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第二十四話
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そーっと、内臓がこぼれないように注意をする。
雨涵は小さな両手に臓器を持ち、バケツに運んでいた。厨房では女が逆さ吊りにされている。既に頭部を切り落とされているので、赤黒い断面がぬらぬら光っていた。頭部は唯が割っている最中だった。ガン! ガン! 何度もまな板が揺れる。丸太をそのまま輪切りにしたかのようなまな板の上で、女性の頭部が何度も殴打されている。金槌とミノを使っているので、薄眼に見れば、彫刻をしているようにも見えるかもしれない。赤黒く、血腥いことを除けば。
「唯姐姐、何してるのさ? さっきか騒音だよ!」
「なかなか剥がれナイんだヨ!」
「ハイハイ。頭部の皮を剥ぎたかったんだね。骨を割りたいのかと思ったよ」
そう言いながら唯の背後から雨泽は手を伸ばす。手には果物包丁を持っていた。これを使い、皮膚を切り裂くと指を強引に突っ込む。メリメリ……奇妙な音が鳴る。
「耳とか鼻とか唇が管として繋がってるから処理に手間取るんだよね。髪を売ろうと思うなら必要だけど、面倒な時はそのまま家族にあげちゃうかな」
「おっ! 耳の外れるトコがキモチイーな!」
「それはオレも思うよ。はい、剥がれた」
頭の皮は毛を包み込んでいるので分厚くなっている。雨泽は皮を空のバケツに放り込むと、ハサミを持った雨涵に近付く。
「お待たせ。それじゃあ、続きしようね」
「はい、哥哥!」
「ん。お返事ができるようになって偉いね。それじゃあ、お腹の中見ていこっか」
目の前には逆さ吊りになった女。雨涵は踏み台に乗っかり、腹の中に頭を突っ込む。独特の臭さがある。中はまだあたたかい。
「白くてうねうねしたものがあるのわかる?」
「ん!」
「それはね、腸だよ。背中の膜と繋がってるから、背中側の膜の根元を軽く切ってあげて。そしたら、取り出せるはずだから」
ちょきんっちょきんっ、ハサミが入れられる。ごそごそ、としてから、両手に腸を抱えた幼女が顔を出す。にこにこ笑っている。彼はこれを受け取り、バケツに入れた。幼女は再び腹の中に頭を突っ込む。
「おっきい臓器があるのわかるかな? まるでお豆のような形のあかーいやつ」
「ん!」
「よしよし、それじゃあ、それを引き剥がしてね。大丈夫、きっと取れるから」
メキョメキョ、奇妙な音が鳴る。幼女が不安そうな顔をして彼を見る。彼は微笑むと、女の腹に手を突っ込んだ。
「ハイハイ、これでいけるよ。このぷくっとした袋は苦いから除けておこうね」
肝臓と胆嚢を別々のバケツに放り込む。ここで血を貯めていたバケツがいっぱいになったので、新しい物と取り換えられた。
「次は肺と心臓を取り出そう。ここ――横隔膜を引っ張り出すようにしたらいっぺんに引き抜けるからね。ほら、一緒にしようね」
胸に手を入れ、横隔膜を掴ませる。そのまま一緒に引き剥がした。メリメリメリメリ……。剥がれていく音がする。
「これで内臓の処理はおしまい! よくできましたー! 雨涵は物覚えが良いね」
彼の声で幼女は嬉しそうに満開の笑みを見せてくれる。
雨泽は女を器具から下ろし、まな板に乗せる。そのまま躊躇いなく、手際よく皮が剥がされ、肉が切り分けられていく。その間に雨涵は引っ張り出した腸の間膜を剥ぎ、一本の管にする作業をしていた。
「ネエネエ、白い鴉ちゃん!」
「どうしたの姐姐? まだ頭で遊んでるの?」
「ボクは遊んでナイ! 脳味噌は薬になるカラな!」
「猿とかよく聞くよね」
「人間も猿もボクにとっては同じモノさ。アヒャヒャ!」
矯正器具のワイヤーが輝くほどに笑いながら、唯はフォークを目玉に突き刺す。引っこ抜けた眼球がそのまま彼女の口の中へ消えた。ムチュムチュ、湿った音が鳴る。
「つまみ食いしないでよ」
「君は目はワルくないだろう! ボクはいつも集中しているから疲れ目なんダ!」
「まあ、そうだね。オレはね、目も耳も鼻も良い方だから。で、何で呼んだの?」
「ソレは、脳の調理をしてくれないカと思ってサ! ボクも腹が減ってきた!」
「薬にする流れじゃなかった?」
「それはソレ、コレはこれダ。君達の薬はコイツの脳じゃ無理無理無理無理無理無理ダ!」
手を動かす度に白衣の長い袖がバタバタ鳴る。血がついてしまっているが、彼女は気にしていないようだった。元より、気にするようなタイプには全く見えないのだけれど。
雨泽は溜息を吐きつつ、頭部を割る。脳味噌がこぼれおちそうになったところを受け止め、形を崩さないようにまな板に乗せた。今まで乗っていた腕や脚はいったんバケツに突っ込まれている。
手身近にあった野菜と共に刻み、鍋でさっと炒められた。料理酒が加えられ、炎の柱ができる。唯は目を輝かしてその光景をじっと見つめていた。口の端から涎が垂れ、唾を飲み込んだ音が聞こえた。
「はい、脳味噌混ぜ野菜炒め、オイスターソース味」
「フーッ! サイッコー! いっただっきまーすッ!」
両手をパァンッと力強く合わせてから、彼女は野菜炒めを食べ始める。矯正器具に野菜が引っかかったのか、少し呻いた。
目を細めて薄く笑うと雨泽はバケツから腕を引っ張り上げ、下処理を再開した。外では掃除の終わった鴉達がおこぼれを待っていた。
雨涵は小さな両手に臓器を持ち、バケツに運んでいた。厨房では女が逆さ吊りにされている。既に頭部を切り落とされているので、赤黒い断面がぬらぬら光っていた。頭部は唯が割っている最中だった。ガン! ガン! 何度もまな板が揺れる。丸太をそのまま輪切りにしたかのようなまな板の上で、女性の頭部が何度も殴打されている。金槌とミノを使っているので、薄眼に見れば、彫刻をしているようにも見えるかもしれない。赤黒く、血腥いことを除けば。
「唯姐姐、何してるのさ? さっきか騒音だよ!」
「なかなか剥がれナイんだヨ!」
「ハイハイ。頭部の皮を剥ぎたかったんだね。骨を割りたいのかと思ったよ」
そう言いながら唯の背後から雨泽は手を伸ばす。手には果物包丁を持っていた。これを使い、皮膚を切り裂くと指を強引に突っ込む。メリメリ……奇妙な音が鳴る。
「耳とか鼻とか唇が管として繋がってるから処理に手間取るんだよね。髪を売ろうと思うなら必要だけど、面倒な時はそのまま家族にあげちゃうかな」
「おっ! 耳の外れるトコがキモチイーな!」
「それはオレも思うよ。はい、剥がれた」
頭の皮は毛を包み込んでいるので分厚くなっている。雨泽は皮を空のバケツに放り込むと、ハサミを持った雨涵に近付く。
「お待たせ。それじゃあ、続きしようね」
「はい、哥哥!」
「ん。お返事ができるようになって偉いね。それじゃあ、お腹の中見ていこっか」
目の前には逆さ吊りになった女。雨涵は踏み台に乗っかり、腹の中に頭を突っ込む。独特の臭さがある。中はまだあたたかい。
「白くてうねうねしたものがあるのわかる?」
「ん!」
「それはね、腸だよ。背中の膜と繋がってるから、背中側の膜の根元を軽く切ってあげて。そしたら、取り出せるはずだから」
ちょきんっちょきんっ、ハサミが入れられる。ごそごそ、としてから、両手に腸を抱えた幼女が顔を出す。にこにこ笑っている。彼はこれを受け取り、バケツに入れた。幼女は再び腹の中に頭を突っ込む。
「おっきい臓器があるのわかるかな? まるでお豆のような形のあかーいやつ」
「ん!」
「よしよし、それじゃあ、それを引き剥がしてね。大丈夫、きっと取れるから」
メキョメキョ、奇妙な音が鳴る。幼女が不安そうな顔をして彼を見る。彼は微笑むと、女の腹に手を突っ込んだ。
「ハイハイ、これでいけるよ。このぷくっとした袋は苦いから除けておこうね」
肝臓と胆嚢を別々のバケツに放り込む。ここで血を貯めていたバケツがいっぱいになったので、新しい物と取り換えられた。
「次は肺と心臓を取り出そう。ここ――横隔膜を引っ張り出すようにしたらいっぺんに引き抜けるからね。ほら、一緒にしようね」
胸に手を入れ、横隔膜を掴ませる。そのまま一緒に引き剥がした。メリメリメリメリ……。剥がれていく音がする。
「これで内臓の処理はおしまい! よくできましたー! 雨涵は物覚えが良いね」
彼の声で幼女は嬉しそうに満開の笑みを見せてくれる。
雨泽は女を器具から下ろし、まな板に乗せる。そのまま躊躇いなく、手際よく皮が剥がされ、肉が切り分けられていく。その間に雨涵は引っ張り出した腸の間膜を剥ぎ、一本の管にする作業をしていた。
「ネエネエ、白い鴉ちゃん!」
「どうしたの姐姐? まだ頭で遊んでるの?」
「ボクは遊んでナイ! 脳味噌は薬になるカラな!」
「猿とかよく聞くよね」
「人間も猿もボクにとっては同じモノさ。アヒャヒャ!」
矯正器具のワイヤーが輝くほどに笑いながら、唯はフォークを目玉に突き刺す。引っこ抜けた眼球がそのまま彼女の口の中へ消えた。ムチュムチュ、湿った音が鳴る。
「つまみ食いしないでよ」
「君は目はワルくないだろう! ボクはいつも集中しているから疲れ目なんダ!」
「まあ、そうだね。オレはね、目も耳も鼻も良い方だから。で、何で呼んだの?」
「ソレは、脳の調理をしてくれないカと思ってサ! ボクも腹が減ってきた!」
「薬にする流れじゃなかった?」
「それはソレ、コレはこれダ。君達の薬はコイツの脳じゃ無理無理無理無理無理無理ダ!」
手を動かす度に白衣の長い袖がバタバタ鳴る。血がついてしまっているが、彼女は気にしていないようだった。元より、気にするようなタイプには全く見えないのだけれど。
雨泽は溜息を吐きつつ、頭部を割る。脳味噌がこぼれおちそうになったところを受け止め、形を崩さないようにまな板に乗せた。今まで乗っていた腕や脚はいったんバケツに突っ込まれている。
手身近にあった野菜と共に刻み、鍋でさっと炒められた。料理酒が加えられ、炎の柱ができる。唯は目を輝かしてその光景をじっと見つめていた。口の端から涎が垂れ、唾を飲み込んだ音が聞こえた。
「はい、脳味噌混ぜ野菜炒め、オイスターソース味」
「フーッ! サイッコー! いっただっきまーすッ!」
両手をパァンッと力強く合わせてから、彼女は野菜炒めを食べ始める。矯正器具に野菜が引っかかったのか、少し呻いた。
目を細めて薄く笑うと雨泽はバケツから腕を引っ張り上げ、下処理を再開した。外では掃除の終わった鴉達がおこぼれを待っていた。
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2025.4.11 完結 25649字
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