上 下
17 / 114

約束

しおりを挟む
「とりあえず、約束」宇野は拳から小指をぴょんと出した。「森がどう生きるかは森の勝手だけど、俺と桑田のためにも、自分のことは守れ!オッケー?」
 宇野の真面目な剣幕にたっちゃんは少し戸惑っていたが、やがて、恥ずかしそうに躊躇いがちに、たっちゃんは宇野の指に自分の右手の指を絡めた。
「ごめんね。約束するよ。ありがとう」
 たっちゃんは柔らかく笑い、その顔を見た宇野も笑った。それから、たっちゃんは空いた左手で、隣を歩いていたあたしの手を取った。そして、あたしを見てふっと笑った。純粋で柔和な、宇野に向けたのと同じ笑顔。その笑顔で、気がついてしまった。いつだって、たっちゃんは宇野に向ける笑顔と同じだけ、あたしに笑っていた。宇野だけに向けられる表情なんて、ほんの少しだけだ。宇野が妬ましくて、見落としていた。たっちゃんに特別なんかないんだ。たとえ相手が好きな人でも、たっちゃんは特別に扱わない。誰に対しても平等。平等に良い人。あたしに対しても、宇野に対しても、他の誰かに対しても。だから、あたしは自分が特別に扱われないと、宇野を妬むんだ。宇野が、あたしと同等だから。あたしより下じゃないから。
辛い。たっちゃんの特別になれないのが、辛い。幼なじみだからってたっちゃんの特別になってるつもりも痛いだけ。あたしは、たっちゃんの幼なじみで、仲良しの友だちで、でもそれだけなんだ。
 そう思うと急に悲しくなって、たっちゃんの手を振り払った。たっちゃんは何が起こったかわからないといった顔で、瞬間的にあたしを見つめる。あたしは目頭が熱くなって、涙が出そうになった。
しおりを挟む

処理中です...