癒され怪談。SS集

coco

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教えてくれる

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 祖母が子供のころ、友達に教えてもらった話です。

 祖母とその友達は家が近所ということもあり、幼いころからとても仲がよかったそうです。
 その友達は、畑で採れた野菜や山で採れた木の実など、祖母によくおすそ分けをしてくれました。
 どの食べ物もみな美味しく、祖母はとても嬉しかったそうです。
 中でも、秋に持ってきてくれる「柿」が一番おいしかったそうです。
 しっかりと色づき形も美しく、口に入れた時の食感や甘みが抜群だったそうです。
 そしてその友達が持ってきてくれる柿は、全てがそんな立派な柿でした。

 その日もおすそ分けしてもらった柿をおやつに、二人で仲良く食べていました。
「どうすれば、こんなにおいしい柿を見分けることができるの?」
 祖母は、その秘訣を友達に尋ねました。
「教えてくれるのよ。」
 そう友達は答えました。
 そして、更にこう続けました。
「普通に収穫するときは何もないんだけれど、誰かにおすそ分けするときだけ、柿の木が教えてくれるんだよ。」

 その友達が言うには、家には三本の柿の木があり、その内の一本がおいしい柿を教えてくれるというのです。
 誰かにおすそ分けしよう…さて、どの実がおいしいだろうかと考えていると、その柿の木の枝の一部がガサガサと揺れるのです。
 何かが触れたわけでも、風に吹かれたわけでもなく、自然と枝が揺れるのだそうです。
 その揺れた枝に実った柿の中から良いものを収穫し、さて今度はどの実にしようかなと見回すと、違う枝がガサガサと揺れるのです。
 そして先ほどと同じように、その枝の中から選別し収穫する…これを繰り返すのです。
 そうしてもう十分な量になったと思い収穫を終えると、木の枝もピタリと揺れなくなるのだそうです。
「木がそうして教えてくれるから、その教え通りに選んでもってきているんだよ。」

 それを聞いた祖母は、何ともありがたい柿の木があるものだと、深く感じ入ったそうです。
 そして、柿の木が教えてくれるのは、この子が優しいからだろうと思いました。
 この子が持っている、分けてあげたい、美味しいものを食べてもらいたい、そういう想いに、柿の木が応えてれたのだろう…。
 祖母は友達に自分の考えを伝え、改めて今までのお礼を口にしました。
「そうだったら嬉しいな。そうして授かったものをこうして一緒に食べるから、より美味しく感じるね。」
 友達は祖母にそう返すと、優しく微笑みました。

 秋になると、優しい友達とあの美味しい柿が思い出される-。 
 どこか懐かしい表情で、祖母は語りました。
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