か有益な情報を持っているに違いない。
そう踏んだ臨時司令本部が尋問を開始する。尋問には、ソ連、ロシア、日本の指揮官数人が立ち会うことになった。
「さて、何から聞こうか」
椅子に固定された総督に、軍刀を向ける欧州派遣軍の中佐。
篠田中将が落ち着くように声をかけようとした時、総督は通訳のロシア兵に何かを話す。それを聞いたロシア兵は驚いた表情をした。
『……ポーランド領土をポーランド亡命政府に返還するのと引き換えに、連合国に亡命することを約束してほしい、とのことです』
とんでもない発言に、指揮官たちは困惑する。
一度尋問は中断され、臨時司令本部にて緊急会議が行われる。
『厄介な注文をされてしまいましたね……』
篠田中将は腕を組み、困った表情をする。
新生ロシア帝国の国境からワルシャワまでなら、ドイツから奪取した土地ということでポーランド政府に返還できる。しかし、言葉の翻訳が間違っていないのなら、ドイツ占領下の全領土を返還すると言っているのだ。
『ヒトラーに指示を仰ぐこともなく、そのようなことを独断で判断するのだろうか。もししていたとして、全土にドイツ軍の残存兵がいないとも限らない。ここは慎重に判断する必要があるだろう』
『そんな戯言は聞き入れられないな』
篠田中将の言葉に、ソ連軍の指揮官が反論する。
『仮にあの総督を生かしたとして、ドイツ軍の野郎どもが素直に応じるとは思えねぇ。俺たちはこれまで通り、ポーランド奪還のために前進し続けるしかねぇんだよ』
『ならば、あの総督はどうするのだね?』
『簡単だ。銃殺刑に処す』
ソ連軍指揮官は簡潔に述べる。
『それは駄目だろう。国際法のハーグ陸戦条約があるのは言わずもがな、そこには俘虜の扱いも書かれているはずだ』
『それは戦争を数字でしか見ていないお偉いさんどもが、自分たちのエゴのために作り上げたまがい物に過ぎない。戦争で法律を守るなんぞ不可能だ』
『仮にエゴだとしても、人間である以上守るべき存在であることには間違いないはずだ。少なくとも、彼の亡命は認めるべきだ』
篠田中将は譲らない。それと同じように、ソ連軍指揮官も譲るつもりはないようだ。
『いいや、駄目だ。敵兵や敵国民は一人残らず全て粛清すべきだろう』
『それは人として越えてはならない一線を越えている。それだけは駄目だ』
『なら他に方法があるのか?』
『ポーランドを解放すると言っているのだから、情状酌量の余地はあるだろう。彼の権力を使えば、ドイツ兵は降伏するかもしれない』
『それが甘いって言ってるんだ。戦争は信用を削りながら戦う。敵の言葉は信用ならん』
『それでも、人間が信用し合わなければ、戦争は終わることはないだろう』
その言葉を聞いたソ連軍指揮官は、分かりやすく舌打ちをした。
『勝手にしろ。その代わり、お前らが窮地に陥っても助けはしない』
最終的に司令本部の決断としては、総督を捕虜として預かり、その代わりポーランド全域にいるドイツ軍の降伏もしくは撤退を促すことを求めることにした。
『それで問題ないか?』
通訳の兵士が、ポーランド総督に説明する。
『あぁ、それで問題ない。しかし、兵士が全員命令に従うとは限らない。そこだけは十分留意してほしい』
「そりゃ当然だな」
篠田中将は一つ溜息をつく。
尋問らしい尋問はせずに、総督の処分は決定した。
そして処分の対価として、ポーランド全土にいるドイツ兵に降伏もしくは撤退勧告を促すラジオ放送を流す。これを聞いたドイツ兵の何割が、命令を聞くのだろうか。そのような不安もあるが、この先の進軍がやりやすくなっただけマシである。
翌日、ワルシャワ解放を聞いたポーランド亡命政府が、数機の飛行機で一斉にワルシャワ近郊の飛行場に降り立った。祖国への記念すべき帰還だ。そしてすぐに、ポーランド再建のための仕事を始める。その中には、ロシアの外交官や軍人もいた。
ひとまず、ワルシャワの問題は解決したと言えるだろう。問題はこの後だ。ドイツ兵が総督の言葉をどこまで信じているか。
だが、それも時間の問題だろう。ポーランド全土にソ連とロシアの軍用機が一斉に降り立つことになるはずだ。そこから治安が回復していくはずだろう。
こうして、ワルシャワは完全に解放されたことになる。
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