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11.おかしらと魔除け
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「おら、テントの方へ歩け。おかしらにお前らのこれからを決めてもらうからよ」
「殺すつもりか?」
リオントの言葉に、シェフレラはびくっと肩を震わせる。
もし自分がここで死んだりしたら、ターミスはどうなるのだろう。村で待ってるフィーエは。
人のことも気になるが、何より死ぬのは怖い。
「さぁて、どうだろうなぁ。けど、せっかくここまで来たんだ。生きて帰りたいだろ? 俺達は魔除けを持ってるから、魔物に襲われずに森を出入りできる。俺達と一緒にいれば、生きて森を出られるぞ。もっとも、その後は奴隷として売られるだろうがな」
「死ぬよりはいいだろ? 俺達はお前らを売った金が手に入るし、お前らは生きてこの森を出られるんだから」
どうやってここまで来たか、という点については考えが至らないらしい。
自分達と同じように魔除けを持っているか、魔法使いではないか、という推測はできないようだ。今は、彼らの頭の回転が悪いことを感謝しておく。
「いっそ、この森で死んだ方がいいってことにならねぇか?」
「お、そうかもな」
盗賊二人は、そんな会話をして笑う。こちらにすれば、ちっとも笑える内容ではない。
シェフレラとリオントは盗賊達に剣で脅されながら、さっきまで窺っていたテントの方へと歩かされた。シェフレラが先に歩かされたので、リオントがどういう表情でいるのか見えない。
どうしよう。このままだと本当に売られちゃう。そんな場合じゃないのに。あのテントのどちらかに、盗まれたペンダントがあるはず……あるのはリオントのお母さんのものよね。でも、一緒に盗まれたのなら、まだ紅玉のペンダントもあそこにあるはずよ。時間的にも、売りに行けたとは思えないし。
ペンダントさえ手に入れば、とりあえず一目散に逃げて……盗賊達は馬があるのよね。でも、森の中では馬も小回りがあまりきかないだろうから、人間の足の方が有利じゃないかしら。ある程度まで逃げたら、リオントにさっきの魔獣を出してもらって……あ、盗賊が近くにいたら魔除けも近くにあるってことだから、来るのを嫌がる? じゃあ、やっぱりずっと自分の足で逃げ……さすがに無理か。そんな長く走れないよぉ。
「へっ、嬢ちゃん。そんな怖がらなくても、俺達は商品を大事にするからな。心配はいらないぜ」
シェフレラが真面目な顔で逃げる算段をしているのを、怖がって思い詰めた顔に見えたようだ。
いっそ森の外へ出るまではおとなしく捕まったふりをして、街へ入ってから逃げた方がいいかも。森の中だと、たとえ盗賊達から逃げられても、今度はさっきみたいな魔物が襲って来るわ。応戦していたら、その騒ぎに気付いてまた盗賊に捕まることもあるわよね。
シェフレラがあれこれ考えているうちに、テントのすぐそばまで連れて来られた。
「ガロップのおかしらぁ」
一人が、テントに向かって声をかけた。うなり声のような返事が聞こえ、ボロ布が干してあるかのようなテントの中から、大きな人影が現れる。
シェフレラは目の前に立った男を見て、赤茶色の熊が出て来たのかと思った。
リオント程ではないが、自分達を連れて来た盗賊達より少し背が高く、がっしりした体格。くせのある赤茶色の髪は肩よりも伸び、同じ色のヒゲが顔を隠しているので、首から上がもさもさだ。
手下と同じく人相がわからないよう、毛で隠そうという意図だろうか。何にしても、子どもが見たら泣き出しそうな風体である。
だが、手下の不用意な声掛けのおかげで、盗賊の頭領の名前はわかった。
「何だ、このガキどもは」
完全な大人と言える年齢ではないが、ガキと言われると少しかちんときた。微妙なお年頃の十七歳である。
そう言えば、リオントの年齢をちゃんと聞いてなかった、とそんな場合ではないのだが思い出した。二十歳前後といったところに思えるが、実際はどうなのだろう。
「そこでテントの方を見てたんでさぁ。どうやら森で迷ったらしいです。こいつらも今朝奪ったもんと一緒に売れば、いい酒が飲めますぜ」
「迷った? お前達、何しに森へ来た。ここは魔物がいる森だぞ。ただのガキが入れば、すぐに魔物の餌食だ」
ガロップの言葉に、言われてみれば、と手下が捕虜を改めて見た。さすがは盗賊の中でも、おかしらと呼ばれるだけはある。
「てめぇら、本当は誰なんだ」
手下の盗賊達にすごまれて、シェフレラは肩をすくめる。
「魔法使いだよ」
後ろにいるリオントの言葉に、シェフレラは目を丸くする。
そんなあっさりと、正体をばらしていいのか。
だが、その直後に男の短くも耳障りな悲鳴が二度聞こえ、シェフレラは肩をぐいっと引っ張られた。
リオントが自分達を連行して来た男二人を、どうやってかあっさり叩きのめしたらしい。大きな身体が地面に転がり、邪魔だ。
そうして気が付けば、シェフレラはリオントの斜め後ろに立たされていた。
「お前達が盗んだものの中に、大切なものがある。それを返してもらいに来た」
「このっ……」
手下を二人、あっさりと倒されたガロップはリオントを睨む。だが、ヒゲに埋もれた口の端が上がったように思えた。
シェフレラは人の笑顔を見て、生まれて初めて気分が悪くなる。この状況にも関わらず、完全に自分の優位を確信したような顔だ。
「魔法使いか。だが、お前は魔法以外に何ができる? 見たところ、丸腰だな。剣の一本もなしに、俺達に刃向かえるのか?」
ガロップが言いながら、剣を抜く。
「俺達?」
シェフレラは言ってから、後ろのテントの入口部分が動くのを見た。
リオントが倒したのは二人だが、馬は五頭。ガロップ以外にも、まだ盗賊の仲間はいるのだ。
そして、外の騒ぎに気付いたらしい残りの盗賊が、テントから現れた。倒された二人と似たりよったりの風貌だ。
「俺達は魔物がいるこんな場所でも動けるよう、魔除けを持っている。魔物が近付かないのは当然だが、魔法で何か仕掛けられたりしてもその効果を打ち消してくれるってぇ代物だ。それは相手が人間でも同じ。お前が魔法使いでも、俺達にお前の魔法なんてほとんど効果はねぇよ。だが、俺達には剣がある。魔法の効果を望めねぇお前に、俺達の剣が受けられるのか?」
無理。
シェフレラは、心の中でつぶやいた。
剣なんて、持ったこともない。刃物なんて、料理の時の包丁くらいだ。
リオントはどうなのだろう。仮に剣の扱いはできても、ガロップが言うように今は丸腰だったはず。短剣のようなものを隠し持っていたとしても、そんなに長くないだろう。
さっき倒された手下の剣があるが、すぐには届かない所に転がっている。拾う余裕は……たぶん、ない。
それに、相手は三人だ。何もできないシェフレラをかばいながら、立ち回れるのだろうか。
「魔除けか。今まで効果があったからそれを盲信しているようだが、それだって完璧じゃないんだぞ」
「へへ、負け惜しみか? そこまで言うなら、お前はこの魔除けの効果に負けないくらい、すっげぇ魔法を見せてくれるお偉い魔法使いなんだろうなぁ。だったら、魔法で俺達に勝ってみろよ。教えてやるが、俺達は全員魔除けを持ってるぞ。誰かの隙を狙ってるつもりなら、無駄だからな」
「リオント……」
シェフレラが震える声で、青年の名を呼ぶ。
さっき、リオントはシェフレラの魔法だとかなり弱められる、と言った。彼が話していた魔除けの(ここでは迷惑な)効果が、今まさに自分達の前に立ちはだかっている。
リオントは強いが、彼の魔法だって盗賊の持つ魔除けにどこまで太刀打ちできるのか。いつもの調子でやっていたら、思った程の効果が現れずにやられてしまう、ということも……。
彼の自信はどこからくるのだろう。
こちらを不安げに見上げるシェフレラの頭に、リオントは少し振り返るようにしてその手をぽんと乗せた。
言葉にしなくても「大丈夫だ」と言われたような気になる。
「魔物にしろ人間にしろ、お前達のような奴がいるから、おふくろや何も悪くない連中が泣かされるんだ」
「けっ、奪われたくなかったら、大事にしまっておくんだな。もっとも、しまってあっても俺達はいただくぜ」
「殺すつもりか?」
リオントの言葉に、シェフレラはびくっと肩を震わせる。
もし自分がここで死んだりしたら、ターミスはどうなるのだろう。村で待ってるフィーエは。
人のことも気になるが、何より死ぬのは怖い。
「さぁて、どうだろうなぁ。けど、せっかくここまで来たんだ。生きて帰りたいだろ? 俺達は魔除けを持ってるから、魔物に襲われずに森を出入りできる。俺達と一緒にいれば、生きて森を出られるぞ。もっとも、その後は奴隷として売られるだろうがな」
「死ぬよりはいいだろ? 俺達はお前らを売った金が手に入るし、お前らは生きてこの森を出られるんだから」
どうやってここまで来たか、という点については考えが至らないらしい。
自分達と同じように魔除けを持っているか、魔法使いではないか、という推測はできないようだ。今は、彼らの頭の回転が悪いことを感謝しておく。
「いっそ、この森で死んだ方がいいってことにならねぇか?」
「お、そうかもな」
盗賊二人は、そんな会話をして笑う。こちらにすれば、ちっとも笑える内容ではない。
シェフレラとリオントは盗賊達に剣で脅されながら、さっきまで窺っていたテントの方へと歩かされた。シェフレラが先に歩かされたので、リオントがどういう表情でいるのか見えない。
どうしよう。このままだと本当に売られちゃう。そんな場合じゃないのに。あのテントのどちらかに、盗まれたペンダントがあるはず……あるのはリオントのお母さんのものよね。でも、一緒に盗まれたのなら、まだ紅玉のペンダントもあそこにあるはずよ。時間的にも、売りに行けたとは思えないし。
ペンダントさえ手に入れば、とりあえず一目散に逃げて……盗賊達は馬があるのよね。でも、森の中では馬も小回りがあまりきかないだろうから、人間の足の方が有利じゃないかしら。ある程度まで逃げたら、リオントにさっきの魔獣を出してもらって……あ、盗賊が近くにいたら魔除けも近くにあるってことだから、来るのを嫌がる? じゃあ、やっぱりずっと自分の足で逃げ……さすがに無理か。そんな長く走れないよぉ。
「へっ、嬢ちゃん。そんな怖がらなくても、俺達は商品を大事にするからな。心配はいらないぜ」
シェフレラが真面目な顔で逃げる算段をしているのを、怖がって思い詰めた顔に見えたようだ。
いっそ森の外へ出るまではおとなしく捕まったふりをして、街へ入ってから逃げた方がいいかも。森の中だと、たとえ盗賊達から逃げられても、今度はさっきみたいな魔物が襲って来るわ。応戦していたら、その騒ぎに気付いてまた盗賊に捕まることもあるわよね。
シェフレラがあれこれ考えているうちに、テントのすぐそばまで連れて来られた。
「ガロップのおかしらぁ」
一人が、テントに向かって声をかけた。うなり声のような返事が聞こえ、ボロ布が干してあるかのようなテントの中から、大きな人影が現れる。
シェフレラは目の前に立った男を見て、赤茶色の熊が出て来たのかと思った。
リオント程ではないが、自分達を連れて来た盗賊達より少し背が高く、がっしりした体格。くせのある赤茶色の髪は肩よりも伸び、同じ色のヒゲが顔を隠しているので、首から上がもさもさだ。
手下と同じく人相がわからないよう、毛で隠そうという意図だろうか。何にしても、子どもが見たら泣き出しそうな風体である。
だが、手下の不用意な声掛けのおかげで、盗賊の頭領の名前はわかった。
「何だ、このガキどもは」
完全な大人と言える年齢ではないが、ガキと言われると少しかちんときた。微妙なお年頃の十七歳である。
そう言えば、リオントの年齢をちゃんと聞いてなかった、とそんな場合ではないのだが思い出した。二十歳前後といったところに思えるが、実際はどうなのだろう。
「そこでテントの方を見てたんでさぁ。どうやら森で迷ったらしいです。こいつらも今朝奪ったもんと一緒に売れば、いい酒が飲めますぜ」
「迷った? お前達、何しに森へ来た。ここは魔物がいる森だぞ。ただのガキが入れば、すぐに魔物の餌食だ」
ガロップの言葉に、言われてみれば、と手下が捕虜を改めて見た。さすがは盗賊の中でも、おかしらと呼ばれるだけはある。
「てめぇら、本当は誰なんだ」
手下の盗賊達にすごまれて、シェフレラは肩をすくめる。
「魔法使いだよ」
後ろにいるリオントの言葉に、シェフレラは目を丸くする。
そんなあっさりと、正体をばらしていいのか。
だが、その直後に男の短くも耳障りな悲鳴が二度聞こえ、シェフレラは肩をぐいっと引っ張られた。
リオントが自分達を連行して来た男二人を、どうやってかあっさり叩きのめしたらしい。大きな身体が地面に転がり、邪魔だ。
そうして気が付けば、シェフレラはリオントの斜め後ろに立たされていた。
「お前達が盗んだものの中に、大切なものがある。それを返してもらいに来た」
「このっ……」
手下を二人、あっさりと倒されたガロップはリオントを睨む。だが、ヒゲに埋もれた口の端が上がったように思えた。
シェフレラは人の笑顔を見て、生まれて初めて気分が悪くなる。この状況にも関わらず、完全に自分の優位を確信したような顔だ。
「魔法使いか。だが、お前は魔法以外に何ができる? 見たところ、丸腰だな。剣の一本もなしに、俺達に刃向かえるのか?」
ガロップが言いながら、剣を抜く。
「俺達?」
シェフレラは言ってから、後ろのテントの入口部分が動くのを見た。
リオントが倒したのは二人だが、馬は五頭。ガロップ以外にも、まだ盗賊の仲間はいるのだ。
そして、外の騒ぎに気付いたらしい残りの盗賊が、テントから現れた。倒された二人と似たりよったりの風貌だ。
「俺達は魔物がいるこんな場所でも動けるよう、魔除けを持っている。魔物が近付かないのは当然だが、魔法で何か仕掛けられたりしてもその効果を打ち消してくれるってぇ代物だ。それは相手が人間でも同じ。お前が魔法使いでも、俺達にお前の魔法なんてほとんど効果はねぇよ。だが、俺達には剣がある。魔法の効果を望めねぇお前に、俺達の剣が受けられるのか?」
無理。
シェフレラは、心の中でつぶやいた。
剣なんて、持ったこともない。刃物なんて、料理の時の包丁くらいだ。
リオントはどうなのだろう。仮に剣の扱いはできても、ガロップが言うように今は丸腰だったはず。短剣のようなものを隠し持っていたとしても、そんなに長くないだろう。
さっき倒された手下の剣があるが、すぐには届かない所に転がっている。拾う余裕は……たぶん、ない。
それに、相手は三人だ。何もできないシェフレラをかばいながら、立ち回れるのだろうか。
「魔除けか。今まで効果があったからそれを盲信しているようだが、それだって完璧じゃないんだぞ」
「へへ、負け惜しみか? そこまで言うなら、お前はこの魔除けの効果に負けないくらい、すっげぇ魔法を見せてくれるお偉い魔法使いなんだろうなぁ。だったら、魔法で俺達に勝ってみろよ。教えてやるが、俺達は全員魔除けを持ってるぞ。誰かの隙を狙ってるつもりなら、無駄だからな」
「リオント……」
シェフレラが震える声で、青年の名を呼ぶ。
さっき、リオントはシェフレラの魔法だとかなり弱められる、と言った。彼が話していた魔除けの(ここでは迷惑な)効果が、今まさに自分達の前に立ちはだかっている。
リオントは強いが、彼の魔法だって盗賊の持つ魔除けにどこまで太刀打ちできるのか。いつもの調子でやっていたら、思った程の効果が現れずにやられてしまう、ということも……。
彼の自信はどこからくるのだろう。
こちらを不安げに見上げるシェフレラの頭に、リオントは少し振り返るようにしてその手をぽんと乗せた。
言葉にしなくても「大丈夫だ」と言われたような気になる。
「魔物にしろ人間にしろ、お前達のような奴がいるから、おふくろや何も悪くない連中が泣かされるんだ」
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