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第144話 蜂起
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一九三九年五月十九日。オルレアン・フランス、パリ。
花の都と評されるこの街も、臨時政府の首都がオルレアンに樹立したことにより、廃れる道を辿っていた。
かつては威厳に満ちたエッフェル塔も、今や薄汚れた鉄の色をしており、第一展望台にはハーケンクロイツが描かれた巨大なドイツ国旗が翻っていた。
こうして見れば、パリは完全にナチス・ドイツの占領下にあることを内外に示していることが伺える。
しかし、パリ市民の心まではナチス・ドイツに占領されてなかった。ジル・ロンダがパリを脱出する際に、当時の軍事省の職員と会話した話が、水面下で静かに人々へと伝わっていたのだ。
『我が国の転生者は、フランスを取り戻してくれる』
確証のない願いに、パリ市民は手を伸ばし続けていた。
そして、機は熟す。ドイツ軍の間で、連合国軍がパリの西方三十キロメートルまで接近しつつあるという情報が流れたのだ。場所として見れば、ベルサイユ宮殿のさらに向こうあたりである。ほぼ近所と言っても差し支えない距離だ。
この事実が、パリ市民を燃え上がらせた。自由のため、平等のため、友愛のため。ここにフランス革命のような、大規模なドイツ軍廃絶運動が起こったのだ。
まず人々は、ありとあらゆる道具を武器として手に取った。掃除用のモップ、整備用のレンチ、建材の板、そこら辺にあった窓ガラスを割った破片など。
それらを振りかざし、百人単位の集団でドイツ兵たちに襲いかかる。いくら小銃を持っている兵士であっても、これだけの集団には勝てない。
そうして一人ひとりに分断したところでタコ殴りにし、持っている小銃、拳銃、手榴弾などを強奪。それを使って、さらに他のドイツ兵を殴り殺しに行くのだ。
こうした武力闘争の影響は、あっという間にパリ全体に広まった。
そしてこれを逃さなかったのが、連合国軍西部戦線最高指揮官であるアメリカ陸軍のマッカーサー大将だ。
「パリ市内では、市民が暴徒の如くドイツ兵を追い回しているようだ。守るべき市民が兵士のケツを追いかけているのに、我々が出ない道理はないだろう。全軍、直ちに進軍せよ」
パリ攻略のために待機していた連合国軍は、想定よりも少ない戦力でパリに進軍する。戦力が少ないとは言うものの、十個歩兵師団、六個砲兵師団、二個機甲師団、二個騎兵師団を内包している軍集団である。少々戦力過剰であるが、かつての首都であるパリ周辺の地域をまとめて包囲するには、これくらいの戦力でちょうどいいのかもしれない。
軍集団は、パリの周囲を包囲しつつ、中心部へと騎兵師団を走らせる。道中、複数の戦車と遭遇するものの、軽快な走りで無視していった。当然、後ろから射撃されたが、すでに市街地なので遮蔽物はいくらでもある。
そうしているうちに、騎兵師団がパリの中心部に接近する。そこで行われていたのは、ドイツ戦車による市民への直接攻撃と、その程度では怯まないパリ市民による対戦車近接戦闘であった。どこから調達してきたか分からないドイツ軍の手榴弾や、限りある資源で製作された火炎瓶で戦車を撃退していたのだ。
その光景を見た騎兵師団の兵士たちは、若干ドン引きしていた。
それから約一時間後、機甲師団がようやく到着する。シャーマンは市街地に散乱した瓦礫を使い、うまく敵の射線を切る。そこに歩兵と騎兵が合わさってドイツ戦車を翻弄することで、効率的に射撃して撃破していた。
こうしてパリ市街地全体を包囲していく。ドイツ軍の兵士はよく戦っていたが、さすがに敵が多すぎたのを察したのか、次々と降伏する兵士が現れる。やがて勢力は連合国軍のほうが上回り、ドイツ軍は成す術もなく敗走するしかなくなった。
数日後、パリのエッフェル塔に掲げられていたナチス・ドイツの国旗は、乱雑にナイフで切り落とされ、地面に落ちた。そこに戦車用のガソリンを撒き、焼却されてしまう。その代わりとして、通常サイズの星条旗、ユニオンフラッグが複数掲げられた。
この一連の行為によって、パリは連合国の勢力下に置かれることとなった。パリの解放である。
余談であるが、ナチス・ドイツ国旗の焼却と連合国の旗が翻った際に撮影された写真は、後世にて第二次世界大戦対独戦線を象徴する一枚となったそうな。
花の都と評されるこの街も、臨時政府の首都がオルレアンに樹立したことにより、廃れる道を辿っていた。
かつては威厳に満ちたエッフェル塔も、今や薄汚れた鉄の色をしており、第一展望台にはハーケンクロイツが描かれた巨大なドイツ国旗が翻っていた。
こうして見れば、パリは完全にナチス・ドイツの占領下にあることを内外に示していることが伺える。
しかし、パリ市民の心まではナチス・ドイツに占領されてなかった。ジル・ロンダがパリを脱出する際に、当時の軍事省の職員と会話した話が、水面下で静かに人々へと伝わっていたのだ。
『我が国の転生者は、フランスを取り戻してくれる』
確証のない願いに、パリ市民は手を伸ばし続けていた。
そして、機は熟す。ドイツ軍の間で、連合国軍がパリの西方三十キロメートルまで接近しつつあるという情報が流れたのだ。場所として見れば、ベルサイユ宮殿のさらに向こうあたりである。ほぼ近所と言っても差し支えない距離だ。
この事実が、パリ市民を燃え上がらせた。自由のため、平等のため、友愛のため。ここにフランス革命のような、大規模なドイツ軍廃絶運動が起こったのだ。
まず人々は、ありとあらゆる道具を武器として手に取った。掃除用のモップ、整備用のレンチ、建材の板、そこら辺にあった窓ガラスを割った破片など。
それらを振りかざし、百人単位の集団でドイツ兵たちに襲いかかる。いくら小銃を持っている兵士であっても、これだけの集団には勝てない。
そうして一人ひとりに分断したところでタコ殴りにし、持っている小銃、拳銃、手榴弾などを強奪。それを使って、さらに他のドイツ兵を殴り殺しに行くのだ。
こうした武力闘争の影響は、あっという間にパリ全体に広まった。
そしてこれを逃さなかったのが、連合国軍西部戦線最高指揮官であるアメリカ陸軍のマッカーサー大将だ。
「パリ市内では、市民が暴徒の如くドイツ兵を追い回しているようだ。守るべき市民が兵士のケツを追いかけているのに、我々が出ない道理はないだろう。全軍、直ちに進軍せよ」
パリ攻略のために待機していた連合国軍は、想定よりも少ない戦力でパリに進軍する。戦力が少ないとは言うものの、十個歩兵師団、六個砲兵師団、二個機甲師団、二個騎兵師団を内包している軍集団である。少々戦力過剰であるが、かつての首都であるパリ周辺の地域をまとめて包囲するには、これくらいの戦力でちょうどいいのかもしれない。
軍集団は、パリの周囲を包囲しつつ、中心部へと騎兵師団を走らせる。道中、複数の戦車と遭遇するものの、軽快な走りで無視していった。当然、後ろから射撃されたが、すでに市街地なので遮蔽物はいくらでもある。
そうしているうちに、騎兵師団がパリの中心部に接近する。そこで行われていたのは、ドイツ戦車による市民への直接攻撃と、その程度では怯まないパリ市民による対戦車近接戦闘であった。どこから調達してきたか分からないドイツ軍の手榴弾や、限りある資源で製作された火炎瓶で戦車を撃退していたのだ。
その光景を見た騎兵師団の兵士たちは、若干ドン引きしていた。
それから約一時間後、機甲師団がようやく到着する。シャーマンは市街地に散乱した瓦礫を使い、うまく敵の射線を切る。そこに歩兵と騎兵が合わさってドイツ戦車を翻弄することで、効率的に射撃して撃破していた。
こうしてパリ市街地全体を包囲していく。ドイツ軍の兵士はよく戦っていたが、さすがに敵が多すぎたのを察したのか、次々と降伏する兵士が現れる。やがて勢力は連合国軍のほうが上回り、ドイツ軍は成す術もなく敗走するしかなくなった。
数日後、パリのエッフェル塔に掲げられていたナチス・ドイツの国旗は、乱雑にナイフで切り落とされ、地面に落ちた。そこに戦車用のガソリンを撒き、焼却されてしまう。その代わりとして、通常サイズの星条旗、ユニオンフラッグが複数掲げられた。
この一連の行為によって、パリは連合国の勢力下に置かれることとなった。パリの解放である。
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