I can’t get over you~遥か彼方に君へ永久に~

宇佐美 月明

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第一章

3 信愛の印 (上)

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 旅はジーノの心の内と関係なく進む。いずれも死闘を繰り返し魔獣と化した精霊石を浄化した。その度ジーノの心は疲弊していく。魔獣化した精霊石を幾つか浄化することが出来た。『水、風、地』の精霊石を回収した。旅は佳境に入る。だんだんと旅に出た者達は疲れ果てていった。

 ジーノは、次第に魔力のコントロールすることを覚えた。お世辞にも彼女は器用ではなくどちらかというと不器用だ。それでも努力して身につけるタイプの人間だった。マリウスとジュリアヌもそれを理解し根気強く指導した。
ジーノは、二人にとても感謝していた。旅の中でマリウスの為人を知った。どんな人間でも公平な態度をとり、分けへだてなく付き合う。旅の同行している者達からも信頼が厚く慕われていた。また、魔法と剣を融合させた攻撃は誰にも真似は出来なかった。次期女王の伴侶として申し分がなかった。
彼に許婚がいる事はよくわかっていた。ジーノはマリウスに惹かれていく……。どうにも出来ない気持ちに抗っていた。
一方ジュリアンヌに対してジーノは自分の弟のような思いを寄せていた。ジュリアンヌは魔力に秀でていて年上の魔導師からは敬遠された。僻みか外子であることを影で揶揄する者がいる。いつでも兄のマリウスは弟を気遣っていた。それを知っていたジュリアンヌは兄の言うことは素直に受け入れた。他の者には思慮深かった。だがジーノにだけは兄同様に心許すようになっていった。ジュリアンヌは彼女の前では冗談を言いふざけた。いたずら好きな水色の瞳は年相応な色を映した。
 だが一端魔獣との戦いとなると能力は、他の者よりも桁はずれだ。活躍は目覚ましいものだ。
 目麗しいテッラ侯爵の異母兄弟と一緒にいる事が多い彼女は困りごとがあった。どうしても中傷まがいな嫉妬の眼差しにさらされることがある。
彼女は行く先の領主の令嬢、ましては旅に同行している者、ジーノは暫し居た堪れない気持ちになる。二人と距離を置くことにした。それに、これ以上マリウスに惹かれてはいけない――。気持ちの整理をしたかった。

**********

国のはずれ――。山の尾根が広がる地にたどり着く。
人々が住む街の後方の山にそれはいた。火の精霊石は緋色の翼を広げ強大な鳥の魔獣になっていた。騎士や魔術師に死傷者が多数出た。死闘の末やっと捕獲をした。浄化する役目の『火の精霊の長(おさ)』の力を受け継ぐ者も重症だった。このままでは浄化し魔獣を精霊石には戻すこともままならない。それでも浄化しなくてはならない。この時初めてジーノの神力を使うことになった。浄化作業は光の精霊石の力が強くなる日中行うことに決定した。そのため一昼夜魔獣を捉えることにした。 まだ余力の残る者は、交替で捕獲魔法陣を張り、見張りについた。
ジーノは負傷者の手当てに奔走していた。覚えたての癒しの魔法を施す。だがジーノは生身の人間で、精霊の血が入った人達よりも体力的の劣っていた。

「ジーノ様、顔色が悪いです。おやすみになってはいかがですか?」

一緒に手当にあたっていた魔導師が声をかけた。余りにもジーノの顔色が良くなかったからだ。

「そうします。少し休みます。ありがとう」

ジーノは素直に従った。明日のこともある。自分の天幕へ引き上げることにした。ジーには、負傷者の天幕を出たところで足元がふらついた。目眩がおさまるまで、その場で休むことにした。

「ジーノ」

後ろから名前を急に呼ばれる。それ耳に心地よい声だ。やはりマリウスだ。その手には、食べ物がのせられた盆が握られている。
黄緑色の瞳にはジーノを労るように見つめられていた。
 だがマリウスの着ているシャツにはべっとり血の跡が着いている。ジーノは言い様の無い不安に襲われる。

彼女は眉をひそめ急いで立ち上がろうとした。だが目の前がふらつき倒れそうになる。マリウスは慌ててジーノを両腕で受け止めた。持っていたお盆を落としてしまう。

「あぶない!大丈夫か?」
「マリ、血の跡が……怪我をしたの?手当はした?」
「この血か?少し切っただけだ。でももう、ジュリアンヌに手当してもらった。
シャツの血はもう乾いているんだが、着替えるヒマがなくてな……」

ジーノは首を振る。彼女は言い様がない不安と安堵こみ上げた。目から涙が溢れる。言葉にできない思いがあふれ出す。マリウスに何かあったと思うだけで心臓が締め付けられる。

マリウスは、静かに息を吐いた。

「ジーノ大丈夫か?顔色が悪いぞ。食事にも来ないからジュリアンヌと手分けして探しに来たんだ」

ジーノは、精神的に限界に達していた。今までの死闘、明日のこと。そして止めることの出来ない思い。
ジーノはいつも弱音を吐かなかった。だがこの時だけはマリウスの胸の中で泣き続けた。マリウスは彼女を抱きしめたい衝動に駆られる。その気持をおさえ彼女が落ち着くまで、胸を貸す。

「ジーノ、慣れない生活で大変だよな。家族が恋しいよね。『闇の精霊の長(おさ)』の魂の生まれ変わりで女神からの記憶と力があっても……。こんな死闘に巻き込んですまない。貴女には頭が下がる。一生懸命で不平一つ言わない。わたしでよければ何かあれば言ってくれ?ジュリアンヌや他の者も心配している」

マリウスは言い終えると何を思ったのか彼女の額に口付け落とした。ジーノの心は躍った。

『幸福を……。あなたに、感謝しています』

金色の魔法陣が浮かびジーノをたちまち覆う。そして彼女の左腕に金色の腕輪が現れた。そこには小さな緑色の石が施されている。
その瞬間、彼女の体調の悪さも沈んだ気持ちもウソのように無くなる。
ジーノは左手の腕を見て呆気にとられた。それはキラキラ輝いていた。

「きれい……。マリ、これは?」

「親愛する者へ思いが込められた品物だ。お守りだな。こちらでは家族や友人……恋人などに贈る」

マリウスは、視線を下げてそう言った。ジーノは、『恋人』と言う言葉に胸が騒いだ。だが次の言葉で彼女の胸に痛みが走る。

「……エステル。『アーセラの光の姫』にも送った。姫とわたしは生まれた時から許婚だ。女神のように美しい人だ。何者にも臆することない気高さ、魔力は巨大だ。女王に成るべく育てられた。今回のこともプリメルダ、精霊の恩恵が欲しかったのではないかな……アフェーロは衰退している。
この国はアーセラの光の魔力が精霊の残した力を引き出し恩恵を与えている。姫はなくてはならない人だ。わたしも許嫁として、忙しくても時間を作り傍にいてあげていたら、勝手なこともしなかったかもしれない」

マリウスは、ジーノを見て柔らかくほほ笑む。

「ジーノ、貴女のことは友人だと思っている。無事に旅をおえてもとの世界へ返したい」

深い愛情のある人だとジーノに思わせる。彼女は、自分の心が傷んでもマリウスの元へ姫が帰れることを祈った。ジーノはマリウスの胸に頭をもう一度預けた。
『幸福を……。あなたに、感謝しています』

ジーノが静かに囁いた。そうすると銀色の魔法陣が現れ二人を覆う。そして直ぐ消えた。ジーノの手の中に現れた。それは銀の指環、黒い石が中央にあしらわれている。それが二つ。
ジーノはマリウスの胸から顔を上げ、距離を取るように一歩さがった。それから右手を差し出した。

「私からマリ、ジュリアに……。どうぞ受け取ってください」

ジーノは、祈りを込めて指環を具現化した。マリウスは黙って指環を暫く見ていが、一つ指輪を受け取る。それから右手の中指にはめた。

「……ありがとう。大事にする」

マリウスはゆっくりと笑う。ジーノはその微笑みに儚げな笑みを浮かべる。

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