死にたがりの魔王様

黒い猫

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第10話 準備

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いつまでこのまま怯えなければならないんだ。
 日を増すごとに俺の中の不安は大きくなっていく。
 いつあのドラゴンの気が変わって俺を食べようとするかなんてわからない。
 ドラゴンを確認するために外に出た瞬間にぱくりといかれるのかもしれない。
 そう思うと3日目からは外に出て確認することすらできなくなっていた。

 確認しなくなって早3日、俺の心は次第に変化し始めていた。

 人間というのは欲深く、毎日享受できていた自由が突然奪われるとなると次第に我慢できなくなっていく。
 この世界に生まれ落ち、自らがこの世界で最も弱かった頃や、ドラゴンによる火傷でダンジョンで療養していた頃は、外に出られないことに対して何も思わなかったというのに、少し強くなっただけで、自由に外に出られることが当然の権利だと錯覚してしまっていた――――――
――――――そして、それをドラゴンによって奪われたのだと。

 何も遊びのないダンジョンからようやく出ていけると思った矢先のことだ。
 当然怒りが湧くだろう。
 自分の中の恐怖と怒りを天秤にかけて怒りの皿が落ちる。
 できることを全てして、今度こそドラゴンを殺してやろうと誓う。
 その怒りに任せて毎日レッドボアを食べられるだけ食べた。
 それと同時に、頭痛は収まっていたが、未だにトラウマがあり手を出すことができなかった魔術にも再び手を出した。

 久しぶりにも関わらずすぐに魔術のコツは掴めた。
 魔素欠乏を起こすほどに魔術を使ったのだから当然だ。
 そして俺は魔術を使うのが得意だった。
 少し前まで男子高校生、ラノベやアニメで見た魔法を何度も夢想してきたのだ、想像力が物を言う魔術において現代日本を生きた男子高校生が遅れを取るわけがない。

 毎日のように食べてきたレッドボアによって体内の魔素量もこの時点でそこらの魔術師は優に超えていたのではないだろうか。
 魔素量も幸いし、俺はずっと練習することができた。
 そして俺は、魔術が上達した。
 火や水、風や雷なんかもこのときにはもう扱えるようになっていた。
 このときにはあの決意から3ヶ月は立ち、ドラゴンのことも忘れかけていた頃だった。

 その時だった。

 少し遠くで何かが吠えるような音、それと同時に大きな揺れがダンジョンを襲う。
 鳥肌が立ち、脳が危険を訴える。
 行ってはならないというのに2階層に続く階段の方へ足が向かう。

 2階層に上がった俺は呆然とした。
 2階層は完全に地下にあるはずなのに空が見える。
 雲、太陽、青い空、そして口端からヨダレを垂らすドラゴンの姿。

 俺の準備なんてなんにも意味がなかったのかもしれない。

 そう、悟ってしまった。
 自分とドラゴンの埋まりそうもない種族としての圧倒的な差を――――

 ――――――――――――――
 ゴブリン 危険度1
 ただの子鬼、群れていれば少し危険ではあるが進化する個体も稀であるため新米勇者であれば寝てても負けることはない。

 レッドボア 危険度1
 食肉としては有用なイノシシ。
 赤い体躯と角を見かければ、勇者はよだれを垂らしながら追うこと必死だろう。
(伝説の勇者の手記より抜粋)
 ――――――――――――――
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