深淵

coco

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第24怪 深淵

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 私は母の話に少し手を加え、99話目の話にしてこの物語を完成させた。

 それから何日かの入院期間を終え、私は無事に退院した。

 入院中、Eさんがお見舞いに来てくれた。

 その帰り際、Eさんは私の方を振り返り、あなたのオーラは、今は1色の色をしていると言った。
 私はそれに、ただうなずいただけだった。

 意識を失ってこの病院で目を覚ましてからは、あの人の姿は一度も見ていない。
 私のオーラがそう見えたのは、それが理由だろう。

※※※

 その少し後、私の本は無事に出版された。

 本の売れ行きは、上々だった。
 私の初めての百物語形式の怪談本は、上手くいったようだ。

 「君は、ちゃんとこの物語を完成させてよ…。」

 彼はそう言っていた。
 私は彼の言葉通り、この本を完成させた。

 少しは、彼への罪滅ぼしになっただろうか。
 彼は許してくれるだろうか。

 どうか、許して欲しい…。

※※※

 本の出版から、半年ほど経ったころだった。

 新作を執筆しっぴつしている私の元に、一枚の手紙が届いた。
 私の百物語を読んでくれたという、あるファンからの物だった。

 私は手紙に書かれている差出人の名前を見て、おや?と思った。

 この女性の名前、以前どこかで見たことがある。
 確かこの名前は…。

 私は、ファンレターがしまってあるダンボールをゴソゴソと漁った。
 あった…やっぱりこの女性だ。

 それは百物語の19話、水面みなもという話の元ネタをくれた女性からだった。

 確か…水面に映った自分と見知らぬ男性、それが実は未来の姿で、2人はのちに出会い結婚したと言う幸せな話だった。
 もしかして、また水面に何かを見たのだろうか…?

 私はその手紙の封を切り、早速中を読むことにした。

※※※

 先生の作品、読ませて頂きました。

 私の体験が作品に使われていて、とても驚いたのと同時に嬉しかったです。

 あれから彼と結婚しましたが、最近になってまた、私の身に不思議な出来事が起きました。

 あの池の水面に、未来の私が映ったのです。
 私の腕の中には、赤ちゃんが居ました。
 男の子の赤ちゃんです。

 私たち夫婦には、まだ子供が居ません。
 今現在、妊娠しているという事実もありません。
 だからあれはきっと、私の未来の姿です。
 だって、あの池で、あの水面に映ったんですもの…。

 そう思える理由は、他にもあります。

 最近私の夢に、ある青年が出てきました。
 青年の顔はぼやけていてよく分かりませんでしたが、恐らく会ったことのない人物です。

 彼は、私にこう言いました。

 僕、今度はちゃんと生まれてきたいんだ。
 今度こそ、悪い奴に食べられないようにするよ。
 それとね、僕、〇■っていう名前、気に入ってるんだ。
 僕が生まれたら、その名前を付けてね。

 私は、そこで目が覚めました。

 恐らく彼は何か理由があって、この世に生まれてくることができなかった、哀れなたましいなのだと思いました。
 それと同時に、彼が私の子供になる子だ…あの水面に映った赤ちゃんは、彼なんだと思いました。

 だから、私は自分に子供ができたら…彼が生まれてきたら、彼が望む〇■というあの名前を付けてあげたいと思います。

 ところで、先生の次の新作は、恋愛小説だと伺いました。
 もう怪談本…百物語は執筆なさらないのですか?

 私は、先生の怪談作品が好きです。
 また百物語形式のお話を、書いて頂きたいです。
 もしよければ、今手紙に書いたこのお話を、次回の百物語の1話目に使って下さい…始まりの物語として。
 なんて、図々ずうずうしいお願いですね。

 ですが、先生の作品をそれぐらい愛しています。
 彼が生まれたら…いいえ、きっと生まれるので、そしたら先生の作品を読ませますね
 きっと〇■も、大好きになってくれると思います。
 先生の作品も、先生のことも…。

 そんな幸せな未来のきざしを感じ、こうしてふでを取らせて頂いた次第です。
 長々とつづることとなり、申し訳ありません。
 それでは、失礼します。

※※※

 私の手紙を持つ手には、じっとりと汗がにじんでいた。

 百物語は、終わっていなかった?
 まだ怪異かいいは、続いていたと言うのか?
 いや…彼が生まれてくることで、また始まるのだ…そこから。

 私は、その手紙をじっとのぞき込んだ。
 どこまでも深く、ひたすら暗いふちをのぞき込むかのように、ただじっと。

深淵しんえんをのぞくとき、深淵しんえんもまたこちらをのぞいているのだ-。』

 その手紙の向こうから、がこちらを見て笑っている姿が見えた。

 ニヤニヤと笑う彼。
 私をさげずむように、あざけるように笑う彼。
 
 それを目にした瞬間、叫び声を上げ震える私の手から、ひらりと手紙が床に落ちた-。
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