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全てが望み通りになって来た彼は、浮気も上手く行くと思っていた様ですが…そうは行きませんよ?

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「俺は本当に運が良い…!これまで全てが、自分の望み通りになって来たからな!」

 これが、私の婚約者の口癖だった。

「この前売り出した新商品も、すぐに人気になりあっという間に売り切れた。傾いていた俺の家の事業も、俺の手にかかればこんなものだ!」

 彼は、上機嫌で笑っていた。

「…私は、あなたがそうやって幸せそうになさっているのが、何よりも嬉しいです。」

「ハハハ、そうか!そうだ…何か欲しい物は無いか?今なら、何でも買ってやる!」

「私は…特には。ただ…あなたは最近お仕事が忙しくて、中々一緒に過ごせないから…家で、ゆっくりお話しがしたいです─。」

※※※

「…とまぁ、あいつはそんなつまらない事しか言わない。せっかく俺が、何でも買ってやると言って居るのに…。」

「嫌ねぇ…。私みたいに、ドレスや宝石を強請ればいいのに。…可愛げが無いのね、あなたの婚約者って。」

 そう言って馬鹿にした笑みを浮かべるのは、俺の愛人だ。

 彼女とは、以前あるパーティーで知り合ったのだが…とても美しい女で、何より性格も明るく愛嬌があって可愛らしかった。

 そして俺は、この女にすぐに夢中になり…彼女との仲が深いものになるまでに、そう時間はかからなかった。

「まぁ…あんなつまらん女でも、父が選んできた女だからな…。簡単に捨てる訳にもいかないんだ。だが…俺は出来る事ならあいつと婚約破棄し、君を婚約者に迎えたいと思って居る。」

「なら、是非そうして頂戴!私、あなたみたいな美形でお金持ちで…何より、運が良い男が好きなの。そういうのって、お金では買えない…特別なものでしょう?私は、そんな人と結婚したいの─。」

 ところが、それから暫くして…今まで上手く行っていた事業が、急に傾き出した。

 商品を出しても売れないし、今までの商品も売れなくなり…酷い時は返品されてしまう。
 おまけに私生活でも、急な病に罹ったり、事故に遭いそうになったり…。

 今まで幸運続きだった俺なのに、一体どうしてしまったんだ─!?

「…今の俺は、何か悪いものに憑かれているとしか思えん。これまで、全てが自分の望み通りになって来たのに…こんなに不幸が続くなど、絶対におかしい!」

 すると婚約者は…そんな俺を見て、クスクスと笑い出した。

「な、何がおかしい!?俺がこんなにも悩んで居るのに笑うなど…お前は、それでも婚約者か!」

「あなた…私を裏切っていた癖に、よくそんな事が言えますね。」

「な、何の事だ…?」

「実は、暫し前の事なんですが…街中で、ある女性に声をかけられましてね。私のせいで、あなたが不幸になって居ると罵られたのです。私という女が婚約者の座に居座って居るから、あなたは本当に好きな人と結ばれる事が出来ないんだって、そう言うんですよ?私、ビックリしてしまって─。」

 ま、まさか、彼女じゃないだろうな…。

「ですから私、その方の事を少し調べる事にしたのです。そしたら…何と彼女は、あなたと愛人関係にある事が判明しましてね。あなた…私という者が在りながら、陰で愛人を囲っていた何て…あんまりです!」

「い、いや…それは誤解で─」

「何よりショックだったのは…私が、あなたを不幸にしていると勘違いされた事です。あなたが今まで、自分の望み通り…幸せに生きて来れたのは、この私のおかげだと言うのに。」

「…え?」

「よく思い出して下さい…。あなたが、そんなにも運の良い男になったのは、いつからだったのか─。」

※※※

 私の言葉に、彼は暫し考え込むと…ハッとした顔になり、私を見つめた。

「そう…あなたがまだ十歳の頃…初めて私に引き合わされ…そして、いずれ婚約しようと言う話になった時からでしょう?私があなたの婚約者に選ばれたのには、ちゃんと理由があるのです。」

「な、何!?」

「私の一族の女には、将来の伴侶となる相手の人生を好転させる力があるの。だから、私を婚約者にしたあなたは…傾いた事業を軌道に乗せ、病に罹ったり危険な目に遭う事なく、ここまで生きて来れたのよ?でもそれは、あなたが私に対し誠実でなければならない。もし、私を裏切るような事があれば…今までの様に物事が上手く行かないどころか…今まで運が良かった分だけ、不幸があなたを襲う事になる─。」

「そ、そんな…!」

「全てが望み通りになって来たあなたは、この浮気も上手く行くと思っていた様ですが…そうは行きませんよ?あなたとは、もう婚約破棄します。だから…この先あなたの人生は、ただ転落して行くだけです─!」

 こうして、私は彼と婚約破棄する事となった。

 そして私を失った彼は…事業がとうとう立ち行かなくなり、破産する事となった。

 そしてそれと同時に、重い病に罹り…更には屋敷も火事になり、何とか逃げ出せたものの、自慢の顔に火傷を負ってしまった。

 また、見舞いに来ていた愛人もその火事に巻き込まれ…彼女もまた、火傷で美しい顔を失う事となってしまったのだ。
 すると…これ以上あなたと一緒に居ては、私はもっと不幸になる…そう言って、愛人は彼の元を去って行ったらしい。
 
 それが余程ショックだったのか…彼は病が進行し、やがてベッドの上で寝たきりとなった─。

 一方、私はというと…彼に与えていた幸運が自分に返ってきたおかげなのか、すぐに素敵な殿方と巡り合い、婚約する事となった。

 彼はそんな私をとても大切にし、私だけを愛してくれるから…今の私は、相手に幸せを与えるだけでなく…相手からも抱えきれないほどの幸せを授けて貰い、素晴らしい日々を生きているわ─。
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