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私はいい子
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「吉田さんが探してた資料、これでしたよね、どうぞ。」
「あ、そうそう。ありがとう、助かった。」
「飯田さん、このペン使って下さい。」
「いや~、ありがとう!」
※※※
「あの新人さん、本当に気が利くいい子だな。」
「ねえ。こちらが探してた資料も、わざわざ資料室から取って来てくれて。」
「私もうっかりペンのインク切らした時は、助かりましたよ。お客さんと商談中だったから。」
少し前にこの会社に入って来た新人さんは、周りの皆から評判がいい。
いつも、周りの様子を見ていて、困っている人が居たらすぐ助けに行く。
気が利いていい子、優しくていい子…あの子のことを悪く言う人はいなかった。
※※※
「佐藤さん、これ、よかったらどうぞ?」
新人さんが私にのど飴を差し出した。
「ごめんなさい。私、甘い物は食べられないの。」
「…そうですか、ごめんなさい。」
※※※
「佐藤さんも、お茶どうぞ。」
「ありがとう。…後で飲むから、そこに置いといて。」
「…ええ。」
お茶は手を付けられることなく、流しに捨てられた。
※※※
…どうして、あの人は私の親切を無下にするのかしら。
みんなが私のことを、気が利くいい子だって言うのに。
私が物を取ってあげたり、渡してあげると、みんな喜んでくれる。
あの人は人の親切が分からない人なのね…いや、人を悪く思うのは良くない。
心を広く持って、他の人と変わらぬように、これからも親切にするだけよ。
だって私は「いい子」だもの。
※※※
新人さんは普通に見たら「いい子」なんだと思う。
いや、彼女自身は本当にいい子なのかもしれない。
でも…彼女に憑いているものは本当に良くない。
あれは相当、質の悪いものだ…。
あれは彼女自身ではなく、彼女の周りの者を不幸にする。
しかも、彼女が親切にしてあげたい、良くしてあげたいと思った相手に程、悪く作用するようだ。
あれは彼女の渡す物を媒介として、相手を不幸にする。
吉田さんは彼女の渡した資料を基に新製品の企画を立てるが、上手くいかないだろう。
飯田さんの商談も、相手との折り合いがつかずに、失敗に終わるだろう。
今まで彼女の親切に関わった人たちは、後々に不幸な目にあってきている…だから彼らにも、そんな未来が待っているはずだ。
私は新人さんがこの会社に入って来た時から、彼女の後ろにいるあれに気づいていた。
私は、そういう妙なものが見える人間だった。
彼女の手渡す物は、いつも真っ黒でドロドロとしていて、言われなければ何を手にしているのかよく分からない。
この前ののど飴にしろ、先程のお茶にしろ、そんなものはとても口に入れられない。
だから私はお茶を一口も飲むことなく、流しに捨てた。
これは私だけが知っていることだ。
行った所で無駄だ…あれが見えるようになるわけでもないし、どうせ誰も信じないに決まっている。
新人をいびる、ただの意地悪な先輩と思われるだけだ。
それに万一そんなことが彼女の耳に入ったら、きっと恐ろしいことになる。
別に私は、彼女の反応が怖いわけではない。
見られている、気づかれていると知った時の、あれの反応が怖いのだ。
だから私は、今日も明日もこの先も、彼女の親切を受け取らない…ただそれだけだ。
※※※
「佐藤さん、前は甘い物が食べられなかったけど、これならどうですか?駅前で買ったおせんべいです。ここのは美味しいんですよ?」
ニコニコ笑って私に黒いドロドロを差し出す新人さんの後ろで、同じように黒くドロドロとした酷く醜いあれが、今日もニタニタと不気味な笑みを浮かべていた-。
「あ、そうそう。ありがとう、助かった。」
「飯田さん、このペン使って下さい。」
「いや~、ありがとう!」
※※※
「あの新人さん、本当に気が利くいい子だな。」
「ねえ。こちらが探してた資料も、わざわざ資料室から取って来てくれて。」
「私もうっかりペンのインク切らした時は、助かりましたよ。お客さんと商談中だったから。」
少し前にこの会社に入って来た新人さんは、周りの皆から評判がいい。
いつも、周りの様子を見ていて、困っている人が居たらすぐ助けに行く。
気が利いていい子、優しくていい子…あの子のことを悪く言う人はいなかった。
※※※
「佐藤さん、これ、よかったらどうぞ?」
新人さんが私にのど飴を差し出した。
「ごめんなさい。私、甘い物は食べられないの。」
「…そうですか、ごめんなさい。」
※※※
「佐藤さんも、お茶どうぞ。」
「ありがとう。…後で飲むから、そこに置いといて。」
「…ええ。」
お茶は手を付けられることなく、流しに捨てられた。
※※※
…どうして、あの人は私の親切を無下にするのかしら。
みんなが私のことを、気が利くいい子だって言うのに。
私が物を取ってあげたり、渡してあげると、みんな喜んでくれる。
あの人は人の親切が分からない人なのね…いや、人を悪く思うのは良くない。
心を広く持って、他の人と変わらぬように、これからも親切にするだけよ。
だって私は「いい子」だもの。
※※※
新人さんは普通に見たら「いい子」なんだと思う。
いや、彼女自身は本当にいい子なのかもしれない。
でも…彼女に憑いているものは本当に良くない。
あれは相当、質の悪いものだ…。
あれは彼女自身ではなく、彼女の周りの者を不幸にする。
しかも、彼女が親切にしてあげたい、良くしてあげたいと思った相手に程、悪く作用するようだ。
あれは彼女の渡す物を媒介として、相手を不幸にする。
吉田さんは彼女の渡した資料を基に新製品の企画を立てるが、上手くいかないだろう。
飯田さんの商談も、相手との折り合いがつかずに、失敗に終わるだろう。
今まで彼女の親切に関わった人たちは、後々に不幸な目にあってきている…だから彼らにも、そんな未来が待っているはずだ。
私は新人さんがこの会社に入って来た時から、彼女の後ろにいるあれに気づいていた。
私は、そういう妙なものが見える人間だった。
彼女の手渡す物は、いつも真っ黒でドロドロとしていて、言われなければ何を手にしているのかよく分からない。
この前ののど飴にしろ、先程のお茶にしろ、そんなものはとても口に入れられない。
だから私はお茶を一口も飲むことなく、流しに捨てた。
これは私だけが知っていることだ。
行った所で無駄だ…あれが見えるようになるわけでもないし、どうせ誰も信じないに決まっている。
新人をいびる、ただの意地悪な先輩と思われるだけだ。
それに万一そんなことが彼女の耳に入ったら、きっと恐ろしいことになる。
別に私は、彼女の反応が怖いわけではない。
見られている、気づかれていると知った時の、あれの反応が怖いのだ。
だから私は、今日も明日もこの先も、彼女の親切を受け取らない…ただそれだけだ。
※※※
「佐藤さん、前は甘い物が食べられなかったけど、これならどうですか?駅前で買ったおせんべいです。ここのは美味しいんですよ?」
ニコニコ笑って私に黒いドロドロを差し出す新人さんの後ろで、同じように黒くドロドロとした酷く醜いあれが、今日もニタニタと不気味な笑みを浮かべていた-。
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