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僕のせい
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皆の視線をあびながら、あたしとたっちゃんと宇野は、ゆっくりと校門を出た。
「英里佳、ごめんなさい。僕のせいで嫌な思いさせて」
学校を少し離れた通学路で、たっちゃんが申し訳無さそうにあたしに言った。その一言に、あたしは胸がキュッと痛んで何も言えなくなる。
そんなことないよ。たっちゃん、そんなことないんだよ。それはたっちゃんのせいじゃなくて、たっちゃんは何も謝らなくていいんだよ。言いたい言葉は次から次へと頭の中に生まれてくるけど、喋り方を忘れてしまったように、あたしの唇は動かない。いつもこうだ。あたしはどうでもいい時ばかり雄弁で、こんな肝心な時には何も言えない。本当にたっちゃんに声をかけなくちゃいけない時は、今なのに。
「森ってさ、いつも自分のせいにするよな」
あたしが黙っていると、宇野がふと言った。
「どういうこと?」
宇野が喋ってくれたおかげで、あたしを縛っていた糸がプツンと切れ、やっと口を開くことができる。あたしは宇野に尋ね、それからたっちゃんを見た。たっちゃんは、申し訳無さそうな顔であたしを見ていた。その顔は、どこか憐れんでいるようでもあった。
「そのまんまだよ」
と、宇野は言う。
「森はさ、いつも自分のせいでって謝るけど、今回は森、悪くないよ」
宇野の話に、たっちゃんはきまり悪そうにうつむいてしまう。そんなたっちゃんを見た宇野は、慌てて言葉を付け足した。
「別に、森を責めてるわけじゃないよ。逆に言えば、自分をよく見れてて、よく反省できるってことだし。何でも他人のせいにする人と比べたら、断然良いと思う。だけどさ」
たっちゃんはゆっくりと顔を上げて、宇野を見た。怯えたようなたっちゃんの目に映るのは、真面目くさった宇野の顔だ。宇野は色んなことに、真剣に真っ向から向き合っている。けして逃げようとしない。だから多くの人に好かれるんだろう。
「世の中、いいやつだけじゃないんだよ」
宇野は、どこか訴えるような口調で言った。
「絶対にこいつは悪い! ってことも、あるんだよ。なんて言うかな、責任の所在がハッキリ誰でも判るようなことも、あるんだよ。森は優しくて良い奴だよ。誰も傷つけたくないって思ってんだろ。でもな、それって森の良いとこだけど、すごい短所だよ。悪を悪と決めきれないと、傷つくのは森なんだ」
「……うん。うん」
たっちゃんは、宇野が息を整える度頷いた。理解できないけれど、理解しようとしている。そんな感じだ。そうだ、たっちゃんは誰にでも誠実でいようとしているだけなんだ。
「森は自分ひとりが傷つけばいいって思ってるかもだけど、森が傷つけられるのが嫌って奴もいるんだよ。な、桑田。俺たちはもう中学生なんだから、その辺は割り切ろう」
そう言って、宇野は左手で軽くハンドルを握ったまま自転車を体に預け、自転車を支えていた右手を拳にしてたっちゃんに突き出した。
「英里佳、ごめんなさい。僕のせいで嫌な思いさせて」
学校を少し離れた通学路で、たっちゃんが申し訳無さそうにあたしに言った。その一言に、あたしは胸がキュッと痛んで何も言えなくなる。
そんなことないよ。たっちゃん、そんなことないんだよ。それはたっちゃんのせいじゃなくて、たっちゃんは何も謝らなくていいんだよ。言いたい言葉は次から次へと頭の中に生まれてくるけど、喋り方を忘れてしまったように、あたしの唇は動かない。いつもこうだ。あたしはどうでもいい時ばかり雄弁で、こんな肝心な時には何も言えない。本当にたっちゃんに声をかけなくちゃいけない時は、今なのに。
「森ってさ、いつも自分のせいにするよな」
あたしが黙っていると、宇野がふと言った。
「どういうこと?」
宇野が喋ってくれたおかげで、あたしを縛っていた糸がプツンと切れ、やっと口を開くことができる。あたしは宇野に尋ね、それからたっちゃんを見た。たっちゃんは、申し訳無さそうな顔であたしを見ていた。その顔は、どこか憐れんでいるようでもあった。
「そのまんまだよ」
と、宇野は言う。
「森はさ、いつも自分のせいでって謝るけど、今回は森、悪くないよ」
宇野の話に、たっちゃんはきまり悪そうにうつむいてしまう。そんなたっちゃんを見た宇野は、慌てて言葉を付け足した。
「別に、森を責めてるわけじゃないよ。逆に言えば、自分をよく見れてて、よく反省できるってことだし。何でも他人のせいにする人と比べたら、断然良いと思う。だけどさ」
たっちゃんはゆっくりと顔を上げて、宇野を見た。怯えたようなたっちゃんの目に映るのは、真面目くさった宇野の顔だ。宇野は色んなことに、真剣に真っ向から向き合っている。けして逃げようとしない。だから多くの人に好かれるんだろう。
「世の中、いいやつだけじゃないんだよ」
宇野は、どこか訴えるような口調で言った。
「絶対にこいつは悪い! ってことも、あるんだよ。なんて言うかな、責任の所在がハッキリ誰でも判るようなことも、あるんだよ。森は優しくて良い奴だよ。誰も傷つけたくないって思ってんだろ。でもな、それって森の良いとこだけど、すごい短所だよ。悪を悪と決めきれないと、傷つくのは森なんだ」
「……うん。うん」
たっちゃんは、宇野が息を整える度頷いた。理解できないけれど、理解しようとしている。そんな感じだ。そうだ、たっちゃんは誰にでも誠実でいようとしているだけなんだ。
「森は自分ひとりが傷つけばいいって思ってるかもだけど、森が傷つけられるのが嫌って奴もいるんだよ。な、桑田。俺たちはもう中学生なんだから、その辺は割り切ろう」
そう言って、宇野は左手で軽くハンドルを握ったまま自転車を体に預け、自転車を支えていた右手を拳にしてたっちゃんに突き出した。
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