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08.悪いことは重なる
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リオントの言葉に、シェフレラは青くなった。
今日行くはずだった店。
そんな店に強盗が入ったとなったら、そこにある商品はごっそり持って行かれているだろう。
もし、その中にターミスが売ったというペンダントがあったら、大変なことになる。
「ど、どうして、よりによって今日なのよ。来るなら明日にしてよねっ」
言ってはいけない言葉だが、つい本音が出てしまった。
蒼白になりながら、シェフレラは急いで出掛ける準備をする。すぐ出られるように、と思って昨夜はそのままの格好で寝たのだ。
なので、ペンダントを買い戻すためのお金を入れた財布と、少々の荷物を入れた袋を持つと、すぐに部屋の外で待機しているリオントと共に店へ向かった。
店の前まで行くと、黒山の人だかりになっている。
「朝から大騒ぎだな」
さすがに強盗となると、役所も無視できないようだ。野次馬を整理しながら、捜査しているらしい。
昨日見た店の汚い看板は地面に落ち、入口の扉は完全に外れてなくなっていた。かなり乱暴な入り方をしたようだ。
強盗でなくても、何かよからぬことがあったとわかる様相である。
「ここに強盗が入ったって、本当?」
野次馬になっているおばさんの一人に、それとなく話し掛けてみる。
「そうらしいよ。見た人の話だと、夜が明ける少し前に五、六人くらいが入って行ったってね。まぁ、あそこの店主も結構悪どいことをしてたみたいから、目を付けられたんじゃないかい。もしくは、おかしな掘り出し物を狙った盗賊かもねぇ」
いい噂を聞かなかったのは、やはり店主がいい人ではなかったからのようだ。噂も、真実がちょこちょこ混じっていたりするものである。
「その……店主は? まさか、殺されたりとかはしてない?」
「いや、首根っこの所を殴られて、気絶してただけらしいよ。そういうところ、悪運が強いよねぇ。さすがって言うかさぁ」
とりあえず、店主は生きているらしい、とわかってほっとする。
ラメルボにターミスが来たかどうかを尋ね、願わくば「来てない」という答えをもらいたい。
そうなると振り出しに戻ってしまう訳だが、強盗に持って行かれたかも、という不安がなくなる方がいい。
シェフレラは野次馬の間をすり抜け、店へと近付いた。
「盗賊を見付けてくれっ。わしの財産がほとんど持って行かれたんだ」
役人達が来て意識を取り戻したラメルボは、状況を知って叫んでいる。
くせのあるゴマ塩頭に小太りのおじさんは、噂通りにいい人には見えない顔立ちだった。偏見を承知で表現するなら、性格の悪さと言おうか、そういうものが顔や雰囲気に表れている気がする。
シェフレラとしては、できれば関わりたくないタイプだ。しかし、今はそうも言っていられない。
「ああ、こら、きみ。今は捜査中だから、近付くんじゃない」
野次馬から一歩前へ出たシェフレラに気付いた役人が、面倒そうに注意する。
「あの、あたしは魔法使いです。ある依頼で、ここの店長に聞きたいことがあるんです。少しだけでいいので、時間をもらえませんか。それが済んだら、すぐに帰ります」
「魔法使い……少しだけだよ」
恩着せがましい言い方をしながら、役人は「行け」とばかりにあごで店主の方を指し示す。その態度にちょっとかちんとくるものがあったが、追い払われてしまうよりはいい。
「ご配慮、感謝します」
許可をもらったのでシェフレラは遠慮せず、店の戸口の横でしゃがんでいるラメルボの方へと近付く。
初老と呼ぶにはもう少し年季の入った風貌の店主は、殴られた首の後ろを冷やしながら、ぶつぶつとつぶやいていた。かなりのぽっちゃり体型なので、首が短い。
「失礼します。ラメルボさん、お聞きしたいことがあるんです」
「あぁ? 何だ、あんたは」
「魔法使いのシェフレラといいます。ここ数日のうちで、赤毛の男の子がペンダントを売りに来ませんでしたか?」
「赤毛?」
ラメルボは疑わしそうに、シェフレラを見上げる。
「ああ、そんなガキがいたな。赤い石のペンダントを買ってくれって」
紅玉のペンダントだ、とクロスカスも言っていた。間違いない。
やっぱりここかぁ。こういう予感に限って当たるのよね……。
持ち込んだ先がわかって、いいような悪いような。
「ペンダントは?」
「何だい。そのペンダントは盗品なのか?」
「いえ、盗品ではありません」
ターミスの主張は、拾得物。クロスカスは盗んだような言い方をしていたが、状況から見れば拾ったものだ。
「それが何だってんだ」
「ペンダント、どうしました?」
ラメルボの問いはあえてスルーして、シェフレラは続けて尋ねる。
「買い取ってくれって言うから、買い取ったよ」
ラメルボの答えに、買われてしまったとわかってシェフレラは心の中でがっかりする。
それと同時に、いやな予感がした。この事件の話を聞いてから、ずっと不安に感じていたこと。
まずいと言うか、面倒な展開になりそうな気がする。
「今、そのペンダントはどこに?」
「ねぇよ」
「誰かが買い取ったとか?」
「いいや、まだ売れてねぇ」
「じゃあ」
「これを見りゃ、わかるだろうがっ。盗まれたよ、店のもんはほとんど全部! ペンダントもブローチも指輪も、ここにあった何もかもだっ」
いらいらしたように、ラメルボは怒鳴る。
「もしかして、あのペンダントは盗賊がここへ来るように仕向ける呼び水だったんじゃないだろうな」
「まさか。そんなもの、普通の子どもが持つはずないでしょ」
被害に遭っていらいらしているとは言え、ずいぶんな言い掛かりだ。盗賊が押し入ったのは、自分の日頃の行いのせいではないのか。
「とにかく、その子が持ち込んだペンダントはここにない、ということですね」
「言ってるだろ。店の商品は、根こそぎやられたんだ」
「お気の毒様です。お話くださって、ありがとうございました」
形式ばかりの礼を言う。
「おい、あんたは魔法使いと言ったな。盗賊を捕まえてくれないのか」
「それは、ここにいる方達の管轄です。あたしは魔法絡みの依頼を受けるのが仕事なので」
魔法使いなら、どんな事件でも動く、なんて思われているのだろうか。
シェフレラは舌打ちするラメルボに軽く一礼し、野次馬を整理している役人にも礼を言ってその場を離れた。
うー、かなり困った展開だわ。盗賊が盗み損ねた商品をあの店主が見落とすとは思えないし、だとすれば本当にペンダントは盗まれたってことよね。でも、その盗賊がどこへ逃げたかなんてあたしには追えないし、あの役人達が盗賊を捕まえてくれる保証なんてない。捕まえられたとして、それがいつになることやら。どうしよう、やっぱり他の魔法使い達に協力してもらった方がいいかしら。
経験の浅いシェフレラには、明らかに手に余る。無理をしても、このままでは無駄に時間が過ぎるだけだ。そうなると、ターミスの命が危ない。
「シェフレラ」
難しい顔で考え込むシェフレラの肩を、誰かが叩いた。見ると、リオントだ。
店の前の人だかりで、いつの間にかはぐれていた。と言うか、彼の存在を忘れ、シェフレラがラメルボに事情聴取しようと動いていたせいだ。
「あ、リオント……。あってほしくない展開だったわ。ペンダントを盗まれちゃった。買い戻す以前の話だわ」
ひとまず、ジラーグの森へ行ってクロスカスに会い、事情を話した方がいいだろうか。
こんな状況になるなんて、シェフレラはもちろん、クロスカスも想像していないはずだし、このまま盗賊を捜そうにも手掛かりがない。
ペンダントが見付かるまで何日かかるかわからないし、その間ターミスをずっと放ったままの状態になってしまう。
クロスカスは何もしないと言っていたが、待ちきれなくてターミスに手を出すかも知れない。それだけは、絶対に避けたかった。
クロスカスに話して彼がこの状況を信じてくれるかはかなり不安だが、せめてターミスに手を出さないでほしい、と頼んでおく方がいいような気がする。
「ああ、そのようだな。話は聞こえてた。おふくろのものも、一緒に盗まれたようだ」
「え? そうなの?」
今日行くはずだった店。
そんな店に強盗が入ったとなったら、そこにある商品はごっそり持って行かれているだろう。
もし、その中にターミスが売ったというペンダントがあったら、大変なことになる。
「ど、どうして、よりによって今日なのよ。来るなら明日にしてよねっ」
言ってはいけない言葉だが、つい本音が出てしまった。
蒼白になりながら、シェフレラは急いで出掛ける準備をする。すぐ出られるように、と思って昨夜はそのままの格好で寝たのだ。
なので、ペンダントを買い戻すためのお金を入れた財布と、少々の荷物を入れた袋を持つと、すぐに部屋の外で待機しているリオントと共に店へ向かった。
店の前まで行くと、黒山の人だかりになっている。
「朝から大騒ぎだな」
さすがに強盗となると、役所も無視できないようだ。野次馬を整理しながら、捜査しているらしい。
昨日見た店の汚い看板は地面に落ち、入口の扉は完全に外れてなくなっていた。かなり乱暴な入り方をしたようだ。
強盗でなくても、何かよからぬことがあったとわかる様相である。
「ここに強盗が入ったって、本当?」
野次馬になっているおばさんの一人に、それとなく話し掛けてみる。
「そうらしいよ。見た人の話だと、夜が明ける少し前に五、六人くらいが入って行ったってね。まぁ、あそこの店主も結構悪どいことをしてたみたいから、目を付けられたんじゃないかい。もしくは、おかしな掘り出し物を狙った盗賊かもねぇ」
いい噂を聞かなかったのは、やはり店主がいい人ではなかったからのようだ。噂も、真実がちょこちょこ混じっていたりするものである。
「その……店主は? まさか、殺されたりとかはしてない?」
「いや、首根っこの所を殴られて、気絶してただけらしいよ。そういうところ、悪運が強いよねぇ。さすがって言うかさぁ」
とりあえず、店主は生きているらしい、とわかってほっとする。
ラメルボにターミスが来たかどうかを尋ね、願わくば「来てない」という答えをもらいたい。
そうなると振り出しに戻ってしまう訳だが、強盗に持って行かれたかも、という不安がなくなる方がいい。
シェフレラは野次馬の間をすり抜け、店へと近付いた。
「盗賊を見付けてくれっ。わしの財産がほとんど持って行かれたんだ」
役人達が来て意識を取り戻したラメルボは、状況を知って叫んでいる。
くせのあるゴマ塩頭に小太りのおじさんは、噂通りにいい人には見えない顔立ちだった。偏見を承知で表現するなら、性格の悪さと言おうか、そういうものが顔や雰囲気に表れている気がする。
シェフレラとしては、できれば関わりたくないタイプだ。しかし、今はそうも言っていられない。
「ああ、こら、きみ。今は捜査中だから、近付くんじゃない」
野次馬から一歩前へ出たシェフレラに気付いた役人が、面倒そうに注意する。
「あの、あたしは魔法使いです。ある依頼で、ここの店長に聞きたいことがあるんです。少しだけでいいので、時間をもらえませんか。それが済んだら、すぐに帰ります」
「魔法使い……少しだけだよ」
恩着せがましい言い方をしながら、役人は「行け」とばかりにあごで店主の方を指し示す。その態度にちょっとかちんとくるものがあったが、追い払われてしまうよりはいい。
「ご配慮、感謝します」
許可をもらったのでシェフレラは遠慮せず、店の戸口の横でしゃがんでいるラメルボの方へと近付く。
初老と呼ぶにはもう少し年季の入った風貌の店主は、殴られた首の後ろを冷やしながら、ぶつぶつとつぶやいていた。かなりのぽっちゃり体型なので、首が短い。
「失礼します。ラメルボさん、お聞きしたいことがあるんです」
「あぁ? 何だ、あんたは」
「魔法使いのシェフレラといいます。ここ数日のうちで、赤毛の男の子がペンダントを売りに来ませんでしたか?」
「赤毛?」
ラメルボは疑わしそうに、シェフレラを見上げる。
「ああ、そんなガキがいたな。赤い石のペンダントを買ってくれって」
紅玉のペンダントだ、とクロスカスも言っていた。間違いない。
やっぱりここかぁ。こういう予感に限って当たるのよね……。
持ち込んだ先がわかって、いいような悪いような。
「ペンダントは?」
「何だい。そのペンダントは盗品なのか?」
「いえ、盗品ではありません」
ターミスの主張は、拾得物。クロスカスは盗んだような言い方をしていたが、状況から見れば拾ったものだ。
「それが何だってんだ」
「ペンダント、どうしました?」
ラメルボの問いはあえてスルーして、シェフレラは続けて尋ねる。
「買い取ってくれって言うから、買い取ったよ」
ラメルボの答えに、買われてしまったとわかってシェフレラは心の中でがっかりする。
それと同時に、いやな予感がした。この事件の話を聞いてから、ずっと不安に感じていたこと。
まずいと言うか、面倒な展開になりそうな気がする。
「今、そのペンダントはどこに?」
「ねぇよ」
「誰かが買い取ったとか?」
「いいや、まだ売れてねぇ」
「じゃあ」
「これを見りゃ、わかるだろうがっ。盗まれたよ、店のもんはほとんど全部! ペンダントもブローチも指輪も、ここにあった何もかもだっ」
いらいらしたように、ラメルボは怒鳴る。
「もしかして、あのペンダントは盗賊がここへ来るように仕向ける呼び水だったんじゃないだろうな」
「まさか。そんなもの、普通の子どもが持つはずないでしょ」
被害に遭っていらいらしているとは言え、ずいぶんな言い掛かりだ。盗賊が押し入ったのは、自分の日頃の行いのせいではないのか。
「とにかく、その子が持ち込んだペンダントはここにない、ということですね」
「言ってるだろ。店の商品は、根こそぎやられたんだ」
「お気の毒様です。お話くださって、ありがとうございました」
形式ばかりの礼を言う。
「おい、あんたは魔法使いと言ったな。盗賊を捕まえてくれないのか」
「それは、ここにいる方達の管轄です。あたしは魔法絡みの依頼を受けるのが仕事なので」
魔法使いなら、どんな事件でも動く、なんて思われているのだろうか。
シェフレラは舌打ちするラメルボに軽く一礼し、野次馬を整理している役人にも礼を言ってその場を離れた。
うー、かなり困った展開だわ。盗賊が盗み損ねた商品をあの店主が見落とすとは思えないし、だとすれば本当にペンダントは盗まれたってことよね。でも、その盗賊がどこへ逃げたかなんてあたしには追えないし、あの役人達が盗賊を捕まえてくれる保証なんてない。捕まえられたとして、それがいつになることやら。どうしよう、やっぱり他の魔法使い達に協力してもらった方がいいかしら。
経験の浅いシェフレラには、明らかに手に余る。無理をしても、このままでは無駄に時間が過ぎるだけだ。そうなると、ターミスの命が危ない。
「シェフレラ」
難しい顔で考え込むシェフレラの肩を、誰かが叩いた。見ると、リオントだ。
店の前の人だかりで、いつの間にかはぐれていた。と言うか、彼の存在を忘れ、シェフレラがラメルボに事情聴取しようと動いていたせいだ。
「あ、リオント……。あってほしくない展開だったわ。ペンダントを盗まれちゃった。買い戻す以前の話だわ」
ひとまず、ジラーグの森へ行ってクロスカスに会い、事情を話した方がいいだろうか。
こんな状況になるなんて、シェフレラはもちろん、クロスカスも想像していないはずだし、このまま盗賊を捜そうにも手掛かりがない。
ペンダントが見付かるまで何日かかるかわからないし、その間ターミスをずっと放ったままの状態になってしまう。
クロスカスは何もしないと言っていたが、待ちきれなくてターミスに手を出すかも知れない。それだけは、絶対に避けたかった。
クロスカスに話して彼がこの状況を信じてくれるかはかなり不安だが、せめてターミスに手を出さないでほしい、と頼んでおく方がいいような気がする。
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