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11.保護センター
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ぴーちゃんが寝ていた箱の中から、ディシュリーンが何か取りだした。彼女の手のひらには、ベージュの小さな楕円形の物体が載っている。
「たまご、に見える」
「ぼくがぴーちゃんを拾った時のより、ちょっと小さいけど……」
シアンが見付けたたまごより、二回りくらい小さなたまご。鶏卵なら、Sサイズくらいだろうか。でも、色はたまごだった時のぴーちゃんと同じ色。
「じょ、冗談だろ。だって、ぴーちゃんが生まれて、まだひと月も経ってないんだぞ。たまごを産める程、身体だって成長してないはずだ」
でも、現にディシュリーンが持っているたまごは、ぴーちゃんがいた場所から取り出した物だ。もちろん、シアンがそんなに所にたまごを置くはずもない。
「レコルト、星砂鳥って、こんなに成長が早いもの? ぼくはこの鳥の生態って、よくわからないけど」
ぴーちゃんが星砂鳥かも、と思った時点で、もう少しこの鳥のことを調べておけばよかった……と、シアンは今更ながらに悔やんだ。
「まさか、そんなはずは……。いや、でもこの鳥の生態って、未知な部分が結構あるみたいだからなぁ。だけど、本で読んだ限りでは、二、三ヶ月くらいはかかるはずだよ。普通のひよこだって、半年近くかかるし」
「ひよこがたまごを産むなんて、妙な感じだなぁ」
ぴーちゃんは、やっぱり今も巨大なひよこのままなのだ。
「ねぇ、このたまご……」
「本当にこのたまごをぴーちゃんが産んだとすれば、ぴーちゃんはメスだったってことだね。よかったじゃないか、ディシュリーン。ぴーちゃんって名前、メスだってわかれば、女の子っぽくも聞こえるし」
「もう、レコルトってば、名前のことはいいのよ。ぴーちゃんが星砂鳥なら、このたまごって……細工したら宝石みたいになるのかしら」
星砂鳥は、宝石の原石のようなたまごを産む。
今となっては十中八九、星砂鳥であろうぴーちゃん。そのぴーちゃんが産んだたまごなら、そういう可能性は十分にありえる訳だ。
「うーん、とてもそうなりそうには見えないけどなぁ」
「ぼくが拾ったたまごと、大きさ以外に違うところは見当たらないよ。宝石って言っても、色々あるだろ。どんな感じの宝石?」
「特殊な方法で研磨すると、とてもきれいに輝くの。あたしも実物は見たことがないんだけど、黄色いダイヤモンドみたいなって言えば、想像できる?」
「ええっ、このたまごがダイヤモンドみたいになる訳?」
「この鳥のたまごが狙われる理由、これでわかるだろ」
確かに、こんな色の濃い鶏卵にしか見えないものが、磨き方次第でダイヤモンドのようになるのなら、密猟者が狙う訳だ。
「もしかしたら、ぴーちゃんの具合が悪くなったのは、たまごを産んだせいかも知れない」
レコルトが、たまごをじっと見ながらつぶやいた。
「産んだせい、なの? 産みの苦しみじゃなくて?」
「それは何とも。俺達はぴーちゃんがいつこのたまごを産んだのか、わからないからね。とにかく、そうだとすれば、納得はできるな。特に身体の異常はなかったのに元気がなかったのは、このためだったんだって。だいたい、おかしいよ。いくら育ちがよくても、こんなに早くたまごを産む程に成長するはずないんだから」
「つまり……もしかすると、ぴーちゃんは異常かも知れないってことなの?」
「ありえるね」
シアンの手から降ろされたぴーちゃんは、自分のことが話題になっているとも知らず、部屋の中を元気に走り回っている。本当に昨夜は具合が悪かったのか、と疑いたくなるくらいだ。
「シアン、名残惜しいけど、保護センターへ行こう。観察したい、なんて言ってる場合じゃないみたいだから。センターにも行くって言ってあるしね。……あーあ、残念だ」
「うん……。また昨日みたいになって、今回はよくなったけど、次もそうだとは限らないもんな」
「じゃ、行きましょうか」
立ち上がったディシュリーンを、レコルトが見上げる。
「え、ディシュリーンも行くの?」
「何よ、あたしは行っちゃダメなの? これでも、一応はぴーちゃんのお母さん代わりなんだからね」
「だけど、学校はどうするんだよ」
「一日くらい行かなくたって、どうってことないわよ。それに、あなた達だってぴーちゃんを連れて行くのなら、学校はサボるつもりなんでしょ」
朝から保護センターへ行く、というのなら、そうなる。ぴーちゃんの具合が悪くならなければ、学校が終わってから行くつもりだったのだが。
「ぼく達が学校へ行ってる間に、またぴーちゃんがおかしくなったら困るからね。早い方がいいだろうし」
「ディシュリーンは、昔から無遅刻無欠席を目指しているんだと……」
「レコルトってば、やぁね。あたしだって、サボる時はサボるのよ。これまでは特にこれといって理由がなかったから、しなかっただけ」
とにかく話はまとまり、三人はぴーちゃんを連れて保護センターへと向かった。☆☆☆
「確かに、この子は星砂鳥だよ」
保護センターで事情を話し、ぴーちゃんを見た飼育員のロディははっきりと言った。
彼は、昨夜シアンがかけた電話の相手である。思っていたより若い。二十代前半くらいだろうか。言われなければ、大学生みたいだ。
「まさか、自販機の下で孵るとはねえ。偶然が重なったんだろうな。孵る寸前だったことと、熱で温められたことと。それにしても、本当にでかくなったなぁ」
ロディはぴーちゃんの大きさに、しきりに感心している。
「やっぱり、普通より成長が早いってことですか?」
レコルトの質問に、ロディはうなずく。
「同じ時期に生まれた子は、まだこの半分くらいかな」
「ぼくや家族がやる物、何でも食べてたから……」
何を食べるかわからないので、試しに……と思ったら、与えるものは何でも食べてしまった。それに加えて、量が多かったのかも知れない。
本当のひよこも育てたことのないシアンには、適量がわからなかったのだ。
「だけど、星砂鳥って、星砂が食料なんでしょ? どうして、ぴーちゃんは雑食だったのかしら」
「この鳥は、そういうものなんだよ。本来の食料は星砂だけど、星砂砂漠を出てしまえば星砂はどこにもない。だから、自分の命を守るために、食べられる物は全て食べるようになるんだ」
どうりで、本当に何でも食べるはずだ。
「だけど、そのまま砂漠の外で生活していたら、星砂鳥は本来の寿命の三分の一も生きられない」
「えっ」
「そんな。どうしてですか? あ、生きる環境が違うから、とか……」
ロディの言葉に、シアンとディシュリーンは絶句し、レコルトは疑問をそのまま彼にぶつけた。
「環境が違う、というのもあるんだけどね」
星砂鳥は、本当なら星砂だけで生きてゆける動物。星砂に含まれる栄養、他の動物にとってはないに等しい栄養が、星砂鳥にはそれで十分なのだ。
それなのに、人間や他の動物が口にするような食物を食べるということは、星砂鳥にとっては栄養過多となってしまう。へたすれば、数食で一生分以上のカロリーをとることにもなりかねない。
星砂鳥の身体は栄養を消化しようとフル回転し、皮肉にもそのために疲弊して寿命を縮める、ということになるのだ。
「そんなぁ。それじゃ、ぴーちゃんは長生きできないの? あたし達のせい?」
ロディの話を聞いて、ディシュリーンが泣きそうな声で尋ねる。
「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。まだひと月も経っていないんだし。普通よりも成長は早いけど、まずいってほどじゃないからね。それに、こうしてちゃんと星砂砂漠へ戻って来たんだから」
ロディは、ぴーちゃんと同じ頃に生まれたひなが遊んでいる所へ、三人を連れて行ってくれた。
そこではぴーちゃんより二まわり程小さいひよこが、広い敷地内を走り回っている。
「確かに、この中に入ったら目立つよなぁ、ぴーちゃん。ほとんど成鳥と同じ大きさに近いし」
成鳥の大きさを知らないシアンにはわからないが、この団体の中では間違いなく目立つ、というのははっきりしている。
ロディは改めてぴーちゃんの身体を検査したが、当のぴーちゃんはけろっとしている。
「どこにも異常はないようだよ。昨夜電話をかけてきた時は、どんな状態なんだろうって思ったけど。最初に話してたのは、きみだろ? 不安だっていうのが、もろ声に出てたよ」
「……あ。頭の中が真っ白になって、本当にどうしていいんだかわからなくて」
正直に言えば、シアンは自分が何をしゃべっているのかも、あの時はわかっていなかった。どうしよう、ということばかりが頭を占めて。
「それまで、ぴーちゃんはずっと元気だったもんね。あたしも横にいるだけで、何をしてあげればいいのかわからなくて、ただ見てるだけだった。レコルトは、さすがに落ち着いてたけどね」
「俺だって、実はあれで結構焦ってたんだよ。だけど、二人の前でそんな顔できないしさ」
どんなにたくさんの動物に触れて、色々な経験があったとしても。数える程度しか見たことのない鳥の容体が、そう簡単にわかるはずがない。
でも、そんなことを不安がっている二人の前では、絶対に言えなかった。
「きみは、いい医者になれるよ」
「俺もそう思います」
謙遜するなくレコルトが言い、全員がどっと笑った。
「たまご、に見える」
「ぼくがぴーちゃんを拾った時のより、ちょっと小さいけど……」
シアンが見付けたたまごより、二回りくらい小さなたまご。鶏卵なら、Sサイズくらいだろうか。でも、色はたまごだった時のぴーちゃんと同じ色。
「じょ、冗談だろ。だって、ぴーちゃんが生まれて、まだひと月も経ってないんだぞ。たまごを産める程、身体だって成長してないはずだ」
でも、現にディシュリーンが持っているたまごは、ぴーちゃんがいた場所から取り出した物だ。もちろん、シアンがそんなに所にたまごを置くはずもない。
「レコルト、星砂鳥って、こんなに成長が早いもの? ぼくはこの鳥の生態って、よくわからないけど」
ぴーちゃんが星砂鳥かも、と思った時点で、もう少しこの鳥のことを調べておけばよかった……と、シアンは今更ながらに悔やんだ。
「まさか、そんなはずは……。いや、でもこの鳥の生態って、未知な部分が結構あるみたいだからなぁ。だけど、本で読んだ限りでは、二、三ヶ月くらいはかかるはずだよ。普通のひよこだって、半年近くかかるし」
「ひよこがたまごを産むなんて、妙な感じだなぁ」
ぴーちゃんは、やっぱり今も巨大なひよこのままなのだ。
「ねぇ、このたまご……」
「本当にこのたまごをぴーちゃんが産んだとすれば、ぴーちゃんはメスだったってことだね。よかったじゃないか、ディシュリーン。ぴーちゃんって名前、メスだってわかれば、女の子っぽくも聞こえるし」
「もう、レコルトってば、名前のことはいいのよ。ぴーちゃんが星砂鳥なら、このたまごって……細工したら宝石みたいになるのかしら」
星砂鳥は、宝石の原石のようなたまごを産む。
今となっては十中八九、星砂鳥であろうぴーちゃん。そのぴーちゃんが産んだたまごなら、そういう可能性は十分にありえる訳だ。
「うーん、とてもそうなりそうには見えないけどなぁ」
「ぼくが拾ったたまごと、大きさ以外に違うところは見当たらないよ。宝石って言っても、色々あるだろ。どんな感じの宝石?」
「特殊な方法で研磨すると、とてもきれいに輝くの。あたしも実物は見たことがないんだけど、黄色いダイヤモンドみたいなって言えば、想像できる?」
「ええっ、このたまごがダイヤモンドみたいになる訳?」
「この鳥のたまごが狙われる理由、これでわかるだろ」
確かに、こんな色の濃い鶏卵にしか見えないものが、磨き方次第でダイヤモンドのようになるのなら、密猟者が狙う訳だ。
「もしかしたら、ぴーちゃんの具合が悪くなったのは、たまごを産んだせいかも知れない」
レコルトが、たまごをじっと見ながらつぶやいた。
「産んだせい、なの? 産みの苦しみじゃなくて?」
「それは何とも。俺達はぴーちゃんがいつこのたまごを産んだのか、わからないからね。とにかく、そうだとすれば、納得はできるな。特に身体の異常はなかったのに元気がなかったのは、このためだったんだって。だいたい、おかしいよ。いくら育ちがよくても、こんなに早くたまごを産む程に成長するはずないんだから」
「つまり……もしかすると、ぴーちゃんは異常かも知れないってことなの?」
「ありえるね」
シアンの手から降ろされたぴーちゃんは、自分のことが話題になっているとも知らず、部屋の中を元気に走り回っている。本当に昨夜は具合が悪かったのか、と疑いたくなるくらいだ。
「シアン、名残惜しいけど、保護センターへ行こう。観察したい、なんて言ってる場合じゃないみたいだから。センターにも行くって言ってあるしね。……あーあ、残念だ」
「うん……。また昨日みたいになって、今回はよくなったけど、次もそうだとは限らないもんな」
「じゃ、行きましょうか」
立ち上がったディシュリーンを、レコルトが見上げる。
「え、ディシュリーンも行くの?」
「何よ、あたしは行っちゃダメなの? これでも、一応はぴーちゃんのお母さん代わりなんだからね」
「だけど、学校はどうするんだよ」
「一日くらい行かなくたって、どうってことないわよ。それに、あなた達だってぴーちゃんを連れて行くのなら、学校はサボるつもりなんでしょ」
朝から保護センターへ行く、というのなら、そうなる。ぴーちゃんの具合が悪くならなければ、学校が終わってから行くつもりだったのだが。
「ぼく達が学校へ行ってる間に、またぴーちゃんがおかしくなったら困るからね。早い方がいいだろうし」
「ディシュリーンは、昔から無遅刻無欠席を目指しているんだと……」
「レコルトってば、やぁね。あたしだって、サボる時はサボるのよ。これまでは特にこれといって理由がなかったから、しなかっただけ」
とにかく話はまとまり、三人はぴーちゃんを連れて保護センターへと向かった。☆☆☆
「確かに、この子は星砂鳥だよ」
保護センターで事情を話し、ぴーちゃんを見た飼育員のロディははっきりと言った。
彼は、昨夜シアンがかけた電話の相手である。思っていたより若い。二十代前半くらいだろうか。言われなければ、大学生みたいだ。
「まさか、自販機の下で孵るとはねえ。偶然が重なったんだろうな。孵る寸前だったことと、熱で温められたことと。それにしても、本当にでかくなったなぁ」
ロディはぴーちゃんの大きさに、しきりに感心している。
「やっぱり、普通より成長が早いってことですか?」
レコルトの質問に、ロディはうなずく。
「同じ時期に生まれた子は、まだこの半分くらいかな」
「ぼくや家族がやる物、何でも食べてたから……」
何を食べるかわからないので、試しに……と思ったら、与えるものは何でも食べてしまった。それに加えて、量が多かったのかも知れない。
本当のひよこも育てたことのないシアンには、適量がわからなかったのだ。
「だけど、星砂鳥って、星砂が食料なんでしょ? どうして、ぴーちゃんは雑食だったのかしら」
「この鳥は、そういうものなんだよ。本来の食料は星砂だけど、星砂砂漠を出てしまえば星砂はどこにもない。だから、自分の命を守るために、食べられる物は全て食べるようになるんだ」
どうりで、本当に何でも食べるはずだ。
「だけど、そのまま砂漠の外で生活していたら、星砂鳥は本来の寿命の三分の一も生きられない」
「えっ」
「そんな。どうしてですか? あ、生きる環境が違うから、とか……」
ロディの言葉に、シアンとディシュリーンは絶句し、レコルトは疑問をそのまま彼にぶつけた。
「環境が違う、というのもあるんだけどね」
星砂鳥は、本当なら星砂だけで生きてゆける動物。星砂に含まれる栄養、他の動物にとってはないに等しい栄養が、星砂鳥にはそれで十分なのだ。
それなのに、人間や他の動物が口にするような食物を食べるということは、星砂鳥にとっては栄養過多となってしまう。へたすれば、数食で一生分以上のカロリーをとることにもなりかねない。
星砂鳥の身体は栄養を消化しようとフル回転し、皮肉にもそのために疲弊して寿命を縮める、ということになるのだ。
「そんなぁ。それじゃ、ぴーちゃんは長生きできないの? あたし達のせい?」
ロディの話を聞いて、ディシュリーンが泣きそうな声で尋ねる。
「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。まだひと月も経っていないんだし。普通よりも成長は早いけど、まずいってほどじゃないからね。それに、こうしてちゃんと星砂砂漠へ戻って来たんだから」
ロディは、ぴーちゃんと同じ頃に生まれたひなが遊んでいる所へ、三人を連れて行ってくれた。
そこではぴーちゃんより二まわり程小さいひよこが、広い敷地内を走り回っている。
「確かに、この中に入ったら目立つよなぁ、ぴーちゃん。ほとんど成鳥と同じ大きさに近いし」
成鳥の大きさを知らないシアンにはわからないが、この団体の中では間違いなく目立つ、というのははっきりしている。
ロディは改めてぴーちゃんの身体を検査したが、当のぴーちゃんはけろっとしている。
「どこにも異常はないようだよ。昨夜電話をかけてきた時は、どんな状態なんだろうって思ったけど。最初に話してたのは、きみだろ? 不安だっていうのが、もろ声に出てたよ」
「……あ。頭の中が真っ白になって、本当にどうしていいんだかわからなくて」
正直に言えば、シアンは自分が何をしゃべっているのかも、あの時はわかっていなかった。どうしよう、ということばかりが頭を占めて。
「それまで、ぴーちゃんはずっと元気だったもんね。あたしも横にいるだけで、何をしてあげればいいのかわからなくて、ただ見てるだけだった。レコルトは、さすがに落ち着いてたけどね」
「俺だって、実はあれで結構焦ってたんだよ。だけど、二人の前でそんな顔できないしさ」
どんなにたくさんの動物に触れて、色々な経験があったとしても。数える程度しか見たことのない鳥の容体が、そう簡単にわかるはずがない。
でも、そんなことを不安がっている二人の前では、絶対に言えなかった。
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