癒され怪談。SS集

coco

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遊ぼう

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 曽祖父そうそふが生きていたころ、私に教えてくれたずいぶん昔の話です。

 曾祖父が友達と遊んでいると、見かけぬ男の子が木の陰からこちらの様子を覗いていました。
 曽祖父はその子が気になり、声をかけました。
 すると男の子は、もじもじした様子で木の向こうに引っ込んでしまいました。
 おや?と思い木の元へ近づきましたが、そこには誰もいませんでした。
 勘違いかと思った曾祖父は、友達の元へと戻りました。

 その出来事から数日後、その日も曽祖父は友達と遊んでいました。
 するとまた木の陰から、あの男の子が覗いていました。
  あの子はもしかしたら自分たちと遊びたいのかな?と思った曾祖父は、男の子に声をかけました。
「そんな所にいないで、こっちへおいでよ。一緒に遊ぼう?」

 すると男の子は、恥ずかしそうな様子でこちらへやってきました。
 近づいてくる男の子を見て、曾祖父は驚きました。
 その男の子は襤褸ぼろをまとい、体中薄汚れ、何ともみすぼらしい姿をしていました。
 それを見た友達は、こう言いました。
「こんな汚い子と、遊びたくない!」
 そして、どうしてもその子を仲間に入れるのなら自分は帰る、と怒って家に帰ってしまいました。

 曽祖父は悲し気な男の子を見て、それなら自分と二人で遊ぼう?と言い、その手を取りました。
 二人は、木登りをしたり、虫取りをしたり、追いかけっこをして遊びました。
 そうして遊んでいる中で、曾祖父はあることに気づきました。
 
 それは男の子が、まったくしゃべらないことです。
 名前や、どこから来たのかを尋ねてもニコニコしているだけで、答えを返してはくれませんでした。
 もしかしたら、この子は病気で話ができないのだろうか?
 だとしてもこうして笑っているなら、一緒に遊ぶことを楽しく思ってくれているんだろう…。
 やがて日が沈み辺りも暗くなったので、曽祖父は帰ることにしました。
 
 それ以降、曽祖父は男の子を見かける度に声をかけ、一緒に遊びました。
 男の子は相変わらず話をすることはなく、ただニコニコと笑うだけでした。

 ある日、曽祖父は男の子が腕に怪我を負っていることに気づきました。
 怪我はそんなに酷くないようですが、元々破れていた着物がさらにボロボロになっています。
 曾祖父は自分の持っていた手ぬぐいを、腕に巻き付けてあげました。
 男の子は大丈夫というように首を振りましたが、遠慮していると思った曽祖父は、気にしなくていいと伝えました。
 そんな曾祖父に、男の子は少し困った顔で笑いました。

※※※

 その翌日のことです、曽祖父は家族にお使いを頼まれました。
 そしてその帰り道、ある田んぼの前を通りました。
 黄金に色づいた稲穂か頭を垂れサワサワと揺れていて、その上をトンボが飛び交っていました。
 そして田んぼの真ん中には、一体の案山子かかしが立っていました。
 曽祖父はその案山子を見て、おや?と首をかしげました。
 ボロボロの着物に薄汚れた顔、どこか見覚えがあります。
 
 …この着物は、あの男の子が着ていたものと同じだ。
 もしやと思い、曽祖父は案山子の腕を見ました。
 すると、あの日あの男の子に巻いてあげたものと同じ手ぬぐいが、同じ場所に巻き付いていました。
 
 この案山子はあの男の子だ、あの男の子はこの案山子だ。
 案山子だったから襤褸をまとい、あちこち汚れたみすぼらしい姿をしていたんだ。
 そして案山子だから、話すことができなかったんだ。 
 曽祖父は案山子を見た後、二度とあの男の子に出会うことはなかったと言います。

※※※

「正体を知ったから、姿を見せなくなったのかもしれん。知られたくなかったから、手ぬぐいを巻いた時にああいう態度をしたのだろう。かえって申し訳ないことをした。」
 
 そして、寂しそうな顔で言いました。
「たとえ案山子でも、また一緒に遊びたかった。」
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