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私の自慢の旦那様は、本当は私の事など見てくれない最低な男なのです。

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「今日は帰りが遅くなる、先に休んでくれ。」

「はい。」

 彼はいつものように私のほほに口づけを落とし、家を出て行った─。

「何て素敵すてきな旦那様なんでしょう!うらやましいですわ奥様、さぞやご自慢じまんでしょう?」

 そう話すお手伝いさんに、私は何も言わずただ笑って返した。

 あなたは気付いてない…彼は私のくちびるには絶対に口づけをしないのよ。
 それに彼は、あなたが帰ってしまった後…夜遅くに帰って来た時は、絶対にあんな事しないの。

 つまり彼は、人目がある時だけ…お義理ぎりで私に口づけを与えているにすぎない。

 そんな事あなたに言っても、信じてもらえないでしょうけど─。

※※※

「約束通り、あいつの唇には触れてない。」

「だったらいいわ。あの女は異人いじんの血が入ってるんでしょう?何だか気持ち悪くて…。」

「そうだな…口づけも事も、してるのは君だけだよ。」

「…だったらいっそ、別れてよ。」

 愛人は面白くなさそうに、そう吐き捨てた。

 この女ともそろそろ潮時しおどきだな。
 始めはもう少し、さっぱりした女だったんだが…。
 
 愛人が妻との別れを迫って来るようになったら危険だ。
 それはこれまでの経験からよく分かっている。

 フン…誰がお前たちのような尻軽女を選ぶか、いつものようにゴミくずのごとく捨ててやる!
 
 今の妻は使える女なんだ。
 俺に従順じゅうじゅんで、見目も悪くない。
 それにあいつには、親の遺産がたっぷりあるしな。
 いつかそれを奪い取るまで、誰が離縁など─!
 
 そう思っていたのに、俺の思惑おもわくはもろくも崩れ去った─。

※※※

「俺と別れたい!?どうして急に…!」

「急じゃありません、前から考えていた事です。あなた…私に隠れ何人もの女と愛人関係を結んでましたね?その彼女たちが、集団であなたを訴えると言って来たんです。そんな夫と、とてもこの先一緒には居られません。」

「う、訴える…?あいつらにそんな知恵ちえが─」

「だからこその集団訴訟なのでしょう?それに、あなたも彼女たちを見くびりすぎです。彼女たちはいつかあなたを自分のものにしようと、あなたとの愛の営みを記録に残したり、あなたから頂いた物を律儀りちぎに残しておいたり…証拠はたっぷりとそろってるそうですよ。」

「そんな…!」

「それとですね、あなたの会社の今後についても話があります。離縁する以上、あなたの会社と縁を切らせて下さい。つまり…私の管理する土地から採れる金は、もう一切あなたの会社には渡さないという事です。」

「何!?」

「あなた、私が混血である事を愛人と馬鹿にしてたんでしょう?私があの地に生まれあの地を受け継いだ、そのおかげで金を得る事が出来ていたのに…恩知らずな上に、差別するなんてあんまりよ。」

「あれはただ、その場の勢いで─」

「何よりこの結婚生活でつらかったのは、あなたを心の底から好きだと思えない事です。そんな事を言えば、あんな素敵な旦那様に何の文句があるの?自慢できる旦那様を持っているのに…そう言われ、私の方が白い目で見られてしまう。悪いのは浮気をするあなたなのに…そんな事、誰も信じようともしない!」

 私のいきおいに負けたのか、彼はうつむき黙り込んでいた。

「あなたは自慢の旦那様なんかじゃない。愛人や私の遺産しか見ていない…私自身の事など何も見てくれない、最低な男です─。」

※※※

 私と離縁した彼は、予定通り愛人たちから訴えられ、そのせいで社会的信用を一気に失った。
 今まで彼の事を素敵な旦那様とめていた者たちは、手のひらを返したように口々に彼を罵倒ばとう陰口かげぐちを叩いた。

 そんな中で会社は負債を抱え、愛人たちには示談金を払い、私にも多額の慰謝料を払い…彼はとうとう全ての財産を失った。
 今度こそ君が心から自慢できるような夫になる、そう復縁を望んでいるようだが…お生憎様あいにくさま

 私にはもう、心から好きだと言える恋人が居るの。
 その方はいずれ、私の自慢の旦那様になってくれる予定よ…だからもう、あなたのような男の出るまくはないわ─。
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