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11.襲われた理由
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「変化の術、か。それは何とも」
「そっか……」
言葉を濁され、アートレイドは心の中で落胆のため息をつく。
やっぱりダメか、と妙にあきらめのいい自分がいることに気付いていない。空振り続きが長かったせいで、勝手に心の中で「ダメだろうな」と決めているせいだ。
ディラルトはそんなアートレイドの様子を見ていたが、何も言わない。
食事の用意ができた頃には、シェイナの爪もしっかり処理された。全員がテーブルにつく。
食事中は、誰もがあえてさっきの出来事は話題にしなかった。魔物、という単語が出れば、それだけで全員のパンをちぎる手も止まりそうだ。
しかし、このまま何もなかったことにはできない。食事が終わると、ネイロスがフローゼを見た。
「さっき、昨日見た魔物と似ている、とシェイナが言っていたが……フローゼは何か知っていたのか?」
シェイナがユーリオンの足下でつぶやいた言葉を、ネイロスも聞いていた。
「あ……うん。隣村へ行った帰りの道で、さっき飛んでた魔物によく似た魔物に襲われたの。白っぽい羽の方の魔物に。その時、アート達が助けてくれたのよ」
それを聞いて、ネイロスが顔をしかめる。
「どうして、そのことを言わなかった。山や森の中とは違うぞ。人間がよく通る道に魔物が現れたというなら、パルトの村だけの問題ではない。そこを使う人間全ての問題になる」
「ごめんなさい。だけど、黙っていようって思った訳じゃないわ。昨日は色々あったから、本当に頭から抜けてたのよ。ほら、シェイナが村のみんなに追いかけられて、騒ぎになってたでしょ。そこへおじいちゃんとお父さんが戻って来て……あんなことや、アートの今までの話なんかで私のことは忘れてたの。さっき思い出して、夕食の後でちゃんと話そうと思ってたのよ」
「すみません。俺も自分の話ばかりで、大事なことを言いそびれてました」
アートレイドが頭を下げる。
ネイロスは小さくため息をつき、手でアートレイドを制した。
「いや、昨日は確かに多くのことがあったからな。改めて、どういうことがあったのだ?」
フローゼは、帰り道に現れた魔物について話した。と言っても、今日程に魔物が手強くなかったので、話自体は短い。
「狙われたかな」
話を聞いたディラルトが言い、フローゼが「え?」と彼の方を見る。
「魔物だって、そうバカじゃない。場所が違うにも関わらず二度も襲って来るのは、何か狙いがあるはずだ。それが何かは、特定できないけれどね。魔法使いなら、何か魔物と関係しているんじゃないかな」
「わしらに何か原因があると?」
「まだ断定はできない。だけど、普通の人間よりは、魔物と関わる機会が多いだろ。その中で、魔物の関心を向けてしまうことがあったとか」
ネイロスとユーリオンは顔を見合わせるが、二人の口から「もしかして、あれが」といった言葉が出ることはなかった。二人には、まるで心当たりがないのだ。
「三度目の可能性はあるし、今のうちに思いつく限りの原因究明はしておいた方がいいんじゃないかな」
ディラルトの言葉に、ネイロスは眉根を寄せる。
「確かに、わしが恐れているのはその可能性が捨て切れないことだ。それに、魔物がさらに数を増やして村全体を襲うようになる、ということも考えられる」
あんな魔物が次々に現れたら。
今日のことを思えば、まず勝ち目はない。村が全滅するのは、時間の問題だ。
「ディラルト、きみは目的地がないようなことを言っていたが、放浪の旅でもしているのかね?」
「放浪に近いかな。ちょっと探し物をしていて、それがありそうな方へ足を向けているんだ。今回は、この村の方向にありそうだって情報を得たからね」
俺と似たようなことをしてるんだな。
話を聞いて、アートレイドはそんなことを思った。
目的のものが違えど、どこかにあるはずのものを探して旅をする、という点では同じだ。
「急ぐ旅なのか? 早く探し出さなければならない事情は……」
「複数あるんだ。慌てて一つを探し出したとしても、また次を探さないといけない。急いで探しても、当分目標達成の目処がつきそうにないんだ」
アートレイドは、ディラルトが明確な返事を避けているように思えた。
急いでいるのか、と尋ねられているのだから、はい・いいえで簡単に答えれば済むのに。
「わしとユーリオンは、これから魔物が現れた事情を探ってみる。もしきみさえよければ、しばらくここにとどまってくれないか。魔物を一撃で仕留めたその腕があれば、またあんな魔物が襲って来ても撃退できる。残念ながらさっきの様子では、我々だけではどうにもならんようだ」
「わかった。人が困っていると知っていながら出発するのは、オレも気が引けるからな」
探し物をしている、と話していたので渋るかと思われたが、ディラルトはあっさりと承諾した。しかし、ネイロスにとってはありがたい返事だ。
「すまんな。きみにも色々と事情はあるだろうに。なるだけ急いで原因を突き止める」
魔物が関わる話は穏やかではないが、強力な用心棒となってくれる魔法使いを得られたことで、状況は少し明るくなったようだ。
就寝時間になり、それぞれが部屋へ戻った。
「ねぇ、アート。あたし達が、あの魔物を連れて来たんじゃない……わよね」
兄妹二人になってから、シェイナが言った。急に心配になったらしい。
「まさか。だったら、昨日の魔物はフローゼじゃなく、俺達を襲うべきだろ」
「そっか。そうよね」
兄の言葉に、シェイナも安心したようだ。納得し、ベッドの上でころんと寝転がった。
しかし、アートレイドは逆に不安になる。
今までは、ここがダメならすぐに次、と移動を繰り返していた。それが今回は、こうして一つの場所にとどまっている。
もしあの魔物が実は自分達を追っていて、襲うつもりがすぐに別の場所へ行くので襲いそこねていただけ……だとしたら。
一カ所にとどまっている今回は、魔物にとってまたとないチャンスと言える。
でも、そうだとすると、何のためだろう。
魔女リュイスには言い訳できないことをしでかしているが、魔物に対しては何かをした覚えはない。
リュイスが変化の術をかけた上、さらにわざわざ魔物をしかけて来る、とは思えなかった。
厳しくはあったが、むしろ人間より常識的だったし、そこまで意地悪ではないはずだ。
リュイスとは関係ないとすれば、それなら理由は何だろう。
人間にはわからなくても、魔物にとっては大事な何かを害した、もしくは侮辱だと思えるようなことをしてしまったのか。
それとも……本当に自分達とは全く関わりのないことなのか。
何もかもが、見えなくなってきている。部屋を照らしているランプのように、何か一つでも希望の光が見えてくれればいいのに。
だが、アートレイドはそんな暗い気持ちは表に出さず、シェイナも気付いた様子はない。
「おやすみ」
何でもないようにランプの明かりを消すと、アートレイドはベッドに入った。
☆☆☆
次の日も、アートレイドは書庫へと足を向けた。その際、ディラルトに声をかける。
「魔物が現れるまでは、手が空いてるだろ。ちょっと手伝ってもらえないか?」
ユーリオンはネイロスと共に、魔物と関わった過去の仕事について調べ物をしている。アートレイドの手伝いの時間ができるとは、とても思えない。
ディラルトは魔物が来た時、第一線に出てもらう必要がある。だが、それまではフリーだ。
魔物がまた来るとすれば、昨夜の話から推測する限りではこのネイロス邸だろうから、家を出て村をうろうろするのも考えもの。外出中に魔物が現れたら、対応できなくなってしまう。
となると、家で待機しなければならない訳だが、特にすることもないので時間をもてあます……はず。
そう考えて、アートレイドは声をかけてみたのだ。
「ああ、いいよ」
似たようなことは考えていたのか、ディラルトは気軽に応じてくれた。
二人で書庫へ入ると、アートレイドは自分が昨日までに探した棚を指し示す。
「この棚までは、調べたんだ。ディラルトは、あの棚の上の段から調べてくれないか」
「わかった。へぇ、ずいぶん古そうな魔法書が並んでるねぇ」
ざっと見渡し、ディラルトは楽しそうに言う。
「先代や先々代も魔法使いで、その人達が持ってた物みたいだ。で、ネイロスさんも少しずつ集めてたらしい。あと、色んなルートで本が集まって来た、みたいなことをフローゼが言ってた」
そう言いながら、アートレイドはふと思いつく。
「まさか、魔物は魔法書が目当て……とかじゃないよな?」
「魔物は魔法書なんて読まないと思うぞ。魔法書を必要として魔法を使うのは、人間だけだから」
魔法書で修業する魔物、なんて確かに聞いたことはない。
「でも、何か魔物にとってまずいことが書かれていたりしたら、それを排除しようとしないかな」
「ありえなくはない。だけど、それならもっと昔に襲って来たんじゃないか? その先代や先々代がいた頃にも現れていた、と考えるのが妥当だろう。だけど、ネイロスは昨日、自分が生まれる前もその後も、魔物が村を襲ったことはないって話していたはずだ」
「あ……そうか」
「そっか……」
言葉を濁され、アートレイドは心の中で落胆のため息をつく。
やっぱりダメか、と妙にあきらめのいい自分がいることに気付いていない。空振り続きが長かったせいで、勝手に心の中で「ダメだろうな」と決めているせいだ。
ディラルトはそんなアートレイドの様子を見ていたが、何も言わない。
食事の用意ができた頃には、シェイナの爪もしっかり処理された。全員がテーブルにつく。
食事中は、誰もがあえてさっきの出来事は話題にしなかった。魔物、という単語が出れば、それだけで全員のパンをちぎる手も止まりそうだ。
しかし、このまま何もなかったことにはできない。食事が終わると、ネイロスがフローゼを見た。
「さっき、昨日見た魔物と似ている、とシェイナが言っていたが……フローゼは何か知っていたのか?」
シェイナがユーリオンの足下でつぶやいた言葉を、ネイロスも聞いていた。
「あ……うん。隣村へ行った帰りの道で、さっき飛んでた魔物によく似た魔物に襲われたの。白っぽい羽の方の魔物に。その時、アート達が助けてくれたのよ」
それを聞いて、ネイロスが顔をしかめる。
「どうして、そのことを言わなかった。山や森の中とは違うぞ。人間がよく通る道に魔物が現れたというなら、パルトの村だけの問題ではない。そこを使う人間全ての問題になる」
「ごめんなさい。だけど、黙っていようって思った訳じゃないわ。昨日は色々あったから、本当に頭から抜けてたのよ。ほら、シェイナが村のみんなに追いかけられて、騒ぎになってたでしょ。そこへおじいちゃんとお父さんが戻って来て……あんなことや、アートの今までの話なんかで私のことは忘れてたの。さっき思い出して、夕食の後でちゃんと話そうと思ってたのよ」
「すみません。俺も自分の話ばかりで、大事なことを言いそびれてました」
アートレイドが頭を下げる。
ネイロスは小さくため息をつき、手でアートレイドを制した。
「いや、昨日は確かに多くのことがあったからな。改めて、どういうことがあったのだ?」
フローゼは、帰り道に現れた魔物について話した。と言っても、今日程に魔物が手強くなかったので、話自体は短い。
「狙われたかな」
話を聞いたディラルトが言い、フローゼが「え?」と彼の方を見る。
「魔物だって、そうバカじゃない。場所が違うにも関わらず二度も襲って来るのは、何か狙いがあるはずだ。それが何かは、特定できないけれどね。魔法使いなら、何か魔物と関係しているんじゃないかな」
「わしらに何か原因があると?」
「まだ断定はできない。だけど、普通の人間よりは、魔物と関わる機会が多いだろ。その中で、魔物の関心を向けてしまうことがあったとか」
ネイロスとユーリオンは顔を見合わせるが、二人の口から「もしかして、あれが」といった言葉が出ることはなかった。二人には、まるで心当たりがないのだ。
「三度目の可能性はあるし、今のうちに思いつく限りの原因究明はしておいた方がいいんじゃないかな」
ディラルトの言葉に、ネイロスは眉根を寄せる。
「確かに、わしが恐れているのはその可能性が捨て切れないことだ。それに、魔物がさらに数を増やして村全体を襲うようになる、ということも考えられる」
あんな魔物が次々に現れたら。
今日のことを思えば、まず勝ち目はない。村が全滅するのは、時間の問題だ。
「ディラルト、きみは目的地がないようなことを言っていたが、放浪の旅でもしているのかね?」
「放浪に近いかな。ちょっと探し物をしていて、それがありそうな方へ足を向けているんだ。今回は、この村の方向にありそうだって情報を得たからね」
俺と似たようなことをしてるんだな。
話を聞いて、アートレイドはそんなことを思った。
目的のものが違えど、どこかにあるはずのものを探して旅をする、という点では同じだ。
「急ぐ旅なのか? 早く探し出さなければならない事情は……」
「複数あるんだ。慌てて一つを探し出したとしても、また次を探さないといけない。急いで探しても、当分目標達成の目処がつきそうにないんだ」
アートレイドは、ディラルトが明確な返事を避けているように思えた。
急いでいるのか、と尋ねられているのだから、はい・いいえで簡単に答えれば済むのに。
「わしとユーリオンは、これから魔物が現れた事情を探ってみる。もしきみさえよければ、しばらくここにとどまってくれないか。魔物を一撃で仕留めたその腕があれば、またあんな魔物が襲って来ても撃退できる。残念ながらさっきの様子では、我々だけではどうにもならんようだ」
「わかった。人が困っていると知っていながら出発するのは、オレも気が引けるからな」
探し物をしている、と話していたので渋るかと思われたが、ディラルトはあっさりと承諾した。しかし、ネイロスにとってはありがたい返事だ。
「すまんな。きみにも色々と事情はあるだろうに。なるだけ急いで原因を突き止める」
魔物が関わる話は穏やかではないが、強力な用心棒となってくれる魔法使いを得られたことで、状況は少し明るくなったようだ。
就寝時間になり、それぞれが部屋へ戻った。
「ねぇ、アート。あたし達が、あの魔物を連れて来たんじゃない……わよね」
兄妹二人になってから、シェイナが言った。急に心配になったらしい。
「まさか。だったら、昨日の魔物はフローゼじゃなく、俺達を襲うべきだろ」
「そっか。そうよね」
兄の言葉に、シェイナも安心したようだ。納得し、ベッドの上でころんと寝転がった。
しかし、アートレイドは逆に不安になる。
今までは、ここがダメならすぐに次、と移動を繰り返していた。それが今回は、こうして一つの場所にとどまっている。
もしあの魔物が実は自分達を追っていて、襲うつもりがすぐに別の場所へ行くので襲いそこねていただけ……だとしたら。
一カ所にとどまっている今回は、魔物にとってまたとないチャンスと言える。
でも、そうだとすると、何のためだろう。
魔女リュイスには言い訳できないことをしでかしているが、魔物に対しては何かをした覚えはない。
リュイスが変化の術をかけた上、さらにわざわざ魔物をしかけて来る、とは思えなかった。
厳しくはあったが、むしろ人間より常識的だったし、そこまで意地悪ではないはずだ。
リュイスとは関係ないとすれば、それなら理由は何だろう。
人間にはわからなくても、魔物にとっては大事な何かを害した、もしくは侮辱だと思えるようなことをしてしまったのか。
それとも……本当に自分達とは全く関わりのないことなのか。
何もかもが、見えなくなってきている。部屋を照らしているランプのように、何か一つでも希望の光が見えてくれればいいのに。
だが、アートレイドはそんな暗い気持ちは表に出さず、シェイナも気付いた様子はない。
「おやすみ」
何でもないようにランプの明かりを消すと、アートレイドはベッドに入った。
☆☆☆
次の日も、アートレイドは書庫へと足を向けた。その際、ディラルトに声をかける。
「魔物が現れるまでは、手が空いてるだろ。ちょっと手伝ってもらえないか?」
ユーリオンはネイロスと共に、魔物と関わった過去の仕事について調べ物をしている。アートレイドの手伝いの時間ができるとは、とても思えない。
ディラルトは魔物が来た時、第一線に出てもらう必要がある。だが、それまではフリーだ。
魔物がまた来るとすれば、昨夜の話から推測する限りではこのネイロス邸だろうから、家を出て村をうろうろするのも考えもの。外出中に魔物が現れたら、対応できなくなってしまう。
となると、家で待機しなければならない訳だが、特にすることもないので時間をもてあます……はず。
そう考えて、アートレイドは声をかけてみたのだ。
「ああ、いいよ」
似たようなことは考えていたのか、ディラルトは気軽に応じてくれた。
二人で書庫へ入ると、アートレイドは自分が昨日までに探した棚を指し示す。
「この棚までは、調べたんだ。ディラルトは、あの棚の上の段から調べてくれないか」
「わかった。へぇ、ずいぶん古そうな魔法書が並んでるねぇ」
ざっと見渡し、ディラルトは楽しそうに言う。
「先代や先々代も魔法使いで、その人達が持ってた物みたいだ。で、ネイロスさんも少しずつ集めてたらしい。あと、色んなルートで本が集まって来た、みたいなことをフローゼが言ってた」
そう言いながら、アートレイドはふと思いつく。
「まさか、魔物は魔法書が目当て……とかじゃないよな?」
「魔物は魔法書なんて読まないと思うぞ。魔法書を必要として魔法を使うのは、人間だけだから」
魔法書で修業する魔物、なんて確かに聞いたことはない。
「でも、何か魔物にとってまずいことが書かれていたりしたら、それを排除しようとしないかな」
「ありえなくはない。だけど、それならもっと昔に襲って来たんじゃないか? その先代や先々代がいた頃にも現れていた、と考えるのが妥当だろう。だけど、ネイロスは昨日、自分が生まれる前もその後も、魔物が村を襲ったことはないって話していたはずだ」
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