深淵

coco

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第1怪 観察者

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「…っていう、いつの時代に出会っても、昔と年齢ねんれいがちっとも変わらないモノの話。それが、第9話の面影おもかげっていう話。」

 私は先日に執筆しっぴつした話の内容を、その人に伝えた。

「ふぅん…不思議な話だね。でも、そういうおかしなモノも居るのかな。普通の人間にまぎれて。」

 私の話を聞いたその人は、そんな感想を述べると、私にこう言った。

「でも変わらないと言えば、君もだよ。年齢や顔じゃなくて、その趣味しゅみさ。昔から怖い話が好きで、聞いて回って…今じゃ一冊の本にしようと言うんだもの、相当そうとうだね。君にとって怖い話とは、一体どういうものなんだい?」 

※※※

 怖い話、それは生きている者=「生」と、生きていない者=「死」という、相反あいはんするものが、同じ世界に当然のように存在してる。
 
 その話を聞くこという事は、今こうして生きている私が、生きていない者へ自ら近づき、その深く暗いふちをのぞき込む様な行為こういである。

 それは、ただこちらが一方的にそれ見ているだけの、言うなれば観察者の様なものだ。

「でも、この百物語はもう始まった。今も書き続けてる。それなのに、いまだに君はただの観察者なの?」

 確かに…私はこれまでに、すでに9つの話を書き終えている。

 作品を完成させるために筆を取った私は、その人の言うように、もはやただの観察者ではなくなってしまったのかもしれない。

※※※

 深く暗い淵…深淵しんえん

『深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ-。』

 私はふと、哲学者てつがくしゃニーチェの言葉を思い出した。

 これには様々な解釈かいしゃくがあるが、ひらたく言えば「ミイラとりが、ミイラになる」の意味で使われる。

 臨床心理学りんしょうしんりがくにおいては「異常者いじょうしゃの心理を分析する者は、自分自身も異常者になる」という事を差しているが…。

 では、そのニーチェの言葉を借りれば、こう考えられるのではないか。

怪異かいいに触れる者は、それ自身も怪異になる-。』

 そのおそろしい考えを振り払うかのように、私は静かに首を振った-。
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