壊れた世界で生きる

黒い猫

文字の大きさ
2 / 8

プロローグ②

しおりを挟む
 異世界へとつながるモヤ。
 通称、ダンジョンゲート。

 ダンジョンゲートをくぐった先の景色は、
 実際に入ってみるまでわからない。

 そして、そのダンジョンの難易度もまた、未知数である。

 大抵は与太話だろうと高をくくっていたモヤの噂は、それから数時間のうちに、世界中で続々と出現したことで、否応なく真実として受け入れられることになった。

 当時のSNS――特に日本では、
 呼び方が規定される前からそれらは「ダンジョン」と呼ばれ、大いに盛り上がっていたそうである。

 地震の話があまり話題にならなかったこと。
 そして元より、ダンジョンという存在が
 ライトノベルなどで広く知られていたこと。

 それらが原因だったのだろう。

 なにはともあれ、日本ではダンジョン発生から
 日本政府が封鎖に踏み切るまでの、わずか三日の間に、一万人を優に超える人々が、ダンジョンへと足を踏み入れたそうだ。

 ダンジョンに入った者が内部の光景を発信するたび、それを見た人々が、さらにダンジョンへと向かう。

 今になって思えば、
 あれは悪辣なダンジョンによる撒き餌のようなものだったのだろう。

 ダンジョンへ行って、帰ってこない人がいる。

 そんな噂は、
 夢のようなダンジョンの光景の前では、
 数時間と持たずに霧散した。

 二日目、三日目と時間が経つにつれ、
 行方不明者は確実に増えていった。

 人々がダンジョンの危険性に、
 うっすらと気づき始めた三日目。
 日本政府は、ダンジョンの封鎖を発表する。

 政府が封鎖を発表するまでの間に、
 約二千人が行方不明となっていたそうだ。

 遅れて、世界各国でも
 政府によるダンジョンの閉鎖が相次いだ。

 世界もまた、
 ダンジョンの危険性に気づいたのである。

 対応が遅れた理由は多々あるが、
 一般的には、ダンジョンの一層が
 一律で「安全」だったことが大きいだろう。

 ダンジョンは、二層から牙を剥く。
 その牙を人々が知るまでに要した時間だった、
 というわけだ。

 しかし、ダンジョンに存在するのは
 デメリットだけではなかった。

 二層以降に存在する、
 魔石を持った生物――通称魔物。

 それらを倒すことで、
 人は身体能力を向上させることができる。

 さらに、
 この世のものとは思えない能力を秘めた宝が、
 ダンジョンの奥には眠っているという。

 ダンジョンが政府によって封鎖されるまでの
 わずか三日の間に囁かれていたそれらの噂は、
 一週間後、アメリカ政府の発表によって、
 公然の事実へと変わることになる。

 そして、
 2020年1月15日。

 アメリカ政府は、
 世界に向けて異例の発表を行った。

 政府によるダンジョン封鎖の裏で進められていた、
 軍を用いたダンジョン侵攻の結果。

 銃をはじめとした近代兵器は、
 魔物に対してほとんど意味を成さないこと。

 一方で、
 魔物から採取できる魔石には、
 現行の発電効率を遥かに超える、
 未知のエネルギーが含有されていること。

 そして――
 近い将来、ダンジョン探索を
 民間に解放する予定であるという事実。

 それらの情報は、
 瞬く間に全世界へと広まり、
 人類の価値観と常識を、
 根底から塗り替えていくことになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金5億で異世界転移、よりによって金本位制の世界だった

夜明け一葉
ファンタジー
32歳の個人トレーダー・佐藤慧は、5年間の雪辱を賭けたトレードで5億円の借金を抱え、意識を失った。目覚めると、そこは剣と魔法が存在する見知らぬ世界だった。常識が通じない異世界で、金貨を見るだけで嘔吐する「金アレルギー」を抱えながら、若き冒険者リナと出会い、生き延びる術を探し始める。諦めることだけができなかった男が、新たな世界で再び立ち上がる異世界サバイバル譚。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...